原シナイ文字から派生した文字体系

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原シナイ文字から派生した文字体系のインドから東アジアへの伝播。なお、図中の「ネパーリ文字」はネパール語の文字体系ではない。また、悉曇文字の伝播は中国や日本で発達した表記体系とは関係ない。

地球上で使われている音素文字 (「アルファベット」と呼ばれることがあるが、厳密な用語法は下記参照) の大多数は、原シナイ文字から派生したものである。ラテン文字 (今日、多数の言語で表記に使っている)、類縁のヘブライ文字、アラビア文字、いわゆるルーン文字 (ゲルマン人のルーン文字とマジャル人のロヴァーシュ文字)、エチオピア文字 (ゲエズ文字)、インドの文字体系であるデーヴァナーガリー、フィリピンやインドネシアの伝統的な文字体系などがある。クリー語のカナダ先住民文字もおそらくそうである。チェロキー文字のように、こういった文字体系の外見をまねて作られたが音節を表記する体系もある。

原シナイ文字から派生したのではない音素文字体系としては、オル・チキ文字(en)、注音符号、メロエ文字等を挙げることができる。

青銅器時代中期の音素文字で最初のものは、エジプトヒエログリフから生じた。メロエ文字は、おそらく独立した音素文字体系としては最初のものだが、やはりエジプトヒエログリフから生じたものなので、原シナイ文字の系統と類縁かもしれない。

