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地下鉄サリン事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

地下鉄サリン事件(ちかてつサリンじけん)とは、1995年3月20日東京都地下鉄カルト新興宗教オウム真理教が起こした化学兵器を使用した無差別テロ事件である。毒ガスサリンが散布されて死者を含む多数の被害者を出し、日本の社会に大きな衝撃を与えた。

指名手配ポスター
指名手配ポスター

目次

[編集] 概説

1995年3月20日午前8時ごろ、東京都内の帝都高速度交通営団(現・東京メトロ、以下営団地下鉄)丸ノ内線日比谷線で各2編成、千代田線で1編成、計5編成の地下鉄車内で、化学兵器として使用される神経ガスサリンが散布され、乗客や駅員ら12人が死亡、5,510人が重軽傷を負った。日本において、当時戦後最大級の無差別殺人行為であるとともに、松本サリン事件に続き、大都市で一般市民に対して化学兵器が使用された史上初のテロ事件として、全世界に衝撃を与えた。[1]

事件直後、この5編成以外でも数10編成で事件が発生したと情報もあったが、これは情報の錯綜などによる誤報であり、5編成以外で発生はなかった[2]

有機リン系中毒の解毒剤であるプラリドキシムヨウ化メチル(PAM)は当時多くの病院で大量ストックする種類の薬剤ではなく(主に農薬中毒用の薬だった)、被害がサリンによるものだと判明するや瞬く間に都内でのストック分が使い果たされてしまった。このため全国の病院へ収集令が出されることになり、殊に東海道新幹線沿線では各病院の使者が最寄り駅まで薬剤を届けて別の使者が東京行こだまに乗車して各駅で受け取るという作戦が展開された[3]

営団地下鉄はサリン散布と分かるまでは、霞ケ関駅などの問題の大きい駅を通過運転とし業務を継続していたが、その後は終日運休、日比谷線は翌日まで運休。その後も霞ケ関駅など4駅は3~6日間運休となり通過運転をしていた。

事件から2日後の3月22日に、警視庁新興宗教団体オウム真理教に対する強制捜査を実施し、事件への関与が判明した教団の幹部クラスの信者が逮捕され、林郁夫の自供により全容が明らかになった。東京地裁は主犯の麻原彰晃(本名:松本智津夫)を始め、林郁夫を除く実行犯全員に死刑を言い渡した[4]。 ただし高等裁判所では無期懲役判決も多数出ているのは事実である。

2007年現在、この事件に関与した高橋克也・菊地直子の両容疑者は未だ逃亡中で全国に指名手配されている。

[編集] 背景

オウム真理教に対する目黒公証役場事務長拉致事件坂本堤弁護士一家殺害事件などの疑惑追及の動きが高まり、警察強制捜査があることを察知した麻原は、強制捜査の直前に大規模なテロ事件を起こせば、警察の捜査の目を逸らすことができると考え、朝の通勤時間帯で混雑する地下鉄内でのサリンの散布を信者達に命じた。

このため霞ヶ関国会議事堂永田町などの、国家の中核を支える重要な地点がターゲットにされた。後の調べによると、警視庁も標的になっていたのではないかと言われている。

麻原は2006年9月15日最高裁への特別抗告が棄却され、死刑判決が確定した。

[編集] 犯行

1995年3月20日平日月曜日で、事件はラッシュアワーのピーク時に発生した。霞ヶ関の官公庁は普段は午前10時頃に出勤することがほとんどである。しかし、月曜日だけは朝早くに朝礼があるところが多い。8時という早い時間を狙ったのはそういう官公庁の内部を知っている者が実行犯の中にいたからではないかと言われている。

液体のサリンはビニール袋に入れられた上で新聞にくるまれていた。各実行犯は、およそ1リットルのパック2つを運び、林泰男だけが3パックを携帯した。[要出典]

犯人は割り当ての列車に乗り込み、乗降口付近で先端を尖らせた傘を使い、袋を数回突いた後に列車を出、共犯者の待つ自動車で逃走した。営団地下鉄は、毎日数百万の乗客を輸送し、ラッシュアワー時は非常に混雑するため、車両間を移動することは大変困難であった。

