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マグダラのマリア - Wikipedia

マグダラのマリア

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

マグダラのマリア新約聖書福音書に登場するイエスに従った女性である。マリヤ・マグダレナとも転写される。

キリスト教の主要教派(カトリック教会東方正教会聖公会等)ではいずれも聖人に列せられている。西方教会での記念日(聖名祝日)は7月22日である。東方正教会では、固有の記憶日に加え、復活祭後第二主日を「携香女(けいこうじょ)の主日」として他の聖人とともにマグダラのマリアを記憶する。

マグダラのマリアは、イエスの死と復活を見届ける証人であるとともに、「悔悛した罪の女」として多くの伝説に色どられ、永く人々を魅了してきた。 しかし近年になってその地位の見直しが急速に進んでいる。 「罪の女」の項目も参照のこと。

マグダラのマリア (19世紀)
マグダラのマリア (19世紀)

目次

[編集] 福音書中の聖女

[編集] 四福音書中の記述

マグダラのマリアについて四福音書がはっきり語っているのは、悪霊に憑かれた病をイエスによって癒され、磔にされたイエスを遠くから見守り、その埋葬を見届けたこと。そして、復活したイエスに最初に立ち会った一人とされる。『マタイによる福音書』などによれば、彼女は復活の訪れを弟子(使徒)たちに告げるため遣わされた。このため彼女は初期キリスト教父たちから「使徒たちへの使徒」(the Apostle to the Apostles)と呼ばれた。

マグダラのマリアともう一人のマリアは、安息日が終わって、週の初めの日の明け方にイエスの納められている墓に向かった。その時、大地震が起こり、墓の入り口を塞いでいた大きな石が転がり、墓の入り口が開いた。マタイによる福音書によると、それは天使の仕業であり、 墓の中にはイエスの遺体はなく、天使にイエスの復活を告げ知らされた婦人たちは

『恐れながらも大いに喜び、急いで墓を立ち去り、弟子たちに知らせるために走って行った。』(マタイによる福音書28章8節 新共同訳による)

しばらくしていつの間にかマグダラのマリアのそばには復活したイエスがついていたが、最初、彼女はそれがイエスだとは気づかなかった。「マリア」と呼びかけられてやっと、彼女はそうと気づいた。

『彼女は振り向いて、ヘブライ語で、「ラボニ」と言った。「先生」という意味である。』ヨハネによる福音書20章16節 新共同訳による)

そこで、イエスは自分に触れようとするマグダラのマリアに、父である神のもとへ上る前であるため、触れないようにと言われた。(Noli me tangere)(ヨハネによる福音書20章17節 新共同訳による)

また、他の弟子たちにイエスの復活を告げ知らせるようにと言われたのである。

[編集] 外典の記述

20世紀になって、『(マグダラの)マリアによる福音書』(断片のみ)、ナグ・ハマディ写本からは『トマスによる福音書』、『フィリポによる福音書』などが発見された。

これら外典の中にマグダラのマリアは、イエスとの親密な様子のみならず、男性たちと並ぶイエスの弟子として現れる。 これら最新の聖書研究はイエス宣教の旅での女性たちの役割や、マグダラのマリアの地位を見直させることとなった。

外典の記述については外部リンクを参照されたい。

[編集] 伝説

[編集] 伝説の概略

マグダラのマリアは古来より東方西方いずれの教会でも崇拝されてきたが、カトリックでは特有の多くの伝説で色どられている。四福音書の中にはマグダラのマリアと特定されていない女性が何人が登場する。その中のベタニアのマリア (マルタの妹)などがマグダラのマリアと同一視され、イエスの足に涙を落し、自らの髪で拭い、香油を塗ったとされる。それゆえ図像ではアラバスターの香油壺を手にする姿が代表的。

