萌え
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萌え(もえ)とは
- 草木の芽が出る(伸びる)様子を示す。(詳細は下記「#古語における“萌え”」に記述。一般的な国語辞典には、ほとんどこの「古語」としての意味合いで表記されている。)
- アニメ・漫画・ゲーム等様々な媒体におけるある種の対象に対する興味や支持、傾倒、執着、何らかの感情の高まりなどを表す隠語・俗語(本項では、こちらの「萌え」に重点を置いて解説)。
日本で1980年代後半から1990年初頭頃に成立し、2000年以降オタク用語としてマスメディアに取り上げられるようになり、2005年にユーキャン流行語大賞に選出された。現在は様々な分野で使用されているが、いまだ使用法や解釈を巡り議論・対立が続き、また多くのマスメディアの間で「萌え=(性的で露骨な)お色気路線」という誤った認識で扱われていることも問題視されている。
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[編集] 「萌え」の意味論
「萌え」は、その主たる話者達(いわゆるオタク層)が関心を抱く様々な対象に対して向ける、様々な感情を総称する言葉である。
様々な対象と様々な感情の典型例には、以下のそれぞれを代表として挙げられる。
- 対象
- 感情
原則として定義を持ちえない俗語であり、話者各々の後付け解釈によってありとあらゆる意図・意味での用い方をされうる用語である。例えば、その客体となる対象は「架空のキャラクター」に限らず、実在の人物であったり、キャラクターにまつわる状況や状態といった概念的なものであったりと、多様性に富む。
「萌え」の感情の内容を、大掴みに一般語で言い換えるならば、「何かに魅力を感じること」や「魅力を感じることで興奮すること」などとも説明でき、魅了された時の気分や、その際の快よさを表した言葉だという理解で、概ね間違いは無い。しかし、いずれにせよ多くの異説や用例の表層でしかないことに注意。同様に、文脈によって意味が異なる感情を表した語の例としては、愛しさなどを参考にされたし(感情の一覧)。
元々、男性による使用例が主であったが、現在では男女問わず用いるユニセックスな言葉として定着している。実際、同性のキャラクターに対しても用いられているだけでなく、キャラクターそのものに対象を限定せず、その部分的な特徴(容姿や性格など)や、キャラクターにまつわるストーリーやシチュエーション、カップリングなどの諸要素に向けて用いるケースまで様々な使用例がある。それらの適用範囲は広く多彩であるが、その嗜好には一定のパターンが発見できるという見解もある(詳しくは萌え属性を参照)。
一般語としての「魅力を感じること」と、オタク用語である「萌え」の差異としては、「萌え」が俗語(隠語、ジャーゴン)であるがゆえに「この用語の意味を解する者だけに言葉を伝えよう」という、言葉の指向性をはらんでいるという側面がまずあり、更にはオタクが用いるとされる言葉である以上、その話者はある種の「オタクっぽさ」を周囲に感じさせやすい、という側面も指摘できる。
近年は「松下のケータイは折りたたむときの音が萌え」といった用法に対し、それは誤りだと指摘する声もあるが、そもそも「萌え」という言葉を古くから日常的に用いていたオタク系ネットワーカー(パソコン通信含む)たちの間ではこれは日常的な用法であった。日頃の何気ない、些細ではあるけれど喜びとされる感情を「萌え」の二文字で表現できることは、テキストのみで意思の伝達を図るネット社会の間では都合が良かったとする意見もある。