[編集] 千代田線

千代田線は林郁夫[4]新実智光が担当した。

マスク姿の林はJR常磐線各駅停車から直通する千代田線綾瀬代々木上原列車番号A725K(JR車両による運用)の先頭車両に北千住駅から乗車した。新御茶ノ水でサリンのパックを傘で刺し、逃走した。列車はそのまま走行し、二重橋前日比谷間で乗客数人が相次いで倒れたのを境に次々に被害者が発生し、霞ケ関にて運転を中止した。同線では霞ヶ関にて通報で駆け付け、サリンとは知らずに危険物を排除しようとした駅員数名が被害を被り、うち駅長と駅員の2人が死亡し、231名が重傷を負った。

[編集] 丸ノ内線(荻窪発)

荻窪発丸ノ内線は広瀬健一[5]北村浩一が担当した。

広瀬は列車番号A777の第3車両に乗車し、御茶ノ水でサリンを散布した。列車は運行を継続し、荻窪で新しい乗客が乗り込んだ。新高円寺で運行が停止されるまで彼らはサリンの影響を受けることとなった。同線では1人が死亡し、358名が重傷を負った。

[編集] 丸ノ内線(池袋発)

池袋発丸ノ内線は横山真人外崎清隆が担当した[6]

横山は列車番号B801の第5車両に新宿から7:39に乗り込み、四ッ谷でパックに穴を1つ開けサリンを散布した。列車は8:30に目的地に到着し、B901として折り返し池袋に出発した。本郷三丁目で駅員がサリンのパックをモップで掃除し、B901として池袋へ再び戻った。列車は新宿に向け運行を継続した。列車はサリン散布の1時間40分後、9:27に国会議事堂前で運行停止された。地下鉄サリン事件では、唯一死者の出なかった路線である。

[編集] 日比谷線(中目黒発)

中目黒発日比谷線は豊田亨[7]高橋克也が担当した。

豊田は中目黒東武伊勢崎線直通東武動物公園行きの列車番号 B711T (東武線車両による運用)先頭車両に7:59に乗り込み、恵比寿でサリンパックを刺した。3駅後の神谷町で乗客はパニック状態に陥り、被害者が病院に搬送された。先頭車両の乗客は移動させられ、列車は霞ケ関へ向けて運行継続された。列車は霞ケ関駅で運行停止した。同線では1人が死亡し、532人が重傷を負った。

[編集] 日比谷線(北千住発)

北千住発日比谷線は林泰男杉本繁郎が担当した[8]

林は他の実行犯がサリン2パックを携帯したのに対し、自ら進んで3パックを携帯した。彼は北千住発の列車番号A720S(営団車両による運用)の第3車両に上野から7:43に乗車した。林は秋葉原で実行犯のうち一番多くの穴を開けサリンを散布した。乗客はすぐにサリンの影響を受け、次の小伝馬町で乗客がサリンのパックをプラットホームに蹴り出した。その結果駅では列車を待っていた4人が死亡した。

サリンの液体が車両の床に残ったまま列車は運行を継続し、8:10に乗客が緊急停止ボタンを押した。列車は築地で停車し、ドアが開くと同時に数人の乗客がプラットホームに崩れ落ちた。列車は直ちに使用停止となった。さらに通報をうけて駆け付け、サリンと知らずに危険物を遠ざけようとした駅長、乗務員、駅員数人も被害を被った。皮肉な事にサリンを移動させる最中に駅長らが倒れてしまい、暫くサリンがホームに放置されてしまったため、ホームに避難した乗客に二次災害を招く結果となってしまった。サリン散布後列車は5つの駅に停車し、8人が死亡し2475人が重傷を負った。

[編集] 緊急処置

被害を受けた3路線は事件発生後に運転を打ち切った。指令は列車を最寄りの駅に停止させた後、乗客を全て駅構内から避難させた。一部列車は前駅に既に列車が止まっていた事から駅間での停車を余儀なくされた。

営団地下鉄は10時までに営団の全ての路線で全列車の運転の取り止めを決定した。指令は列車を最寄りの駅に停止させた後、乗客を全て駅構内から撤退させた。その後、全駅、列車を総点検し、危険物の有無を確認した。

