コンブ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
コンブ(昆布)とはコンブ目コンブ科コンブ属およびトロロコンブ属に属する茶色をした帯形の海藻の一群を指す。マコンブの学名はLaminaria japonica。
目次 |
[編集] 分布と生活史
日本では、三陸海岸や北海道沿岸に分布する。また、北海道の函館市沿岸では養殖が盛んに行われている。最近は岩手県や宮城県、瀬戸内海などでも養殖されるようになった。 日本のコンブ生産量は約12万トン(平成17年 生重量)。 生産量全体に占める養殖物の割合は約35%(平成17年)。 天然物の生産量の95%以上を北海道が占める。 また、中国でも80万トン前後が養殖されている。
- コンブの一生(生活史)
- コンブは胞子によって増殖する。コンブの胞子(大きさは5マイクロm程度)は鞭毛を持ち、海中を泳ぐことができるので特に「遊走子(ゆうそうし)」と呼ばれる。遊走子はコンブの表面から放出され、海中の岩などに着生する。着生した遊走子は発芽して配偶体という微小な植物体になる。1個の遊走子から1個体の配偶体ができ、雄と雌の配偶体がある。雌雄の配偶体それぞれに卵と精子が作られる。この卵と精子が受精し、受精卵が生長すると我々が目にするコンブとなる。
[編集] 昆布の産地と種類
昆布の主な産地は北海道で、特に真昆布、羅臼昆布、利尻昆布、日高昆布(三石昆布)、長昆布が知られ、先頭のものほど高級品として知られる。
- 真昆布
- 主に津軽海峡~噴火湾沿岸で獲れる道南産の昆布。非常に多くの銘柄と格付があり、旧南茅部町周辺(現在は函館市)に産する真昆布が最高級品とされ、「白口浜」という銘柄で呼ばれる。そのほか旧恵山町周辺で産する黒口浜、津軽海峡の本場折、それ以外の海域で取れたものを場違折などの銘柄に分ける。市場価値もおおよそこの順番となるが、銘柄内でも品質により数段階の等級に分けられる。だし汁は上品で透き通っていて、独特の甘味がある。大阪ではこの味が好まれ、だし昆布といえば、大抵この真昆布か後述の羅臼昆布を用いる。また、他の用途としておぼろ昆布、白髪昆布など薄く削った加工品がある。
- 羅臼昆布
- 真昆布と並ぶ昆布の最高級品で、エナガオニコンブという種類である。濃厚な味のため、関東地方ではだし昆布として、この羅臼昆布が好まれる。色は茶褐色をしており、多少昆布独特のえぐみがある。北陸の富山などは一大消費地である。
- 利尻昆布
- 真昆布や羅臼昆布に次ぐ高級品で、味は前者より薄いが、澄んでおり、やや塩気のある、上品なだしが採れる。そのため、懐石料理では重宝され、とりわけ京料理には欠かせない。京都では最もメジャーで、高級とされるだし昆布である。
- 日高昆布(三石昆布)
- 太平洋岸、日高地方で獲れる。ミツイシコンブは和名。早く煮え、非常に柔らかくなるので、昆布巻き、佃煮、おでん種など、昆布そのものを食べる料理に適している。なお、昆布だしにさほど拘らない関東地方や一般家庭ではだし昆布として用いることもあるが、だしを採ろうとすると青白く濁るので、関西の料理屋ではまず用いない。
- 長昆布(浜中昆布)
- 釧路地方で多く獲れる昆布。全長15mにも及ぶ。生産量は最も多いが、旨味成分が少ないために一般向けの廉価品。だが、沖縄では古くから野菜代わりに重宝され、最もポピュラーな昆布である。日高昆布同様、柔らかいために一般では昆布巻きなどに用いられるが、沖縄では切り刻んだものをそのままサラダ感覚で食べたりするほか、豚肉との相性が非常に良いため、炒め物にしたりする。
- 細目昆布
- 渡島半島の松前~留萌を主体とした日本海沿岸で獲れる昆布。ほかの昆布と異なり寿命が1年であるため、1年目で刈り取られる。切り口がどの昆布よりも白いために、おぼろ昆布、とろろ昆布に加工されることが多い。
- 籠目昆布(ガゴメコンブ)
- 葉(正確には葉状部という)の表面に籠の編み目のような凹凸模様があることからこの名を持つ。北海道函館市の津軽海峡沿岸~亀田半島沿岸(旧南茅部町)、室蘭市周辺に産する。水深10~25mに多く分布し、浅い側ではマコンブと混じって分布する。最大で長さ2mほどになり、寿命は3年から5年と考えられている。ダシを取る用途には使われず、商品価値が低かったが、「フコイダン」という多糖類が他の昆布よりも多量に含まれ、それがいわゆる機能性成分として作用するらしいことが分かり、価格が急騰した。これまではもっぱら天然に分布するものが採取されていたが、需要の高まりを受けて最近では養殖も試みられている。
[編集] 主な陸揚げ漁港
[編集] 収穫
- 小舟から昆布の根元に竿を差し入れねじり取る。海岸で押し寄せてきた昆布を拾ったり、鈎でたぐり寄せる方法もある。
- 小石を敷き詰めた干場に運び並べて干す。
- 1~2回裏返しにし、まんべんなく乾燥させる。乾燥しすぎると折れやすくなるため加減が必要。