「感情」を表す言葉ではなく「対象そのもの」を指す代名詞として「萌え」と名付けるケースもあり、「これって『萌え』なんでしょ?」といったように、一種のレッテル貼りとして機能することもある。また、下記の統語論における「自動詞としての萌える」を名詞化したような用法もありうる(その場合は、話者にとって「魅力を感じさせるもの」を意味する言葉となる)。
「萌え」の反対語は「萎え(なえ)」。「萌え」に該当する感情が湧かず、興醒めであるという意味だが、殊更に「萌え」と対置する使用例はそれほど多くない。
[編集] 「萌え」の統語論
「萌え」は現代日本語文法の単語分類上名詞だが、形容動詞や動詞の語幹、さらに転じて感動詞としても用いられることもあるが、実際の使用者は感動詞としての仕様に嫌悪感を示す人もいる。
動詞の場合、活用はア行下一段活用となり、元来の日本語に存在する「萌える」(「芽生える」の意)という動詞と同一である。ただし、芽生えるの意の「萌える」は自動詞であり、下記のような他動詞的用法はありえない。
動詞「萌える」の意味は、文脈によって微妙に変化する。以下の例文において、「A」を「私、私達、彼」などの人称(主体)、「B」をその対象(客体)とする場合、以下のような形で機能すると考えられる。
- 「AはBに萌える」の場合
- 「Bは(Aにとって)萌える」の場合
- 「Bは萌えを感じさせる」という意味の自動詞(目的語を持たない動詞)となる
前者と後者では、名詞化した場合の意味も異なる。
- 他動詞の「萌える」を名詞化した「萌え」の場合
- 「萌えるという感情」を指した名詞となる(前出の意味論における「萌え」と同じ)
- 自動詞の「萌える」を名詞化した「萌え」の場合
- 「萌える対象」を指した名詞となる
ただし、特定の客体(「何に萌えるのか?」という目的語)や主体(「誰にとって萌えるのか?」という修飾語)を明らかにしない用法も多く、「萌える」という概念自体を自立化したものとして扱う傾向も見られる。これは、「泣く/泣ける」や「笑う/笑える」などの情動を表す動詞が、目的語や修飾語の有無を問わないことに類似する。
更に、日本語の常として主語は省略されがちであり、他動詞と自動詞の区別を曖昧にしたまま用いるケースも多い。書籍タイトルなど(『萌える英単語 ~もえたん~』など)で多用される「萌える」は、特にそうした用例の一つである。
[編集] 「萌え」の語用論
既述のように、「萌え」の適用範囲はその当初、概ねアニメ・漫画・ゲーム等の登場キャラクターに限定されていた。しかし、近年は使用者の増加に伴ってその適用範囲は拡大し、その意味や解釈も分野や対象によって変容し続けている。
特に1990年代末期から2000年代初期にかけ、メディアミックス的販売戦略(メディア戦略)によって萌え絵や萌え属性などのいわゆる“萌え要素”の概念が発達し、この頃から“萌え要素”を組み合わせてキャラクターや作品を創り出す手法・製法がマニュアル化される。この結果、萌え要素の組み合わせのみに重点を置いた安易な大量生産・粗製濫造が目立つようになってくるが、その一方で、1999年頃には『シスター・プリンセス』などに代表されるブームが始まったことで「妹萌え」などの用語が一般化するようになる。
2000年代に入ってからは、アイドルオタクを中心にして実在のアイドル(特にロリータアイドル)に対して用語の適用がなされ、この頃からマスメディアの間では「萌え=(性的で露骨な)お色気路線」という誤った認識で「萌え」を扱う傾向が強くなってくる。また、機械・現象、さらには学問・食物・薬物など様々な対象に対しても「萌え」という用語が使われるようになるが、結果的にこれもメディア戦略に利用され、内容の如何に関わらず無差別に「お色気路線としての“萌え”」と強引に結びつけた雑誌・書籍等の乱立をも招くことになる。さらに、アニメ・ゲーム業界と連動する一部模型産業においても、実際の人気の有無とは関係なしに特定の作品ばかりが集中的に扱われる傾向が強く、複数のメーカーが競合を繰り返しながら、特定のアニメ・ゲーム(または特定のヒロイン)等のフィギュアやキャラクターグッズが複数のメーカーから集中的かつ大量に商品化されることになる。