午後、3路線以外の路線は確認を終えた路線から順次運転を再開させたが、全駅、全列車に警官、警備員などが配置される異例の事態となった。

[編集] 救助

警視庁では東京消防庁との連携の下、警察当局としてもまずは被害者の救出に全力を注いだ。

地下鉄構内で「急病人」「爆発火災」「異臭」という通報があり駆けつけた警察は、同じく通報があり駆けつけた消防と協力して事件現場での救出活動を展開。

当初はサリンによる毒ガス散布が原因とは分からなかった為、警察も消防も無防備のまま現場に飛び込み被害者の救出活動を行った。現場では、東京消防庁の化学災害対応部隊である化学機動中隊が、原因物質の特定に当たったが、当時のガス分析装置にはサリンのデータがインプットされておらず、溶剤のアセトニトリルを検出したという分析結果しか得られなかった。さらに、この分析結果は、「化学物質が原因の災害である」ことを示す貴重な情報であったにもかかわらず、全現場の消防隊に周知されるまで、時間を要した[9]

[編集] 警察

当時の警視総監であった井上幸彦により緊急記者会見が開かれ、都内地下鉄構内にて「無差別テロ」発生及びオウム真理教が首謀者であると全面的に発表。同日警視庁内に井上警視総監をトップに対策本部を設置。警視総監自ら事件の総合調整と捜査の総指揮を執る。

対策本部には警視庁刑事部長、刑事部参事官、捜査一課長、捜査一課理事官、捜査一課管理官など主だった刑事部幹部と捜査幹部が招集され警備公安警察の各部長にも招集が掛けけられた。

[編集] 鑑識

警察と消防が決死の救出活動を行っている最中、警察の捜査当局も救出活動と平行しつつ現場検証を行った。警視庁鑑識課が現場へ急行し、撒き散らされた液状サリンのある地下鉄内に入って地下鉄車両1本を丸ごと封鎖し現場検証を開始した。

警察官が発見した事件現場の残留物の一部は、すぐさま警視庁科学捜査研究所へ持ち込まれた。鑑定官が検査するとその毒物が有毒神経ガス「サリン」であると判明。この情報がすぐさま関係各所へ伝達されたので、消防や病院は早期の段階でサリンと判定し対NBC兵器医療を開始した。

[編集] 救命活動

[編集] 東京消防庁・病院

東京消防庁には事件発生当初、「地下鉄車内で急病人」の通報が複数の駅から寄せられた。ついで「築地駅で爆発」という119番通報と、各駅に出動した救急隊からの「地下鉄車内に異臭」「負傷者多数、応援求む」の報告が殺到したため、司令塔である災害救急情報センターは一時的にパニック状態に陥った。

この事件では特別区に配備されている全ての救急車が出動した他、通常の災害時に行われている災害救急情報センターによる負傷者搬送先病院の選定が機能不全となり、現場では、救急車が来ない、救急車が来ても搬送が遅々として進まない、という状況が見られた。

大災害や戦争の際にも機能できる病院として設計されていた聖路加国際病院は、当時の院長であった日野原重明の判断により直ちに当日の全ての外来受診を停止して被害者の受け入れを無制限に実施し、被害者治療の拠点となった[10]。又、済生会中央病院にも救急車で被害者が数十名搬送され、一般外来診療は直ちに中止。その後、警察から検証の為にとの理由で、被害者の救急診療に携わった病院スタッフの白衣等が押収された[11]虎の門病院も、数名の被害者をICU(集中治療室)に緊急入院させ高度治療を行うと共に、軽症患者を多数受け入れた[12]

当時サリン中毒は医師にとって未知の症状であったが、信州大学医学部附属病院第三内科(神経内科)教授の柳澤信夫がテレビで被害者の症状を知り、松本サリン事件の被害者の症状に酷似していることに気づき、その対処法と治療法を東京の病院にファックスで伝えたため、適切な治療の助けとなった。一方で、「急病人」「爆発火災」「異臭」という通報で駆けつけた警察官消防官の多くは、サリンに対してはまったくの無防備のまま、地下鉄駅構内に飛び込み、救急救命活動に当たったため、多数の負傷者を出した[9]

この事件は、目に見えない毒ガスが地下鉄で同時多発的に撒かれるという状況の把握が非常に困難な災害であり、トリアージを含む現場での応急救護活動や負傷者の搬送、消防・救急隊員等への二次的被害の防止といった、救急救命活動の多くの問題を浮き彫りにした。

[編集] 自衛隊

陸上自衛隊では、警察に強制捜査用の化学防護服や機材を提供していた関係上、初期報道の段階でオウムによるサリン攻撃であると直ちに判断。事件発生29分後には自衛隊中央病院等の関係部署に出動待機命令が発令され、化学科職種である第101化学防護隊が専門職として初の実働派遣となって除染活動を行った[13]

