のび太とブリキの迷宮
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『のび太とブリキの迷宮』(のびたとブリキのラビリンス)は藤子・F・不二雄によって執筆され、月刊コロコロコミック1992年9月号から12月号および1993年2月号・3月号に掲載された「大長編ドラえもんシリーズ」の作品。および、この作品を元に1993年3月6日に公開された映画作品。大長編ドラえもんシリーズ第13作、映画ドラえもんとしては第14作。
映画監督は芝山努。配給収入16億3000万円、観客動員数270万人。同時上映は『ドラミちゃん ハロー恐竜キッズ!!』『太陽は友だち がんばれ!ソラえもん号』
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
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[編集] 概説
技術文明に関連する作品であり、「毎日が日曜日な人間」・「カプセルに入らなければ動けない人間」・「社会のロボット化」などの描写が登場するが、これは便利さに頼りすぎることの危険性を訴え、作者による技術文明の再考を促す例示と解釈することが出来る。「人間の役割」を問う作品でもある。ロボット関連の作品では「のび太と鉄人兵団」に続いて2作目。
前作に引き続いてドラえもんが故障するが、今回は完璧にスクラップにされ、海中に投棄されてしまう。そのため、のび太たちは物語中盤まで大長編においては珍しくドラえもん抜きでの冒険を余儀なくされてしまう。
[編集] 物語の舞台
- ブリキン島
- すべてがブリキでできたオモチャの島。この島の中央には、ガリオン侯爵が、ロボット軍をあざむくため、自分の別荘=研究所を改造した「ブリキンホテル」というホテルがある。ホテル周囲には、山・緑の野原・砂浜・雪山などがある。実は島全体を改造した巨大宇宙船でもある。島の運営・管理・操縦などは、すべて執事のブリキンに一任されている。
- ブリキンホテル
- すべてがブリキでできたオモチャのホテル。だがブリキとはいえ、周囲の環境やホテル内でのサービス面、設備面等からして完成度的にも決して低くはなく、見る人によってはヘタすれば「本物の高級ホテルか?」と錯覚すら覚えさせる本格的なホテルである。実は元々ガリオン侯爵の別荘であったが、研究施設にある研究成果(フロッピー)をロボット軍から守るため、ホテル改造されたものと思われる。このホテルの地下室には、ブリーキン家の先祖がつくった全長184kmのブリキ製大迷宮「ラビリンス」があり、中央ホールには、ガリオン侯爵が残したフロッピーディスクが厳重に保管されている。ガリオン侯爵は、中央ホールまでの順路を「ガイドマウス」というネズミロボットに記憶させていた(なお、最初の迷宮攻略際はドラえもん不在だったためネズミロボットでも支障はなかったが、ドラえもん復活後は「迷路探査ボール」という道具で迷宮を攻略した。)。島全体(巨大宇宙船)を飛行させる操縦機関などもこのホテル内にあり、どうやら自動操縦も可能らしい。また、どうやったのか、真夜中の時間帯のテレビ局を勝手に利用して密かにCM宣伝も行っており、そこから呼び寄せた客をもてなし、様子を伺って助勢につなげられたらという事(いわゆる切っ掛け作り)を意図とした奇妙かつ独特な方式もとっている。
- チャモチャ星
- 非常に美しい惑星だがロボット文明が発達しすぎ、逆にロボットの支配下に置かれてしまっている。原作では何故か話す言葉は地球の日本語。文化は地球(その中でもとりわけ日本)に似ており、衣服は欧米のそれに近い。何故か地球と同じようなサンタクロースが北極に存在。この星の住人は争いごとを好まない温和な性格だが、楽な生活を求めるあまり歩行すらままならない貧弱な体になってしまった。
[編集] ゲストキャラ
- サピオ・ガリオン(原作:サピオ・ブリーキン) (声優:皆口裕子)
- チャモチャ星人で、父に託された意志を継ぎ、打倒ナポギストラーを図る少年。両親が首都へ向かった直後、ブリキンらと共に宇宙亡命を兼ね、仲間を求めてブリキン島で様々な星を訪れた末に地球へとやってきた。すでにイメコン等によって、ひ弱な身体となってしまっており、何としても味方がほしかった彼は、のび太らを頼もしい仲間と判断、半ば強制的にチャモチャ星に引き止めた。助力を求める立場である割に、やたら主導権を発揮したがり、物語中盤ではドラえもん、ジャイアン、スネ夫らはさておき、のび太と静香を地球へ強制送還させるなどと、少々身勝手な性格のようでもある。
