ボーイング787
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ボーイング787
ボーイング787 ドリームライナー(Boeing 787 Dreamliner)は、ボーイング社が開発しているボーイング757、ボーイング767、ボーイング777の一部の後継となる次世代中型旅客機である。研究段階では「Y2」、開発段階では「7E7」と呼ばれたが、2005年1月28日(シアトル時間)に型番を「787」とすることが発表された。
目次 |
[編集] 開発の経緯
当初ボーイングは、エアバスのA380に対抗するためにボーイング747の機体を延長した747Xを開発していたが、エアバスが実際にA380の計画実行に入ると、ボーイングは2001年に入って計画を延期してしまった。次に、将来必要な旅客機は音速に近い速度で巡航できる高速機であると考え、2001年の初期からソニック・クルーザーを研究・開発していたが、9月の同時多発テロ後の航空業界の冷え込みの影響もあり、少しでも運航経費を抑えたいという航空会社各社の関心を得ることができなかったため、2003年に計画を中止してしまった。
そこでボーイングは、効率を重視したボーイング767クラスの双発中型旅客機を開発することに計画を変更した。
2004年、ボーイング副社長が来日し、その後に全日本空輸が50機発注したことによって、開発がスタート。その後、日本航空やベトナム航空、コンチネンタル航空など多くの大手航空会社が発注している。
一方、ライバルのエアバスも787に対抗するため、A330に大幅に手を加えたA350を発表し、すでに180機ほどを受注しているが、ボーイングとの熾烈な争いから各航空会社からの支持が得られず設計変更せざるを得ない事態に陥っている。現在のところ787の方が明らかに優勢である。性能ではA350の方が航続距離、旅客数ともに増加しているとされるのだが、ボーイング社は「787は全く新しい旅客機のため(エアバスがA330をリファインしても当機を)超えることはできない」と主張している。
ボーイング、エアバス共に、将来的な航空旅客の増加を予想している点においては共通する。しかしその対処の方法に違いが存在し、それが新型機の開発のコンセプトの違いに影響している。すなわちエアバス側は、ハブ空港間で運用する大型機を開発し、ローカルへは持ち駒豊富な自社の中小機での乗客の振り分けを想定しているのに対し、ボーイング側は、乗客は面倒な乗り換えを好まず、中型機による直近の空港への乗り入れを求めるようになる、とする予想を立てているということである。
原油価格の推移や主要国のCO2削減に伴い、各航空会社がどのような選択をするのか、今後の動向が注目される。
[編集] 日本の協力
三菱重工業は747X計画時の2000年5月にボーイングとの包括提携を実現しており、機体製造に於ける優位性を持っている。すでに1994年には重要部分の日本担当が決定しており、三菱は海外企業として初めて主翼を担当、川崎重工業が主翼と中胴の結合部と中央翼、富士重工業がセンターボックスと主翼フェアリングに内定していた。計画は747Xからソニック・クルーザーを経て787となったが、担当部位の変化はおおむねなく、日本企業の担当比率は合計で35%と過去最大となっており、この35%という数字はボーイング社自身の担当割合と等しい。また、全日空と日航は、ローンチカスタマーチームに加わっている。
機体重量比の半分以上に日本が得意分野とする炭素繊維複合材料(1機あたり炭素繊維複合材料で35t以上、炭素繊維で23t以上)が採用される。世界最大のPAN系炭素繊維メーカーである東レは、ボーイングと一次構造材料向けに2004年から2021年迄の18年間の長期供給契約に調印しており、使用される炭素繊維材料の全量を供給する。
[編集] 特徴
- ボーイング767、あるいはエアバスA300系列の胴体より太い胴体を持ち、客室はエコノミークラスで3-2-3の8アブレストが基本。ただし、3-3-3の9アブレストでも従来の旅客機のエコノミークラスとほぼ同等の座席幅を確保でき、実際に9アブレスト仕様で発注している航空会社はかなり多い。
- 太い胴体のため、床下貨物室にLD3コンテナを2個並列に搭載可能(床下にLD3が並列搭載できないことは、A300やA330と比較した時のボーイング767の重大な欠点であった)。
- 巡航速度はマッハ0.85となり、マッハ0.80のボーイング767、マッハ0.83程度のエアバスA330、A340より長距離路線での所要時間が短縮される。
- 基本型の787-8での航続距離は8,500海里(15,700km)、ロサンゼルスからロンドン、あるいはニューヨークから東京路線をカバーするのに十分であり、東京から南アフリカへノンストップで飛ぶことも可能。
- 同クラスの767と比較すると、燃費は15-20%向上するとされている。また最大旅客数も若干増加している。
- この燃費の向上は、空力改善・複合材(炭素繊維素材)の多用による軽量化・エンジンの燃費の改善・これらの相乗効果によるものだという。ちなみに複合材の使用により、耐腐食性等の問題が解決され、ボーイング777ではコックピットのみへのオプション装備だった加湿器が、初めてキャビンに標準搭載される。
- コックピットは、777のようなLCDを多用したグラスコックピットをさらに進化させたものになり、ヘッドアップディスプレイ(HUD)も機長・副操縦士の両席に付く予定。
