アルコール飲料
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アルコール飲料(アルコールいんりょう)とは酒精、すなわちエチルアルコール(エタノール)が含まれた飲料である。「酒類」や単に「(お)酒」(広義)、またソフトドリンクに対してハードドリンクとも呼ばれる。
日本の酒税法では、アルコール分を1%以上含む飲料と定義され、酒税の課税対象となっている。そのため、本来江戸時代にはアルコール飲料であったみりん(本みりん)は、アルコールを10%以上含むため、調味料として使用される場合でも課税対象となる。
製造方法や原料等は多種多様だが、原材料から発酵によってエチルアルコールを生成することで共通している。
アルコール飲料の製造および販売は、日本を含む多くの国において、法律(日本では酒税法や未成年者飲酒禁止法)により制限されている。
また、近年では、ジュースなどとの誤認を防止するためか、フルーツを配合したチューハイやカクテルなどのアルコール飲料ラベルの前面に「お酒」と表記されたり、缶入りビールやチューハイなどの上部に点字で「おさけ」などの表記がされるようになっている。
目次 |
[編集] 概要
[編集] 酒とアルコール
一般的に酒(アルコール飲料)とは、エチルアルコールを含んだ飲料のことである。以下、特に断らない限り、アルコールとはエチルアルコールのことを指す。
日本では、「アルコール度数」を含まれるアルコールの容量パーセントで「度」と表す。正確には、温度15℃のとき、その中に含まれるエチルアルコールの容量をパーセントで表した値に「度」をつけて表す。販売されている酒の多くは、3度(ビール等)~50度前後(蒸留酒類)の範囲であるが、中には90度を超す商品もある。日本の酒税法では、1度未満の飲料は酒に含まれない。なお、日本酒には「日本酒度」という尺度があるが、これは日本酒の比重に基づくもので、アルコール含有度とは関係がない(含糖量に依存する)。
英語圏では"proof"により「アルコール度数」を表す。米国では、100%アルコールは200proofUSであり、英国では100%アルコールは175proofUKである。換算式は以下の通り。
- 度 → 米国proof -- 2倍。50度 = 100proofUS
- 度 → 英国proof -- 1.75倍。50度 = 87.5proofUK
- 米proof → 度 -- 2分の1。100proofUS = 50度
- 英proof → 度 -- 1.75分の1。100proofUK = 約57度
酒に含まれるアルコール分はほとんどの場合、酵母による糖のアルコール発酵によって作られる。(テキーラは例外的にザイモモナスと呼ばれる細菌をアルコール発酵に使用している。)果実から作られる酒(ワイン)は、果実中に含まれる糖分から直接アルコール発酵が起こる。しかし、麦・米・芋などの穀物類から造る酒の場合、原材料の中の炭水化物はデンプンの形で存在しているため、先にこれを糖に分解(糖化)する。糖化のためにはアミラーゼ等の酵素が必要である。酵素の供給源として、西洋では主に麦芽が、東洋では主に麹が使われる。
[編集] 酒の分類
酒は大きく分けて醸造酒・蒸留酒・混成酒に分かれる。醸造酒は単発酵酒と複発酵酒に分けられ、複発酵酒は単行複発酵酒と並行複発酵酒に分けられる。
- 醸造酒:原料をそのまま、もしくは原料を糖化させたものを発酵させた酒。
- 単発酵酒:原料中に糖分が含まれており、直接発酵するもの。
- 複発酵酒:穀物などデンプン質のものを原料とし、糖化の過程があるもの。
- 単行複発酵酒:糖化の過程が終わってからアルコール発酵が行われるもの。ビールなど。
- 並行複発酵酒:糖化とアルコール発酵が同時に行われるもの。清酒など。
- 蒸留酒:醸造酒を蒸留し、アルコール分を高めた酒。
- 混成酒:酒(蒸留酒が主に使われる)に他の原料の香り・味をつけ、糖分や色素を加えて造った酒。
蒸留酒のうち、樽熟成を行わないものをホワイトスピリッツ、何年かの樽熟成で着色したものをブラウンスピリッツとする分類法がある。ただし、テキーラ、ラム、アクアヴィットなどではホワイトスピリッツとブラウンスピリッツの両方の製品があり、分類としては本質的なものではない。
[編集] 酒の原料
糖分、もしくは糖分に転化されうるデンプン分があるものは、酒の原料になりうる。脂肪分やタンパク質分が多いものはあまり向かない。
ブドウ、リンゴ、サクランボ、ヤシの実などの果実。米、麦、トウモロコシなどの穀物。ジャガイモ、サツマイモなどの根菜類。その他サトウキビなどが代表的な原料である。また酒造の副産物として得られる酒粕・ブドウの絞りかすなどから、二次的に酒を造り出すこともある。クリなどの賢果類、樹液や乳を原料とした酒もある。