また、自衛隊では警察庁の要請を受けて、自衛隊中央病院及び衛生学校から医官21名及び看護官19名が、警察病院聖路加国際病院等の8病院に派遣され、硫酸アトロピンPAMの投与や、二次被曝を抑制する除染といったプロセスを指示する『対化学兵器治療マニュアル』に基づいて、治療の助言や指導を行った。陸上自衛隊衛生補給処からはPAM2,800セットが送られた[14]

[編集] 被害者

事件の目撃者は地下鉄の入り口が戦場のようであったと語った。多くの被害者は路上に寝かされ、呼吸困難状態に陥っていた。サリンの影響を受けた被害者のうち、軽度のものはその徴候にもかかわらず医療機関を受診せず仕事に行った。多くのものはそれによって症状を悪化させた。犠牲者のうち何名かは列車の乗客を救助することでサリンの被害を受けた。

被害者は現在も心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しみ、地下鉄に乗車することに不安を感じると語る。また、慢性的疲れ目や視力障害を負った被害者も多い。

また、その当時、重度な脳中枢神経障害を負った被害者は未だに、重度な後遺症・神経症状に悩まされ、苦しめられている被害者も数多くいる。

作家の村上春樹による被害者へのインタビュー集『アンダーグラウンド』がある。

[編集] 強制捜査

事件発生から2日後、オウムの活動拠点である山梨県上九一色村の強制捜査が開始される[15]。地下鉄サリン事件へのオウムの関与は、林郁夫(4月8日に別件逮捕)の供述によって明らかとなっていく。

そして5月16日、地下鉄サリン事件の首謀者として麻原彰晃を逮捕するため、第6サティアン一帯の強制捜査が始まった[16]自衛隊から貸し出しを受けた迷彩仕様の化学防護服に身を包み完全武装した数百名に及ぶ警視庁捜査員、山梨県警捜査員が一斉に上九一色村に入り即座に付近一帯を全面封鎖。付近住民を避難させサティアン内の捜索を開始。信者の確保、証拠品押収にも全力を注いだが、何よりも麻原の確保を最優先に考え麻原逮捕に全力を傾けた。事前の警察への匿名による密告情報では麻原はサティアン内の中二階に引き篭もっているということだったのでサティアン内へ捜査員を潜入させ内部の重点捜索を行った。捜索から数時間後、事前の密告情報による中二階は存在しないことが判明し、捜査撹乱を狙った密告であったと判断した山田に焦りの色が見え始めた頃、サティアン内の屋根裏に不審人物が横たわっているとの報告が入る。この不審人物が麻原であった[17]。捜査員が踏み込んだ際は逃亡する気配すら無く横たわったまま殆ど身動きしなかったので重度の身体障害があるのかとも思われたが、現場へ赴いた山田が「麻原か?」と尋ねると「…はい」と弱々しく答え自認した為、その場から表へ出し緊急逮捕した。数名の武装捜査員によりサティアンから出された麻原は警察側の連れてきた医師によって身体に異常が無いか調べられた後、特に怪我も無く異常無しと診断されたのでそのまま警察車両で護送された。

こうして麻原は逮捕されたが、これら事件に関わったとされる最重要容疑者、平田信・高橋克也・菊地直子が未だ逃亡中であり警察庁は3名を全国指名手配し今現在も全国中の警察による懸命の捜索が行われている。

[編集] 山梨県警

当時の上九一色村の第6サティアンは毒ガステロを引き起こした犯罪組織の本拠地ということでサリン等の毒ガス使用も懸念された。この為、強制捜査にあたる捜査員全員に化学防護服の着用が命令され銃撃戦の恐れもあるとして捜査員全員が拳銃携帯にてサティアン捜索に臨んだ。日本警察による犯罪捜査において大多数の捜査員が拳銃携帯で犯罪者の確保にあたることは稀なことで、大半の場合は拳銃を携帯せずに捜査活動を行うが今回は相手があまりにも凶悪な犯罪組織であった為、捜査員の生命の安全を考え完全武装での捜査となった。

当時の上九一色村は山梨県内にあるので本来は山梨県警察本部の管轄事件だが、今回のケースは警視庁管内で発生した事件と同一犯であったことと事件の規模があまりにも大きかったので警視庁主導での合同捜査が展開された。山梨県警からも大量の捜査員が派遣され警視庁捜査員と合流し隊列を組んで上九一色村へ向かった。これら大多数の捜査員の後を追って多数のマスコミ取材班も現場へ派遣されている。

