ラージハドロンコライダー
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ラージ・ハドロン・コライダー (Large Hadron Collider、LHC) とは、高エネルギー物理実験を目的としてCERNが建設した世界最大の衝突型円型加速器の名称。スイス・ジュネーブ郊外にフランスとの国境をまたいで設置されている。2007年に実験開始。また、LHC実験はそこで実施される実験の総称。
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[編集] 概要
陽子ビームを7TeVまで加速し、正面衝突させることによって、これまでにない高エネルギーでの素粒子反応を起こすことができる。 CERNが建設し、2000年に実験を終了したLEP (Large Electoron-Positron Collider) の地下トンネル(全周 27 km)に、陽子-陽子衝突のための加速器を新たに設置して建設。
陽子ビームの衝突点には、地下100メートルの地点に6階建てのビルに相当する観測点4箇所に観測装置5台を設置し、高エネルギー物理現象から生じる粒子を観測する。これまで行われてきた実験は、標準モデルの検証である。LHC実験では、より精度の高い、標準モデルの検証を行う。そして、それを超えて次の大統一理論(超対称性理論)を実験的に検証することが目的。
[編集] 性能
- 加速手順:陽子イオン源からスタートし、陽子イオンを加速する直線加速器、そして陽子シンクロトロンへ陽子ビームを注入するための蓄積源としての陽子シンクロトロンブースター、陽子シンクロトロンブースターで加速された陽子ビームを、更に加速するためのSPS (Super Proton Syncrotron)。SPSで蓄積され、バンチと呼ばれる状態になった陽子ビームをLHC本体へ注入し、最終加速を行う。衝突点での陽子衝突のイベントは、1秒間に800万回に達する。
- 加速装置:超伝導加速空洞により陽子ビームを 7TeV(1012電子ボルト)まで加速し、8T 強の超伝導電磁石でその軌道を曲げて円形の周回軌道に乗せる。
- 7TeVの陽子ビームどうしを正面衝突させることによって、14TeVの重心系衝突エネルギーを得る実験が行われる予定(※)。
[編集] 実験グループ
- ATLAS (A Toroidal LHC ApparatuS): 日本も参加している実験グループ、およびその実験装置の名称。
- CMS (Compact Muon Solenoid)
- LHCb (LHC-beauty)
- ALICE (A Large Ion Collider Experiment)
- TOTEM (Total Cross Section, Elastic Scattering and Diffraction Dissociation)
- LHCf (LHC-forward)
ATLAS実験では、これまでの高エネルギー実験と同様にして、ドリフトチェンバーを用いた複合実験装置によって、陽子-陽子衝突によって得られた、素粒子を観測することが目的。CMSでは、中間子群を生成することによって、原子核の内部構造を明らかにすることが目的。LHCbでは、KEKのB-Factoryと同様にして、標準理論の検証が目的。ALICEでは、重イオンの衝突実験を行い、クォークグルーオンプラズマ相など重イオンの物理的構造を明らかにすることが目的。TOTEMでは、素粒子の弾性散乱や回折分離実験を行うことが目的。LHCfは宇宙線の大気中での相互作用のシミュレーションモデルの検証が目的。
[編集] 主な実験テーマ
- 高エネルギーの陽子・陽子衝突実験によって、標準理論を検証し、それを超える新しい物理を発見する (ATLAS, CMS)
- 標準理論の中で唯一未発見であり、素粒子に質量をもたらすとされているヒッグス粒子の発見とその性質の測定
- 標準理論を超える、大統一理論の有力候補である超対称性理論で予言される超対称性粒子の発見
- 余剰次元理論に基づく計算により、LHCの衝突エネルギーで生成可能とされる極小ブラックホールの検出と、それによる余剰次元理論の検証(多分、LHCの実験エネルギーでは難しいが、実験の候補には上がっている)。
- 高エネルギーの陽子・陽子衝突実験によって、B粒子の性質を測定することにより、物質と反物質の非対称性を研究する(LHCb)
- 高エネルギーの重粒子加速衝突実験によって、クォーク・グルーオン・プラズマを生成し、その性質を測定する (ALICE)
[編集] 備考
- SPSを建設するための開発研究で確率冷却法が開発されている。
- LHC@HOMEで実験のシミュレーションデータ生成への一般参加を募っている。
[編集] 関連項目
- 高エネルギー物理学
- 素粒子物理学
- 加速器
- 国際リニアコライダー (International Liner Collider)