原料によって酒の種類がある程度決まる。
- 果実原料のもの
- 穀物原料のもの
- 副産物原料のもの
- その他
しかし、ジン・ウオツカ・焼酎などには、穀物や芋類など異なった原料のものがあり、必ずしも原料によって酒の種類が決まるわけではない。また、原産地によって名称が制限される場合がある。たとえばテキーラは産地が限定されていて、他の地域で作ったものはテキーラと呼ぶことができずメスカルと呼ばれる。
[編集] 酒の歴史
[編集] 古代
酒の歴史は古く、有史(文字の歴史)以前から一部で作られていたと言われている。
人類が最初に造った酒は蜂蜜酒だという説がある。水で薄めた蜂蜜は、自然酵母の働きで酒になるからである。また、サルが木の洞に果物を集めると、その果汁が発酵して猿酒になるという伝説があるが、これは疑わしい。いずれにしても検証されていない。
2004年12月、中国で紀元前7000年ごろの賈湖遺跡(かこいせき)から出土した陶器片を分析したところ、米・果実・蜂蜜などで作った醸造酒の成分が検出されたという報告があった。いまのところこれが考古学的には最古の酒である。
オリエント世界では、紀元前5400年頃のイラン北部ザグロス山脈のハッジ・フィルズ・テペ(Hajji Firuz Tepe)遺跡から出土した壺の中に、ワインの残滓が確認された。また紀元前3000年代には、シュメールの粘土板にビールのことが記録されている。シュメールの後を継いだバビロニアで、最古の成文法であるハンムラビ法典の中にビール売りに関する規定が記されている(第108条~第110条)。
エジプトでは紀元前2700年頃までには一部の王族にワインが飲まれていた。ツタンカーメン王の副葬品の壺からはワインが検出されている。ピラミッド工事の労働者たちにはビールが支給されていたという説もあるもあるが、よく分かっていない。
中国において殷・周のころ、酒は国家の重要事である祝祭において意味を持っていた。非常に手の込んだ器である殷代青銅器のうち、多くのものは酒器である。しかし殷の紂王は酒に耽り、酒池肉林の宴を行って国を滅ぼした。
『論語』には、「郷人で酒を飲む(村の人たちで酒を飲む)」などの宗教儀式に関する記述がある。
ギリシア・ローマは、ブドウの産地ということもあり、ワインが多く生産された。それらはアンフォラと呼ばれる壺に入れられて、地中海世界で広く交易されていたらしい。酒の神ディオニソス(ギリシアではバッカス)が信仰され、酒神を讃える祭りが行われ、泥酔した人を若者に見せ、飲酒の害を教えたという。
古代バビロニア時代に、香水を作るための蒸留技術があったという説があるが、 蒸留の技術は、3世紀頃のアレクサンドリアの錬金術師たちには既に知られていたと推測される。
ローマ帝国は、イギリスをはじめヨーロッパの各地を支配下に収め、その過程でワイン生産の技術を伝えた。フランスのボルドーやブルゴーニュなどではそのころからワインの製造が始まっている。しかし、農民たちは税金搾取により、生涯を通じて、ほとんど口に出来なかったという。 なお、イギリスは気候の低温化によりブドウが栽培できなくなりワイン生産は廃れた。
[編集] 中世
10世紀以前には蒸留酒が発明されていた。それは錬金術師が偶然に作り出したものだといわれる。このとき、以来、人類は自然界に存在しない高濃度のアルコールを手に入れることになり、アルコール飲料に麻薬性が生まれた。 ラテン語で蒸留酒はアクア・ヴィテ(生命の水)と呼ばれた。それが変化してフランス語でオード・ヴィー、ゲール語でウシュクベーハーになり、今日の様々な蒸留酒の区分ができた。 1171年、ヘンリー2世の軍隊がアイルランドに侵攻した。その時の記録によると、住民は「アスキボー」という蒸留酒を飲んでいたという。これが「ウイスキー」の語源となる。
[編集] 人体への影響
アルコール飲料(エタノール)を摂取すると人間は酔う。 酔いには、エタノールによる脳の麻痺と、体内でのエタノール分解の過程で生じるアセトアルデヒドの毒性による酔いとの、二種類がある。
以下に、エタノールによる脳の麻痺による酔いを説明する。
アルコールによる酔いは、エタノールの血中濃度に比例する。しかし同じ量を同じペースで飲んでも、酔う程度は人により異なる。 これは同じ量のエタノールを摂取しても、エタノールの血中濃度は各人が持っている体液の量(体液の量が多いと同じ量のエタノールを摂取しても血中濃度は低くなる)により変わってくること、および、アルコール脱水素酵素の活性度にはアセトアルデヒド脱水素酵素(アルデヒド脱水素酵素)と同じように3種類の遺伝子多型があり、エタノールの分解速度が異なるためであると言われているが、それでは説明できない現象があるため、現在における仮説に過ぎない。
