かつら (装身具)
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かつら(鬘)とは、人の頭部に被せることで、頭皮を隠したり、髪型を変えたりする目的で用いられる、人工的な髪の毛の類。俗にヅラ(もしくはズラ)とも呼ばれる。
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[編集] 概要
かつらには、実際の人間の髪(人毛)を利用して作られたものや、アクリルやポリエチレンなど化学繊維(人工毛)を利用して作られたもの、またその二つを混合しそれぞれの特徴を活かそうとするものなど様々である。これらの毛髪状材料を、頭に接するベースと呼ばれる部材に植毛している。ベースが頭部を完全に覆うタイプは(旧型で安価なものに多く見られる)装着時に頭部が蒸れる問題があり、国内大手メーカー製品ではベースをネット状にして蒸れを防止している(ただし高価である)。
[編集] 素材
- 人毛
- 薬品処理してから使用するためにキューティクルが失われ自然な感じも薄れるだけでなく、毛髪材料としての強度も弱くなる。雨の日など湿度が大きい環境では湿気を帯びて伸びるので使いづらい。
- 人工毛
- 人毛の欠点を克服するために作り出された毛髪材料。人毛より静電気を帯びやすい欠点はある。国内大手メーカー製品では自然な感じを出すためにその表面処理などに力を注いでいるが、安価な粗悪な製品では表面での光の反射具合などが不自然に感じられる。
- 混合
- 調髪・セットが簡単な特徴がある。人毛が含まれるので耐久性に欠けるが、ベースを頭皮に接着剤で貼付し着脱を不要にしたタイプの製品に使われることが多く、この種の製品は1ヶ月前後で使い捨てするように設計されているので問題とはならない。
近年は、低価格で販売される育毛剤や発毛剤などの台頭により、頭皮がむき出しになっている部分を隠すことを目的とした高額なかつら(リプレースメント)は敬遠され、その需要は落ち込んでいる。需要減少に対処するために国内大手メーカーは、ベースを頭皮に接着剤で貼付し着脱を不要にした新製品などの開発に力を入れている。
[編集] 使用目的
[編集] 装飾品として
過度のストレスや年齢による生理現象、また親の遺伝などを原因とし、頭部の一部分・全体の毛の発育が極端に遅れることによって生じる脱毛症に悩み、あるいは恥と感じている者は数多く存在する。これらの人々には、頭部を隠す目的でかつらが利用される。また医療現場においては、白血病などガン治療のための薬物治療の結果、円形脱毛症様に頭部の髪の毛が抜け落ちてしまった人に用いられる。
こういったかつらの需要は近年落ち込んでおり、その理由としては、
- かつら一つが高価であること(約50万円から100万程度が相場)。これは、購入者一人ひとりの頭部に合致する形のかつらを製作するために、そのほとんど全てを受注生産でまかなっていることが原因である。中国などの海外製品のかつらは一般的に安いと言われているものの、一方で質の悪い製品も多く見られ、着用者の要求を十分に満たすことが難しいともされる。
- 夏場や梅雨期における不便さが上げられる。雨が降るような湿気の多い日などにかつらを着用していると、頭部が極端に蒸れるという現象に見舞われることがあり、そうした場合、一度かつらをその場で外すなどし、頭やかつらなどについた水分を拭くことが必要である。そのまま放置しておくと、頭部に痒みなどをもたらし、またかつら自体を痛ませることにも繋がるためである。しかし、かつらを外すことを許されない、または困難な状況(仕事上重要な相手との面会など)が存在することも事実で、そのような状況では着用者に不便を強いることになる。
- 周囲の人間の対応。長時間着用を続けるものであるため、かつらが後ろや横に多少ずれていても着用者が気づかない場合がある。他人と話しているときなどでは、(相手がそのことに触れても触れなくても)双方の人間関係を気まずくしてしまうことがありうる。
- 低価格の育毛剤・発毛剤の台頭。これらの製品は、購入や使用などに関してかつらよりずっと手軽であることや、使用していることを周囲に気付かれる可能性も低いことなどから人気を集めている。
