特殊警備隊
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特殊警備隊とは海上保安庁に所属する対テロ特殊部隊のこと。「Special Security Team」の部隊名称から通称「SST」と呼ばれている。なお日本語の部隊名称を略すと「特警隊」となるが、この略称は海上保安庁の特別警備隊が使用している。
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[編集] 任務
SSTは主に海上テロ事案、シージャック事案(船舶に対するハイジャック)、銃火器を用いた海上犯罪、爆発物処理などに対処する目的で編成され、大阪特殊警備基地を活動拠点としている。
また海上テロ事案だけでなく、マラッカ海峡等における海賊事件や、一般海上保安官(特警隊員も含む)が船舶への移乗が困難な事案(船内殺人事件・密航船・密漁船制圧、船内爆発物予告検索等)にも出動する。
なお、平成9年版海上保安白書によれば、特殊警備隊は、地下鉄サリン事件や、在ペルー日本大使公邸占拠事件等を踏まえ、潜水訓練、武道訓練、レンジャー訓練、ヘリコプターからの降下訓練等を実施し、24時間体制で海上における特殊警備事案の発生に備えている、とされている[1](平成9年版海上保安白書)。
またSSTはテロ対策などの警備任務以外に、潜水能力を生かして海難救助にも従事し、多様な事件にも出動することから、日本の特殊部隊の中では、比較的出動が多いと言われている。
[編集] 概要
SSTは1985年に創設された「関西国際空港海上警備隊」と、1992年のプルトニウム輸送船護衛のために設置された「輸送船警乗隊」が前身となっている。なお輸送船警乗隊は、米海軍の特殊部隊「Navy SEALs」から指導を受けた対テロ特殊部隊であった。
1990年代後半に、地下鉄サリン事件などのテロ事件が発生し、海上においても本格的な対テロ特殊部隊の創設が計画され、同種の部隊を統合して運用することが効率的であったことから、上記二つの部隊が1996年に統合され特殊警備隊(SST)となり、第五管区海上保安本部大阪特殊警備基地に配備された。
主にヘリコプターからファストロープなどを使用して、船舶への降下、制圧を行う。また閉式潜水器具等を使用して、テロリストなどに占拠された船舶に対して水中からの突入、制圧を実施する。
隊員は主に警備実施強化巡視船に配備されている特別警備隊や、救難強化巡視船の潜水隊員から選抜されていると言われている。
また警察の特殊急襲部隊(SAT)と同じく、部隊についての情報は著しく制限されていたが、2001年9月に発生したアメリカ同時多発テロ以降は、部分的であるが、訓練の様子等を報道陣に公開している。
- 第五管区海上保安本部大阪特殊警備基地の編制は、
- 基地長(二等海上保安監)
- 統括隊長(複数の隊が出動した時に統括する隊長:階級は一等海上保安正)
- 第一特殊警備隊(隊長:二等海上保安正、副隊長:三等海上保安正)他6名 計8名
- 第二~第七特殊警備隊(第一特殊警備隊に同) 各8名
である。各隊には朝鮮語等の語学のスペシャリストや救急救命士等の専門隊員が配属されている。また、7個の特殊警備隊のうち2個はそれぞれ化学防護、爆発物処理を専門としている隊である。
SSTは出動命令を受けると、関西空港航空基地から固定翼機(サーブ 340B)を使用して、現場近くの航空基地に移動し、そこから航空基地所属のヘリコプターに搭乗して現場に向かい、直接または巡視船を経由して、対象となる船を急襲する。乗り込む方法は、空からのリペリング降下のほかに、強行接舷による移乗や閉式潜水器具を使用しての水中強襲も行う。通常は、船内の制圧が終わると、警備実施強化巡視船からやって来る特別警備隊に任務を引き継いで撤収する。
特別警備隊は、海上テロ事案等が発生した際には、SSTの支援部隊として活動する。なお海上保安庁と同様に、自衛隊や警察においても、特殊部隊を支援する部隊が編成されている。