アルコール脱水素酵素の活性度は酵素誘導により増減する酵素の絶対量のほかにも、遺伝による酵素タイプの違い(体質)によって変わる。
そもそもエタノールによる「酔い」の本態は、中枢神経系の抑制が原因である。中枢抑制作用を持つ麻酔とは異なり、エタノールの場合、早期には(低レベルの血中濃度では)抑制系神経に対して神経抑制効果が掛かるために結果として興奮が助長される(アルコール作用の発揚期)。 血中濃度が上昇するにつれて、運動器や意識を司る神経系にも抑制が掛かり、運動の反射時間の延長や刺激への無反応を生じる(アルコール作用の酩酊期)。 さらに血中濃度が上昇すると脳幹まで抑制するので、瞳孔拡大や呼吸停止を引き起こし死に至る。
短時間に代謝量を上回るエタノールを摂取すると、代謝が追いつかず急激に血中濃度が上昇し、発揚期・酩酊期を経ずにいきなり中枢神経系を抑制してしまうことで最悪の場合死に至る(急性アルコール中毒)。
血中アルコール濃度 | 影響 |
---|---|
0.05% | 陽気、気分の発揚 |
0.08% | 運動の協調性の低下、反射の遅れ |
0.10% | 運動の協調性の明らかな障害(まっすぐに歩けない等) |
0.20% | 錯乱、記憶力の低下、重い運動機能障害(立つことができない等) |
0.30% | 意識の喪失 |
0.40% | 昏睡、死 |
上記の酔いは、エタノールが体内でアセトアルデヒドに分解されるまでに、エタノールの脳への作用で生じる酔いであり、一般的に言われているお酒に強い体質・弱い体質(アセトアルデヒド脱水素酵素の活性度合いの差による体質)とは関係がない。
近年、飲酒は睡眠薬と同様に少量依存という形をとることが分かってきた。これは、通常、少量だけではあるが、確実に依存し、体内からアルコールがなくならないよう飲酒行動を伴う。少量のアルコール摂取を繰り返すため、血管の拡張収縮が起こり、血管の老化が早く進み、高血圧を引き起こす。また、適量といわれている量でも、10年近く脳萎縮が進むことがわかっている。一定以上のアルコールの摂取を続けると、アルコール性肝炎を併発する。また、糖質を素にしたアルコールにも当然カロリーがあるので、酒の肴やつまみなどの食品を摂ることでカロリーの摂り過ぎとなり、脂肪肝を招くことがある。そして飲酒は急性膵炎の主原因の一つでもある。また精神疾患であるアルコール依存症(慢性アルコール中毒)になる危険性がある。アルコール依存症患者は偏食となることが多く、栄養失調による障害も併発することが多い。また栄養障害も長期間にわたるエタノールの直接作用によっても末梢神経は恒久的なダメージを受け、痺れなどの感覚異常を引き起こす。また、WHOの報告書によれば、飲酒が原因の死亡者数はタバコと0.1%しか差がない。
[編集] 吸収代謝
胃腸から容易に吸収され、腸で吸収されたエタノールは、体内ではアルコールを貯蔵する仕組みが無いので、(肝臓の代謝量以内であれば)その90%以上は速やかに肝臓で代謝される(もちろん肝臓の代謝量を超えた分は血中エタノール濃度を上昇させる)。 エタノールを初めとしてアルコールの代謝には、大きく2つの酵素が関係している。アルコールデヒドロゲナーゼ(アルコール脱水素酵素)とアルデヒドデヒドロゲナーゼ(アルデヒド脱水素酵素)がある。いずれの酵素も基質特異性が低く、エタノール以外のアルコールも酸化し、水素はNADPに供与されNADPHを生成する。
まず、アルコールデヒドロゲナーゼによってエタノールはアセトアルデヒドに酸化される。ついでアルデヒドデヒドロゲナーゼによって、酢酸に酸化される。酢酸はATPを消費してAcetyl CoA synthetaseによりAcetyl CoAとなる。
通常Acetyl CoAはTCA回路に供給され、oxaloacetic acidと共にクエン酸に転化され、CO2とH2Oに分解されるのである。がしかし、前述のアルコールデヒドロゲナーゼとアルデヒドデヒドロゲナーゼとが大量に生成したNADPHによって肝臓ミトコンドリアTCA回路の活性は低下する(TCAサイクル自身もNADPからNADPHを生産するのでNADPが枯渇すると回転できなくなる)。その結果、グリセリン合成と(NADPHを消費する)脂肪酸合成が亢進する。言い換えると、大量の飲酒は中性脂肪に転化される。