伝説中のマグダラのマリア、たとえばヤコブス・デ・ウォラギネの『黄金伝説』(Golden_Legend)などによれば、マグダラのマリアは金持ちの出自であって、その美貌と富ゆえに快楽に溺れ、後にイエスに出会い悔悛したという。娼婦をも意味する「罪の女」(the Sinner)との異名を与えられたり、ルネサンス以降「マグダラのマリアの悔悛」(The Penitent Mary Magdalene)を主題とする絵画、彫刻が多く制作される。このイメージはカトリック教会の作為が関与していると指摘されている。罪の女の項目を参照のこと。

イエス昇天後、兄弟ラザロマルタ (マリアの姉)らとともに南仏マルセイユ(あるいはサント=マリー=ド=ラ=メール)に着き、晩年はサント=ボームの洞窟で隠修生活を送ったのちにその一生を終え、遺骸はいったんエクス=アン=プロヴァンス郊外のサン=マクシマン=ラ=サント=ボーム(fr:Saint-Maximin-la-Sainte-Baume)に葬られたと信じられた。ヴェズレーのサント=マドレーヌ大聖堂はその遺骸(頭蓋骨)を移葬したものと主張している。しかし、サン=マクシマン側はいまも遺骸を保持していると主張しており、一部はパリマドレーヌ寺院にも分骨されている

上記カトリックの伝説はマグダラのマリアとベタニアのマリア(マルタの妹)とを同一人物としている。 いっぽう東方正教会などの伝統は、ベタニアのマリアは別人としており、マグダラのマリアは晩年にイエスの母マリア使徒ヨハネとともにエフェソに暮らしてそこで没し、後にコンスタンティノポリス(現イスタンブール)に移葬されたと信じられている。

[編集] 名前の由来

ガリラヤ湖沿いの町マグダラの出身であるために「マグダラのマリア」と呼ばれたとするのが通説である。 しかし、これには疑問も持たれている。

  1. ルカによる福音書』では「マグダレネと呼ばれるマリア」(8:2)とだけあり、出身地に言及していない。[1]
  2. カトリック教会はベタニアに住むマリアと同一人物と教えていたことがあった。
  3. マグダラという地名は『マタイによる福音書』(15:39)に登場する[2]。しかし、2、3の候補地はあるものの、その位置は確定されていない。
  • 上記2の問題については、ウァラギネの『黄金伝説』が答えている。すなわち、当のマリアはベタニアに住み、親から譲り受けたマグダラの土地の領主であった。
  • 「ヘアー・ドレッサー」を意味するヘブル語「メガデラ・ネシャヤ」から来ており、これは身持の悪い女を暗喩すると、17世紀にJohn Lightfootが唱えた。[3] (Yeshuのben-Stadaの項参照)
  • 「塔」を意味するアラム語「ミグダル」あるいはギリシア語「マガダン」に由来し、彼女の揺るがぬ堅い信仰のゆえに名付けられたと、4-5世紀の神学者ヒエロニムスは示唆した。

名前の由来ひとつ取っても、彼女のイメージがさまざまであったことが分かる。

[編集] 娼婦だったか?

『ルカによる福音書』が紹介するものは次のものだけである(ルカ8:1-3, 23:55)。 彼女の出自についてそれ以上のことは、いずれにせよ後世の想像にすぎない。

  • イエスに七つの悪霊を追い出していただいた
  • マグダレネと呼ばれるマリア
  • そのほか多くの婦人たちと一緒に
  • 自分の持ち物を出し合って
  • 一行に奉仕していた
  • ガリラヤから付き従ってきた


カトリック教会では一時期、『ルカによる福音書』(7:36-50)に登場する「罪深い女」と同一人物とされた。(『罪の女』の項参照) この女性がどんな罪を犯していたのかは記載されていないが、性的不品行と説明されてきたようである。 それが娼婦と理解されていたかもしれない。 彼女は(悔悛した)娼婦の守護聖人でもある。

いっぽうでカトリック信仰の強い国々を中心に、娘を名付けるにあたってこの聖女の名が好んで使われており、彼女が娼婦の出身であると広く信じられていたわけではなさそうである。 諸文学で彼女の娼婦的な過去を扱うものが多いが、職業的娼婦であったとするものは、あまり見受けられない。 しかし、キリストを描いた映画の多くが、彼女がかつて娼婦であったとの設定で登場させている。 [4]

[編集] イエスと結婚していた?

