軍隊
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軍隊(ぐんたい、Armed forces―直訳で“武力”)とは、外国や国内の武装勢力などの軍事力の行使などに対し国家などが自ら(または多国間)の利益と安全を守ることを目的として編成され、一定の規律の下に運営されている軍事組織・武装集団のこと。
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[編集] 概説
歴史上、人間にとって脅威から生命と財産を守ることは普遍的な課題であった。その必要性から人間は古来から武装集団を一時的に組織していたが、それが時代と共に恒常的な専門家集団と成長していき、現代における軍隊として確立された。軍隊は軍事力の根幹であり、その意義は自国の安全保障、強制力による政治目的の達成、国内の治安の維持など幅広い(詳しくは軍事力を参照)。
暴力による強要を戦争の本旨とするカール・フォン・クラウゼヴィッツの『戦争論』に基づけば、戦争を行う機関である軍隊は暴力を管理する組織であると言える。またマックス・ウェーバーの、国家とはある領域での合法的な暴力行使を独占する集団、として定義する考えからも、この暴力を担保する集団としての軍隊の意味を見いだせる。
[編集] 歴史
軍隊の形態はその時代と地域によって千差万別であり、一概には言えないが、ここでは基本的な形態の推移を述べる。
原始社会においては全ての男性が戦闘員でもあり、常時組織された軍隊という形態はとられていなかった。しかし古代において人口の増加と共に国家体制が階級化・組織化されていき、それに従って軍隊もより階級化と組織化が進んだ。また戦術や兵器の発達もあり、大量の兵士や装備をいくつかの部隊に編成し、それらを最高位の指揮官が統一的に指揮統率するという現代に続く軍隊の基本型が誕生した。この頃から徴兵制も用いられるようになり、また海軍の役割も大きくなっていく。中世のヨーロッパにおいては国王が保有する軍隊の他に、宗教的な役割を担う騎士団や、傭兵部隊なども軍隊の一種として台頭している。この時代に軍隊はその戦術や軍隊組織についての研究を進め、また国際法によってその地位が定められていった。近代になってからは国家の中央集権化や大砲の発達、戦争の形態変化などが重なり、大幅な軍隊のより高度な組織化と専門化が求められるようになる。その結果、それまで軍隊を支配していた貴族などの政治家階級は追放され、軍隊は専門的な知識と技能を身につけた職業軍人によって指揮統率されるようになり、現代につながる文民統制が確立されるようになった。また兵器の高度化によって空軍が登場し、核兵器やミサイルなどの開発に軍拡競争の中で貢献していた。
近年、軍隊はその兵器や技能などの「質」を高めることで、財政的に大きな圧迫となるその大きな人員などの「量」を最小化する方向で変化している。またこれまでにない、ゲリラ・テロ・コマンド攻撃などの新しい脅威に対抗することが求められており、軍隊のコンパクト化や柔軟化によって合理化を進めようとしている。
[編集] 組織
軍隊の組織をその作戦領域から陸軍、空軍、海軍などの軍種に分けることが多い。ただし既存の部隊を補完するために準軍事組織、統合部隊を編制している場合もある。ただし軍隊の編制は国によって多種多様であり一概には言えない。
イタリア、フランス、インドネシアなどでは警察や消防を軍隊の軍種の一つ(国家憲兵など)としている。逆にロシアの内務省部隊の様に文民機関に軍事任務を遂行する組織がある場合もある。ただし、内務省部隊員は軍人資格者である。一党独裁制をとる中国や北朝鮮の軍隊は、国家の軍隊ではなく政党の軍隊であるが、事実上の国軍とみなされている(軍種の区分については軍種を参照)。
