銃器対策部隊
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銃器対策部隊(じゅうきたいさくぶたい)とは日本警察の機動隊に所属する部隊のこと。
銃器対策部隊は都道府県警察本部の警備部に所属し、思想的背景のある犯罪者や、テロリストへの対処を主要な任務としており、その他、銃器を使用した凶悪な犯罪者の制圧、逮捕を行う。
またハイジャック事件や、武装立て篭もり事件等では、特殊急襲部隊(SAT)の支援部隊として活動する。
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[編集] 概要
[編集] 銃器対策部隊の誕生
1996年に、それまで全国の機動隊に存在していた「特殊銃隊」や、「特殊警備部隊」の編成基準を警察庁が改め、「銃器対策部隊」とした。1996年以前、警視庁では銃器対策部隊のことを「特殊警備部隊」と呼称していた。
銃器対策部隊の前身となった、これらの部隊は、狙撃用ライフルを専門に取扱う狙撃班であり、陸上自衛隊の富士学校などで射撃の訓練を受けた指定警察官が、事件発生時に召集され、臨時編成される「非常設」の部隊であることが多かった。この編成基準を改め、「常設」の部隊としたものが、銃器対策部隊である。
なお、日本警察がライフルの配備を本格的に始めたのは、1968年2月に静岡県で発生した人質立て篭もり事件(通称、金嬉老事件)以降であると言われている。この事件では、人質を取って立て篭もった犯人が、ライフルとダイナマイトで武装していたため、警察の捜査員は容易に近づくことができなかった。結果的に犯人は逮捕されたが、この事件以降、犯人制圧と人質救出を目的として、都道府県警察に狙撃用ライフルの配備が始まったと言われている。
また、日本の警察ではライフルや、機関けん銃を総称して「特殊銃」と呼んでいる。
[編集] 装備・体制の拡充
2001年にアメリカ同時多発テロ事件の発生を受け、銃器対策部隊が全国の自衛隊駐屯地や、アメリカ軍基地、原子力発電所などの重要施設の警備を実施することになったが、その際、拳銃程度の軽武装であったことが問題とされ、国家公安委員長により、新たな特殊銃の導入が公表された。
翌2002年には、全世界が注目するイベントである2002 FIFAワールドカップが控えていたこともあり、現状の装備では武装テロリストに対処できないとして、全国の銃器対策部隊に「機関けん銃(MP5)」が配備され、より実戦的な部隊へと体制が拡充された。
また2004年には、福井県警察に原子力関連施設の防備を専門に担当する「原子力関連施設警戒隊」が編成された。
[編集] 現状
2005年10月21日に、陸上自衛隊真駒内駐屯地において、警察と自衛隊による初の共同訓練が実施された。訓練の正式名称は「治安出動にかかわる自衛隊と警察との共同対処訓練」である。この訓練では、警察と自衛隊による部隊輸送訓練などが行われた。訓練の内容は、陸上自衛隊第18普通科連隊のレンジャー小隊と、北海道警察の特殊急襲部隊(SAT)がヘリコプターからロープで降下した後、自衛隊のヘリコプターに搭乗した銃器対策部隊が到着し、現場へと向かう、といったものであった。
陸上自衛隊の迷彩色のヘリコプターから、「機関けん銃」で武装した、青い出動服姿の警察官が降りてくる場面は、テレビ等で報道された。
2007年2月20日には、陸上自衛隊第1師団と埼玉県警察、茨城県警察の銃器対策部隊が、陸上自衛隊朝霞駐屯地で、武装工作員等への対処を想定した合同治安出動訓練を行った。この訓練には総勢400名が参加し、駐屯地内の演習場で部隊輸送訓練、共同検問訓練、包囲制圧訓練を実施した。なお共同検問訓練、包囲制圧訓練は報道関係者に非公開で行われた。
また2005年前後から、各関係機関の合同による「水際危機管理対策訓練」が頻繁に行われており、一部の地域では銃器対策部隊も参加している。この訓練は港湾や空港を対象としたテロ対策訓練で、海上保安庁、税関、入国管理局などと合同で実施しており、テロリストの入国を水際で阻止することが目的である。