また、「萌え」を嫌悪・拒絶する人々(萌えフォビア)の間で「オタク弾圧」の口実に利用されたケースもあった。原因として、多くのメディアの間で「萌え=(性的で露骨な)お色気路線」として扱われていることによって「萌え=性的で卑しいもの」という誤解を招き、「萌え」の流行を盾にロリコンや二次コン、セクハラなどを正当化しようとする人々に対する差別や偏見、嫌悪などと相まって“一連の性犯罪やモラル崩壊の原因”として牽強付会されたことが原因だとする分析もある。
2005年にはユーキャン流行語大賞にも選ばれているが、実際には「萌え」が様々な対象に対して用いられていること、また、語源論や発祥の場、普及の契機についてさえ多数の説が存在している中、受賞者である「完全メイド宣言(秋葉原のメイド喫茶「@home cafe」従業員によるアイドルユニット)」に手柄を横取りされた形になり、この「完全メイド宣言」の売名行為や流行語大賞の存在意義、審査基準の不透明さについても問題視されている。また、2005年末から2006年初頭にかけてマスコミでも「完全メイド宣言」の売名行為に加担するかのように「萌え+メイド喫茶」の組み合わせで特集を組む番組・雑誌が相次いだ結果、メディアの間では実写・アニメを問わず「萌え=お色気路線」として定着する事態に陥ることになった。さらに、2006年に入ってからは「ヒロインにメイド服を着せれば、それだけで注目され、人気を得ることができる」という単純な理由で、作風(シナリオ・世界観)に関係なく、登場人物に“メイド服”を着用させる作品が相次ぐようになり、それと同時に「萌え=メイド(服を着た人物)」という歪んだ固定概念がそのままメディア戦略に反映された結果、最近ではあらゆる分野に、脈絡もないまま無意味に「メイド(服を着た人物)」が登場する作品が大量に氾濫するようになる。
ただし、これらの誤った認識やメディア戦略を利用した売名行為、一部業界による偏ったマーケティングに関係なく、現在の「萌え」産業そのものの人気が高い点は紛れもない事実であり、とくに「萌え市場」と呼ばれるマーケットが日本経済にある程度の影響を与えている点は(今後どのような形になろうと)前向きに考慮しなくてはならないだろうと言える。
2005年の「電車男」でも「萌え」の極めて限定的な使用の紹介がなされたため、萌えの認識は「限定的な使用」と「広範な使用」で意見が分かれ、この混乱をさらに著しくしている。また、「電車男」を著書『電波男』で批判した本田透は独自の視点から「萌え」を哲学し、“俺萌え”など個人的見解に基づいた独自の概念を提唱したが、本田透の“哲学(概念)”では対象がそれぞれのテーマごとに特異化しているうえ、非現実的な自己主張も多かったため、大半のオタクには受け入れられなかった。しかし、それらの批判・酷評に関係なく本田はこういった自己主張を複数の著作を通じて繰り返したことにより、世間での「萌え」に対するイメージが歪曲され、マイナスイメージが強調されたのではないかという指摘もある。
このように認識・解釈・使用法について著しい個体差があり、適用範囲が広範・多岐にわたるため、「萌え」の明確な定義を導くことは困難である。
[編集] 認知度・利用状況
社団法人コンピュータエンターテイメント協会(CESA)は2006年4月24日、一般消費者を対象とした「2006年CESA一般生活者調査報告書」を発刊した。「萌え」の認知度・利用状況については、全国の3~79歳の1103人を対象とし、萌えに関する調査を行った。CESAにおける萌え定義は「マンガ・アニメ・ゲームの登場人物(キャラクター)などに愛情を抱くこと」とされる。この定義で認知度を測ってみたところ男女性別平均の認知度は男性548人中66.4%、女性555人中65.6%であった。「よく知っていて自分でも使っている」と答えたのは男性の場合20~24歳の8.9%、女性の場合15~19歳の12.1%が最高であった。