SSTの移動手段としては、関西空港航空基地にサーブ340Bが緊急展開用として待機しているが、専用に運用できる船舶や、回転翼機(ヘリコプター)は割り当てられていない。事案発生の際には、巡視船やヘリコプターとの連携が不可欠であるため、普段は大阪特殊警備基地での訓練の他に、全国の海上保安本部に出向き、巡視船員やヘリコプター乗員との連携訓練を行っている。
部隊の標語は、「常に備えよ」
[編集] 関連年表
- 1985年 関西空港海上警備隊が創設される。
- 1988年 ソウルオリンピックの期間中にテロやハイジャックに備えるために日韓を結ぶフェリー航路付近を関西空港海上警備隊が警戒監視任務に就く。
- 1989年 東シナ海でパナマ船籍の鉱石運搬船内で船員が暴動を起こす事件が発生し、関西空港海上警備隊が出動して暴動を鎮圧。
- 1990年 プルトニウム輸送船を護衛する為に関西空港海上警備隊の隊員を選抜し、輸送船警乗隊を創設する。米海軍の特殊部隊(SEALS)から対テロ作戦等の教育を受ける。
- 1992年 フランスから日本へのプルトニウムを輸送した運搬船あかつき丸に輸送船警乗隊が乗り組み、警戒警備をする。
- 1996年 関西空港海上警備隊と輸送船警乗隊が統合され、特殊警備隊(SST)が創設される。
- 1998年 東京晴海埠頭で行われた観閲式で、SSTが訓練展示(容疑船へのリペリング降下)を行い、初めて報道陣の前に姿を現す。また、米国沿岸警備隊 の特殊部隊(TACLET)も訓練展示に参加した。
- 1999年 能登半島沖での不審船事件の際に、SSTは追跡中の巡視船「ちくぜん」に乗船して、不審船停船後の強行臨検に備えていた。
- 2000年 東シナ海を航行中のシンガポール船籍の貨物船で船員が暴動を起こす事件が発生。SSTが出動して暴動を鎮圧する。(「テロ対処・不審船対処能力の現状及び問題点について」(海上保安庁資料:平成16年9月6日)に記載あり。)
- 2001年 奄美大島沖での不審船事件に際し、第十管区海上保安本部の巡視船「はやと」船内で出動準備をしていた。
- 2002年 ワールドカップ2002日韓共催大会開幕直前に韓国釜山沖で、韓国海洋警察の特殊部隊である海洋警察特攻隊(SSAT)と、SSTが合同対テロ訓練を行い、報道陣に公開する。
- 2003年 オーストラリア東岸沖で、PSI加盟国による合同臨検(船舶検査)演習「パシフィックプロテクター」が実施され、SSTは容疑船への降下、制圧を担当した。
[編集] 主な装備
- S&W M19回転式拳銃(P228が配備されるまで使用 使用弾はニューナンブと同じ.38SP)
- H&KMP5サブマシンガン(9ミリ口径)
- シグ・ザウエルP228自動拳銃
- 狙撃用ライフル
- 対物狙撃ライフル
- レミントンM870 マリンマグナム
- 89式5.56mm小銃(折曲銃床式)
- 音響閃光弾(犯人制圧に使用)
- クローズサーキット式潜水器具(Dräger社製)
- 防弾盾
- 暗視ゴーグル
- 暴徒鎮圧用装備(透明大盾、ジュラルミン大盾等)
- 化学防護用装備(防護服、検知器、除染機材等)
上記以外にも、様々な装備品を保有している。
[編集] SSTに関する主な書籍
「海上保安庁特殊部隊SST」小峯隆生著 並木書房…SST関係者の証言を基に記載されているが、著者による脚色が多く、事実と異なる点も多い。
[編集] 関連項目
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陸上自衛隊 (☆…中央即応集団所属) |
☆特殊作戦群 (SOG) | ☆第1空挺団 西部方面普通科連隊 (WAiR) | 冬季戦技教育隊 | 対馬警備隊 参考項目…レンジャー |
海上自衛隊 | 特別警備隊 (SBU) |
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