丹沢
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
犬越路から望む西丹沢の山々
蛭ヶ岳から望む西丹沢の山々
|
丹沢(たんざわ)は神奈川県北西部に広がる山地。東西約40キロメートル、南北約20キロメートルに及び、神奈川県の面積の約6分の1を占める。秩父山地等と合わせて関東山地とも呼ばれる。丹沢の大部分は山岳公園として丹沢大山国定公園と県立丹沢大山自然公園に指定されている。
目次 |
[編集] 地理
最高峰の蛭ヶ岳でも標高1673mと山の標高は中級山岳程度であるが、無数の尾根と谷沢が成す地形の複雑さにかけては中部脊梁の山脈である飛騨山脈(北アルプス)にも劣らない。登山口からの標高差が大きい山が多く(最も一般的な大倉尾根は標高差1200m)、地形が非常に複雑なこと、東京都心部から行きやすく、登山者が多いことなどから、遭難や遭難しかけた者も多い。過去には谷川岳に匹敵する遭難者数が発生した年もある。
壮年期の山であるが、震災により大量のガレが発生した結果、玄倉川(くろくらがわ)の上流は不相応に立派な河原を持つ。無数の尾根の内、津久井青野原から焼山、黍殻山、姫次、蛭ヶ岳、丹沢山を経て塔ノ岳 (1491m) に至る尾根を主脈(丹沢主脈)、蛭ヶ岳から西に向かい、臼ヶ岳、檜洞丸、犬越路を経て大室山 (1588m) に至る尾根を主稜(丹沢主稜)と称する。大室山は山梨・神奈川県境上に位置する。甲相国境尾根は、東は山梨県道志村の月夜野地区、西は三国山までのことを言い、その尾根は篭坂峠に延びる。
塔ノ岳から南東に向かってヤビツ峠に至る尾根は表尾根と称され、南に下る大倉尾根と共に、小田急線開通以来、手軽な登山コースとして親しまれている。又、神奈川県相模原市(旧津久井町)の青野原地区から主脈を登り、袖平山から神ノ川(かんのがわ)に下り、犬越路を越え、中川を下り、大滝沢から畦ヶ丸に登り、甲相国境尾根を下って山中湖畔に至る経路が東海自然歩道として整備されている。 なお、ヤビツ峠の東側に聳える大山 (1252m) を丹沢に含めることも多い。
大別すると中央部の蛭ヶ岳を境に、交通アクセス便利で開けている東丹沢、山深く交通アクセスのやや不便な西丹沢の2つに区分される。また、塔ノ岳以南を表丹沢や南丹沢、丹沢主稜以北を北丹沢や裏丹沢と呼ぶこともある。
丹沢の北東部に宮ヶ瀬湖(宮ヶ瀬ダム)、南西部に丹沢湖(三保ダム)がある。
[編集] 交通
一般的には、新宿駅より約1時間で着く小田急小田原線の本厚木駅・秦野駅・渋沢駅・新松田駅(JR東海御殿場線松田駅)が起点となる。本厚木駅からは1時間に1,2本の割合で宮ヶ瀬へのバス便が出ており、途中の煤ヶ谷(すすがや)・仏果山登山口・三叉路バス停などが主な登山口となる。秦野駅からはヤビツ峠へのバスが出ているが、便数が1日2~5往復と少ない為、途中の蓑毛バス停から徒歩で柏木林道を登る人も多い。渋沢駅からは大倉へのバスが、新松田駅からは西丹沢へのバスが出ている。山中湖へは、静岡県側はJR御殿場線御殿場駅、山梨県側は富士急行線富士吉田駅からそれぞれバスが出ている。
自家用車は、ヤビツ峠へは普通に通行でき、その先の富士見橋で左折すると広い駐車場がある菩提峠まで入れる。ヤビツ峠に登る途中で分岐する表丹沢林道にはゲートがある。富士見橋を直進すると札掛を経て宮ヶ瀬に至るが、途中で分岐する唐沢林道と本谷林道にはゲートがある。この本谷林道のゲートから400m程進むと塩水林道が分岐する。水無川左岸の市道52号(通称戸川林道)は戸沢出合まで車で入れる。戸沢出合から天神尾根か政次郎尾根を登るのが塔ノ岳への最短コースとなる。