[編集] 「萌え」の語源諸説
現在の意味の「萌え」の成立・語源については諸説あり、その起源や成立の過程は特定には至っていない。
これは、「萌え」が当時のネット(パソコン通信)上のコミュニティ、またはそれらと構成人員の多くが共通する周辺コミュニティで発生したと考えられる用語・用法であることから、客観的な根拠や物証の呈示が困難であり、また成立の過程と普及に至る契機を分離せず、多数の論者が「個人的に支持する作品やコミュニティにまつわる説」を起源や語源などとして主張してきたため、結果的に多数の説が乱立することになり、この混乱をより複雑かつ面倒なものとしている事も確かである。
「萌え」の起源に関する主要な説は概ね1980年代末~1990年代初頭頃に集約されることから、成立時期はこの前後と推測されている。
現在のところ、隠語「萌え」の語源として、既存の隠語を継承した後に発展したとする「継承説」と、まったく新規に発生したとする「新規発生説」の2つに大別されているが、これら2つの説が混在している説・主張も多く、この分類方法そのものに対する疑問も提示されている。
[編集] 継承説
- 1980年代からオタク系コミュニティで使用されていた、支持や傾倒、執着などを意味する隠語「燃え燃え」が何らかの要因によって同音の「萌え萌え」と表記されるようになり、後に短縮されて「萌え」として成立したとする説。「萌え萌え」と「燃え燃え」はその発音と成立当初の意味が通ずるとする指摘があり、実際に「萌え萌え」と表記されていた時期には「燃え燃え」とその用法・意味においても特に区別されずに混用されていた移行期間の存在も指摘され、誤変換説などこれを状況的に補強する傍証などが存在することから、断定は難しいが大筋では一定の説得力を持つものとされる。
- 反論: 当説を支持する主張の大半は体験談に依存しているため、物証に乏しい点が指摘されている。また、「新規発生説」として主張されている説と衝突する点をもって反証とする主張もある。
[編集] 新規発生説
- 本来の「萌える」という単語から、草木の萌芽などになぞらえ主に未成熟な対象を指定して形容する、新規の隠語として成立したとする説。特定のコミュニティやその運営者を始原とする(概ねそのコミュニティの参加者や運営者当人、またはその周辺の)主張者、特定の漫画やアニメ作品などに触発されて新規に成立したとする主張などが多い。
- 反論: 新規発生説に分類される主張の間でさえも、起源とする作品や主張者、成立時期などに互いに一致や収束が見られず、その中にはデマ・偽情報なども多く存在し、コミュニティ(BBSやチャットルーム等)の管理・運営者や関係者などが自らの宣伝や個人的願望のために“起源説”を捏造した例も多い(「ノート:萌え#改変された内容について」等参照)ことから、主張者の利害や恣意性だけでなく、その信憑性そのものに対する疑問も提示されている。また、「継承説」などの存在からも、少なくとも状況的にこれらの主張は現実を反映したものではないとする指摘もある。
[編集] 同音異義語「燃え」から変化したとする説
- 誤変換説
- 「萌え」と「燃え」は同音異義語であるため、パソコンやワープロなどで漢字に変換する際に「燃え」と変換すべきところが誤変換によって「萌え」となってしまうことがあり、既存の隠語「燃え」「燃え燃え」が誤変換によって「萌え」「萌え萌え」と表記され、それが受け容れられて成立したとする説。
- 実際に、1980年代後半から1990年代前半頃にかけてのMS-DOS全盛時代、読み「もえ」の第一変換候補が「萌え」となる漢字変換ソフト(FEP)が存在したとする指摘もあり、同時多発的に誤変換が発生していた可能性を示唆している。
