軍事政権
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軍事政権 (ぐんじせいけん)とは、軍隊が統治を行う形の政権。軍の首脳が戒厳令などを布告し、憲法を停止して、行政権・立法権・司法権を一手に掌握する。軍部が政権に多大な影響を与えている場合でも、立憲主義的法秩序が維持されている場合は軍事政権の枠組みには含まれない。またイデオロギーに基づく独裁的支配が憲法によって認められている場合も、軍事政権とは異なる形体として類別される。ただしイデオロギー色の薄い軍事政権が名目的に社会主義的独裁を標榜することもあり、境界は曖昧である。
一般的に、現役や予備役にある軍人が、憲法上の手続きを踏まずに大統領や首相などの政治の要職を占めるか、「革命評議会」のような最高機関を設けて統治を行うといった形をとることが多い。
軍事政権は自らを非常時における過渡的政権として正当化を図ることが多い。実際に公約どおり短期間で民政移管がなされる場合もあるが、そういった国ではその後もたびたびクーデターが起って政局が不安定になることがある。また民政移管を約束しながら数十年にわたり政権に居座る場合や、自由選挙を行っても結果が思わしくなければ民政移管を中止する例もある。
[編集] 現在軍事政権が統治する国
[編集] 過去に存在した軍事政権
- アルジェリア(1965年~1994年)
- アルゼンチン(1943年~1958年、1966年~1973年、1976年~1983年)
- ブラジル(1964年~1985年)
- チリ(1973年~1990年)
- コンゴ(1968年~1992年)
- ギリシャ(1967年~1974年)
- スペイン(1939年~1975年)
- 大韓民国(1961年~1963年)
- 韓国については、職業軍人出身の朴正煕、全斗煥、盧泰愚ら国軍出身者が大統領であった時期を「軍事(独裁)政権」と呼ぶことも多い。しかし、あくまで形式的に解釈するならば、「軍事政権」に分類できるのは朴が軍事クーデターで政権を奪取後、現役軍人の身分を保持したまま「国家再建最高会議議長」として執政した1961年から1963年までに限られる、という捉え方もある。
- 確かに、1963年以降、彼らは文民大統領であり、政治状況によっては国民の直接選挙による大統領の選出が行われたこともあったが、少なくとも、朴正煕・全斗煥の2代の大統領は、民意によらず国軍の力を背景に権力を掌握維持していたという点からみて「軍事政権の長」と呼ぶのがもっとも正しい評価だろう。1963年の民政移管後の国民が直接投票する大統領選挙(第三共和制)では朴正煕が当選したが、結局朴は政党政治家に安住することはできず、強権政治を続けた末に、1972年に再度クーデターを起こし、朴の独裁をそのまま追認する新憲法、いわゆる「維新憲法」の下で独裁権力を形式的にも保障された。この1972年~1979年の「第四共和制」の時期も当然「軍事政権」と呼ぶべきだろう。
- また、全斗煥も1979年にクーデターで政権を奪取しており、これも「軍事政権」に含めないわけにはいかない。ただし、全は国民の直接参加による大統領の直接選挙などの民主化政策を実行し、平和裏に後継者にその地位を引き継いだので、「軍事政権」から「民政」への過渡期にあった指導者と言えるだろう。
- パナマ(1968年~1989年)
- ペルー(1948年~1956年、1968年~1980年)
- トルコ(1960年~1962年、1971年~1973年、1980年~1982年)
- ウルグアイ(1972年~1985年)
- ベネズエラ(1952年 - 1958年)
- ハイチ(1957年~1990年、1991年~1994年)