風邪
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風邪(かぜ)は、主にウイルス感染による上気道(鼻腔や咽頭等)の炎症性の病気で、咳嗽、咽頭痛、鼻汁、鼻閉など局部症状(カタル症状)、および発熱、倦怠感、頭痛など全身症状が出現した状態を指す。このことから上気道感染とも呼ぶ。俳句では冬の季語として扱われる。
単一の疾患ではなく、医学的にはかぜ症候群として、急性鼻咽頭炎(普通感冒)から急性喉頭炎、咽頭結膜熱、インフルエンザ、マイコプラズマ肺炎等までの総称だが、全身症状がことに強く、時に重症化するインフルエンザ(流行性感冒;流感)は、風邪とは区別して扱われることが多い。
尚、俗称として、消化管のウイルス感染によって嘔吐、下痢、腹痛などの腹部症状と上記全身症状を来した状態を、「お腹の風邪」と呼ぶこともある。
風邪の多様な症状は、様々な病因によって発生し、稀には性病として知られる淋病が、喉粘膜に発生する事によっても、風邪によく似た症状が出る事が知られている。この他にも風邪と紛らわしい初期症状を示す病気は数多くあり、「かぜは万病のもと」と言われる由縁である。
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[編集] 病原体(病因)
かぜ症候群の80~90%はウイルス感染に、10~20%がマイコプラズマ、クラミジア、細菌感染による。これが「ほとんどの風邪には抗生物質は無効」とされる理由である(抗生物質の薬理の項参照)。
- ライノウイルス
- 鼻がくずれる、普通感冒といわれている。
- くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどが主症状で、年齢を選ばない。冬の感染が多い。
- アデノウイルス
- 夏に流行。プールで感染するプール熱として知られる。
- パラインフルエンザウィルス
- インフルエンザという名称が入っているが、インフルエンザウイルスとは別のウイルスである。
- 喉頭と下気道を起こしやすい。子供がかかる場合が多い。
- RSウイルス
- 気管支炎や肺炎を起こしやすい。乳幼児は重症になる場合もある。春と夏の感染が多い。
- コロナウイルス
- 冬に感染しやすい。SARSはコロナウイルスの新種と言われる。
- エコーウイルス
- エンテロウイルス
- 下痢を起こしやすい。夏に流行する。
- マイコプラズマ
- オリンピック熱として知られる。肺炎を起こしやすい。
- インフルエンザウイルスC型
- 毒性が弱いことから、インフルエンザウイルスCは風邪と判断される場合が多い(A・B型についてはインフルエンザを参照)。
他にもあらゆる細菌やウイルスが風邪の原因となり、その数は200種類以上といわれる。
風邪となる病原ウイルス(細菌)は上記のように非常に多く、またライノウイルスを例に挙げると、数百種類の型が存在するためワクチンを作ることは事実上不可能であり、どのウイルス(または細菌)が原因なのか診断するのも困難である。
[編集] 感染経路
病原体の感染経路には、以下の3種類がある。
- 空気感染(飛沫核感染)は結核,麻疹,水痘などの病原体が直径5µm以下の微小飛沫核となって長時間空中を浮遊し、空気の流れによって広範囲に伝播される感染様式で、空調設備のある個室への隔離や特殊なマスク(N95マスク)の着用が必須とされる。
- 飛沫感染はインフルエンザ,風疹,マイコプラズマなどの病原体が咳,くしゃみ,会話などで直径5µm以上の飛沫粒子となって飛散し、約1m の距離内で濃厚に感染を受けるもので、通常のマスク装着による飛沫予防策も有効とされている。
- 接触感染はいわゆる風邪、MRSA、O-157、赤痢、急性下痢症、A型肝炎などで見られ、感染源との接触した手・体による直接接触、或いは患者に使用した物品や環境表面との間接接触によって成立する。手洗いの励行は勿論、病原体に応じて手袋・ガウンなどの使用、聴診器など器具の共用禁止、消毒薬の使用、個室隔離など、様々な接触伝播経路における予防策が必要となる。
[編集] 風邪に対する生活上の注意
病原体に対しては、皮膚や粘膜が物理的防壁として、涙、唾液、咳、排尿、排便などが生理的排出機構として、更には免疫機構が重要な役割を演じている。根本的な風邪薬が無い現在、これら自然に備わった感染防御機構をいかに上手に働かせるか、が重要となる。
- 十分な栄養と、睡眠をとる。
- 安静にして休んでおくのは医療上も基本原則である。暴飲暴食、喫煙・飲酒も避ける。
- 外出後やトイレの後などに、手を石鹸でよく洗う。
