ウィリアム・ブレイク
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ウィリアム・ブレイク(William Blake, 1757年11月28日 - 1827年8月12日)は、イギリスの画家、詩人、銅版画職人。
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[編集] 生い立ち
ロンドンの靴下商人の家に生まれ、幼少期から絵の才能を示して絵画の学校に入り、彫刻家に弟子入りした。長じてからは銅版画家、挿絵画家として生計を立てていた。1787年頃、新しいレリーフ・エッチングの手法を発明。その手法を用いた彩飾印刷 (Illuminated Printing) によって、言語テクストと視覚テクストを同列に表現することが可能となっただけでなく、出版者から独立し、自分の印刷機で自分の本を印刷することも可能となった。
「幻視者 (Visionary)」の異名を持ち、唯理神ユリゼン (Urizen) やロス (Los) などの登場人物たちが現れる「預言書」と呼ばれる作品群において独自の象徴的神話体系を構築する。初期においては、神秘思想家スウェーデンボルグの影響もみられた。詩の中では詩集『無垢と経験のうた (The Songs of Innocence and of Experience)』に収められた「虎よ!虎よ!(Tyger Tyger)」で始まる「虎 (The Tyger) 」がよく知られている。
晩年にはダンテに傾倒、イタリア語を習い、病床で約100枚にのぼる『神曲』の挿画(未完成)を水彩で描いた。
[編集] 日本におけるウィリアム・ブレイク
わが国では、明治27 (1894)年、大和田建樹により初めてブレイクの詩が邦訳、紹介される。大正期には、白樺派の柳宗悦による本格的ブレイク研究が手がけられ、以後、日本におけるブレイク受容と研究がきわめて盛んに行われるようになる。
[編集] ウィリアム・ブレイクと現代
ブレイクは多くの思想家、アーティストたちにインスピレーションを与え続けている。
オルダス・ハクスリー (Aldous Huxley) はエッセイ集『知覚の扉』(The Doors of Perception, 1954) のなかでたびたびブレイクに言及しながらドラッグによる幻視体験について語っている。この本はブレイクの『天国と地獄の結婚』から「If the doors of perception were cleansed every thing would appear to man as it is: infinite (知覚の扉が清められたなら 物事はありのままに 無限に見える)」という言葉をプロローグとして引用している。
ロック・グループ、ドアーズ (Doors) のバンド名もブレイクに由来する(ハックスリーの本から影響を受けていたジム・モリソンの提案による)。
ビートの詩人アレン・ギンズバーグは、1948年、自宅でブレイクの詩集『無垢と経験のうた』を読んでいるとき、「ひまわりよ (Ah! Sun-flower)」「病める薔薇 (The Sick Rose)」「迷子になった女の子 (The Little Girl Lost)」を朗読するブレイクの声が外側から聞こえてくる幻聴体験をしたと言われる。
アルフレッド・ベスターによる長編SF作品『虎よ、虎よ!(Tiger! Tiger!)』(1956年) の題名は、ブレイクの詩「虎 (The Tyger)」の "Tyger, Tyger, burning bright" に由来している。
ブレイクの水彩画『巨大な赤い龍と太陽の衣をまとった女 (The Great Red Dragon and the Woman Clothed in the Sun)』が、トマス・ハリスの小説『レッド・ドラゴン』(1981年)のなかで重要な役割を与えられている。
ロック・グループ、タンジェリン・ドリームのアルバム『Tyger』(1988年) は、ブレイクの詩と思想に対するオマージュとなっている。彼らは斬新な曲作りをすることで、「虎 (The Tyger)」や「ロンドン (London)」をはじめとするいくつものブレイクの詩に新たな息吹を吹き込んでいる。
ジム・ジャームッシュ監督による『デッドマン』(1995年)も、ブレイクの詩と思想に対するオマージュ作品であり、登場人物たちの名前や多くの台詞がブレイクの作品に由来している。
ロック・アーティストのパティ・スミス (Patti Smith) は、2001年にパリで行われたライブで、「オオカミが来たと叫ぶ少年 (Boy Cried Wolf)」の演奏の前に「子羊 (The Lamb)」(ブレイクの詩集『無垢のうた』のなかの短詩)を朗読している。この朗読は、アルバム『ランド (LAND)』(2002年)のディスク2に収められている。
[編集] 作品
彩飾印刷された作品
- 『すべての宗教はひとつである (All Religions are One)』(1788年頃)
- 『自然宗教は存在しない (There is No Natural Religion)』(1788年頃)
- 『セルの書 (The Book of Thel)』(1789年)
- 『無垢のうた (The Songs of Innocence)』(1789年)
- 『無垢と経験のうた (The Songs of Innocence and of Experience)』(1794年)
- 『天国と地獄の結婚 (The Marriage of Heaven and Hell)』(1790年から1793年頃)
- 『アルビオンの娘たちの幻想 (Visions of the Daughters of Albion)』(1793年)
- 『アメリカ ひとつの預言 (America a Prophecy)』(1793年)
- 『子供たちのために 楽園の門 (For Children: The Gates of Paradise)』(1793年)
- 『ユリゼンの [第一の] 書 (The [First] Book of Urizen)』(1794年)
- 『ヨーロッパ ひとつの預言 (Europe a Prophecy)』(1794年)
- 『ロスの歌 (The Song of Los)』(1795年)
- 『アハニアの書 (The Book of Ahania)』(1795年)
- 『ロスの書 (The Book of Los)』(1795年)
- 『ミルトン (Milton)』(1804年)
- 『エルサレム (Jerusalem)』(1804年)
- 『両性のために 楽園の門 (For the Sexes: The Gates of Paradise)』(1818年頃)
その他の詩・散文作品
- 『詩的素描 (Poetical Sketches)』(1783年)
- 「月の中の島 (An Island in the Moon)』(1784年頃)
- 『ティリエル (Tiriel)』(1789年頃)
- 『フランス革命 (The French Revolution)』(1791年)
- 『四人のゾアたち (The Four Zoas)』(1797年 未完)
- 『永遠の福音 (The Everlasting Gospel)』(1818年)
主な色刷版画、色刷ライン・エングーレーヴィング
- 『アルビオンは立ち上がった ( 歓びの日あるいはアルビオンの踊り)(Glad Day or The Dance of Albion)』(1793年)大英博物館蔵
- 『アダムを創造するエロヒム (Elohim creating Adam)』(1975年)テート・ギャラリー蔵
- 『ネブカドネザル (Nebuchadnezzar)』(1975年)テート・ギャラリー蔵
- 『ニュートン (Newton)』(1975年)テート・ギャラリー蔵
主な銅版画
- エドワード・ヤング『夜想 (Night Thoughts)』の挿絵 (1797年)
- ロバート・ブレア『墓場 (The Grave, a Poem)』の挿絵 (1808年)
- 『ヨブ記 (Book of Job)』の挿絵 (1825年)
主な水彩画
- 『巨大な赤い龍と太陽の衣をまとった女 (The Great Red Dragon and the Woman Clothed in the Sun)』(1803-05年頃)ブルックリン美術館蔵
- 『最後の審判 (The Last Judgement)』(1808年)
- ダンテ『神曲 (Divine Comedy)』の挿絵 (1824-27年)
[編集] 関連項目
- 八村義夫: <愛の園>
- Dragon Ash : <ゆり>(英題: The Lily)に曲を付けてカバー。シングル「Shade」収録)