短機関銃
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短機関銃(たんきかんじゅう)は、携行し易く、連射が可能な銃器の一つ。禁酒法時代の米国でギャングが使用したサブマシンガン (submachine gun)の訳語である。「軽機関銃」と訳されたり呼称されることもあるが、全く別のものである。短機関銃には後述のように他にも様々な呼称があるが、本項では認知度の高い短機関銃を主に使用する。
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[編集] 概要
短機関銃と機関銃との共通点はともに連射できるという点しかない。短機関銃は拳銃弾を使用し、携行しやすい拳銃の特徴を引継ぎ、射程が短いが取り回しが楽で歩兵1名で携帯・使用でき市街戦や森林戦のような近接戦闘に向いている。機関銃は逆方向に発展したもので、戦場の制圧が目的であり、小銃弾を使用し、射程が長く、威力が強い代わりに携行に不便で、射撃には複数の要員(最低4名)が必要である。自動小銃・アサルトライフルのような他の自動火器は両者の中間なので、機関銃と短機関銃の関係は類似ではなく正反対と言える。そこで短機関銃を拳銃の一種に分類することもある。発明国のドイツでは Maschinenpistole と呼ばれ、日本語には機関短銃と訳されている。
[編集] 歴史
[編集] 初期
世界で最初に実用化された短機関銃は、第一次世界大戦末期にドイツ軍が開発したMP-18/1である。1918年ドイツ軍最後の大攻勢の際、塹壕戦の膠着状態を打開のために編制された突撃部隊(Stoßtrupp)に配備され、戦果を挙げたといわれる。しかし、結果的にこの大攻勢が失敗に終わったため、軍内部では短機関銃も失敗作という烙印を押され、残ったMP18はすべて警察に払い下げられた。
拳銃弾を使用するフルオートマチックの銃としてはイタリアのビラール・ペロサ(1915)の方がMP-18/1よりも早い。しかしこれは銃の前部に二脚と後部に二個のグリップを持ち、接地して使用することが前提になっていることなど、本格的な機関銃が不足したための代用としての性格が強く、のちの短機関銃的な運用はなされなかった。従って通常短機関銃のカテゴリーには入れられていない。
米国ではスプリングフィールドM1903小銃に、ペダーセンの考案した“ペダーセン・デバイス”を組み込んだ“小銃もどき”な外見をした短機関銃が開発された。この銃は.30口径拳銃弾を使用し、機関部から右斜め上に向かって長い弾倉が突き出ているのが外見的特徴である。弾倉は何発入りだったのか、制式採用となったのか、実戦で使用されたか等については明らかでない。 第一次大戦直後にトンプソンM1921が完成、アメリカ陸軍が制式採用したが、軍縮の影響や制式小銃のM1ガーランドより高価であったことなどから大量配備には至らなかった。短機関銃にもっとも興味を示したのは、禁酒法下で密造酒で利益を上げ武装強化を図るギャング(マフィア)たちと、それを取り締まる警察組織(FBI、連邦国税局など)であった。1930年代のギャング映画では「シカゴ・ピアノ」「シカゴ・タイプライター」「トミーガン」の通称でトンプソンM1928(しかもドラムマガジン付きの)が頻出し、「ギャングの武器」というイメージを印象づけることになった。
[編集] 第二次世界大戦

ドイツではヒトラー政権下で再軍備が始まると、戦車に随伴する歩兵の火器として短機関銃が見直され、MP38やその改良型であるMP40が造られた。これらの短機関銃は兵器としての性能もさることながら、レシーバー等を鋼板プレスで生産し、ショルダーストックも金属製とするなどの手法で、従来の削り出しレシーバーや木製ストックに比し、生産性を著しく高めた画期的な小火器であった。MP40の評価が高かったことは、敗戦まで大量生産され総生産数は100万丁に達するほどであったことからもうかがえる。
スペイン内乱に派遣されたドイツ義勇軍のコンドル軍団はMP18の改良型であるMP28短機関銃を使用。その価値は実証され、大戦初期の電撃戦の成功に見られるように短機関銃は大きな戦果を挙げた。この当時の歩兵が通常装備したボルトアクション方式の手動ライフル銃は、連射・速射が利かず、またリーチの短い銃剣に比べ連射可能な短機関銃は近接戦闘における有効性が高かった。スペイン内乱の戦訓からドイツ陸軍では前線指揮官に対してMP38を配備した。
ドイツの短機関銃に対抗するため、ソ連ではPPsh1941が大量に使用され、またイギリスではステン短機関銃が開発され、それぞれ歩兵用兵器として広く用いられた。
米国ではトンプソンが第二次世界大戦初頭から本格的に使用されるようになったが、生産性が悪いため、代わって開発されたM3(通称:「グリースガン」)が1943年に採用されることになる。自動車メーカーの鋼板プレス技術を用いて開発されたこの銃は、MP40の影響が明白であった。
[編集] 戦後/現代
第二次大戦後、従来のボルトアクションライフルに代わり、連射可能で汎用性のあるアサルトライフル(突撃銃)が歩兵装備の主流となった。このため、正規戦において運用シチュエーションの限られる短機関銃は装備の主流から退くが、代わりにその携帯性と威力を買われ、ゲリラ戦やテロでの使用が増大する。