- 反論: 当説に対しては、本物の「人為的ミス」が同時多発的に発生する可能性は皆無に近いことも指摘されていることから、隠語「燃え燃え」の表記を「萌え(萌え萌え)」とした契機を誤変換等の不作為的な偶然に拠るものではなく「意図的な誤用」や、「新規発生説」として特定の作品・作者等を始原とする主張・反論などが提示されている。
- 意図的な誤用説
- スラング「燃え燃え」の「萌え」への置き換えを、パソコンやワープロの誤変換などの偶然に求めるものではなく、駄洒落などの感覚で意図的に行ったものする説。人為的ミスに近い「誤変換説」とは違い、“意図的に行われた”ことによって同時多発的に発生した件についてもある程度の説得力はあるものの、往々にして特定の個人やコミュニティ、作品などを語源として主張する文脈と混同して取り挙げられることも多い。
- 反論: 意図的な誤用を行ったとする各々の主張の間で互いに成立させたとする場所や話者が一致せず、収束が見られない点を以って信憑性に疑問が提示されている。また特定のコミュニティや作品・個人などを始原とする主張の多くは現在広く認知されるに至った隠語「萌え」を「新規発生説」として特定のルーツと関連づけようとする姿勢から、主張者や支持者の利害や恣意性を指摘し、その信憑性を疑問視する声もある。
[編集] 情報・通信媒体を起源とする説
- パソコン通信説
- 1980年代末~1990年頃に、当時はもっぱらマニアと専門家の道具であったパソコン通信のBBSやチャットの場などで成立したとする説。
- 利用者の絶対数を反映して大手の商用BBSを発祥とする主張者が少なくない一方で、複数の草の根BBSを発祥とする主張における起源がやや先行するといった傾向があり、いくつかの先鋭的な草の根BBSで成立・普及した後に大手の商用BBSに持ち込まれ、本格的に普及を開始したのではないかとする見解が概ね妥当とされる。
- 一部には、特定の会議室や小規模な草の根BBS、特定の話者などを「萌え」の起源・開祖であるとする主張者および説も存在する。
- 反論: いずれの主張も「意図的な誤用説」「誤変換説」などの一種として評価すれば、これらの利用者の間で表記の誤用などが同時多発的に行われていた可能性が示唆されることとなり、単にそれらのうちの最古の記録をもって始原と同定する等といった判断も困難といえる。またパソコン通信の記録(ログ)における使用例も単に使用の痕跡の記録に過ぎず、「萌え」という用法それ自体が外部から持ち込まれた可能性を指摘する主張もあり、パソコン通信を発祥とする説において、単に現時点で最も古くまで遡ることの可能な記録を持つとされる媒体がパソコン通信であったに過ぎない、とする見解もある。
- 雑誌の投稿欄説
- 読者投稿企画を主体とする投稿誌、あるいは月刊誌・週刊誌等の読者投稿欄などを発祥とする説。一部には特定の雑誌や投稿者、作品などを指定して発祥とする主張もある。
- 反論: 本説の主張における成立時期はパソコン通信説より概ね半年~一年以上も遅いため、語源成立の証拠としての説得力は薄いと言わざるを得ないとする指摘がある。起源とするよりも、それらが普及する中で印刷媒体上で確認された最古の例と捉える方が適切と考えられる。
- ゲームセンター等の雑記帳説
- 1980年代末~1990年頃に、当時ゲーマー間の交流が活発であった東京都内の一部のゲームセンター等に設置されていたコミュニケーションノート(雑記帳)の上で、ビデオゲームや漫画・アニメのキャラクターなどを対象に「燃え燃え」から転じたスラングとして使われていたとする説。
- 反論: 本説の根拠となる当時のノートはその殆どが散逸し、整理や体系化はもはや不可能とされる点をもって、信憑性に疑問を提示する指摘がある。