- 大型の窓が採用され、乗客は広い視界を楽しむことが出来る。また窓にはシェードがなく、代わりにLCDを使った電子カーテンを使用し、乗客各自が窓の透過光量を調節することになる。
- ただし、LCDによる遮光は太陽の熱をカットする事ができないため、まぶしさは防げても熱さを防ぐことは出来ない。このため、従来のカーテンとの併用、または熱線遮蔽ガラスの採用などによる何らかの対策が必要になるものと思われる。
[編集] 派生型
現在ボーイング787型機は3つの派生型を売り込んでいる。
- 787-3型機:航続距離3,500海里(6,500km)、交通量が多い路線を的にした296座席(2クラス制) 短距離型である。発注しているのは日本航空と全日本空輸のみで、事実上日本国内線専用機となる公算が大きい。初飛行は2008年の予定である。
- 787-8型機:座席数223座席(3クラス制)であり航続距離8,500海里(15,700km)の787型機の基本型である。初飛行は2008年の予定である。
- 787-9型機:胴体延長の座席数259座席(3クラス制)。初飛行の目標は2010年の予定である。[1]
また、機体をさらに大型化した787-10型機の生産を計画しているが、仮に開発が決定されれば、787-10型機は同じボーイングの777-200ERと競合する事となる。
[編集] 仕様
787-10型機の仕様は一部推定値を含み、また787全体も開発が完了していないので、仕様は変更がある可能性がある。
787-3 | 787-8 | 787-9 | 787-10 (推定) |
767-300ER (参考) |
767-400ER (参考) |
777-200ER (参考) |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|
全長 | 56.7m | 56.7m | 62.8m | 69m | 54.9m | 61.4m | 63.7m |
全幅 | 51.8m | 60.0m | 60.0m | 60.0m | 47.6m | 51.9m | 60.9m |
全高 | 16.5m | 16.5m | 16.5m | 16.5m | 15.8m | 16.8m | 18.5m |
胴体最大幅 | 5.74m | 5.74m | 5.74m | 5.74m | 5.03m | 5.03m | 6.19m |
客室最大幅 | 5.46m | 5.46m | 5.46m | 5.46m | 4.70m | 4.70m | 5.86m |
最大離陸重量 | 163,500kg | 216,500kg | 244,940kg | 244,940kg | 186,880kg | 204,120kg | 297,560kg |
座席数 | 296(2クラス) | 223(3クラス) | 259(3クラス) | 約300(3クラス) | 218(3クラス) | 245(3クラス) | 301(3クラス) |
貨物量 | 16トン | 16トン | 16トン | 不明 | 10トン | ||
エンジン | GE GEnx か RR Trent 1000 |
GE GEnx か RR Trent 1000 |
GE GEnx か RR Trent 1000 |
GE GEnx か RR Trent 1000 |
GE CF6-80C2 か P&W PW4062 か RR RB211-524H |
GE CF6-80C2 か P&W PW4062 |
GE GE90-94B か P&W PW4090 か RR Trent 895 |
巡航マッハ数 | マッハ0.85 | マッハ0.85 | マッハ0.85 | マッハ0.85 | マッハ0.80 | マッハ0.80 | マッハ0.84 |
航続距離¹ | 6,500km | 15,700km | 16,300km | 15,700km | 11,306km | 10,454km | 14,316km |
最大巡航高度 | 13,000m | 13,000m | 13,000m | 13,000m | 13,000m | 13,000m | |
最大燃料容量 | 124,700l | 124,700l | 138,700l | 145,685l | 90,770l | 90,770l | 171,160l |
初飛行 | 2008年 | 2008年 | 2010年 | 2013年 | 1986年 | 2000年 | 1997年 |
¹ 最大積載(旅客及び貨物)時
[編集] 受注企業とオプション
日付 | 航空会社 | 初飛行(予定) | 種類 | エンジン | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
787-3 | 787-8 | 787-9 | 型未定 | オプション | ||||
2004年4月26日 | ![]() |
2008年 | 30 | 20 | 50 | ロールスロイス Trent 1000 | ||
2004年6月2日 | ![]() |
2008年 | 2 | 16 | ロールスロイス Trent 1000 | |||
2004年7月7日 | ![]() |
2009年 | 6 | 6 | GE GEnx | |||
2004年7月7日 | ![]() |
2009年 | 4 | 2 | ||||
2004年10月21日 | ![]() |
2010年 | 20 | 15 | ||||