例えば、戦後に出現した短機関銃であるイスラエルのUZIサブマシンガンは、練度の低い民兵でも容易に扱えることを主眼として設計されたものである。またベトナム戦争では北ベトナム側がサイレンサー付M3短機関銃のコピー銃をゲリラ戦で使用し米軍を苦しめた。この銃は第二次大戦当時に中国の抗日戦支援のために米軍が供与したものがコピーされたものである。
その後、1977年のルフト・ハンザ航空機ハイジャック事件では、GSG-9がドイツ製短機関銃MP5を用いて鎮圧に成果を挙げ、その名を広めた。MP5シリーズの成功によって、特殊部隊向けの高精度な「拳銃弾を使用する、低威力のアサルトライフル」とも言える短機関銃の新たなカテゴリーが誕生する(現にMP5は、ヘッケラー&コッホ社が自社のアサルトライフルG3を小型化し、使用弾を9mmパラベラムにしたものである)。
これ以降、短機関銃は従来の「安価(かつ簡易)な歩兵用」と、MP5によって拓かれた「特殊部隊用」の2つの路線に分かれることとなる。
拳銃弾は小銃弾に比べ初速が遅いためサイレンサーが造りやすいという利点があった。また、発射音の小さな短機関銃はゲリラ戦やテロには格好の武器であった。中国はその後、改良を繰り返し独自の消音短機関銃を発展させた。また、先述のMP5にも、消音仕様のMP5SDが存在する。
近年では、P90の様に、拳銃弾でもライフル弾でもない、高速で貫通力に優れた専用の小口径弾を使用することで、アサルトライフル並の貫通力を実現している物が登場している。これは車両等の搭乗者が自衛のために持つことを想定したもので、「PDW(Personal Defence Weapon:個人防衛兵器)」に分類されている。
[編集] 日本での呼称
兵器の分類と呼称は、技術の進歩や戦術の変化、しばしば政治的な理由により、時代や国により異なる。日本では軍隊と警察、陸軍と海軍といった組織間で訳語が異なる。特に短機関銃ではその傾向が強い。
帝国陸軍では落下傘部隊用に制式採用した一〇〇式機関短銃がある。同時期に帝国海軍では同種の銃器を短機関銃と呼んでいた。しかし旧日本軍では短機関銃を重要視せず、実用に供された一〇〇式短機関銃は1万丁足らずである。
陸上自衛隊では米国製のM3A1を短機関銃と呼んでいたが、1999年に導入されたミネベア社製の同種の銃を9mm機関拳銃と称し、日本の警察も2002年にテロ対策に導入したドイツ製のH&KMP5を機関けん銃と、海上保安庁は高性能自動短銃と呼んでいる。これは政治的な判断によるものとされる。
[編集] 機関銃と短機関銃の区別の問題
日本のメディアにおいては、大きさや形、弾の種類などを問わず、連射できる銃をすべて「機関銃」と表現する傾向にあるが、実際は、上述のように機関銃と軽機関銃は本来全く異なるものであり、さらにアサルトライフルのような自動小銃は多くが連射できるため、この表現は必ずしも正確ではない。
事件報道においても、2004年に宇都宮市内でおきた立て篭り事件で犯人の男はイングラムM10/M11に似た短機関銃(実際は玩具)を窓から出したが、メディアはおおむね機関銃と報道している。その一方で、陸上自衛隊の9mm機関拳銃はそのまま機関拳銃と呼ばれる場合が多い。これらは、銃の形態としては同じものに入るが、状況により呼称が変わる一般的な例といえる。
これは日本だけの傾向ではなく、アメリカでも、1930年代のギャング映画以来、近年の映画『アンタッチャブル』等に至るまで、頻出する短機関銃のトンプソン(トムソン)M1928などは単に「マシンガン」と呼ばれることが多い。ブルース・ウィリスがMP5を乱射するシーンで有名なダイ・ハードでもMP5はmachinegunと呼ばれており、当然日本語の字幕や吹き替えでは「機関銃」となっている。また、日本映画の『セーラー服と機関銃』で主演の薬師丸ひろ子が乱射するのは、実際にはM3サブマシンガン(通称グリースガン)であるなど、メディアにおける用語の簡略な扱いが、機関銃と短機関銃の区別を困難なものにしている現状がある。
[編集] 主な短機関銃
[編集] 軍用短機関銃
- ベルグマンMP18短機関銃(ドイツ)
- エルマ・ベルケMP40短機関銃(ドイツ)
- エルマ・ベルケEMP44省力短機関銃(ドイツ)
- ハーネルMP28短機関銃(ドイツ)
- ハーネルMP41短機関銃(ドイツ)
- カールグスタフm/45(スウェーデン)
- MP-9(スウェーデン)
- TEC-9(MP-9の民間版)
- トンプソンM1短機関銃(アメリカ)
- レイジングM50/55短機関銃(アメリカ)
- M3短機関銃(アメリカ)
- イングラム(アメリカ)
- キャリコM100
- ステン短機関銃(イギリス)
- スターリング短機関銃(イギリス)
- MAT 49短機関銃 (フランス)
- UZI (イスラエル)
- Vz 61スコーピオン(チェコスロバキア)
- ZK-383短機関銃(チェコスロバキア)
- ブリスカヴィカ(ポーランド)
- 一〇〇式機関短銃(日本)
- ベレッタ M38A モスキート(イタリア)
- ベレッタ M12 ぺネトレーター(イタリア)
- ビラール・ペロサM1915短機関銃(イタリア)
- シュパーギンPPSh-41短機関銃(旧ソ連)
- PPS短機関銃(旧ソ連)
- PPD-34/38短機関銃(旧ソ連)
- スオミM1931短機関銃(フィンランド)