H&K MP5
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MP5A3 |
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H&K MP5 | |
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種類 | 特殊部隊向け短機関銃 |
製造国 | ドイツ |
設計・製造 | ヘッケラー&コッホ社 |
口径 | 9mm |
銃身長 | 225mm |
ライフリング | |
使用弾薬 | 9mmパラベラム弾 |
装弾数 | 15・30発 |
作動方式 | クローズドボルト ローラーロッキング |
全長 | 550mm(ストック展開時700mm) |
重量 | 3.08kg |
発射速度 | 800発/分 |
銃口初速 | 400m/s |
有効射程 | 200m |
H&K MP5とは、ドイツのヘッケラー&コッホ社が対テロ特殊部隊向けに、同社のHK31(G3)の製造技術を用いて1960年代に開発したサブマシンガンである。ドイツ語では Maschinenpistole 5(「5号機関拳銃」の意)と呼ばれ、この略号が MP5 となる。最初はHK54と呼ばれていた。
目次 |
[編集] 開発背景
MP5 登場以前の短機関銃は、携行性と信頼性は高かったものの、命中力が低く、ただ単に「目標を足止めする」目的の機関銃に過ぎなかった。しかしこのMP5は、当時多くのサブマシンガンで採用されていたオープンボルト方式ではなく、ボルトを閉鎖した状態で発砲するクローズドボルト方式を採用し、G3ライフルの射撃システムを流用して、H&K社の得意とするローラーロッキングシステムを取り入れた。
このため銃自体の振動が少なく、フルオートマチック(連射)時の射撃が容易となり、命中率は非常に高く、それまでのサブマシンガンとは一線を画す銃であった。しかし高性能ゆえに高価で、部品数が多いため、綿密な整備が不可欠となった。また、泥や砂に弱いことから、戦場などでは信頼性が低いのが難点であり、登場当時の配備は、西ドイツの部隊が中心となり、輸出は少数であった。その上に拳銃弾を撃つのには大袈裟すぎると言う事で過剰性能と揶揄され、長い間活躍という活躍も無く影に隠れる事も多かった。
[編集] 契機から現在まで
しかし1977年、ルフトハンザ航空615便が「黒い九月」を名乗るドイツ赤軍と PFLP の混成グループ4人にハイジャックされる事件が発生し、ソマリアのモガティシオ空港にハイジャック機が着陸した後、西ドイツの特殊部隊 GSG-9(国境警備隊第9グループ)がMP5を携行してボーイング737型機内に突入した。
また、世界で初めて突入の際に閃光弾を使用し、テロリスト3名を射殺、1名を逮捕、人質全員を救出した。
これによりMP5の名は瞬く間に世界に知られ、先述の過剰性能と判断された評価も「精度を要求される、特殊部隊用短機関銃」と言う位置付けへと変化(余談ではあるが、過剰性能と評価が下された後に評価が改められた珍しい例である)し、短機関銃という新しいカテゴリの始祖的存在となった。
そして現在MP5は度重なる進化によって性能が向上し、アメリカSWAT、イギリスSAS、香港SDU、韓国KNP-SWAT、日本警察の特殊急襲部隊・銃器対策部隊(成田国際空港警備隊を含む) 、海上保安庁の特殊警備隊、陸上自衛隊の特殊作戦群、海上自衛隊の特別警備隊等、警察系・軍事系を問わず、様々な特殊部隊に配備されており、世界一有名なサブマシンガンとなっている。また、小型版であるMP5K(クルツ)や、これにアタッシュケースと組み合わせて発砲できるコッファーと呼ばれる派生型モデルも登場し、シークレットサービス系統の警察組織でも使用されている。
[編集] 主なバリエーション
[編集] 9mm×19弾モデル
- MP5(スタンダードモデル)
- MP5A1(折り畳みストック型)
- MP5A2(MP5の改良型)
- MP5A3(MP5A1の改良型)
- MP5A4(MP5A2のモデルチェンジ型)
- MP5A5(MP5A3のモデルチェンジ型)
- MP5SD1(MP5A1のサイレンサー装備モデル)
- MP5SD2(MP5A2のサイレンサー装備モデル)
- MP5SD3(MP5A3のサイレンサー装備モデル)
- MP5SD4(MP5SD1のモデルチェンジ型)
- MP5SD5(MP5SD2のモデルチェンジ型)
- MP5SD6(MP5SD3のモデルチェンジ型)
- MP5K(秘匿用小型モデル。クルツとも)