代謝の中間に発生するアセトアルデヒドは分子中に持つアルデヒド基がタンパク質の側鎖などのアミノ基と強い反応性を有するため、エタノール以上に毒性が高く、頭痛や悪心などを引き起こし、いわゆる二日酔い・悪酔い状態の原因となる。ちなみに「二日酔いに迎え酒が良い」といわれるのは、追加されたエタノールが頭部の血管を拡張させたり、酩酊期のアルコールが痛覚を麻痺させることにより緩和されているのであり、アセトアルデヒドを解毒しているわけではないので治療的な意味はない。またアセトアルデヒドは発癌性が疑われるとされている。
アルコール代謝を考える上では2つの酵素のうち2番目のアルデヒドデヒドロゲナーゼはモンゴロイドは代謝能力の弱いタイプの方を遺伝形質として持つものが多く、おおむね酒に弱い。(一方、コーカソイド系は強いタイプを遺伝形質に持つものが多い)。遺伝的にこの酵素の活性が低い人はまた、あるいは殆ど酵素誘導されていない人は酒を飲んでも、アセトアルデヒドの血中濃度が急激に上昇し、愉快になるどころか、飲んだ直後に頭痛、吐き気に襲われる。
日本人には、同酵素の活性が低いか、欠落している人が全体の45%程度いる。また、10人に1人は体質的にまったくアルコールを受け付けない。習慣的に飲酒するようになると、酵素誘導でそれなりの量のアルデヒドデヒドロゲナーゼが生成するので「飲めば強くなる」傾向はあるが、程度の問題である。
また、恒常的な飲酒により、薬物代謝酵素CYP(P-450)が多量に誘導されると、CYP酵素がエタノールを分解するようになる。CYPは(アセトアルデヒドを含めて)エタノールを水と二酸化炭素へ直接分解するため、多少の量のアルコールでは全く酔わなく(むしろ酔えなく)なる。この状態になると、麻酔を含め殆ど全ての種類の薬物に関してCYPが作用するために、薬物が非常に効きにくい体質が形成される。CYPが誘導されるころにはアルコール要求量が急速に増大し「酒に強くなったと錯覚する」、しかし飲酒量の増大に伴い生活は、いわゆる「アル中」状態となり、健康も急速に悪化する。すなわち、健全な社会生活の維持が困難になったり、極度の栄養失調、アルコール依存症あるいはアルコール性神経炎などを併発するようになる。
[編集] 毒性
"アルコールは合法的な向精神薬である"といわれる。その上、非選択的な神経抑制剤、すなわち麻酔薬に近い要素もある(もちろん昏睡と死の間の血中濃度が2倍程度しか開いていないので、危なすぎて麻酔薬としては使えない)。
急性期の毒性について考えると、アルコールは中枢神経を麻痺させる性質があるので、多量の摂取によって中枢神経が完全に麻痺すると呼吸や心臓が停止し死に至る。睡眠薬の飲みすぎで死亡するのと作用は同じである。ほろ酔いが血中アルコール濃度0.05~0.1%、致死量が血中アルコール濃度0.4%以上といわれている。つまり作用量と致死量が1:4程度になる。作用量と致死量がこのように近接している"いわゆる向精神薬"はアルコールのほかに例が無く、ほんの少し飲みすぎただけで死亡する危険性をはらんでいる。
厚生労働省の研究班が飲酒と自殺の関係について男性4万人を対象とした調査によると、週1回以上飲酒し1日当たりの飲酒量が日本酒3合(アルコール59グラム。ビールなら大瓶3本、ウイスキーならダブル3杯)以上の男性は月に1回から3回飲酒する男性に比べて自殺の危険性が2.3倍高まるということを2006年3月1日に発表した。これは適量といわれる飲酒でも自殺が増える可能性を示したことになる。この発表では、過去に飲酒していたがやめたという群については、自殺の危険性が6.7倍と高い数値を示している。飲酒により引き起こされた病気のために禁酒した者が多いことを暗に意味している。
また、中枢神経の麻痺により理性が利かなくなるので、一度飲みだすと適量でやめるという自制心が働かなくなる。飲みすぎにより、過度に暴力的になったり、場合によっては平気で犯罪行為を行ってしまう危険性もある。この点については多くの依存性薬物と同様である。
急性期の毒性は急性アルコール中毒の項に詳しい。
慢性期の毒性は、おもに肝臓と神経系(特に脳)に対する障害である。アルコール性肝臓疾患(と酒しか口にしなくなることによる栄養失調)により、身体の栄養状態は極端に悪くなる。栄養失調もまた神経系に障害を与える。慢性アルコール中毒は精神的依存と身体的依存の双方を示すので身体だけでなく精神あるいは環境面でのケアも必要となる。
慢性期の毒性はアルコール依存症の項に詳しい。
[編集] 文化
精神、心理状態を変化させることなどもあって、飲酒は[宗教]]体験や呪術と結び付けられ、非日常の宗教儀式用に摂取されていたものというのが通説である。様々な文化において様々な伝統宗教や祭祀習慣に酒類が欠かせないものであったと過大評価されることが多いが、必ずしもすべての文化でそうであるわけでなく、イスラムやインドのように否定的な価値観を持つ地域もあり、時代によっても評価が異なる。また、現代になるまで、大半の庶民は貧困や飢餓により、ほとんど飲酒できなかったようだ。