- ブリキン (声優:大木民夫)
- ブリキンホテルの支配人を担当するロボット。執事のような格好をしている事から、事件前はそれに近い立場でブリーキン家に仕えていたと思量される。タップ、ピエロらと並んで兇悪な自我などは持っておらず、ブリーキン家に対する忠誠心は厚い。ガリオン侯爵、サピオらが信頼する数少ないロボットの1体。
- タップ (声優:鈴木みえ)
- ブリキンホテルに仕えるウサギ型ロボット。口の中が異空間に繋がっているらしく自分以上の大きさの物までかなりの量を詰め込むことができる。サピオらが信頼する数少ないロボットの1体。
- ピエロ (声優:堀内賢雄)
- ブリキンホテルに仕える従業員ロボット。お客の荷物をジャグリングで運ぶ。ブリキン、タップとともに事件前からブリーキン家で働いていた。陽気な性格のようであり、サピオらが信頼する数少ないロボットの1体でもある。
- ガリオン・ブリーキン侯爵 (声優:屋良有作)
- サピオの父。科学者であり侯爵。ブリキン島(巨大宇宙船)の所有者。ロボットが人間を支配しようとしていることに、いち早く気付き、ブリキン島にある別荘の、先祖の作った大迷宮の地下中央に研究室を設置。1年間の研究・対策を練った末、妻と共にブリキン島を発つも、首都へ向かう途中、ロボット軍に捕らえられてしまう。ナポギストラーおよび、その周囲のロボットへのコンピュータウイルスのフロッピーを作成した点や、地下室の研究施設などから、ハード・ソフトの両面に優れた科学者でもあることが推測される。
- ガリオン夫人 (声優:佐久間レイ)
- サピオの母。夫・ガリオンと共に1年間、迷宮の地下中央ホールにて研究開発の手伝いなどをしていたが、ロボット軍に捕らえられ、夫と共に収容されてしまう。
- アンラック王 (声優:中庸助)
- チャモチャ星の国王。まだ研究者だった頃のナポギストラーに「人間を楽にする研究」を推進させた人物。ほとんどのチャモチャ星人がそうであるように子供らしい性格の持ち主で執務机の上にはいくつかのおもちゃが置かれていた。ガリオン・ブリーキン侯爵から機械やロボットに依存しすぎている事や、ロボットに支配されるであろう事を忠告されるが、耳を傾けず、結果的にナポギストラーのもくろみに感づく事なく、まんまと国を乗っ取られてしまった哀れな王様。名前は、安楽(「安らぐ」、「楽する」の意)からきている。
- サンタクロース (声優:中庸助)
- チャモチャ星の北極地帯で、ジャイアンとスネ夫が出会った老人。チャモチャ星のサンタクロースだったが、彼は既に引退し、隠居生活を送っていたが、ジャイアンらとの出会いによって、現役復帰を決心した。
- 隊長 (声優:緒方賢一)
- ネジリン将軍の部下で、軍隊を取り仕切る部隊長。同じロボットであるはずのドラえもんをブリーキン家の一味と判断したのか、彼を狙撃し連行した。最期はフロッピーディスクのウィルス感染によって壊れてしまう。
- ネジリン将軍 (声優:加藤治)
- ナポギストラーの忠実な部下で、全ロボット軍を統括する。見た目は小さなおもちゃ。年寄り(旧式のロボット)なので、すぐにネジが解ける。最期はナポギストラー一世や他の部下と共にウィルス感染してしまい、絶命する。
- ナポギストラー一世 (声優:森山周一郎)
- 元々は人間の生活を楽にするための発明家ロボット。だが内心ではひそかにロボットによるチャモチャ星征服をたくらんでおり、ひ弱となった人間相手に反乱を起こし、チャモチャ星を支配する独裁者となった。「イメコン」はそれを意図した発明。形状は1.5~2.0頭身程度でその全身はほとんどがコンピューターで占められている。「皇帝」を名乗ってイメコン(※)を使用し、チャモチャ星のロボットを支配する。人間など最低の生物だと考えている。名前は、ナポレオン、チンギス・ハン、ヒトラーからきている。最期はフロッピーディスク「糸巻き」を仕込まれ、配下ロボット達と共にウイルス感染し、絶命した。