[編集] 陸軍
陸地を主要な活動領域とし、陸戦を遂行する。作戦を遂行する歩兵、砲兵、戦車、航空部隊や、戦闘支援・後方支援を行う通信、需品、衛生、化学、会計、音楽部隊などから構成され、部隊が配備される駐屯地(基地)を持つ(陸軍を参照)。
[編集] 海軍
海洋を主要な活動領域とし、海戦を遂行する。航空母艦、巡洋艦、駆逐艦、フリゲート、潜水艦、掃海艇、航空機などから構成される艦隊を持ち、それらが配備される港湾や基地を持つ(海軍を参照)。
[編集] 空軍
空域を主要な活動領域とし、航空作戦を遂行する。戦闘機、攻撃機、爆撃機、偵察機、電子戦機、早期警戒機、輸送機、空中給油機などから構成される航空部隊を持ち、また防空のための地対空ミサイルなどを有する。それらが配備される基地を持つ(空軍を参照)。
[編集] 統合・連合・統連合部隊
陸海空あらゆる場所において作戦行動が可能な戦力を持つ部隊は統合部隊であり、二国以上の軍隊で構成される部隊が連合部隊、両者が併用された場合は統連合部隊と呼ばれる。国によってその有無、規模、編制は異なる。米軍は地域別に統合軍を保有しており、世界規模の作戦行動を分担している。欧州連合軍は陸海空軍を統合し、さらに諸国の軍隊を連合した編制になっている。
[編集] 準軍事組織
陸海空軍とは分離して編制され、補完的な作戦を遂行する部隊である。準軍事組織として扱われる組織には国境警備隊、沿岸警備隊、警察軍、民間防衛隊などがある。これらは有事の際には正規軍に編入される場合が多い。
正規の部隊に編入されていないミリシアや軍閥は正規の軍隊とは言わないが、一定の条件を満たせば国際法上の交戦者として扱われる。
[編集] 階級
軍隊という組織においては、その活動の成否が各個人の死に直結する緊急事態において行動する。その成功のために上部の意思が下部に迅速かつ的確に伝達され、それが実行されなければならず、組織的な合理性が追求されなくてはいけない。そのため、指揮系統の確保のために階級や指揮権というものが重要視されている。上下関係を明確にすることで、組織の意思決定、役割分担などの効率化を図っている。
軍隊の階級は一般に、士官、下士官、兵に大別され、士官は戦略的、作戦的な判断・決定を行い、下士官は現場指揮官として作戦的、戦術的な指揮をとる。兵は下士官に従って各々の役割を組織的に果たして任務を遂行する。 しかし、さらに細かい区分については地域や時代により様々である(軍隊における階級呼称一覧を参照)。
[編集] 機能
軍隊の機能は多岐にわたる。 独立した主権国家の威信、国家の安全保障、政治的な目的の達成(威嚇、武力攻撃など)、治安の維持、外国との合同演習、国家的な行事の支援、兵器や装備、軍事戦略や戦術など軍事に関わる分野の研究、国連平和維持活動などが代表的な機能として挙げられる(詳しくは軍事力を参照)。
[編集] 能力
軍隊に求められる最も基本的かつ重要な能力は造兵(兵器開発)、練兵(訓練教育)、及び用兵(戦力運用)である。軍隊の能力は本来的な任務である作戦・戦闘の遂行だけでなく、運用によっては多用な目的に用いることが可能であり、災害救助や被災地の物資輸送、テロ事件における警察の支援などを行うことも可能である。
軍隊の能力はさまざまな要素によって決定される。人材の優劣、作戦立案能力、戦術の効率、兵器・機材の技術力や数量、施設の機能、兵站の能力、備蓄の量、予備役の有無、指揮系統の完成度、部隊としての士気など、有形無形を問わずありとあらゆる分野の優劣が軍隊の能力に関わっている。軍隊の能力を評価する難しさもこの点に起因する。数量データのみを注目した分析だけではその軍隊の本当の実質的な能力は判断できない。
[編集] 用兵
- 戦闘力