西山林道(四十八瀬川左岸)は二俣まで車で入れるが、入口が非常に分かりづらく、未舗装の悪路である。四十八瀬川右岸の道は舗装されていて、県民の森まで車で入れる。寄(やどりぎ)方面は秦野峠林道の分岐まで入れる。秦野峠林道は両端にゲートがある。三保ダムから中川白石谷方面は用木沢出合まで車で入れるが、東の玄倉林道は小川谷出合の先、西の世附林道は大又沢の手前にゲートがある。従って、地蔵平方面や水ノ木方面へは林道を歩く必要がある。
[編集] 歴史
丹沢は古来より信仰の山として知られ、山伏など修験者の修業の場でもあった。山岳や地名には仏果山、経ヶ岳、華厳山、行者ヶ岳、尊仏山(塔ノ岳)、薬師岳(蛭ヶ岳)、菩提、法輪堂(おろんど)など、信仰にちなんだ名前が数多くある。
奈良時代、僧良弁により開山されたといわれる丹沢のシンボル的存在の大山(古くは雨降山ともいった)は、関八州の雨乞いの霊場であり、山頂に大山阿夫利神社(おおやまあふりじんじゃ)、中腹に雨降山大山寺(別名 大山不動尊)、麓周辺に日向薬師(ひなたやくし)がある。
江戸時代には信仰の対象としての大山参りが大変盛んで、記録によると大山参りのための大山講が江戸を中心に各地に組織され、登山ができたのは夏場の短期間かつ許可が必要だったにもかかわらず、一夏に10万人近くもの参拝客があったという。大山は山頂からの眺望が良く、比較的手軽に登れるため現在も人気があり、登山口である表参道には多くの宿坊と土産物屋が軒を連ねている。
現在、丹沢は首都圏近郊の山地として、年間30万人以上の登山者、100万人以上の観光客が訪れる。登山、ハイキング、沢登り、渓流釣り、キャンプ、温泉(飯山温泉・鶴巻温泉等)等々、レジャーや保養レクリエーションのエリアとして賑っている。
[編集] 丹沢の生い立ち
丹沢を構成する岩体の多くは南の海で1700~1200万年前に活発だった海底火山の噴出物からできており、1000万年前にはこの岩体の中心に上昇してきたマグマが貫入し、少しずつ冷えて固まり西丹沢の多くを構成する石英閃緑岩体などとなった。また、このマグマの貫入により岩体が大きく盛り上がり、太平洋に浮かぶ火山島(火山島といっても海上に少し頭を出すくらいの島であった)となった。この火山島が載っていたフィリピン海プレートが徐々に北上し、500万年前には日本列島と衝突して本州と一体化した。その後、追うように北上してきた伊豆半島の岩体が100~70万年前にかけて本州と衝突、この圧力によって丹沢の岩体が隆起し、山地が形成された。
現在でも徐々に隆起を続けている。1923年の関東地震(関東大震災)やその余震の丹沢地震 (M 7.3) では1m前後の隆起や沈降が起き、山肌も崩壊し荒廃した。
[編集] 特徴的な山名
丹沢の山名を形で分類すると、△△岳、△△山、△△ノ峰、△△丸、△△ノ頭、他、分類に当てはまらない雑多なものとなる。この内、△△岳、△△山、△△ノ峰は山名として普通のものである。△△丸は、檜洞丸、畦ヶ丸、大丸,小丸(鍋割山の東方)他の例がある。△△ノ頭は、一般的に沢源頭の固有の名称を持たない峰を沢の名を借りて呼ぶ。(本間ノ頭→本間沢からなど)
分類に当てはまらない雑多なものを拾うと、表尾根の岳ノ台、二ノ塔、三ノ塔、新大日、木ノ又大日。大倉尾根の花立。塔ノ岳から北に日高(ひったか)、竜ヶ馬場(りゅうがばんば)。檜洞丸の北西に大笄(おおこうげ)、小笄(ここうげ)。姫次(ひめつぐ)から西に袖平(そでひら)、風巻(かざまき)。大山三峰山の北に鍋嵐(なべわらし)。鍋割山の南に栗ノ木洞(くりのきどう)。栗ノ木洞から西に谷を渡り檜岳(ひのきだっか)。岳をダッカと読む例は丹沢において檜岳の他にない。又、檜洞丸(ひのきぼらまる)については、由来の異なる別名、檜洞(ひのきどう)と法螺丸(ほらまる)とが混合した結果だという説がある。
[編集] 頭の濫用