[編集] 系統

• 0. ワディ・エル・ホル文字(en)から原シナイ文字まで - 紀元前2000年頃 (エジプト)
  • 1. ウガリト文字 [アブジャド] - 紀元前1200年頃 (シリア)
  • 2. 原カナン文字(en) [アブジャド] - 紀元前1200年頃 (イスラエル)
    • 2.1. フェニキア語や古代ヘブライ語のフェニキア文字 [アブジャド] - 紀元前1000年頃 (レバノン、イスラエル)
      • 2.1.1. アラム文字 [アブジャド] - 紀元前900年頃 (シリア)
        • 2.1.1.1. ブラフミー文字(en) [アブギダ] - 紀元前600年頃 (インド、スリランカ)
          • 2.1.1.1.1. チャム文字(en) [アブギダ] - 紀元後200年頃 (ベトナム、カンボディア) *
          • 2.1.1.1.2. グプタ文字(en) [アブギダ] - 紀元後400年頃 (インド北部)
            • 2.1.1.1.2.1. 悉曇文字(en) [アブギダ] - 600年頃 (インド北部) *
              • 2.1.1.1.2.1.1 チベット文字 [アブギダ] - 650年頃 (チベット) *
                • 2.1.1.1.2.1.1.1 パスパ文字 [アブギダ] - 1269 (モンゴル)
                • 2.1.1.1.2.1.1.2 レプチャ文字(en) [アブギダ] - 1700年頃 (ブータン) *
                  • 2.1.1.1.2.1.1.2.1 リンブー文字(en) [アブギダ] - 1740年頃 (シッキム) *
            • 2.1.1.1.2.2. ナーガリー文字 [アブギダ] - 750年頃 (インド)
              • 2.1.1.1.2.2.1. ベンガル文字 [アブギダ] - 1050年頃 (インド東部、バングラディシュ) *
                • 2.1.1.1.2.2.1.1. オリヤー文字 [アブギダ] - 1100年頃 (インド東部) *
              • 2.1.1.1.2.2.2. デーヴァナーガリー [アブギダ] - 1100年頃 (インド) *
                • 2.1.1.1.2.2.2.1. ランジャナ文字(広義のネワール文字のひとつ)(en) [アブギダ] - 1150年頃 (ネパール) *
                • 2.1.1.1.2.2.2.2. モーディー文字(en) [アブギダ] - 1600年頃 (インド)
                • 2.1.1.1.2.2.2.3. グジャラーティー文字(en) [アブギダ] - 1500年頃 (インド) *
                • 2.1.1.1.2.2.2.4. ソヨンボ文字(en) [アブギダ] - 1686年頃 (モンゴル) *
                • 2.1.1.1.2.2.2.5. クリー文字(en) [アブギダ] - 1841 (カナダ) *
            • 2.1.1.1.2.3. シャーラダー文字(en) [アブギダ] - 770年頃 (パキスタン)
              • 2.1.1.1.2.3.1 グルムキー文字(en) [アブギダ] - 1539年頃 (パキスタン、インド北部) *
          • 2.1.1.1.3. ヴァッテルットゥ文字(en) [アブギダ] - 400年頃 (インド南部)
            • 2.1.1.1.3.1. クメール文字 [アブギダ] - 600年頃 (カンボジア) *
              • 2.1.1.1.3.1.1. タイ文字 [アブギダ] - 1283 (タイ) *
                • 2.1.1.1.3.1.1.1. ラオ文字 [アブギダ] - 1350年頃 (ラオス) *
            • 2.1.1.1.3.2. モン文字(en) [アブギダ] - 700年頃 (ビルマ) *
              • 2.1.1.1.3.2.1. ビルマ文字 [アブギダ] - 1050年頃 (ビルマ) *
            • 2.1.1.1.3.3. カウィ文字(en) [アブギダ] - 775年頃 (インドネシア)
              • 2.1.1.1.3.3.1. ジャワ文字(en) [アブギダ] - 900年頃 (インドネシア)
              • 2.1.1.1.3.3.2. バリ文字(en) [アブギダ] - 1000年頃 (インドネシア)*
              • 2.1.1.1.3.3.3. バタク文字(en) [アブギダ] - 1300年頃 (インドネシア)*
              • 2.1.1.1.3.3.4. タガログ文字(en) [アブギダ] - 1300年頃 (フィリピン)
              • 2.1.1.1.3.3.5. ブヒッド文字(en) [アブギダ] - 1300年頃 (フィリピン)*
              • 2.1.1.1.3.3.6. ハヌノオ文字(en) [アブギダ] - 1300年頃 (フィリピン)*
              • 2.1.1.1.3.3.7. タグバヌワ文字(en) [アブギダ] - 1300年頃 (フィリピン)*
              • 2.1.1.1.3.3.8. ブギス文字(en) [アブギダ] - 1600年頃 (インドネシア)
              • 2.1.1.1.3.3.9. ルジャン文字(en) [アブギダ] - ? (インドネシア)
          • 2.1.1.1.4. カダンバ文字(en) [アブギダ] - 450年頃 (インド南部)
            • 2.1.1.1.4.1. カンナダ文字(en) [アブギダ] - 1500年頃 (インド南部) *
            • 2.1.1.1.4.2. テルグ文字(en) [アブギダ] - 1500年頃 (インド南部) *
          • 2.1.1.1.5. カリンガ文字(en) [アブギダ] - 500年頃 (インド東部)
          • 2.1.1.1.6. グランタ文字 [アブギダ] - 500年頃 (インド南部)
            • 2.1.1.1.6.1. シンハラ文字 [アブギダ] - 700年頃 (スリランカ) *
              • 2.1.1.1.6.1.1. ディヴェ文字(en) [アブギダ] - 1100年頃 (モルディブ)
            • 2.1.1.1.6.2. タミル文字 [アブギダ] - 700年頃 (インド、スリランカ) *
              • 2.1.1.1.6.2.1. サゥラーシュトラ文字(en) [アブギダ] - 1900年頃 (インド南部) *
            • 2.1.1.1.6.3. マラヤーラム文字 [アブギダ] - 1100年頃 (インド南部) *
          • 2.1.1.1.7. トカラ語の文字体系 [アブギダ] - 500年頃 (中国西部)
          • 2.1.1.1.8. アーホム文字(en) [アブギダ] - 紀元後1250年頃 (インド東部)
        • 2.1.1.2. 方形ヘブライ文字 [アブジャド] - 紀元前300年頃 (イスラエル) *
        • 2.1.1.3. パフラヴィ文字(中期ペルシア語の文字体系)(en) [アブジャド] - 紀元前250年頃 (ペルシア)
          • 2.1.1.3.1. 中期ペルシア語訳旧約詩篇断片のパフラヴィ文字(en) [アブジャド] - 紀元後400年頃 (中国北西部)
          • 2.1.1.3.2. アヴェスタ文字(en) [アルファベット] - 紀元後400年頃-600 (ペルシア)
        • 2.1.1.4. カローシュティー文字 [アブギダ] - 紀元前250年頃 (パキスタン、アフガニスタン)
        • 2.1.1.5. パルティア文字(en) [アブジャド] - 紀元前200年頃 (イラン)
        • 2.1.1.6. シリア文字 [アブジャド] - 紀元後1年頃 (シリア、イラク) *
          • 2.1.1.6.1. ソグド文字(en) [アブジャド] - 100年頃 (ウズベキスタン)
            • 2.1.1.6.1.1. グルジア文字 [アルファベット] - 100年頃 ? (グルジア) *
            • 2.1.1.6.1.2. 突厥文字(en) [アルファベット] - 700年頃 (モンゴル)
              • 2.1.1.6.1.2.1. ロヴァーシュ文字(en) [アルファベット] - 900年頃 (ハンガリー)
            • 2.1.1.6.1.3. ウイグル文字 [アルファベット] - 1000年頃 (中国北西部)
              • 2.1.1.6.1.3.1. 蒙古文字 [アルファベット] - 1100年頃 (モンゴル) *
                • 2.1.1.6.1.3.1.1. 満洲文字 [アルファベット] - 1599 (中国東北部)
              • 2.1.1.6.1.3.2. トド文字(en) [アルファベット] - 1649 (中国北西部) *
        • 2.1.1.7. ナバテア文字(en) [アブジャド] - 紀元後50年頃 (ヨルダン)
          • 2.1.1.7.1. アラビア文字 [アブジャド] - 400年頃 (ヨルダン、アラビア北部) *
          • 2.1.1.7.1.1. ジャウィ文字 [アブジャド] - 1300年頃 (マレーシア、ブルネイ) *
        • 2.1.1.8. マンダ文字(en) [アブジャド] - 紀元後100年頃 (イラン) *
      • 2.1.2. サマリア文字(en) [アブジャド] - 紀元前600年頃 (イスラエル) *
      • 2.1.3. 小アジアの文字体系(en) - 紀元前800年頃 (アナトリア)
      • 2.1.4. ギリシア文字 [アルファベット] - 紀元前800年頃 (ギリシア) *
        • 2.1.4.1. カルキス文字(en) [アルファベット] - 紀元前750年頃 (ギリシア、イタリア)
          • 2.1.4.1.1. エトルリア文字(en) [アルファベット] - 紀元前725年頃 (イタリア)
            • 2.1.4.1.1.1. ヴェネト文字(en) [アルファベット] - 紀元前700年頃 (イタリア)
              • 2.1.4.1.1.1.1. ルーン文字 [アルファベット] - 紀元後150年頃 (ドイツ、スカイディナヴィア)
            • 2.1.4.1.1.2. ラテン文字 [アルファベット] - 紀元前600年頃 (イタリア) *
              • 2.1.4.1.1.2.1. ファリスク文字(en) [アルファベット] - 紀元前400年頃 (イタリア)
            • 2.1.4.1.1.3. オスク文字(en) [アルファベット] - 紀元前600年頃 (イタリア)
          • 2.1.4.1.2. メッサピア文字(en) [アルファベット] - 紀元前550年頃 (イタリア)
        • 2.1.4.2. コプト文字 [アルファベット] - 紀元前200年頃 (エジプト) *
        • 2.1.4.3. ゴート文字 [アルファベット] - 紀元後350年頃 (ウクライナ)
        • 2.1.4.4. アルメニア文字 [アルファベット] - 405 (アルメニア) *
        • 2.1.4.5. グラゴル文字 [アルファベット] - 863 (ブルガリア)
          • 2.1.4.5.1. キリル文字 [アルファベット] - 900年頃 (ブルガリア) *
            • 2.1.4.5.1.1. 古ペルム文字(en) [アルファベット] - 1372年 (シベリア)
            • 2.1.4.5.1.2. アブハズ文字(en) [アルファベット] - 1865 (アブハジア) *
      • 2.1.5. イベリア文字(イベリア語の文字体系)(en) [セミシラバリー] - 紀元前600年頃 (スペイン、ポルトガル)
        • 2.1.5.1. ケルトイベリア語のイベリア文字(en) [セミシラバリー] - 紀元前500年頃 (スペイン北部)
      • 2.1.6. リビア文字(ヌミディア文字)(en) [アブジャド] - 紀元前250年頃 (アフリカ北西部) *
        • 2.1.6.1. Turdetan script(en) - 紀元前250年頃 (スペイン)
        • 2.1.6.2. 新ティフナグ文字(en) [アルファベット] - 紀元後1965年頃 (モロッコ) *
  • 3. 南アラビア文字(en) [アブジャド] - 紀元前900年頃 (エチオピアとアラビア南部)
    • 3.1. 古エチオピア文字(en) [アブジャド] - 紀元前500年頃 (エチオピア)
      • 3.1.1. エチオピア文字(en) [アブギダ] - 紀元後300年頃 (エチオピア) *
    • 3.2. タムード文字(en) [アブジャド] - 紀元前200年頃 (アラビア北部)