- マスクを着用する。
- 上気道のカタル症状に気付いたらマスクを常時着用し、気道粘膜が冷えたり乾燥したりしないようにする(気道粘膜の感染防御能保護の為)。飛沫感染をとるインフルエンザなども病初期には風邪症状と呈するので、パンデミックを未然に防ぐ為にも、早めのマスクの着用は重要である。
- 冷気に身体を曝す、身体が冷えることが風邪の原因である(あるいは感染・発病を助長する)と一般には信じられている。が、実験ではそれを否定する結論が出されている。
[編集] 民間療法
風邪に対する民間療法には様々なものがある。中には相矛盾するものもある。一般的には免疫活動を活発化させると良いと考えられているが、必ずしもそれに繋がらないものもある。
- ネギ
- 縦に切り込みを入れ、軽く焼き、手ぬぐいなどにくるんで喉に巻く。
- 適当な長さに切って坐薬として使用する。
- 辛味成分には発汗作用があり、食用としても効果がある。
- ニラ
- その高い栄養価と胃腸に優しいという点から、雑炊の具などによく利用される。
- ショウガ湯
- お湯を注いですぐに作れるタイプも市販されている。体を温め、喉の痛みや咳に効果を発揮する。
- 蜂蜜大根
- さいの目に切ったダイコンを蜂蜜に一晩程度漬け、そのシロップを飲む。
- キンカンの甘露煮
- 数個を湯に漬け、飲用する。
- 玉子酒
- 日本酒、卵、砂糖をかき混ぜ、湯煎にかけて卵が固まらない程度に温める。手軽にやるには燗をつけた酒に溶き卵を加えながらかき混ぜる。生姜の絞り汁を加えると体の保温効果が高まり、より有効である。海外でもワインやホットウィスキーに卵を加え、蜂蜜などを使った「エッグノック」という飲み物が風邪を引いた際に用いられている所がある。
- ミルクセーキ
- 生卵と牛乳をよくかき混ぜて作るミルクセーキは、卵の良質なタンパク質やビタミンを美味しく手軽に摂取できる。とくに解熱剤などによって胃腸が弱ったときの重要な栄養源となる。場合によって砂糖などで調味する。
- ホットレモン
- ビタミンCを摂取し、体を温める。
- 陳皮
- みかんの皮を十分に乾燥させたもので漢方薬として用いられる。だが、みかんの皮を十分に乾燥させることができる環境があれば、みかんの皮を良く洗った上に十分に乾燥させれば、自宅でも作れないことはない。それを細かくして煎じて飲む。喉から来る症状によく効く。また、みかんの中身は水分とビタミンCが豊富なので、捨てずに食べる。薄皮は消化機能が低下している場合は、消化不良となってしまうこともあるので、注意する。
- 梅干し
- おかゆを食べるときの定番のおかずだが、風邪に対する効果も高い。
- モモ缶
- モモの果肉をシロップに漬けた缶詰を食べる。療法と言うよりも、見舞い品として多く用いられることから。
- 風呂に入らない(日本)
- 最新医療では風呂に入っても良いとされる。ただし、湯冷めには十分注意する。湯冷めを避けるため、浴室及び脱衣室の十分な保温が必要である。また、長時間の入浴は体力を消耗するため、避けるべきである。
- 体を冷やす(西洋)
- 氷を浮かべた水風呂に入ると効果的とされる。実際は全身を冷やすことは体力の低下に繋がる。高温が続くようなら腋下、内股などを冷やすと効果的。ただし、頸動脈は冷やされた血が脳に流れ込み脳に悪影響を与える可能性があるので、注意することが必要である。
- とにかく体を温める(日本)
- 実際は悪寒を感じたときに温めればよく、暑く感じているときにも温める必要はない。体感に見合ったことをするのが一番である。
- 水分を取る
- 汗をかくので水分を大量に取る。風邪をひくと体温が上がり、目に見える形での汗は減少するが、皮膚からの水分喪失の主体である不感蒸泄は増加する。電解質を補いながらの水分補給は必要である。ただし心不全や腎不全を持つ危険のある高齢者の場合は、過剰にならないように注意する必要がある。
[編集] 風邪はうつすと治るという迷信
病原体が感染してから発病するまでを潜伏期間と呼び、風邪がうつっても1~3日ほど自覚症状は殆ど現れない。また高熱など全身症状が強いインフルエンザとは異なり、いわゆる風邪は発病しても数日で治ってしまう。従ってうつした者が快方に向かう頃に、うつされた者が発病することから、所謂「風邪はうつすと治る」という迷信が広まったと考えられる。
予後良好の風邪でも、肺気腫など慢性呼吸器疾患患者にうつした場合、或いは肝硬変や糖尿病、エイズなど免疫力の低下した者にうつした場合、現疾患或いは風邪症状が急に増悪することがあり(参照:日和見感染)、「かぜは万病のもと」ということもあり、充分な配慮が必要である。