[編集] 機動隊

テロ事件ということで警視庁刑事部の他に警備部も動員され、警視庁管轄下の機動隊員が大多数動員され山梨県上九一色村のオウム真理教第6サティアンへ派遣された。

警視庁刑事部捜査一課と山梨県警から動員された数百名の捜査員に加わり現場での捜索活動及び後方支援を展開。信者からの銃撃が想定されたので機動隊員も重武装の厳重警戒態勢にて現地入りした。

[編集] 防衛庁・自衛隊

防衛庁(現防衛省)は、オウム真理教が海外で軍事訓練等も行っている武装集団であり、強制捜査時に於ける組織的な武力抵抗により、警察力での対処が困難な場合の治安出動の可能性を考慮し、陸上自衛隊東部方面隊に対し第三種非常勤務態勢を発令していた。 また、教団がロシアヘリコプターを所有していたことから、それを利用した無差別テロ攻撃に対処する為、木更津駐屯地の東部方面隊第4対戦車ヘリコプター隊に出動準備命令が出ていた[18]と言われている。

[編集] 余波

地下鉄サリン事件は国内史上最悪のテロ事件であった。世界においても有数の凶悪テロとして犯行は社会の大きな混乱と広範囲の恐怖を引き起こすこととなった。

[編集] オウム真理教

事件により宗教法人オウム真理教は破産、解散処分を受けた。警察の捜査と幹部信者の大量逮捕により離脱者が相次ぎ(地下鉄サリン事件の発生から2年半で信徒数は5分の1以下になった)、オウムは組織として大きな打撃を受けたが、現在はアーレフに改組し細々と活動を続けている。また、代表の上祐史浩は、地下鉄サリン事件が起きた際、オウム真理教の事件の関与を否定している。日本の公安審査委員会破壊活動防止法に基づく解散措置の適用を見送ったが、アメリカ国務省は現在もアーレフをテロリストグループに指定している。

多くの地方自治体が信者の居住を拒否し、商店主達は信者への品物の販売を拒否した所まであった。また、信者への住居の賃貸、土地の販売も拒絶され、幾つかの自治体では信者の退去に公金を費やすこととなった。

[編集] 被害者のPTSD

一方で、事件の被害者は後遺症に悩まされる日々が続いている。視力の低下など、比較的軽度のものから、PTSDなどの精神的なもの、重度では寝たきりのものまで、被害のレベルは様々であるが、現在の所被害者への公的支援はほとんど無い[19]

[編集] 不審物への対応

この事件後、全国の多くの駅や街角からごみ箱が撤去され、営団はこれ以降全車両のドアに「お願い 駅構内または車内等で不審物・不審者を発見した場合は、直ちにお近くの駅係員または乗務員にお知らせ下さい」という文面の警告ステッカーを貼りつけた。同様のステッカーが他の鉄道事業者に波及するようになるのはアメリカ同時多発テロ事件以降である。

[編集] その他

  • 事件後地下鉄内に残されたサリンの除去に、創設後初めて陸上自衛隊大宮化学学校教官と、化学防護小隊が当たった。
  • 3月30日、国松孝次警察庁長官(当時)が自宅のマンション前で銃撃される事件が発生。オウム捜査の攪乱を目的に行ったと思われる。
  • 5月16日、松本被告逮捕の夜、青島幸男東京都知事(当時)宛の郵便物が開封した瞬間に爆発する事件が発生する。
  • なお、同年6月に起きた全日空857便ハイジャック事件では犯人がオウム教団を名乗り、液体の入ったペットボトル(サリン入りとしていたが実際には水)を見せ「松本を釈放しろ」と要求した。犯人逮捕後、オウムとは無関係の愉快犯によるものであったことが判明した。
  • 4月19日には横浜駅異臭事件が発生したが、オウムとは全く関係無い便乗犯による犯人による犯行であった。

[編集] 報道関係

事件が発生した日、テレビでは全ての局において8:30以降の通常番組が報道特別番組に差し替えられた。この事件以降、麻原教祖逮捕に至るまで、毎週1、2回は「緊急報道スペシャル」として、オウムに関する報道特番が放送され、また、事件発生から2日後の強制捜査の中継も放送された。日本以外の世界各地でもオウム関連のニュースはトップとして扱われた(地下鉄サリン事件・麻原教祖逮捕)。