- 乾燥時間は半日程度。この間、雨に当たると商品価値はなくなるので、天気予報で雨が確実な日は出漁を見合わせることもある。
- 天日ではなく乾燥機で干す方法もある。品質は乾燥機の方が落ちるが、濃霧や日照不足などの理由で乾燥機の使用頻度が多い地域もある。
- 昆布干しは短期決戦のため、干し方専門のアルバイトが募集されるほか、昆布漁場の近くに番屋を張り寝泊まりする地域も珍しくない。
[編集] 利用と加工、消費
- 主に乾燥させてだしをとるために使う。また、おぼろ昆布やとろろ昆布にもする。また近年では酢こんぶやおしゃぶり昆布としてお茶請け・おやつにもなっている。
- 昆布は体に良い食品として知られているが、特に豊富な食物繊維や鉄分、カルシウムなどが含まれており健康食品として人気が高い。
- 昆布には人にとって必須元素であるヨウ素を多量に含有しているが、ヨウ素を多量に含むコンブを過剰に摂取すると甲状腺の機能障害を起こす場合があるので注意する必要がある。
- 統計局の家計調査によると、青森市、盛岡市、富山市が昆布消費量の多い都市(平成15~17年平均:1世帯あたり)で、全国平均の1.4~1.8倍を消費している。
- 沖縄(那覇市)は7位(全国平均の1.1倍)である。沖縄県はかつて日本産昆布を中国に輸出するための中継地点であったことから、昆布を利用する食文化が生まれ昆布消費量が多かったが、近年は若者の伝統食離れで消費が減少している。
- 昆布つくだ煮の消費量が多い市は福井市、大津市、富山市で、これに京都、奈良など近畿地方の都市が続く。近畿地方では古くから北前船によって昆布が多く流通し、独特の昆布消費文化と加工技術が存在するため、つくだ煮消費量が多い。
- 市販の「早煮昆布」は棹前昆布、日高昆布、真昆布の若く薄いものをボイルして干したもの。
- 北海道では、湯通しした若い昆布を刺身昆布として食べる習慣がある。
- ロシアでは「海のゴミ」と扱われているため、それを好んで食べる日本人は不思議がられる。
[編集] 上方の昆布文化
昆布は鎌倉や室町の時代に、政商によって京に重要交易品として運ばれた。同時に蝦夷から運ばれた乾物は、帆立貝、棒だら、身欠きにしんなどがある。乾物の昆布はよい出汁がでる。また、湿気の多い大坂で乾燥させた昆布を倉庫に寝かせておくと、熟成することで昆布の渋みが無くなり甘みがでてくる。大坂の多湿な気候が昆布の旨味を熟成させるのである。
[編集] 様々な加工品
大坂では、刃物の街である堺市の職人が、乾燥昆布を甘酢に浸し、表面を削ったおぼろ昆布が生まれた。昆布表面の黒い部分は甘酢がよく染みていることから、酸味が多い黒い「おぼろ昆布」(黒おぼろ)になる。中でも表面を薄く削ってゆくと、内側の白い部分が出てくる。ここは酢に浸っておらず、昆布本来の甘みがある。この昆布は「太白おぼろ」と呼ばれる。最後に残った昆布の芯の部分はばってら寿司や押しすしに使われるばってら昆布(白板昆布)になる。薄く削るには職人による高等技術が必要とされる。 上記の堺でも「おぼろ昆布」が発達し、また北前船の集積地でもある敦賀でも「おぼろ昆布」技術が発達した。
おぼろを削ったヘタの部分は、爪昆布と呼ばれ、お菓子として食べられることもある。
その他昆布の加工品といえば、塩昆布(釧路産の厚葉昆布)が連想されるが、戦国時代の出陣の際、勝ち栗や喜ぶなどの縁起を担いだ出陣式に醤油で炊かれた塩昆布が登場している。
醤油で炊かれた塩昆布を火鉢の網の上に並べて乾燥させては醤油につけ、網の上で3回乾燥させたものを「汐吹き昆布」といった。現在では、イノシン酸や昆布のグルタミン成分などの調味料でまぶして真っ白な汐吹き昆布が一般的となっている。
[編集] 発酵食品分野に昆布が登場
近年、発酵食品のひとつに発酵塩昆布が考案された。もともと、昆布には硫酸基をもつ物質が含まれており、菌の繁殖を妨げていたのであるが、この硫酸基に影響を受けずに昆布を発酵させる菌が海底生物から見つかったことで、発酵塩昆布の開発に拍車がかかった。
昆布を発酵させる技術は、宝酒造、協和発酵、こうはら本店がそれぞれ独創的な技術を持つ。天然酵母が育てた塩昆布「舞昆」という新しい発酵食品を開発した「こうはら本店」は食品昆布発酵技術の先駆けであり、サントリーが、岸田綱太郎博士の乳酸菌技術を使った、昆布発酵健康食品を製品化に成功した。発酵昆布には、血中のコレステロールを低下させる効果が発表されている。
[編集] 歴史
昆布が日本の歴史的な文献に初めて登場するのは「続日本紀」である。描写によると、当時の東北では昆布を献上品として収めていた。 以後室町時代には乾燥技術の発達による長期保存が可能になり、それにともない大阪や日本海沿岸の重要な港に出荷されることになる。 さらに江戸時代に蝦夷地(現在の北海道)の開発が盛んになると、航路の整備、出荷量の増加などにより全国に広まっていく事になる。とりわけ沖縄料理にはよく使われる。