[編集] 権威の象徴として
昔の西洋の裁判では、裁判官・弁護士などがかつらを着用していた。現在でもイギリスや旧イギリス植民地の諸国の裁判では習慣が残っている。議会でも開会日には全員かつらをつけて登院する。イギリス最高裁判所前には伝統のかつら屋があり、新任裁判官はこのかつら屋でかつらを買い求める。このかつらは馬の毛で作られている。決して洗ってはいけないとされる伝統があり、ベテランの裁判官ほどかつらが汚れている。またかつては、西洋で正装としてかつらが着用されていた時代もあった。バロックから古典派にかけての音楽家の髪型が似ているのは正装としてのかつらを着用しているからである。しかしベートーヴェンは権威を嫌いかつらを着用しなかった。
フランスの宮廷でかつらが流行るようになったのはルイ13世の時代からであった。アン王妃の不貞、友人との絶交など精神的ストレスを抱えていたルイ13世は22歳にして頭髪の禿げがかなり進行しており、かつらを着用することになった。それを見て気まずくなった廷臣達は仕方なく自分達もかつらを被ることとなり、宮廷においてかつらの着用が定着していったのである。
この流行はフランス革命でルイ16世が断頭台の露と消えるまで続き、その期間宮廷では老若男女を問わずかつらと(元々はルイ13世の禿げ隠しのために作られた過度なボリュームの)派手な髪型を用いていた。
[編集] 舞台・ドラマなどに
設定が西洋や中世期である舞台・時代劇といったドラマなどで、俳優が今すぐその地理、時代に合った髪型にすることが不可能である場合や、例え可能であっても日常生活に支障が出たり、いちいちセットするよりもかつらを被った方が生産的な活動ができる場合に用いられる。
『8時だョ!全員集合』などのコントの例では、爆発シーンの後のお笑い芸人・アイドルの頭に巨大なアフロのかつらを被せて、視聴者の笑いを誘うために用いられる場合がある。
[編集] 芸能ニュース
テレビの暴露番組や、その他のバラエティ番組で「あの芸能人はかつらを被っている」などの話のネタとして『かつら』が持ち出されることがある。タモリや堂本光一などは、自分がかつらを被っているタレントではないかという噂を逆に利用して、話のネタとして利用している場合もある。 また、湾岸戦争時カツラの様だと注目を浴びた軍事評論家の江畑謙介の髪型は、その独特の形状から、一時はビートたけしなどに類似したカツラを作成されバラエティ番組でネタにされた。
- 生放送中にオウムがアナウンサーの頭上に飛来しかつらを持ち去るという事件があり、後日ニュース番組中に自らのかつらを取り去り、自らが禿げであることを告白した関西テレビの男性アナウンサー・山本浩之などもいる。ほかに自らかつらを被っていると告白した(正確には「ヘアピースです」と言っている)芸能人には、綾小路きみまろなどがいる。
- コージー冨田は素人時代にかつらを被っていたことを雑誌で告白した。現在はスキンヘッドにしており、物まねの際にかつらを使っている。
- ボクシング小口雅之選手が、試合中に髪の毛がズレるハプニングが発生。かつらを被って試合を行ったことが発覚し、思わぬカミングアウトとなった。
- かつら内部に隠し物ができ、また飲み込んで自殺する恐れもあるということから、拘置所内にはかつらを持ち込むことができない。そのため被告人が逮捕後に拘置所へ向かう際、マスコミに対しスキンヘッドで姿をあらわし、かつらの着用を露呈してしまった例(構造計算書偽造問題のA被告)もある。
- このような、世間のかつらに対する認識をパロディ的に発展させたものとして、「禿げた刑事が、ふだん被っている自分のかつらを相手に投げ飛ばして犯人を逮捕する」という奇想天外な設定の映画『ヅラ刑事』が、2006年にモト冬樹の主演で製作・公開された。
- マンガの「ドラえもん」(テレビとりもち)で大手かつらメーカーアデランスのパロディ「ハゲランス」が登場。しずかちゃんが「そんなのほしくないわ」と激怒していた。
- 上記のことからも「アデランス」を捩ってかつらを装着している人、あるいはかつらそのもののことを「ハゲランス」と呼ぶ者も多く存在する。