NHKを含む在京キー局の中で、現場映像と同時に事件速報がもっとも早かったのが、テレビ朝日で生放送中だった『スーパーモーニング』であった。速報内容は「地下鉄丸ノ内線で、ガス漏れがあって怪我人が多数出ているようだ」というものであった。

[編集] 特記事項

地下鉄サリン事件で使用されたサリンは松本サリン事件と同様サリンと他の薬品を混合させたものであることが判明している。このため異臭が発生した。なお通常のサリンは無色無臭である。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

[編集] 脚注

  1. ^ 日本では「事件」として扱われる向きが大きかったが、特に欧米では「化学テロ」として大々的に扱われ、その対応策なども含め大きく注目された。現在でも諸外国の軍隊マニュアルで、化学テロの事例として紹介されている
  2. ^ 多数の駅で救護所が設置されたのは確かであり、これが5編成以外にも事件が発生したという誤報に繋がった可能性が高い
  3. ^ これが届かなければ死者は更に600人は増えていたとも言われる
  4. ^ a b 林郁夫は自首し、更に事件の詳しい内容などを自供したため無期懲役
  5. ^ 広瀬には死刑が宣告
  6. ^ 横山は1999年に死刑が宣告され、外崎は無期懲役が宣告された
  7. ^ 豊田は死刑が宣告
  8. ^ 林泰男は死刑を宣告され、杉本は無期懲役が宣告された
  9. ^ a b そのため、消防官警察官にも多数の二次被害が発生、消防・救急隊員の負傷者は百数十名にのぼる。さらに、現場で負傷者の除染が行われなかったために、搬送先病院でも負傷者に付着したサリンが気化し、医療関係者を襲うという二次被曝も発生した
  10. ^ このときの顛末はNHKドキュメンタリー番組『プロジェクトX~挑戦者たち~』でも取り上げられた
  11. ^ 検証後、返却出来る物品は返されている
  12. ^ この際、drug dex,poison dexという米国の医薬品情報からもサリン中毒患者の治療法を入手し、下記のファックスと共に治療の参考とした
  13. ^ この部隊はサリン等の神経ガスをはじめとした化学兵器についての知識や経験が豊富であり、核兵器生物兵器化学兵器(いわゆるNBC兵器)の防護技術に精通した日本最高のスペシャリストである。事件以前には、日本社会党から「化学兵器を扱う悪魔の部隊である」として解散を要求されている状況であったが、この事件がきっかけでその重要性が示されることとなった
  14. ^ もし、柳澤教授や自衛隊による適切な助言や指導、そしてこれら薬剤が無ければ、更に数百名の被害者が死亡していたと想像される
  15. ^ この時の捜査は、(名目上は)目黒公証人役場事務長拉致監禁致死事件の実行犯を逮捕するためのものであった
  16. ^ この際に指揮を執ったのは警視庁の井上警視総監と寺尾正大捜査一課長。現場前線での指揮は山田正治理事官が執った
  17. ^ 山田によれば麻原は髭は伸び放題で着衣も薄汚れ、目は虚ろで極度のアルコール中毒患者か廃人のようであったという
  18. ^ 出動した場合、目標の撃墜も許可されていた
  19. ^ 犯罪被害の賠償は原則として加害者が行うのが慣例であるが、現在のアーレフに賠償能力が無いため、犯罪被害への公的補償の必要性が論じられている
オウム真理教
主要幹部 : 麻原彰晃 | 上祐史浩 | 青山吉伸 | 井上嘉浩 | 新実智光 | 早川紀代秀 | 中川智正 | 林郁夫 | 村井秀夫 | 村岡達子 | 林泰男 | 松本知子 | 土谷正実 | アーチャリー | 岡崎一明 | 富永昌宏 | 端本悟 | 広瀬健一
主な事件 : 坂本堤弁護士一家殺害事件 | 松本サリン事件 | 目黒公証人役場事務長拉致監禁致死事件 | 地下鉄サリン事件 | シガチョフ事件 | TBSビデオ問題
関連項目
団体 : オウム真理教 | アーレフ | 真理党 | ケロヨンクラブ | 上祐派
施設 : サティアン | マハーポーシャ | うまかろう安かろう亭
その他 : 尊師マーチ | オウム真理教放送 | 教団の音楽 | 教団のアニメ | アンダーグラウンド
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