[編集] 編成されている地域
全国の機動隊に配備されている。
特に米軍基地や原子力発電所等の重要施設を抱える、全国28都道府県の警察本部の機動隊及び、千葉県警察成田国際空港警備隊、皇宮警察特別警備隊の銃器対策部隊には、機関けん銃(H&K社製 MP5)が配備されている。
銃器対策部隊は、重要防護施設の警備等を主要な任務とし、特殊部隊(SAT)が出動するようなハイジャックや、テロ事件などが発生した際には、一次対処部隊として現場に派遣され、SAT到着後は後方支援活動を行う。
SATが置かれていない府県警察では、人質立て籠もり事件等が発生した場合、銃器対策部隊が刑事部の特殊犯捜査係と連携し、突入を担当することもある。また近年、一部の県警察では、銃器対策部隊を重大事件や、テロ対策の「切り札」と位置付け、特殊犯捜査係や機動捜査隊などと合同して突入班を編成している。
銃器対策部隊の関連部隊として、警視庁第七機動隊には「銃器対策レンジャー小隊」が設置されている。
銃器対策レンジャー小隊は、銃器対策部隊と同様に、機関けん銃(H&K社製 MP5)を装備しており、ヘリコプターやビルからロープで降下し、突入を行う。この部隊は、特殊部隊(SAT)の支援等を主要な任務としている。
通常、銃器対策部隊は、ロープ降下の訓練を実施していないが、近年は警視庁以外の警察でも、機動隊のレンジャー部隊が銃器対策部隊を兼務し、ロープ降下の技術を修得している事が多い。
[編集] 装備
- 車体側部に銃眼を備えた、防弾装甲車両。隊員の安全を確保する。車体上部にも、銃眼付きの盾(装甲板)が設置されている。車体の塗色は、配備された年によって若干異なるが、日本各地の警察に必ず配備されている。
- 一般的に警察官が使用するけん銃と同じものを使用する。「ニューナンブ」が主流であったが、最近はS&W社製 M3913を装備していることが多い(訓練では装備していない場合もある)。
- 豊和工業製の「ホーワM1500」を使用する。1970年に発生した瀬戸内シージャック事件の影響から、日本の警察は狙撃による犯人射殺には、伝統的に慎重を期した対応を取っている。
- 防弾盾
- 通常は防弾機能がある、金属製の盾を使用する。透明なものは基本的に使用しない。
- 防弾ヘルメット
- 防弾フェイスガードが付いた、ケブラー製ヘルメットを装備している。訓練ではフェイスガードを取り外して使用することもある。この防弾ヘルメットはジェット型だが、一部の部隊ではフリッツ型のヘルメットも装備している。
- 防弾ベスト
- 紺色で、厚みがあるものを使用。拳銃弾(トカレフ程度)に対する防護機能がある。主に胴体前面を防護するが、一部の地域では、首や上腕部も保護するものが採用されている。
- タクティカルベスト
- 予備弾倉等、様々な装備品を収納できるベストで、主に防弾ベストの上から重ね着をして使用する。警視庁ではアメリカ、イーグル社製の「TAC-V1」を使用している。
- 出動服
- 警備靴
- 主に、機動隊員の装着する「編上靴」を使用している。
- 一般的な警察官が所持するものと同じ(訓練では装備していない場合もある)。
装備の詳細は都道府県警察により異なる。
[編集] 関連項目
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陸上自衛隊 (☆…中央即応集団所属) |
☆特殊作戦群 (SOG) | ☆第1空挺団 西部方面普通科連隊 (WAiR) | 冬季戦技教育隊 | 対馬警備隊 参考項目…レンジャー |
海上自衛隊 | 特別警備隊 (SBU) |
航空自衛隊 | 基地防衛教導隊 |
海上保安庁 | 特殊警備隊 (SST) |
警察庁 | 特殊急襲部隊 (SAT) | 特殊捜査班 (SIT) | 銃器対策部隊 原子力関連施設警戒隊 | 総理大臣官邸警備隊 NBCテロ対応専門部隊 |
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