黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉
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黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(こくえんげんそくふっとうけいすいあつりょくかんがたげんしろ)は、ソ連が独自に開発した原子炉の形式。 ロシア語ではРБМК (Реактор Большой Мощности Канальный)とよぶ。西欧圏ではキリル文字表記をアルファベット読みして頭文字でRBMK (Reaktory Bolshoy Moshchnosti Kanalniy, 英語直訳:"reactor (of) high power (of the) channel (type)", 日本語直訳:高出力圧力管型原子炉とよび、英語では別の表記としてLWGR (Light Water cooled Graphite moderated Reactor、軽水冷却黒鉛減速炉) がある。 ソビエト連邦内でだけ作られ、今では旧式になってしまった黒鉛減速動力用原子炉の一形式について、ここで述べることにする。
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[編集] 概要
黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(RBMK)は、核分裂反応によって生じた熱エネルギーを、軽水を沸騰させることで取り出す原子炉である。旧ソ連が軍事用に開発した黒鉛減速プルトニウム生産炉をベースに、独自に軽水冷却型炉として発電用動力炉を開発したものである。一群の開発プロジェクト「ソビエト計画」の最高峰であった。 それらのうちの最初のものはAM-1 ( Atom Mirniy, ロシア語で "peaceful atom"、「平和な原子力」)と呼ばれ、電気出力5MW(熱出力30MW)を発電し、発生した電力を1954 年から 1959年までオブニンスクへと送っていた。
2004年時点で、現在世界で十数台が運転されているが、新規の建設計画は無く、国際的圧力は同型の残った原子炉を閉鎖する方向に働きかけている。
同型式の炉には、RBMK-1000型やRBMK-1500型などがあり、特にRBMK-1000型は、ウクライナのチェルノブイリ原子力発電所で事故を起こした炉として知られている。
低濃縮ウラン燃料は燃料集合体として、圧力管内に収められており、この管内を流れる軽水が直接熱を奪う。圧力管はジルカロイ合金製で、減速材である黒鉛ブロックの穴の中に収められている。乱暴なたとえ方をするならば、練炭を立てて蓮根状に開いた穴に金属管を挿入し、管の中に核燃料を装荷して冷却用の水を流し込むと考えればよい。
それぞれ、中性子の減速用に黒鉛を、原子炉の冷却用に軽水を、燃料に天然ウランを使用して原子炉を作ることは可能である。このように、濃縮ウランや重水のような、分離された同位元素を使用しないで大型動力炉を建造することができる。しかしながら残念なことに、このような構成の原子炉は不安定でもある。
[編集] デザイン
RBMKは、冷却材として軽水を使用する。それは高さ7メートルの黒鉛ブロックの中を垂直に走る圧力管の中を流れる。軽水は圧力管により、炉心で、沸騰水型原子炉に良くある温度270℃で沸騰できる。燃料は低濃縮ウランである。それを3.5メートルの長さの燃料集合体に仕立てて使う。 中性子減速の大部分を固定された黒鉛に頼るため、過剰な沸騰がおこれば、それは核分裂反応を妨げることなく、単に原子炉の冷却と中性子吸収をへらすだけに終わってしまうので、原子炉はかなり大きな正のボイド係数を持ちうる。それはたとえばチェルノブイリのようなRBMK炉で、ボイド係数に起因する正のフィードバック問題を起こしてしまう。その問題とは、炉心で沸騰が起これば軽水の密度が下がって中性子吸収が下がり、それが原子炉の出力を、つまり沸騰をさらに増大させていく「雪だるま現象」のことである。
