新大久保駅乗客転落事故
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新大久保駅乗客転落事故(しんおおくぼえきじょうきゃくてんらくじこ)は、2001年(平成13年)1月26日(金曜日)の19時14分頃に東日本旅客鉄道(JR東日本)山手線新大久保駅で発生した鉄道人身障害事故である。
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[編集] 事故概要
山手線新大久保駅で泥酔した男性がプラットホームから線路に転落し、さらに、その男性を救助しようとして線路に飛び降りた男性2人が、折から進入してきた電車に轢かれ、3人とも死亡した。
救助を試みて死亡したうちの1人が韓国人留学生であったことから、この事故は日本国内のマスメディアはもとより、韓国国内でも「美談」として大々的に報じられた。また、事故の犠牲者を追悼するプレートが新大久保駅のホームと改札の間の階段に設置された。このプレートは二ヶ国語(日本語・韓国語)で掲載されている。その後救助を行った2人の遺族にも、感謝状が贈られている。
通常JRでは人身事故を起こした人間に対し、損害賠償を請求しているが、この事故では最初に転落した者の遺族に加えて救出しようとした2人の遺族にも請求しようとしたところ、JRに非難や抗議が殺到し、結局2人の遺族には請求せず、最初の転落者の遺族にのみ請求した。
また、最初に転落した男性が駅構内の売店で購入した酒を飲んでいたことが判明し、JR東日本は通勤圏の一部駅構内での酒類の販売を取りやめた(現在は再開している)。
[編集] 対策
ホームから人が転落し(あるいは自殺を目的として故意に飛び込み)、列車に轢かれて死亡する事故はそれまでにもしばしば発生していたが、本事故がマスメディアで大きく報道されたことで、ホームからの転落事故に対する社会的関心が高まった。そのため、以下のような対策が施された。
[編集] 列車非常停止ボタンの整備
現在鉄道事業者では、線路への転落事故をはじめホーム上で危険な事象を目撃した場合は、「(列車の運転士が人間を確認してから車両が完全に停車するまでの制動距離は長いため、)危険であるから線路には絶対下りてはならず、とにかく列車および駅係員に知らせることを優先するよう」にと呼びかけている。この新大久保駅の事故を契機として、プラットホームに設置される「列車非常停止ボタン」の使用方法を積極的に車内広告やテレビCMでPRしたり、ボタンの設置場所が明確にわかるよう、柱などにマーキングが施された。また、ボタンそのものを増設することも行われた。しかし、マスコミや一般市民へのボタンの認知度はまだ低く、2006年には同駅で転落した女性を助けようとプラットホームから降りてしまった者がいたが、この時は、幸い怪我はなかった。 (やはり、目の前で転落した人がいたら、飛び込んでしまいそうな物だが、ボタンを押す・駅員に伝える等の方法があるので、強く覚えておくべきなのかも知れない)
[編集] その他の設備の整備
本事故においては、プラットホームの下に隠れられるような空間が無かったことも問題視された。そのため、プラットホーム下を部分的にくり抜き、転落時に逃げ込むための空間を設けた例もある。また、全国の鉄道事業者の多くの駅に落下物検知装置の設置、プラットホーム側面への非常用ステップの設置などが実施された。この他、特に高い効果を持つ安全対策として、プラットホームへのホームドアの普及を促す声が高まっている。しかし、これは設置費用のほかに、車両のドア配置統一、停車位置制御等の問題もあって、都市圏の新規開業路線を除きあまり普及していない。
[編集] 類似の事故
1975年(昭和50年)12月27日 15時50分ごろ、山陽本線須磨駅において新快速の通過待避をしていた各駅停車の車掌が、新快速の通過する本線にホームから転落した泥酔の老人を救おうとホームから線路に飛び降りたが、結局老人とともに新快速にひかれて死亡する事故が起こった。車掌は入社2年目であり、この勇気を称えて須磨駅に碑が立てられている。
2007年2月6日、東武東上線ときわ台駅での事故では、自殺しようとして隣接する踏切より線路内に立ち入った女性を救助しようとした近くの常盤台交番の警察官が列車にはねられ死亡した。女性と警察官は数分間ホーム下の線路上にいたにも関わらず、当初は、利用者によって列車非常停止ボタンは押されていなかったとされていた。後に、実際には事故当時、ボタンが押されていたことが判明したが、押されたのが事故直後で間に合わなかったとみられている。[1]
[編集] 引用文献
- ^ 毎日新聞社 (2007年2月9日) 「自殺救助巡査: 交番に花や千羽鶴 回復祈り市民が届ける」 『毎日新聞』 (http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/photojournal/archive/news/2007/02/09/20070209k0000e040036000c.html)