[編集] 注

• 年代は、その文字体系の「誕生」のおおよその時期を表す。ただし多くの場合 (「頃」としたもの) いくらか幅があり、数世紀の幅があるものもある。場合によっては、ある文字体系が他の文字体系から発展してくる過程が何世紀にもわたる漸進的なものであることもあるので、厳密に年代を定めるのは困難である。年代の後に括弧書きで、その文字体系が初めて広く使われた地域がある現代の国名をひとつかふたつ挙げた。若干の文字体系では、「親の文字体系」と子の文字体系の間での継承関係を、文字ごとの字形の比較から直接に確定できておらず、特定の系統に入れることには疑問の余地がある。たとえば、チベット文字やグルジア文字の場合である。ここに挙げた情報は、多くが "Ancient Scripts" ウェブサイトおよび "Omniglot" ウェブサイトを元にまとめたものだが、両者の見解が一致しない点もある。ここに挙げた文字体系を「アルファベット」と呼んでいる例があるが、今日の言語学による類型でアブギダとセミシラバリーに分類されるものは斜体で示した。それ以外のものはアブジャドまたは狭義のアルファベットである。ここに挙げた文字体系には、今日ではもはや言語の表記には広く使われていない (他の文字体系を採用したため放棄された) ものも多い。現在も使われるものには「*」を付け、太字にした。
• Gari Ledyard など一部の研究者は、ハングルの子音の符号が初期のパスパ文字の影響を受けていることを示唆している。より詳細な情報はen:Gari Ledyardの項を参照。
• 日本語表記での文字体系の名称は、原則として^[1]によった。

1. ^ 河野六郎、千野栄一、西田龍雄編著 (2001年7月).言語学大辞典 別巻 世界文字辞典. 三省堂. ISBN 4-385-15177-6.

[編集] 関連項目

• en:History of the alphabet (英語)