RBMK炉の炉心から熱を取り去るのに使われる水が、原子炉の作動する間に通常発生する遊離中性子をいくつか吸収してしまう。よって、RBMK炉用のウラニウム中、核分裂可能なウラン235同位体の濃度は、炉心で核分裂連鎖反応の維持を支援する天然ウランの水準より上に増強されている必要がある。:燃料中のウランの残りはウラン238である。核燃料用ウランでは、ウラン濃縮のプロセスをつかって、2.0-2.4パーセントと、天然ウランよりも高いウラン235濃度にしたものを使っている。
この型の原子炉の炉心は、最高3000個の燃料集合体を装荷することができる。燃料集合体は一群の密封された燃料棒からなる。それぞれが酸化ウラン(UO2)ペレットで満たされ、端板で適切な位置に保たれ、燃料棒を強化し、それらの間の適切な距離を保持するための金属スペーサーグリッドで支えられる。炉心は、核連鎖反応プロセスが熱エネルギーを引き出すことができる貯水池とみなせる。原子炉を運転している間、U-235の燃料内での濃度は核分裂を起こすにつれて減少し、その分が熱エネルギーに変化していく。多少のU-238原子は中性子を吸収し崩壊して、核分裂性のPu-239に変化する。そのいくつかは核分裂を経て、エネルギーを生む。核分裂反応によって生み出された物質は燃料ペレットの中に保持され、これらのうちのあるものは「核毒」と呼ばれる中性子吸収性の物質になる。核毒は、核分裂の割合と熱発生量を低下させるように振舞う。原子炉の運転が続けられるにつれて、原子炉は、ある一点に到達する。その時点とは、燃料内での高核分裂性の原子核の濃度の減衰と、核毒の濃度の増大が、最適な熱エネルギー生産より低下してしまうときである。RBMKは、負荷の存在下で、つまり原子炉がまだ電力を発生させている間に、燃料を交換できる燃料補給機を持っている。
[編集] 原子炉特性
RBMK型原子炉では、中性子の減速は主に黒鉛ブロックが受け持ち、燃料集合体周りの軽水は、量が少ないこともあって中性子減速効果より吸収効果が大きく作用している。このためボイド効果(蒸気泡による減速材の密度低下)は正の反応度係数を持ち、ドップラー効果(燃料ペレットの温度上昇に伴なう中性子吸収効果の増大)の負の反応度係数により、RBMKは出力の高い領域では全体として負の反応度出力係数を持っているが、低出力領域では極めて大きい正の反応度フィードバック特性がある。言い換えれば、高出力時では比較的制御が容易だが、低出力時には不安定状態に陥りやすいという欠点がある。出力低下に伴う正の反応度フィードバックは、原子炉内のキセノンオーバーライドという現象が原因であり、チェルノブイリ原子力発電所の事故原因の一つとされる。 高い正のボイド係数は、もし、この原子炉が低出力状態で放置されたならばメルトダウンを引き起こすまで核反応を暴走させてしまう傾向があると言うことを意味する。元の設計では、ボイド係数は+4.5 bという値であった。
高い正のボイド係数は、原子炉を受動的に安全な炉でなくする。RBMKの設計は、反応度をコントロールし、必要に応じて、完全に反応をとめるコンピュータ制御の制御棒を含んでいた。
RBMKは、PWRが核燃料を燃やしたあとに残ったウランに、低いながらもまだ濃縮度があることを利用して、これを再加工しリサイクルされたウランを使うことを目的とした。この構成では不安定でもあった。
これらの特徴は、1986年4月に、世界の耳目をRBMKに集めた。ウクライナにあるチェルノブイリ発電所にある四基のRBMKのうち一基が、民生用途としては今までで最悪の核事故を起こし爆発したときである。チェルノブイリ禍の後、運転中の全RBMKは重要な改修をうけた。+0.7 b まで正ボイド係数を下げたのである。この新しい係数は、冷却材水位低下によるメルトダウンの可能性を排除する方向に働くよう期待されている。
[編集] 封じ込め
RBMKの設計では、通常の運転に必要な数種類の封じ込めを施していた。通常、摂氏700度にもなる黒鉛から酸素を遠ざけるために、金属性封じ込め構造に原子炉黒鉛を収納し、不活性ガスで満たして密封する。炉心から大量に出る強烈な放射線を吸収する遮蔽もある。底にコンクリートの厚板、側部を囲む砂とコンクリート、上部遮蔽コンクリート盤を含んでいた。原子炉から出てくる水が混ざった蒸気とが出る管を含む、原子炉の内部機械の多くは、この上部遮蔽盤に取り付けられている。