その後、原材料となる穀物や果実の生産力の増大に伴い、酒類は儀式・儀礼以外のときにも飲用される一種の日常化が起きた。蒸留酒の発明により、人類は自然界に存在しない高濃度のアルコールを手に入れることになり、飲酒に麻薬性が生まれた。アルコールによる精神変容も日常生活で体験されるようになり、アルコール依存症が発生した。
酒類が日常化し、晩酌(夕食時に(しばしば日常的に)飲酒すること)する人や酒飲み(日常的に飲酒をする人)が存在する今日においては、宗教・祭祀慣習としての側面が薄れたために、非日常の宗教儀式よりも、大量飲酒を伴う単なる娯楽としての側面が強くなった。更に、ここ10年、グローバル化によって、民族固有の宗教儀式や祭祀習慣を前面に押し出さない風潮が見られるようになってきた。
日本では宴会や各種行事などで、強制的に飲酒させる悪習が見られたが、上記の宗教・祭祀慣習が薄れたことに加え、急性アルコール中毒や飲酒運転による死亡事故報道の増加やアルコールハラスメントなどが知られるようになり、酒席でノンアルコールが導入されるのと同時に、飲酒のメリットが失われつつある。アルコール依存症、飲酒運転、未成年飲酒、胎児性アルコール障害、健康被害などの社会問題化に鑑みて、WHOでは2007年5月の総会で、タバコと同程度の本格的な規制条約が決議される可能性があり、日本も影響を受けるものと予想される。
[編集] 利用法
[編集] 料理
様々な料理に風味付け、臭み消し等の用途で広範に利用されている。
[編集] 宗教
多くの宗教では、アルコール飲料を特別なものとして扱っている。
- 神道では、お神酒(おみき)は神への捧げものであると同時に、身を清め神との一体感を高めるための飲み物とされてきた。しかし、現在、飲酒運転問題からお神酒の是非が問われるようになった。
- カトリックなどのキリスト教会派ではミサや礼拝の際に執り行われる聖餐式で、赤ワイン(葡萄酒)がイエスの血の象徴とされ、飲酒には常にモラルを要求される。
- 仏教やキリスト教プロテスタントでは、飲酒は避けるべき悪徳であるとされる(日本の仏教各宗派でも表向きは飲酒を禁じていたが、穀物を利用して作られる酒は仏教の殺生戒にはあたらないので、般若湯と称する事で僧侶の飲酒を黙認していた宗派が多いが、やはり本来は避けられるべきものである)。
- イスラム教では、飲酒の効用は認めつつも酒癖や健康上などの弊害が多いことを理由に飲酒を避けることを強く推奨していることに加え、酒に酔って神にお祈りすることを禁じているため一日に5回もの頻繁なお祈りが義務付けられたムスリムには酔っている時間がなく、実質上、飲酒はできないことになっている。
[編集] 主なアルコール飲料
[編集] 法律
アルコール飲料は、古来より、公序良俗を守るため或いは租税を公課するためにアルコールに対して、さまざまな法律が制定されてきた。
現在の日本において、アルコールの飲用に関連し、施行されている法律の一部を次に示す。
- 酒税法
- 未成年者飲酒禁止法
- 酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律
- 道路交通法
- 刑法
- アルコール事業法
- 酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律 - 酒類の種類等の表示、未成年者の飲酒防止に関する表示
またかつてアメリカには、飲料用アルコールの製造・販売等を禁止するアメリカ合衆国憲法の改正(俗に言う「禁酒法」)が行われていた時期があった。
[編集] 日本におけるアルコールに関連する代表的な法令
酒税法 (1953.2.28~) ※抜粋 |
第二条 この法律において「酒類」とは、アルコール分一度以上の飲料(薄めてアルコール分一度以上の飲料とすることができるもの(アルコール分が九十度以上のアルコールのうち、第七条第一項の規定による酒類の製造免許を受けた者が酒類の原料としてその免許を受けた製造場において製造するもの以外のものを除く。)又は溶解してアルコール分一度以上の飲料とすることができる粉末状のものを含む。)をいう。 2 酒類は、清酒、合成清酒、しようちゆう、みりん、ビール、果実酒類、ウイスキー類、スピリッツ類、リキユール類及び雑酒の十種類に分類する。 |
