泉ヶ岳
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泉ヶ岳(いずみがたけ)は宮城県仙台市泉区の北西に位置し、「宮城県立自然公園船形連峰」内にある標高1172mの山である。七北田川の源流ともなっている。周辺の住居表示は泉区福岡字岳山である。
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[編集] 由来
名前は、豊富に湧き出る水が池や川や泉を形成することに由来しており、区名(現・泉区、旧・泉市、旧・泉町、旧・泉嶽村)の元にもなっている。若者の間では「ヶ岳(がたけ)」と呼ばれ、地元では「岳山(だけやま)」との愛称がある。
[編集] アクセスと登山コース
地下鉄泉中央駅から市営バスが運行されている(およそ1時間)ほか、市中心部からでも車で1時間弱で行くことができるため、日帰り登山やハイキング、パラグライダーなどが盛んである。「水神(すいじん)コース」「滑降コース」「かもしかコース」「表コース」の4本の登山道が整備されており、入山者が多いのはリフト利用の「かもしかコース」である。「表コース」は古来からの自然度の高いコースで、「水神コース」は、ヒザ川畔を遡り水神碑を経由する。初心者からベテランまで楽しめる山である。 槙有恒も学生時代この山を愛し、北泉ヶ岳への縦走の思い出を著書に記している。
この登山道入口には数百台が無料(冬季は土日祝日・年末年始のみ有料。除雪協力金名目で1回500円)で駐車することができる大駐車場があり、身障者トイレなどまで整備されている。登山道には頂上を含めてもトイレが無いので、特に女性や子どもはここや仙台市泉ヶ岳野外活動センターなどで済ませておくのが良い。また、駐車場は暴走車対策として段差を設けている。
[編集] スキー場
仙台市街地から最も近いスキー場があり、南東斜面には「泉ヶ岳スキー場」、北東斜面には「泉高原スプリングバレースキー場」がある(冬季のスキー場営業時間は9:00~22:00、土日祝は8:30~。ナイターは17:00~)。冬季は泉高原スプリングバレースキー場まで市営バスが運行されている。(泉中央駅から)ナイタースキーの照明は市街地からも見ることが出来、2つのスキー場の明かりが山の形に沿って「ハ」の字に見えるのが1つの名物ともなっている。このように市街地に近い立地から、平日の勤め帰りに訪れるスキーヤーも多い。道路も地元の泉区役所が除雪・融雪、道路照明などの整備が行き届いている。しかし、ノーマルタイヤで訪れ渋滞の原因となる者も出るため、地元有志が「泉ヶ岳をなめんなよ!」という看板を立てて注意をうながしている。
[編集] 宿泊施設・温泉
施設は、泉ヶ岳ロッジ、仙台市泉ケ岳野外活動センター、仙台市泉岳少年自然の家、宮城県泉が岳自然の家などがある。また、山麓には宿泊温泉施設「やまぼうし」、日帰り温泉を楽しめる「スパ泉ケ岳」などがある。
[編集] 市民の山として
市街地からわずかの距離で、適度な施設や道路を設けながらも豊富な自然が残され、かつ、地元民や来訪者の意識により美しく残されているこの山は、仙台市民はもとより宮城県民の誇りともなっている。しかし近年、木々の伐採や産廃・残土処分場などがいくつも開発され、また山肌も削られる工事が行われている。さらに動植物の採取も多いために、長年地元民に守られてきた自然が急速に失われつつある危機が生じている。
2006年は、泉ヶ岳スキー場リフトの終着点付近の「兎平」で、行政機関による大規模な伐採が行われた。これは宮城県への届出がない「無届伐採」という法律的な面が話題になったが、「熊が出るから、木々を切り倒す」という考え方を行政が採ったことが問題である。ここはワレモコウ、オミナエシ・オトコエシ、ナデシコ、シオガマギクの宝庫であったために、今後の回復状況が注目される。
[編集] 自然
ニホンカモシカ、ニホンヤマネなど天然記念物のほか、ホンドタヌキ、ホンドギツネ、ニホンアナグマ、ニホンツキノワグマ、ホンドテン、ハクビシン、トウホクノウサギ、ヒミズ、ヒメネズミなどの多種の哺乳類が多く生息している。市民の「ごみ持ち帰り運動」が盛んで、かつ自然の恵みが豊かであるため、ツキノワグマの出没や事故が全国的に問題となった2004年・2006年においても、ツキノワグマによる人身事故や騒ぎは1件も起きなかった。
昆虫類も、オニヤンマ、オオイトトンボ、オオルリボシヤンマ、ミヤマクワガタ、ヒョウモンチョウ、エゾハルゼミ、ヒメギフチョウなど多く生息している。近くには農場やゴルフ場が無く農薬などが散布されていないが、これが蚊やハエ、アブなどの天敵をバランス良く保っているために快適な自然空間を形成している。その反面、キイロスズメバチなどによる登山者の被害は生じている。かつては泉ケ岳の裾野の「芳の平」にハッチョウトンボの生息が確認されていた(「泉ケ岳・芳の平学術調査報告書 芳の平学術調査委員会編」 昭和63年3月 仙台市)が、近年はその姿は消している。
鳥類も多く、オオルリ、ミソサザイ、カワガラス、シジュウカラ、ヤマガラ、ヒガラ、エナガ、コゲラ、アオゲラ、ハシボソガラス、ノスリ、トビ、チョウゲンボウ、ヨタカ、オオジシギ、カケス、コルリ、アカゲラ、アオゲラなど、留鳥としている種類や漂鳥として繁殖の場としている種類も多く集まる山であり四季を通じて野鳥の鳴き声を楽しめる。
その他、両生類ではモリアオガエル、アカハライモリ、ハコネサンショウウオ、トウホクサンショウウオ、ヤマアカガエルなどが棲息している。爬虫類ではシマヘビ、アオダイショウ、ヤマカガシなどのほか、ニホンマムシも棲息している。
また、「芳の平」の林道にできる水たまりにはモリアオガエルの産卵地があったが、近年マウンテンバイクコースとして林道を大規模に整備した結果水たまりが消滅し、姿を消してしまった。泉ケ岳北側に位置する「桑沼(大和町)」もかつては一大産卵地であったが、周辺環境の変化、特にブラックバスなどの繁殖の影響から、見かけることは無い。
植物も豊富で、ミズバショウの群生地があるほか、ウメバチソウ、イカリソウ、シラネアオイ、カタクリ、ホトトギス、ラショウモンカズラ、キキョウ、シオガマギク、なでしこ、イワウチワ・・・など四季を通じて様々な草花が楽しめる。なお、ミズバショウの見ごろは概ね4月中旬から下旬ごろである。さらに春先は、ニリンソウが大変豊富に咲くが、そのめずらしい変異種であるミドリニリンソウが群生するほか、大変まれに見られる白いカタクリもごく少数だが咲くことがある。