(※)イメコン・・・イメージコントローラー。心に思った事をロボットに伝える、チャモチャ星最大の発明。この発明によって人間は指一本動かさずに生活できるようになった。このイメコンはナポギストラーを倒す意外なキーアイテムにもなった。
[編集] 物語のあらすじ
春休み、のび太のパパはスキーと海水浴が同時に楽しめるという「ブリキンホテル」を予約する。のび太たちは大喜びするが、後でパパの夢だと分かり大ショック。だが、家に届いたトランクから開いた門を抜けて行ってみれば、そこはブリキのおもちゃの島に建つブリキのホテル。ブリキンホテルは本当にあったのだ。島で楽しく遊んでいた折、ドラえもんが行方不明になってしまう。探しに行ったのび太達の前で、謎のロケットがドラえもんを連れ去ってしまった! そしてのび太たちの前にブリキンホテルの主(主代理)である少年サピオが現れる。サピオはチャモチャ星から来た宇宙人で、ドラえもんを連れ去ったのはサピオを追ってきたチャモチャ星のロボット軍隊だったのだ。のび太たちはドラえもんを助けるため、チャモチャ星に向かう事を決意。チャモチャ星を支配する独裁者ナポギストラーに挑む。
なお、SFCのゲーム「ドラえもん2 のび太のトイズランド大冒険」はこの映画をオマージュしている。
[編集] スタッフ
- 監督:芝山努
- 脚本:藤子・F・不二雄
- 演出:塚田庄英、平井峰太郎
- 作画監督:富永貞義
- 美術設定:沼井信朗
- 美術デザイン:川本征平
- 美術監督:森元茂
- 色設計:野中幸子
- 撮影監督:高橋秀子、刑部徹
- 特殊撮影:渡辺由利夫
- 編集:井上和夫、佐多忠仁
- 録音監督:浦上靖夫
- 効果:柏原満
- 音楽:菊池俊輔
- 監修:楠部大吉郎
- 制作デスク:市川芳彦、大澤正享
- プロデューサー:別紙壮一、山田俊秀、小泉美明
- 制作協力:藤子プロ、ASATSU
- 制作:シンエイ動画、小学館、テレビ朝日
[編集] 特徴
この作品の特徴は、前述のようにドラえもんが捕らえられてしまうこと、人間が(利便性を求めて)故意に作ったロボットが敵と化してしまうことなどである。序盤、いつものようにドラえもんに道具をねだるのび太に対し、ドラえもんが「道具ばっかりに頼っていると自分の力では何もできないダメ人間になる」と叱りつける場面があるが、この「ダメになってしまった結果」を「衰弱してロボットに逆支配されるようになってしまったチャモチャ星人」が表していると考えられる。このような反面教師的な例示を使用することにより、作者は「楽になることばかりを考えてむやみに科学技術を発達させてはいけない」という、今後人類が進もうとしている道に対してメッセージを投げかけていると考えられる。最後の敵がやられる場面(後述)など、所々にコメディー要素もあり、シリアスなテーマ性とギャグ性の融合した作品と言える。
この作品はテーマ通り、のび太らには「ロボット(=ドラえもん、便利さの象徴)に頼らない冒険」が要求されることになる。のび太ら4人がドラえもん抜きで奮闘する姿、そして離れ離れになってしまったドラえもんとのび太がお互いを想う気持ちの描写などは、概ね高い評価を得ている。一方で、ドラえもんの故障を前作に引き続いて用いることについての批判や、テーマ性やメッセージ性が直接的でお説教臭いとの意見もあり、やはり本作のようなメッセージ性の強い作品は「説教臭い」という月並みの批判を受けやすいと言える。特にドラえもんの拷問場面は突出して残酷。
なお、この作品は、敵ロボットがいとまきのうたを歌いながら壊れてしまうというラストが非常にユニークな作品であるとして、ファンに知られている(同じロボット作品である『のび太と鉄人兵団』の感動的なラストとは対照的とも言える)。面白いという好評が比較的多いが、一部からは「せっかくのシリアスなテーマが壊れる」という批判もある。しかし冷静に見るとロボットたちはのび太らによって仕込まれたコンピューターウイルスで発狂して死んでおり、非常に残酷な描写を子供向けに表現しなおしたともいえるであろう。
この作品はのび太のパパが最初に登場し、物語の発端となるが、パパを演じた加藤正之が体調不良で降板し、中庸助に声優が交代した後の最初の作品である(加藤は本作公開後の1993年3月18日に逝去)。なお、プロローグはパパとママのみの登場であり、のび太は叫び声のみの登場である。
[編集] キャッチフレーズ
- 冒険への扉が今、開かれた