- 鉄道駅の掲示板説
- JR中央線水道橋駅の上り線ホームに存在する「らくがきボード」、あるいはJR山手線代々木駅の山手線内回りホーム先頭付近に1990年代中頃まで存在していた同様のメッセージボード上で、1989年~90年頃に発生・成立したとする説。これらの掲示板は、駅側の厚意によって構内の宣伝ポスターの掲出スペースに摸造紙や裏返した廃棄ポスターなどを貼って充てられていたもので、各種雑誌などへの常連投稿者(ハガキ職人)や同人誌作家等の多くが通う各種学校や予備校が集中していた代々木駅やお茶の水駅などで下車ないしは同駅を通過するオタク層を中心にある程度の存在感を発揮し、1980年代にはしばしば若手の漫画家やアニメーター等が訪れて描いてゆくこともあった。
- 反論: 上記雑記帳説と同様に、物証の提示が困難である点をもって信憑性に対する疑問が提示されている。これらの掲示板は、基本的に当日夕刻には剥がされて廃棄されていたため、日々の「成果」を毎夕刻ごと(撤去直前)に写真に撮影し記録していた利用者も若干存在してはいたものの、それらは個人的なフィールドワークによるものであり、従って網羅的な資料は存在せず、部分的な資料についてもその殆どが散逸している点などが挙げられる。
- 雑記帳説や掲示板説は、利用者の多くは並行して月刊誌・週刊誌等の読者コーナーなどに投稿し、中には“読者コーナー”の常連となった読者(参加者)も少なくなかったうえ、パソコン誤変換説などとは違い、ほぼ全てにおいて「人間の手で直接書かれたもの=意図的な誤字」であることからも、もはや起源の同定は困難というのが真相である。またこれらの記録上で確認されうる最古の使用例についても、誤変換説などを評価してもその存在のみをもって始原と同定することは困難であり、明らかにこの時点で成立したと判断されうる記録については、現時点でも公式・非公式問わず該当する記録の存在を確認できていない。
[編集] 作品・キャラクター名を起源とする説
- 「恐竜惑星」萌説
- 1993年にNHK教育テレビ番組『天才てれびくん』の枠内で放映されたSFアニメ作品『恐竜惑星』のヒロイン「萌」を語源とする(あるいは萌の名に因んで既存の「燃え」を転じ、「萌え」の字を当てたとする)説。オタク評論家の岡田斗司夫は、自らの著書において当説を正史として紹介しており、これをもって文献資料としての正当性を指摘、支持する主張もある。
- 反論: 同時代のパソコン通信を経験してきた世代からは、恐竜惑星の放映以前から「萌え」「萌え萌え」が使われていたとする指摘もあり、「萌え」成立の契機や語源とする主張は現実を反映した説とは言い難いとする見解もある。その根拠を「(個人的に)保存したパソコン通信のログ」などに求めるユーザーが多い一方で、ルーツと断定することは困難としても、恐竜惑星が「萌え」を普及させる契機の一つとなった可能性を指摘する声もある。
- 「セーラームーン」土萠ほたる説
- 漫画・アニメ『美少女戦士セーラームーン』(武内直子作)のキャラクター「土萠(ともえ)ほたる」を語源とする説。「土萠ほたるに燃え燃え」が転じて「土萠ほたるに萌え萌え」などとなり、それが後に「○○萌え」と一般化されて普及していったとする。また、土萠ほたるは一部のファンの間で「土萠(ともえ)」という愛称で呼ばれていたという主張もあり、これが「萌えー」に転じたという主張もある。精神科医の斎藤環もこの説を正史として紹介しており、これを根拠として文献資料としての正当性を支持する主張もある。