- 作戦・戦闘を遂行する能力とは武力を用いた闘争を実行する能力であり、軍隊の最も本質的、根本的な能力である。軍隊の持つ多用な能力も原則的に戦闘力に貢献するためにある。この戦闘力を得るためには、個人レベルでは練成された体力と共に、武器、爆発物、通信機器などの様々な装備の取り扱い、戦術行動、緊急医療、築城などに関する幅広い理論・技術が求められる。また部隊レベルでは戦闘行動を指揮し、各部隊の連携を維持するための指揮統率の能力、戦闘力を維持増進するための後方支援などを実施する能力が求められる。司令部においては各種情報活動、戦略・作戦計画の策定、軍令の制定が軍隊の能力を維持増進する上で重要な業務となる。また海や空での戦闘となれば、陸上部隊とは異なった艦船や航空機といったより複雑高度な専門技能と知識が求められる。戦闘力は以下に述べられる軍隊のあらゆる能力のすべてが総合的に結集したものであり、非常に高度な組織的能力であると言える。
- 戦略策定の能力
- 戦略を策定することは軍隊、特に国防省や参謀本部のような最上位組織において行われる業務である。軍事的・外交的な環境は常に変化するため、こういった情勢の推移を見定めて策定される必要性がある。この戦略に基づいて指揮系統、戦闘教義、教育・訓練内容、兵器開発などの定期的な見直しを行うことは軍隊組織の能力を維持増進する上で重要であり、軍隊全体の用兵に高次に関する能力と考えられている。平時に時代や環境の変化に応じた戦略が策定できなければ平時においての戦闘教義・部隊編制・装備体系の研究開発の効率性や妥当性が失われ、戦時においては目的と手段を取り違えた戦争指導に繋がる危険性がある(軍事戦略を参照)。
- 情報活動の能力
- 軍隊において情報の収集・整理・分析と資料の作成を行う能力は戦略策定の能力や作戦・戦闘の運用の能力などに大きく貢献する(諜報活動を参照)。
- 自己完結能力
- 軍隊は食料・電気・通信・移動と言った、生存ひいては作戦行動の遂行に必要なインフラを自分たちで用意する能力を求められている。なぜならそれらのインフラは戦時においては真っ先に破壊されることが予想され、またインフラが元々無い場所で作戦行動をすることもあるからである。インフラが破壊され、消防が活動できなくなるほどの災害において軍隊が有用となる理由は此処にある。すなわち後方支援部隊の兵站が無くとも部隊の活動能力を維持することが求められる。その訓練の一例としてレンジャーは自力で食料を採集しながら山中に潜伏するサバイバル訓練を行う。
- 補完能力
- もう一つの自己完結能力として補完能力が挙げられる。部隊の構成員の誰かが欠けてもその能力を肩代わりできるよう全員に訓練が成される(殊に指揮系統の維持は統率上の観点からも最重要とされる)。
[編集] 練兵
優秀な兵士・将校の育成は軍隊の重要な課題である。士官に関しては戦略的な思考訓練、作戦立案の能力が直接軍隊の運用の効率性に関わってくる。下士官は軍隊の骨格的な役割を担っており、前線において実際に部隊指揮を行う際に必要な能力は幅広い。戦術的思考力、情報処理能力、機転、時には戦闘力すらも求められる。また部下の生命を預かっているという責任感や信頼される精神性などの人間的なリーダーシップが切実に求められる。兵士においても基本的な戦闘力だけでなく、その兵科の専門的な能力も必要である。歩兵においては、射撃能力、匍匐などの移動技術、部隊戦術、火器取り扱い、築城能力、サバイバル技術(その延長として災害救援能力)などの能力が要求される。
一般的に戦争をしなくなれば軍隊の能力は低下する。その大きな要因の一つに「組織ノウハウの喪失」が挙げられる。戦時においては将兵の犠牲によりさまざまな教訓を得ることができ、生き残った者たちがその教訓を学ぶことで戦い方の質を上げることができる。偽装の手法や戦場での移動技術に関する些細な生存するための工夫などは戦時においてはすべての兵士にとって切迫して必要な知識ではあり、積極的に訓練にも反映されるが、平時においては訓練を予算の範囲内に納めようとしたり、長い平時が訓練内容を安易に単純化する傾向があるため、次第に実践的なノウハウが不完全になることや、完全に失われることがある。これは外国軍と共同訓練を行うなどの工夫である程度改善できる。