△△ノ頭(- のあたま)という命名は、本来、固有の名称を持たない峰を呼ぶ為に沢の名を借りるものであったが、最近は、花立ノ頭、新大日ノ頭、御殿森ノ頭、風巻ノ頭等といった濫用も目に付く。中でも、御殿森ノ頭や風巻ノ頭は昭文社の登山地図にも載り、既に定着しているとも言える。
[編集] 八丁坂ノ頭
八丁坂ノ頭(袖平と黍殻山の間)の八丁坂は、釜立沢左岸の尾根、胸突き八丁の急坂のことである。無論、八丁という距離に厳密な意味は無い。尾根の名を以って△△ノ頭という例は、奥多摩長沢背稜の梯子坂ノ頭やタワ尾根ノ頭がある。
[編集] 自然
[編集] 生態系
丹沢は太平洋側の低い山であるが、標高800m以上ではブナやミズナラを中心にした落葉広葉樹林が多く見られる。5月中旬から6月上旬にかけてはシロヤシオやトウゴクミツバツツジの見頃となり、特に檜洞丸は登山者で賑わう。8月下旬から9月上旬にかけて、ごく一部の地域に丹沢固有種のサガミジョウロウホトトギスが咲くが、盗掘によって個体数が少なくなっている。
哺乳類は主にニホンジカ、ニホンザル、イノシシ、タヌキ、キツネ、カモシカ、ツキノワグマなどが生息している。特にニホンジカの数が増加(#環境問題を参照)しており駆除が必要とされているが、一方でツキノワグマは丹沢山地全域で30頭前後しか生息しておらず、絶滅の恐れもある。
[編集] 環境問題
現在深刻化となっているのは尾根筋の森林の立ち枯れで、丹沢山から蛭ヶ岳にかけての稜線上や竜ヶ馬場付近では顕著に見られる。この原因は定かではないが、丹沢が都心に近い事から、自動車の排気ガスから来る光化学オキシダント等の原因が考えられている。
その他にシカの食害問題がある。昭和20年代後半には、狩猟の解禁により丹沢のシカは絶滅寸前となったが、その後保護のため15年間禁猟された事と、戦後の造林事業により広葉樹林が伐採された結果、一時的に背が低い草地が出現しシカに多量の植物を供給した事によって今日では3000頭近くまで増加してしまった。丹沢の稜線上では、シカの食害防止柵をいたるところに設置して植生保護がされているほか、草の少ない時期には木の皮までも食べるため、幹にネットを張り保護されている木まである。またヤマビルがシカに付着して行動範囲を広め、現在問題となっている東丹沢のヒル増加の一因となった。現在でこそヒルの被害が出ているのは東丹沢の宮ヶ瀬湖周辺や表丹沢のみであるが、今後はさらに範囲が広まると予想されている。
[編集] 主要な山
[編集] 仏果連山
[編集] 大山周辺
[編集] 表尾根
[編集] 鍋割・檜岳山稜
[編集] 丹沢主脈
- 塔ノ岳 (1491m)
- 日高 (1461m)
- 竜ヶ馬場 (1504m)
- 丹沢山 (1567m)
- 不動ノ峰 (1614m)
- 棚沢ノ頭 (1590m)
- 鬼ヶ岩ノ頭 (1608m)
- 蛭ヶ岳 (1673m)
- 姫次 (1433m)
- 袖平山 (1432m)
- 黍殻山 (1273m)
- 焼山 (1060m)
[編集] 丹沢三峰
[編集] 丹沢主稜
[編集] 石棚・同角山稜
- テシロノ頭 (1491m)
- 石棚山 (1351m)
- 同角ノ頭 (1491m)
- 石小屋ノ頭 (1254m)
- 大石山 (1220m)
[編集] 甲相国境尾根
- 大室山 (1588m)
- 加入道山 (1418m)
- 畦ヶ丸 (1293m)
- 大界木山 (1246m)
- 城ヶ尾山 (1199m)
- 菰釣山 (1379m)
- 石保土山 (1297m)
- 大棚ノ頭 (1269m)
- 高指山 (1174m)
- 明神山 (1291m)
- 三国山 (1343m)
[編集] 丹沢湖 周辺
[編集] 丹沢を舞台とする作品
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
カテゴリ: 改名提案 | 日本の山地 | 神奈川県の自然景勝地 | 丹沢の山