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第三条 一 「アルコール分」とは、温度十五度の時において原容量百分中に含有するエチルアルコールの容量をいう。 二 「エキス分」の定義
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第六条 酒類の製造者は、その製造場から移出した酒類につき、酒税を納める義務がある。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
第七条 酒類を製造しようとする者は、政令で定める手続により、製造しようとする酒類の種類別(品目のある種類の酒類については、品目別)に、製造場ごとに、その製造場の所在地の所轄税務署長の免許を受けなければならない。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
第九条 酒類の販売業又は販売の代理業若しくは媒介業(以下「販売業」と総称する。)をしようとする者は、政令で定める手続により、販売場(継続して販売業をする場所をいう。以下同じ。)ごとにその販売場の所在地(販売場を設けない場合には、住所地)の所轄税務署長の免許を受けなければならない。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
未成年者飲酒禁止法 (1922.3.30~) ※抜粋 |
第一条 満二十年ニ至ラザル者ハ酒類ヲ飲用スコトヲ得ズ 2 未成年者ニ対シテ親権ヲ行フ者若スクハ親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者ガ未成年者ノ飲酒ヲ知リタルトキハ之ヲ制止スベシ。 |
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酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律 (1961.6.1~) ※抜粋 |
第一条 (目的)この法律は、酒に酔つている者(アルコールの影響により正常な行為ができないおそれのある状態にある者をいう。以下「酩酊者」という。)の行為を規制し、又は救護を要する酩酊者を保護する等の措置を講ずることによつて、過度の飲酒が個人的及び社会的に及ぼす害悪を防止し、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
第二条 (節度ある飲酒)すべて国民は、飲酒を強要する等の悪習を排除し、飲酒についての節度を保つように努めなければならない。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
第四条 (罰則等)酩酊者が、公共の場所又は乗物において、公衆に迷惑をかけるような著しく粗野又は乱暴な言動をしたときは、拘留又は科料に処する。 2 前項の罪を犯した者に対しては、情状により、その刑を免除し、又は拘留及び科料を併科することができる。 |
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アルコール専売法 (1937.3.31~2000.4.5) ※要約 |
酒以外のアルコールの製造を日本国の専業とするための法律であった。 | H12年専売公社の民営化に伴い廃止されアルコール事業法へ引き継がれる。 | |||||||||||||||||||||||||||||
アルコール事業法 (2000.4.5~) ※要約 |
産業用アルコールを政府に納入する仕組みがなくなり、民間業者が国から許可を受けて、自由に製造・輸入・販売・使用を行うようになった。新エネルギー・産業技術開発機構に関してだけは、事業収益に応じて一定の納付金を政府に納める。ある一定の場合において、民間業者にアルコール取引量に応じて納付金する義務が生じる。これが履行されない場合、経済産業大臣は納付金を強制徴収する事ができる。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
道路交通法 (1955.6.25~) ※要約 |
第六十五条(酒気帯び運転等の禁止) 何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。 |
酒に酔っている運転者→第百十七条の二 該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 | |||||||||||||||||||||||||||||