もともと軍隊は政府機関としても巨大な組織であるため人件費などの面で金食い虫であり、平時が続けば軍隊への風当たりは強くなることから、隊員の綱紀粛正は重視される(一例として、自衛官の犯罪率は一貫して、日本の一般国民の1/10程度を保っている)。これは上述の「統率」と言う観点からも必須である。また切迫した必要性の感覚が政治家や国民から失われるため、兵器開発や訓練、部隊維持のための費用が削減される傾向があり、場合によっては大規模な軍縮に繋がる。その妥当性についてはその時代の軍事的環境、国際情勢などを総合的かつ慎重に軍事の専門家も交えて考慮する必要がある。
[編集] 造兵
武器・兵器の開発レベルは前線で展開できる火力や機動力の規模や質に決定的に大きく影響する。とくに海軍や空軍は兵器への戦力の依存度が高く、兵器開発が死活問題である。ミサイル技術や通信機器の技術、装甲技術、エンジン技術は戦場における勝敗を大きく左右するだけでなく、兵士の生存に直結する。特に近年は技術躍進が著しく、継続的な開発が行われなければ、すぐに他国の技術に追い越されてしまう事態になる。
[編集] 文民統制
軍隊はしばしばその高度な専門性から政治とは切り離され、文民政治家によって統制されるという文民統制の体制に置かれて運営されている。その目的は近世まで続いてきた政治家による軍隊の直接統制を廃止し、軍人と政治家を切り離すことで政治が軍事に過剰に干渉せず、軍人がより専門化を推し進める体制を整えることにある。また軍隊が政治の意思とは無関係に行動することを監督する機能もある(文民統制を参照)。
[編集] 日本の軍隊
日本に存在する、または存在した軍隊およびそれに準ずる組織。
戦後、日本政府は、日本には憲法上、軍隊は存在せず、その代わりとして自衛隊があり、軍隊と同様に陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊に分かれているとしている。 だが、日本国外のメディアなどでは自衛隊のことを正式名称のJapan Self-Defense ForcesではなくJapanese Armyと呼ばれる場合も多い。この場合の多くは陸上自衛隊を指している。同様に海上自衛隊がJapanese Navyと、航空自衛隊がJapanese Air Forceと呼ばれることもある。
[編集] 類義語
「軍」「軍団」「軍部」「軍備」と、軍隊の意味と部分的に重なる類語がいくつかある。
- 「軍」は軍隊そのものを指すほかに、方面軍など軍隊の編制単位を指すことがある。
- 「軍団」は軍隊の編制単位であるが、一般には「たけし軍団」や「日光猿軍団」のように、「集団」に近い意味で比喩的に用いられる。
- 「軍部」は政府・民間の文民機関の対義語として軍機関を指すのに用いられ、主に(政治的影響力を持つ)参謀や幕僚など高級将校団を指す。
- 「軍備」は装備や配備を指す。
[編集] 関連項目
- 軍事 戦争
- 軍事力 準軍事組織 徴兵制
- 軍法会議 除隊 名誉除隊 不名誉除隊 軍歌
- 近代陸軍の編制
- 戦闘序列
- 各国の軍隊の一覧
- 軍隊における階級呼称一覧
- 軍隊を保有していない国家の一覧
- 国連軍 多国籍軍 救世軍
この「軍隊」は、軍事に関連した書きかけ項目です。この項目を加筆・訂正などして下さる協力者を求めています。(関連: ウィキポータル 軍事/ウィキプロジェクト 軍事/ウィキプロジェクト 軍事史) |