蒸留
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蒸留(じょうりゅう、Distillation)とは、混合物を一度蒸発させ、後で再び凝縮させることで、沸点の異なる成分を分離・濃縮する操作をいう。通常、目的成分が常温で液体であるか、融点が高々100℃程度の固体の場合に用いられる。共沸しない混合物であれば、蒸留によりほぼ完全に単離・精製することが可能であり、この操作を特に分留という。
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[編集] 原理
原理的には、蒸留とは蒸気圧の差を利用して混合物の特定成分を濃縮してゆく操作である。蒸留したい混合物を加熱していくと、液面から各成分が徐々に蒸発していく。各成分の蒸気圧の和が系の圧力と一致すると沸騰が始まる。そのとき、発生する蒸気の組成はラウールの法則に従い、液面の成分組成と、その温度での各成分の蒸気圧の両方から決定される(この平衡状態での気相あるいは液相の成分比と温度の関係をプロットした図を気液相関図と呼び、蒸留の濃縮過程がシミュレートできる)。この蒸気を冷却・捕集すると、通常は温度が低いうちは低沸点成分の比率が高く、温度を上げるにつれ高沸点成分の比率が増すような蒸留物が得られる。これを繰り返すことで、目的成分の濃度を上昇させることができる。
実際の蒸留では、ビグリューカラムなど、蒸留塔と呼ばれる装置を使用することも多い。蒸留塔は上記の蒸発-凝縮の平衡状態が多段階で進行するように設計されており、凝縮と蒸発を繰り返すうちに蒸気の組成比が変化し、特定成分の濃縮が進行するようになっている。
前述の気液相関で示されるように、蒸気温度が一定であれはその組成も一定である。したがって、通常は蒸気温度が一定になったところを捕集し、それを本留(ほんりゅう)と呼ぶ。見方を変えると、初めのほう(初留)と、終わりのほう(後留)は蒸気温度が一定でなく、組成が変動し、結果として副成分が多く含まれる。初留と本留とを分取するためには二又アダプターなどを使用する。
ただし、蒸留の達成度は蒸発と凝縮の温度依存性に従うため、沸点差が大きいだけでは一定以上の濃縮は期待できない。例えばエタノール-水系の蒸留の場合は、エタノールは約96%w/w以上には濃縮されない。この現象を共沸と呼び、共沸をおこす混合物を共沸混合物という。 共沸混合物の場合は、第三の共沸成分を追加して目的の成分を分留できることがある。例えば、エタノールの場合はベンゼンを追加すると、水はベンゼンと共沸するが、ベンゼン-エタノールは共沸しないため、分留が可能となる(純度95%w/w以上のエタノールは上記の方法で分留される。ただし、微量成分として発ガン性のあるベンゼンを含むので、飲用することはできない。飲用可能な高純度エタノールを得るためには、水にヘキサンを追加して共沸を起こさせるなどする必要がある)。
[編集] 種類
蒸留方法は、目的に応じて様々なものが使用されている。以下に概略を示す。
[編集] 減圧蒸留
蒸留は、大気圧下で実施する常圧蒸留と、系内を減圧にして行う減圧蒸留がある。沸点の極めて高い物質や、熱によって分解・反応してしまう物質は、減圧蒸留することで加熱を抑制することができる。
[編集] 分子蒸留
蒸発面と凝縮面との距離を、蒸気分子の平均自由行程以下に接近させることで蒸留を行う、分子蒸留と呼ばれる方法がある。代表的なものとして遠心式蒸留装置があげられる。
[編集] 水蒸気蒸留
共沸現象を積極的に利用する蒸留法に水蒸気蒸留がある。ローズオイルなど天然香料(エッセンス)の工業的精製には現在でも多用されている。
[編集] 形状による分類
単純な形状の蒸留装置(バッチ蒸留装置)の場合、蒸気が凝縮-蒸発サイクルが少ない段階で凝縮器に導入されるため濃縮効率が悪い。このような蒸留方法を単式蒸留と呼ぶ。代表的な例ではアルコール飲料の蒸留が挙げられる。
単式蒸留でもっとも単純な構造を持つ装置に、クーゲルロール蒸留装置がある。この装置は蒸発させたサンプルを隣接する球体で冷却して捕集するので理論段数はよくない。
逆に、蒸留塔を高くし、且つ内壁の表面積が大きくなるようにすると、凝縮-蒸発サイクルの理論段数が増え濃縮効率が向上する。このような理論段数を高くした蒸留を分別蒸留(分留)と呼ぶ。代表的な例では石油の分留が挙げられる。
分別蒸留の蒸留塔として代表的なものにビグリューカラムが挙げられる。また、理論段数の能動的に向上させた蒸留装置としてスピニングバンド蒸留装置が挙げられる。この装置は蒸留塔内の凝縮液の薄膜が強制的に形成させるので、非常に高い理論段数を有する。
また、凝集器導入口に分取蒸留ヘッドをつけて、留去時の成分を精密に捕集する装置を還流蒸留装置と呼ぶ。この装置を使うと沸点でおおよそ5度差の物質を分別蒸留可能といわれている。