- 反論: セーラームーンという一連の作品の連載およびTV放映の開始時期は上記の恐竜惑星より先行するものの、時系列順に検証すると、作中における土萠ほたるの登場は1994年の第三期『S』シリーズからであり、上記恐竜惑星の放映開始(キャラクター「萌」の登場)より一年遅れる点が指摘されている。また「萌」と「萠」の表記の違いから、土萠ほたるを語源とするのであれば、その成立過程において「萠え(萠え萠え)」という表記が少なくとも「萌え」や「燃え」と併記ないし混用される時期の存在が考えられるが、これが見当たらない点を持って系統発生的に不自然であるとする指摘もある。このため、土萠ほたるを語源とする主張も恐竜惑星説と同様に、現実を反映したものではないとする主張がある一方、セーラームーンは同時代のTVアニメとしては最も知名度の高い作品の一つであることから、既に成立していた「萌え」という隠語をセーラームーンを論じるオタクたちの間に広く認知させ、普及させる契機の一つとなった(彼らの主観において「萌え」を用いた最初の作品がセーラームーンであった)可能性は考えられるとする再反論も見られる。
- 「太陽にスマッシュ!」高津萌説
- 雑誌「なかよし」で連載されていた漫画『太陽にスマッシュ!』(あゆみゆい作)の主人公「高津萌」の熱狂的なファンがパソコン通信の会議室や掲示板等で「萌ちゃん燃え燃え」と主張していたものが「萌え萌え」になったとする説。語義には高津萌に対する感情が含まれるとされる。
- 反論: 主張者の絶対数が少ない事から語源にまつわる話題の中で取り扱われる頻度も稀であり、主要な説とは言い難い点などが指摘されている。また時系列上の検証についても疑問が指摘されている。
[編集] 古語における“萌え”
本項目では現代的用法の「萌え」に重点を置いて説明してきたが、同じ表記の古典語の説明についても以下に記述する。古語の萌えと現代語の萌えとの間に直接的な関係はないが、現代語の萌えに古語のニュアンスを感じる人もいる。
古語の場合、「萌え」と表記するのはヤ行下二段活用の動詞である「萌ゆ」の連用形である。 意味は、「芽が出る」「きざす」「芽ぐむ」を示す。 現在においても、文学的な雅語としては、この用法で用いられることもある。
過去に「萌え」が使用された事例
「萌え出ず」、「萌え立つ」、「萌え渡る」、「若草萌ゆる」等の表現もあり、それぞれ「植物が芽吹く」、「草木の芽がいっせいに出る」、「一面に芽が出る」と言う意味である。
また、萌黄色(もえぎいろ、萌葱色とも書く)と呼ばれる色は、葱(ネギ)の芽が出た時に見られる薄青と緑の中間色のことを指す。もっと簡単に言えば、薄い緑である。
この古典語の「萌え」と現代的用法の「萌え」の、両者の関連性についての研究は始まったばかりであり、まだ不明な点も多い。
人名にも「萌」の字が用いられることがあるが、この場合の意味は「古典的な“萌え”」であり、「現代的な隠語としての“萌え”」の意味ではない。しかし、アニメやゲーム等の登場人物の場合はこの限りではない。
[編集] 社会の評価
メディアでの扱い
経済的価値の注目
- 浜銀総合研究所(横浜銀行グループ)の調査によると、2003年度のコミック・ゲーム・映像などの「萌え」関連商品の市場規模は888億円に達した。また、地域おこしのPRとしても利用されるようになった。(参考ニュース)
否定的見方
- 「萌え市場はあくまでもオタク向け。オタクが増えない限り成長はなく、数年で数倍、という伸び方はしない。10人に1人がオタクになる時代は来ないだろう」という分析もあり、萌え市場がこれ以上は成長しないとされている。
[編集] その他
主にネット上で、10月10日 は「萌えの日」とされる。(縦に書いた「十月」と「十日」を横に合わせると「萌」の字になる事から)
[編集] 関連項目
- 萌え属性
- 萌えアニメ
- 萌え絵
- 萌え絵師
- 萌え株
- 萌え言語
- 萌えフォビア
- 擬人化(萌え擬人化)
- 二次元コンプレックス
- フェティシズム
- そっち系
- キュンキュン
- あやしいわーるど
- タン
- フィギュア萌え族
- 皆集萌え
- 侘
- 寂
- 萎え