さきの『最後の誘惑』で十字架上のイエスがマグダラのマリアとの結婚生活を夢想する。 1982年英国で刊行されたノンフィクション Holy Blood, Holy Grail (邦題『レンヌ=ル=シャトーの謎』)で著者らは、イエスとマグダラのマリアが結婚しており、子供を設けたという仮説を示した。マーガレット・スターバードもこれに追随し、1993年『マグダラのマリアと聖杯』で、イエスとの間の娘をサラとした。2003年の小説『ダ・ヴィンチ・コード』がそれをストーリー中に使っている。

これも想像の世界でしかない。史的イエスすら構築が難しい中ではまだ、まじめな研究対象とはなっていない。 問題は、過去にそういうことが信じられてきたかどうかにある。 結婚していたとする論では、そのことは伏せられてきて、あちこちに暗喩や象徴の形で残っていると主張する。 暗喩ではなんとも言えないが、唯一明示的なものに、2-3世紀ごろの著作と見られる『フィリポによる福音書』の記述がある。 [5]

第2バチカン公会議を受けて1969年にカトリック教会がマグダラのマリアを「罪深い女」から区別するなど、その地位の見直しが始まった。 20世紀の半ばに、異端の書としてこれまで姿を消していた書物がナグ・ハマディ写本の発見など、その姿を現してきた。 これも契機になっているであろう。 しかし、娼婦でなければ妻とするのは「同じ見方の裏と表」と、エレーヌ・ペイゲルス(Elaine Pagels)は指摘する。 ペイゲルスによれば、「男たちは、マグダラのマリアがイエスの弟子でも、リーダーでもなく、性的な役割だけを与えようとして、このようなファンタジーを作っているのではないかとさえ思える」と。 [6]

[編集] 宗教美術中の聖女

  • イエス受難、すなわち「十字架の道行き」、「磔刑」、「降架」、「ピエタ」、「埋葬」の各場面で聖女マグダラのマリアは欠かせない存在である。
これらにおいては聖母マリアがイエスの頭部に近い位置を占め、マグダラのマリアはイエスの足もと近くに配置される。
磔刑図では十字架の直下におり、登場人物中マグダラのマリアが最もイエスに近い。
聖母が紺色の衣装を着ているのに対し、マグダラのマリアは朱色の衣装で、豊かな金髪を見せ、大きな身振りで激情をあらわにしていることが多い。
  • イエスの復活の場面ではマグダラのマリアがヒロインである。イエスと彼女の独壇場となる、好んで描かれる主題に「ノリ・メ・タンゲレ 我に触れるな」(Noli me tangere)がある。復活したイエスに彼女が気付き、すがろうとするのをイエスが制止する言葉(ヨハネ20:17)である。
  • 聖人たちの群像を描く「聖会話」では他の聖女の中からそれと分かるように、マグダラのマリアはトレードマーク(アトリビュート Attribute)の香油壺を手にするのが普通である。幼子イエスを抱く聖母マリアを中心とする「聖母子と聖会話」で、無くてはならないのは洗礼者ヨハネだが、それに次いでマグダラのマリアもよく登場する。
  • マグダラのマリアだけを主人公とする主題は、とくにルネサンス以降の西欧を中心に「マグダラのマリアの悔悛」が多数制作される。晩年の隠修生活を描いたものではキリスト教の聖女の中では唯一肌の露出が多く、ときに裸身で描かれる。隠修生活中でしばしば天国に昇り、天使の歌声を聞いていたとして、「マグダラのマリアの昇天」が描かれる。

[編集] 最後の晩餐

小説『ダ・ヴィンチ・コード』にはレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』でキリストの右隣には女性らしき人が座っており、マグダラのマリアである、とする説が紹介されている。

ふつう使徒ヨハネと解釈されてきたこの人物を髭の無い青年もしくは女性的に描き、金髪で衣装もマグダラのマリアと同じ朱色とするのはダ・ヴィンチに始まらず、以前からの伝統である。 話題の最後の晩餐の絵にはキリストと12人が描かれているので、件の人物が使徒ヨハネとして描かれたことは確実である。