2004年10月22日 | ![]() |
2008年 | 13 | 17 | 20 | GEnx | ||
2004年12月29日 | ![]() |
2009年 | 10 | 10 | GEnx | |||
2004年12月31日 | ![]() |
2010年 | 4 | 11 | ||||
2005年1月28日 | ![]() |
2008年 | 15 | ロールスロイス Trent 1000 | ||||
2005年1月28日 | ![]() |
2008年 | 15 | |||||
2005年1月28日 | ![]() |
2008年 | 10 | |||||
2005年1月28日 | ![]() |
2008年 | 8 | |||||
2005年1月28日 | ![]() |
2008年 | 9 | |||||
2005年1月28日 | ![]() |
2008年 | 3 | |||||
2005年2月4日 | ![]() |
2008年 | 5 | 5 | ||||
2005年2月25日 | ![]() |
2010年 | 2 | 5 | ||||
2005年4月11日 | ![]() |
2010年 | 10 | 10 | ||||
2005年4月25日 | ![]() |
2010年 | 14 | 46 | GEnx | |||
2005年4月26日 | ![]() |
2008年 | 20 | 7 | GEnx | |||
2005年5月5日 | ![]() |
2008年 | 18 | 50 | GEnx | |||
2005年5月31日 | ![]() |
2008年 | 5 | -5 | ||||
2005年7月31日 | ![]() |
2008年 | 4 | 1 | GEnx | |||
2005年9月7日 | ![]() |
2008年 | 7 | 2 | ロールスロイス Trent 1000 | |||
2005年9月16日 | ![]() |
2011年 | 10 | |||||
2005年10月13日 | ![]() |
2010年 | 20 | 4 | ||||
2005年10月25日 | ![]() |
2008年 | 2 | ロールスロイス Trent 1000 | ||||
2005年12月13日 | ![]() |
2009年 | 18 | 17 | 20 | |||
2005年12月13日 | ![]() |
2008年 | 10 | |||||
2005年12月19日 | ![]() |
2008年 | 10 | |||||
2005年12月30日 | ![]() |
2008年 | 7 | -7 | GEnx | |||
2005年12月31日 | ![]() |
2009年 | 5 | 3 | ||||
2006年3月3日 | 不明 | ? | 1 | |||||
2006年3月6日 | ![]() |
2010年 | 6 | 6 | ||||
2006年4月5日 | ![]() |
2012年 | 2 | -2 | ロールスロイス Trent 1000 | |||
2006年4月25日 | ![]() |
2011年 | 5 | 3 | ||||
2006年5月11日 | ![]() |
2010年 | -4 | 4 | ロールスロイス Trent 1000 | |||
2006年6月6日 | ![]() |
2009年 | 10 | GEnx | ||||
2006年6月14日 | ![]() |
2011年 | 20 | 20 | ||||
2006年6月16日 | ![]() |
-3 | ||||||
2006年7月6日 | ![]() |
-20 | -15 | |||||
2006年7月18日 | ![]() |
-4† | -2† | |||||
2006年7月18日 | ![]() |
2009年 | 6† | ロールスロイス Trent 1000 | ||||
2006年7月19日 | ![]() |
2012年 | 2 | -2 | ||||
2006年7月28日 | ![]() |
2 | ||||||
2006年7月28日 | 不明 | 2 | ||||||
2006年8月 | ![]() |
1 | ||||||
2006年8月 | ![]() |
2 | ||||||
2006年8月18日 | ![]() |
2010年 | 6 | |||||
合計 | 417 | 325 |
†Blue Panoramaの注文分はPegasus Aviation Leasing Companyに変更されました。
[編集] 外部リンク
- DREAM LINER
- ボーイング社の型番変更の発表文(英語)
- ストレッチ型787の開発へ(2006.1.11)
- 787ストレッチ型の開発決断(2006.3.29)
- ボーイングの鼻息(2006.3.30)
- 天馬空をゆくか(2006.4.24)
- JAL ボーイング787
|
---|
レシプロ旅客機:40A | 80 | 221 | 247 | 307 | 314 | 377 |
ジェット旅客機:367-80 | 707/720 | 717 | 727 | 737 | 747 | 747-400 | 747-8 | 757 | 767 | 777 | 787 |
構想・開発中止:2707 | 7J7 | NLA | ソニック・クルーザー | Y1 | Y3 |