- MP5Kコッファー(MP5Kをアタッシェケースに入れ、そのまま発砲できるようになっているセットモデル)
- MP5PDW(MP5Kに折りたたみストックを装備したモデル)
- MP5F(MP5A5のフランス向モデル “FRANCE”から)
- MP5N(MP5A5の米海軍向モデル “NAVY”から)
- HK94(民間向けMP5、フルオート機能を除去したスポーターモデル)
- SP89(民間向けMP5K、同上)
[編集] 10mmAuto弾モデル
- MP5/10(MP10)
[編集] .40S&W弾モデル
- MP5/40
[編集] 逸話
1950年代、近代軍備化を計ろうとしたドイツはベルギーの FN 社に同社の FAL をライセンス生産したいと要請したものの FN 側はドイツ再軍備による侵略を恐れ、これを拒否。そこで第二次大戦後、スペインに身を寄せていたドイツ人技術者たちがH&K社を設立し、G3ライフルを開発した。やがてMP5が有名になり、FN社は対抗馬としてP90を開発したが、世界各国の配備数では、MP5の方が圧倒的に多く、皮肉な事に立場が逆転している。しかしH&K社はPDW競争においてMP5KをベースにしたMP5PDW を開発したが、従来通りの9mm拳銃弾を使用していることがネックとなった為(防弾チョッキの着用が当たり前になった現代においては、拳銃弾は意味を成さないという考えから)に、危機感を抱いた同社は MP7 を開発した。
なお、「防弾チョッキの着用が当たり前になった」と言っても、全てのテロリストが防弾チョッキを着用しているとは限らず、あまりに威力のある銃弾では犯人(テロリスト)の体を貫通し、人質に危害が及ぶ危険性があるため、9mm弾を使用するMP-5シリーズは、今後も警察系対テロ部隊などを中心に使用されると推測される。
[編集] スペック(スペックは主にA5シリーズ)
[編集] MP5SD5
- 全長:780mm
- 重量:3.4kg
- 口径:9mm×19
- 装弾数:15/30発
[編集] MP5K
- 全長:325mm
- 重量:2.0kg
- 口径:9mm×19
- 装弾数:15/30発
[編集] 登場作品
MP-5は特殊部隊が登場する作品には、必ずと言ってよいほど登場するため、全てを掲載することは不可能である。以下はその中でも特に印象的・効果的に使用されている作品である。
[編集] ゲーム
- 両陣営共に購入可能。スライドストック、サイレンサー無しモデルなのでMP5A5。
- 祭囃し編で山狗部隊の装備として登場。入江襲撃等で使用。作中ではMP5SD3とA5タイプが登場しているが、このゲームの時代設定は昭和58年であり、この時点でA5は存在しない。おそらくA3の誤りと思われる。
Ⅲを除いてほぼ全ての特殊部隊が装備している。(ⅢではSWATがUZI、FB1がAK-47、陸軍兵士がM16を使用しているのでMP5は使用しない)作中ではFBIと軍隊が所持。 VC以降では正式上SMG(勿論サブマシンガンの略称)となっているが外見から見ると明らかにMP5A5だと思われる。 なお、リバティーシティーストーリーズではタイプが違うのでおそらくMP5KA1の短縮タイプだと思われる。 また、サンアンドレアスではFBIや軍隊以外にも(何故か)主人公のギャンググループと敵対するギャング団が使用している。
[編集] 映画
- 『ダイ・ハード』シリーズ
- 特に『ダイ・ハード1』では通常とは逆にテロリストがMP5を持っており、警察官の主人公がそれを奪ってゲリラ戦を展開する。主人公役のブルース・ウィリスがMP5を乱射するシーンが有名で、一般にもMP5が知られるようになった作品。
[編集] 小説
- 大石英司『サイレント・コア』シリーズ
- 陸上自衛隊の特殊部隊サイレント・コアの標準装備の一つになっていた。部隊設立当初は原子力施設内での戦闘を念頭に置いていた為、ベレッタM93Rを装備していたが、射程の問題からMP5に置き換えられた、苛酷な環境での戦闘でデリケートなMP5がジャム(故障)を起こしてしまい、やむなく敵のAKを奪って使うが同じ環境でもAKはビクともしないというシーンがでてくる。2006年に発売された虎07潜を救出せよではMP7に更新されているが、死に至る街ではある種のウイルスの影響で凶暴化した人物を射殺する際に、SATが射殺した事にする為使用されたり、インフラ施設の警備に当たっている元自衛官の職員に貸し出すと言った形で使用されている。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- Heckler & Koch - ヘッケラー&コッホ社公式サイト