最初、RBMKは、厳しい事故の封じ込めには関せず、単に事故防止と事故緩和に関してだけ集中して設計された。しかし、スリーマイル島原発事故の後、RBMKの設計も、非常事態に対処するために、部分的な封じ込め構造(完全な封じ込め構造ではない)を含むようになった。原子炉の下に張り巡らされたパイプは、大量の水で満たされた密封構造の箱に封入された。もし、これらのパイプが漏れを起こすか破裂するならば、放射性物質はこれらの箱の中の水によってトラップされる。しかし、RBMK炉は、運転しながらの燃料補給と(核兵器用の)プルトニウム生産を可能にするため、シャットダウンなしに燃料棒の交換が可能なようにデザインされていた。そしてこのために、炉心直上に巨大なクレーンを必要とした。RBMK炉は、高さが70メートルもあり、重い封じ込め用建築物を建造するためのコストと難易度は、原子炉上面に伸びるパイプのために更なる封じ込め建築物を建設することを不可能にした。不幸なことに、チェルノブイリ事故では、原子炉上部を吹き飛ばし、蒸気爆発により圧力管の上・下部を破壊し開口部を作るほどの圧力に達した。
[編集] チェルノブイリ事故からの改善
チェルノブイリ事故以来、残りの全RBMK炉は、安全性を向上する為のいくつかのアップデートを受け、改良された。これらのアップデートで最大のものは、RBMK制御棒設計の改良である。以前の設計では、炉の出力を積極的に上げるため、制御棒の下に黒鉛の棒を付けるように設計されていた。これは、炉心中心部が核毒により出力が低下して、事故当時のように炉心上下に出力のピークが分かれていた場合には、単に制御棒が原子炉に挿入された場合、炉の核反応速度を下げるか炉を止めてしまう代わりに出力を上げてしまうような設計だった。この設計上の欠陥は、原子炉を停止するために非常用ボタンを押した時、チェルノブイリ事故の最初の爆発を引き起こしてしまう物だった。
最新版では、以下のように改められている。
- 炉が一番不安定になる低出力域で作動するのを禁止するため、炉心に80体の中性子吸収体を追加した。
- このままでは、燃料が炉内に装荷されている間に生産する熱量が、中性子を吸収体に食われてしまう分があるために改善前より少なくなってしまう。そこで中性子が減る分を、中性子を出す元である燃料中のウラン235量を増やすことで対応することにした。具体的には、核燃料中のU-235濃縮度を2.0パーセントから2.4パーセントへと増強したことである。これにより、炉心内で発生する全中性子のうち、圧力管内を流れる軽水によって中性子が吸収される率が減った。この違いは、炉を安全に制御するために、冷却水流量の調節に依存する割合を減らすことにつながった。
- 手動制御棒の数を30から45へと増やした。
- 緊急シャットダウンであるSCRAMの動作にかかる時間を、以前は18秒掛かっていたのが12秒しか掛からないように減らした。
- 非常安全システムへの未許可のアクセスに対する予防措置をとった。
[編集] RBMK炉の閉鎖
いままで建設された中、チェルノブイリ原発の残りの三機の原子炉は、1号炉が1996年11月、2号炉が1991年10月、3号炉が2000年12月15日に閉鎖されたことで、現在ウクライナ領内で運転中の物は無くなっている。そして、リトアニアのイグナリナ原子力発電所で運転されている2機のRBMK-1500のうち、一号機は2004年12月末日に閉鎖され、二号機は2009年までに閉鎖される事が決定されている。しかし、国内の電力の八割近くを同発電所に頼り、また隣接するカリーニングラードを中心としたロシア連邦領飛び地、ベラルーシ、ポーランドへの売電が貴重な外貨獲得手段となっているという電力事情、閉鎖後の代替発電所をどうするかが未だ決まっていない事などから、リトアニア政府は原子炉を予定していた年月までに閉鎖することは無理だろうと言っている。また、その他の旧ソ連諸国に存在するRMBK炉に関しては、現在のところ閉鎖の計画はない。