この絵は『ヨハネによる福音書』をもとに描かれている。同福音書には、イエスの愛しておられた弟子がイエスの胸もとに寄りかかっていたと書かれている(13:23-26)。 この弟子は伝統的に使徒ヨハネであるとされていた。 しかし、この「イエスの愛しておられた弟子」(この表現は別の箇所にも見られる)が他の人物で、あるいはマグダラのマリアではないかとの説は、ダ・ヴィンチの絵にかかわらず、以前からある。

[編集] 聖女に因む名前

  • 聖女マグダラのマリアに因んで女の子にその名が付けられることも多い。したがって同名の別人も多い。英語では 「メアリ・マグダレーン」(Mary Magdalene)。映画にもなったジューン・ゴールディング著『マグダレンの祈り』は聖女の名を冠する修道院を舞台とする。
  • 愛称は「マルレーン」もしくは「マレーネ」(Marlene)。マレーネ・ディートリッヒもこの名前である。イタリア映画『マレーナ』(Malena)もこの名前を持つ、美しくも運命に翻弄されるヒロインを描き、モニカ・ベルッチがその役を演じた。イタリア語では「マリア・マッダレーナ」(Maria Maddalena)。 ちなみにモニカ・ベルッチは映画『パッション』でもマグダラのマリア役を演じている。
  • ノルウェーの女性シンガーソングライター、レネ・マーリン(Lene Marlin Pedersen)もこの名前。すなわちレネもその愛称。彼女のデビュー・シングル『Unforgivable Sinner』(邦題:天使のように...)のSinnerは聖女の異名「罪の女]を意味する。
  • 聖女の名は教会だけでなく教育機関などにも冠されることが多い。また地名も多くある。

[編集] 関連項目

[編集] 注釈

  1. ^ 新共同訳では「マグダラの女と呼ばれるマリア」と訳されているが、これはマグダラ出身の女と解釈した上での翻訳。
  2. ^ 新共同訳では「マガダン地方」
  3. ^ もともとはユダヤ教の文書タルムードの中で、イエスの母マリアについて使われていたもの(Sanhedrin 67a and Chagigah 4b of the Babylonian Talmud)をJohn Lightfootが発見した。 Catholic Encyclopediaもこの説を紹介している。
  4. ^ いずれもアメリカ映画。
    • サイモン・コックスによる『ダ・ヴィンチ・コードの謎』(2004年)では、研究者リン・ピクネット女史によるとマグダラのマリアはエジプト人かエチオピア人であり、ブラックウーマンだった可能性があるという。
  5. ^ この中でマグダラのマリアが2カ所で触れられており、1カ所では「イエスの伴侶」と紹介されている。

    三人の者がいつも主と共に歩んでいた。それは彼の母マリアと彼女の姉妹と彼の伴侶と呼ばれていたマグダレーネーであった。

    もう1カ所では、弟子たちすべてよりイエスが彼女を愛しているのを見て、弟子たちはその理由を求める。

    主は、マグダラのマリアをすべての弟子たちよりも愛していた。そして、主は彼女の口にしばしば接吻した。他の弟子達は、主がマリアを愛しているのを見た。彼らは主に言った。「あなたはなぜ、私たちすべてよりも彼女を愛されるのですか?」救い主は答えた。「なぜ、私は君たちを彼女のように愛せないのだろうか」(「フィリポによる福音書」、『ナグ・ハマディ文書』、荒井献、岩波書店より引用)

    正式な夫婦と認められていたとすれば、弟子たちの問いはやや妙である。

  6. ^ There’s something about Mary, April 11, 2006, Minesota Women's Press

[編集] 関連書籍

  •  岡田 温司、『マグダラのマリア―エロスとアガペーの聖女』、中公新書、中央公論新社、2005年、 ISBN 4121017811
  • マーガレット・スターバード、『マグダラのマリアと聖杯』、英知出版、2005年、 ISBN 4754220404

[編集] 外部リンク

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