バット (野球)
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バットとは、野球において打者が投手の投球を打つために用いられる棒状の用具のことである。公認野球規則では、なめらかな丸い棒であり、最も太い部分の直径7cm以下、長さ106.7cm以下とされている。実際の形状は手で持つ部分(グリップ)が細く、ボールが当たる部分(ヘッド)が太くなっており、グリップの端にグリップエンドと呼ばれる直径の太い部分が付いている。使い方によっては凶器にもなるので取り扱いには注意が必要である。
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[編集] 各大会における規定
野球の各大会においては、使用できるバットの材質、色、形状などがそれぞれ規定されている。これ以外にも、異常に打球が飛ぶような細工などの不正行為を防ぐため、細かな規定がある。
- 金属バットの使用を許可している大会・リーグ等にあっては、多くの場合、試合時にチームとして複数本の木製バットを用意することが規定もしくは指導されている。これは、雷が発生もしくは発生が予想される際に、臨時に金属バットの使用を禁止し木製バットを使用させるためである。すなわち、ある程度の雷でも試合は続行される可能性を示唆している。しかし、木製バットが金属バットに比べて落雷の確率が有意に低いという証明があるわけではない。
[編集] 日本のプロ野球
プロ野球では、一本の木材のみから作られた木製のバットのみが認められている。かつては反発力を高めるために木材に樹脂加工を施した圧縮バットが使用された時期もあったがこれは禁止された。2002年から着色バットが認められたが、2005年からは国際規格に合わせて淡黄色が禁止され、自然色と合わせて、こげ茶、赤褐色、黒の3色が認められている。
[編集] 高校野球
高校野球では、木製バット、木片の接合バット、竹の接合バット、金属製バットの使用が認められている。実際は使いやすさや耐久性の点から金属製バットの使用がほとんどである。色は木目色、金属の地金の色、黒色の一色とされている。それ以外の着色バットは認められていない。また、金属製バットは、1974年から使用が許可された。
[編集] 社会人野球
社会人野球では、かつては木製バットが使用されていたが、野球の国際的な普及を目的に、国際大会で金属バットが導入されたことから1979年シーズンから金属バットの使用が認められていた。しかし、オリンピックにおけるプロ参加が解禁されるようになり、国際大会でも木製バットが使用されるようになったことから、2002年シーズンでは木製バットを使用している。ただし、バットの折損からくる負担を考慮し、全日本クラブ野球選手権大会とその予選、クラブチームのみ参加する大会では、金属製バットの使用が認められていたが、2005年シーズンからはすべて社会人野球の大会は木製バットの使用が義務付けられた。接合バット、樹脂加工バット、着色バット(ダークブラウン、赤褐色、淡黄色で、木目が目視できるもの)が認められている。
[編集] 材質
バットの材質には木、金属、カーボンファイバー、竹などがある。特に木製バットを使用する際には、ボールがバットに当たる際にヘッドの刻印部分が上もしくは下を向くように持たなければならない。これは木目に対して平行に力が加わるようにして、折れにくくするためである。
木製バットの材料には、ホワイトアッシュ(アメリカタモ・トネリコ属)、メイプル、アオダモなどが使用されている。長らくアメリカでは硬いホワイトアッシュやメイプルが使われ、日本では「材質が柔らかく、振ったときにしなりが出る」として北海道産のアオダモが好まれてきた。
メジャーリーグへ日本人野手が移籍することが多くなった2000年代からは、アメリカと日本でボールの材質や気候が違うことからメジャーへ挑戦する日本人もホワイトアッシュなどを使用し始め、その堅さなどから日本球界でもアオダモ以外の材質バットを好む選手が増えてきている。アオダモはバットとして使えるものは樹齢80~90年とされており、近年では良質材の確保が困難なことが問題になっている。そのため、豊田泰光らが「アオダモ資源育成の会」を立ち上げたり、折れたバットの再利用などもされている(後述)。日本野球機構では、日本シリーズやオールスターゲームなどの特別試合の試合前に、選手による植樹などの活動が行われている。
金属バットで硬球を長期間打ち続けると、打球音の影響で聴力が低下することが指摘されている。現在はバット内部に音響放射を低減させる作用を持つ防音・防振材が貼り付け又は充填されるようになった。
[編集] 形状
バットのグリップ側にはテープなどの滑り止め加工が施され、ヘッドの部分にはメーカー名などの刻印がされている。用途に応じて次のような形状の違いがある。
[編集] 試合用
硬式球を打つための硬式用バットと、軟式球を打つための軟式バットがある。打者のタイプによって重心の位置が異なっており、長打を狙う選手はグリップが細く、ヘッドが太い先端に重心があるバット(トップバランス)、短打を確実に狙う選手にはグリップが太く、ヘッドが細いバット(ミドルバランス)が好まれる。プロ野球選手の場合には特注されることが多く、実際に使われているものに似せたバットが、その選手名を冠して○○モデルとして市販されている。
[編集] 練習用
練習用として、投手の投球を打つことを目的としないバットがある。ノックの打球を確実に打つため、細く軽量に作られたノックバット、スイングの矯正などに用いられる竹バットなどがある。また、素振りの際に鉄製のリングをバットに取り付け、錘としてボールを打つ時の感触に近づけることがある。
[編集] 折れたバットの利用法
折れたバットは、その素材を利用し、箸や靴べらなどの別の品物を作る材料に用いることがある。日本プロ野球で折れたバットは、職人の手により、5、6本の箸に生まれ変わっている。
[編集] 特徴のあるバットを使用したプロ野球選手
- 川上哲治は赤く着色した赤バットを使用した。それに対抗して大下弘は青バットとした。
- 藤村富美男は、通常よりも長い『物干し竿』と呼ばれたバットを使用した。
- 長嶋茂雄は、1968年5月11日の中日戦で敬遠策を採ってきた山中巽投手に対して、抗議の意を表してバットを持たずに打席に入った(打撃を行うことは当然できないが、ルール上は問題ない)。しかし山中はそれでも敬遠四球を与えた。
- 大杉勝男は、引退試合の最終打席で王貞治からもらったサイン入りのバットを持って打席に入ろうとしたところ、ルール上の問題により、球審にそれを拒否された。
- 短打を確実に狙う選手が、グリップエンドの部分を極端に大きくしたバットを使用することがある。かつてメジャーでタイ・カッブ(タイ・カップ)が使用したことからタイカップ式バットとして短距離打者を中心に愛用者が多い。その他、非常に重いことからツチノコバット、通常のタイカップ式よりも更にグリップエンドが大きなバットはこけしバットなどと呼ばれる。日本での先駆者は藤原満であり、その後若松勉、福本豊、大石大二郎、山崎賢一、土橋勝征、小坂誠、森谷昭仁などに広まっている。
- サミー・ソーサは、本来禁止されているコルクを詰めたバットを使用し退場処分になった。
- 門田博光は「速い球を重いバットで打てれば、遅い球にも対応出来る」という考えの持ち主であり、1kgもある重いバットを持って打席に入っていた。
- 新庄剛志は、2005年のオールスター第2戦で金色に着色されたバットを持って打席に立った。また、2006年のオールスターでは虹色のバットを使用した。いずれも公式戦では違反になるものであるが、球審が木製のバットであることを確認し使用が黙認された。
[編集] 関連項目
- 野球 - 野球の概要
- バット(曖昧さ回避)
- 釘バット
- 神奈川金属バット両親殺害事件