アルコールを検出した運転者→第百十七条の四 該当する者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。 | |||||||||||||||||||||||||||||||
2 何人も、前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。 | 酒酔い運転・酒気帯び運転の共犯に問われる事がある。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
第七十五条(自動車の使用者の義務等 営業車両(緑ナンバー)の使用者(安全運転管理者等その他自動車の運行を直接管理する地位にある者を含む)は運転者が酒気を帯びて車両等を運転するのを容認してはならない。 |
第百十七条の五 該当する者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
刑法 (1907.4.24~) ※抜粋 |
第二百四4条(傷害) 人の身体を傷害した者 |
例)酔いつぶすことを目的として飲ませた場合等 10年以下の懲役、30万円以下の罰金、科料 |
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第二百五条(傷害致死) 身体を傷害し、よって人を死亡させた者 |
例)飲酒を強要し急性アルコール中毒で死亡させた場合等 2年以上の有期懲役 |
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第二百六条(現場助勢) 前2条(傷害・傷害致死)犯罪が行われるに当たり、現場において勢いを助けた者(自ら人を傷害しなくても) |
例)集団で強要し急性アルコール中毒となった場合等 1年以下の懲役、10万円以下の罰金、科料 |
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第二百九条(過失傷害) 失により人を傷害した者 2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。 |
例)飲酒を強要し急性アルコール中毒となった場合等 30万円以下の罰金又は科料 |
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第二百八条の二(危険運転致死傷) アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で四輪以上の自動車を走行させ、人を負傷あるいは死亡させたもの||人を負傷させた者は十年以下の懲役に処する。 |
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第二百十八条(保護責任者遺棄等) 老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったとき |
例)泥酔者を放置した場合等 3月以上5年以下の懲役 |
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第二百十九条(遺棄等致死傷) 前2条(保護責任者遺棄等ほか)の罪を犯し、よって人を死傷させた者 |
例)泥酔者を放置して死亡させた場合等 保護責任者遺棄等の罪と傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。 |
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第二百二十三条(強要) 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者 2 《略》 3 前2項の罪の未遂は、罰する。 |
例)威嚇して飲酒を強要した場合 3年以下の懲役 |
[編集] 航空機への持ち込み制限
アルコールそのものは可燃性液体であるため、航空保安上、度数の高いアルコール飲料の持ち込みが規制される。
- 70%超 危険品となり、機内持ち込みも受託もできない。
- 24%超70%以下 機内持ち込み分・受託分の合計が1人当たり5Lまで。
- 24%以下 制限なし。
[編集] 関連項目
- バックス (ローマ神話)(酒の神)
- アルコールハラスメント(アルハラ)
- 二日酔い
- アルデヒド脱水素酵素
- カクテル
- 肴
- アルコール依存症
- 急性アルコール中毒
- 低アルコール飲料
- ノンアルコール飲料
- 酒類製造免許
- 酒類販売業免許
- 酒造
- 酒税
- 飲酒運転
- アルコール検査
- 運転代行