加速器
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加速器(かそくき)とは、荷電粒子を加速する装置の総称である。原子核/素粒子の実験に用いられるほか癌治療などにも応用される。
原子核/素粒子の加速器実験には加速された粒子を固定標的に当てるフィックスドターゲット実験と、向かい合わせに加速した粒子を正面衝突させるコライダー実験がある。
高エネルギーの電子は軌道を曲げると光を発する(これをシンクロトロン輻射という)ので、大強度の高エネルギー光線を得る目的で電子シンクロトロンを用いる場合がある。このような施設を放射光施設と呼んでいる。
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[編集] 加速方式から見た加速器の種類
[編集] 静電加速器
電極間に直流高電圧を付加し、その電位差により荷電粒子を加速する装置。連続ビームを得られるのは静電加速器のみである。加速エネルギーの上限は付加することのできる電圧の大きさに依存する。最大加速電圧はバンデグラフ型の場合で数十MeVであり多くの場合原子核/素粒子実験で必要とされるエネルギーを達成できない。そのため後述する線形加速器や円形加速器の入射加速器として使用されることが多い。直流高電圧を作り出す方法により以下の2つのタイプに分類される。
[編集] コッククロフト・ウォルトン型
ダイオードとコンデンサーを用いた倍電圧整流回路を用いて高電圧を得る方式。加速エネルギーは数百keV~数MeV程度。
[編集] バンデグラフ型
絶縁物のベルトに電荷を乗せて電極に運び高電圧を得る方式。1930年にVan de Graaffにより実用化された。加速エネルギーは10MeVほど。
バンデグラフの派生版としては、電荷移送ベルトの代わりに金属円筒を絶縁性プラスチックでつないだペレットチェーンを用いたペレトロンが存在する。加速エネルギーは20MeVほど。
また、加速粒子として負イオンを用いて正電極に向けて加速し、正電極内で炭素膜などで電子を剥ぎ取って正イオンにし、接地電極に向けて再度加速することで、高電圧を2重に利用する効率の良い加速が可能となる。これをタンデム加速器という。
[編集] 線形加速器
電極間にかけられる電圧にはさまざまな実用上の問題から上限が存在する。その上限を超えて粒子を加速する工夫をしたもののうち、粒子を一直線上で加速するものを線形加速器と呼ぶ。リニアック (linac - Linear Accelerator) とも呼ぶ。
基本的な構造は多数の胴体筒を並べたものである。隣り合った胴体筒同士が異符号に帯電するように高周波電圧を印加する。それぞれの筒の間(以下ギャップと称す)では電場が存在するので粒子に力が働く。一方筒の内部は一様電位なので電場が存在せず粒子は力を受けない。筒の長さと印加する高周波の周波数をうまく調整してやると、筒の中を通る粒子がギャップを通過するたびに加速するように調整することが可能である。
この方式でエネルギーの大きなものを作ろうとすると加速器の長さを長くしなければならない。当然加速器が大きくなれば技術的にも敷地の点でも困難は増す。したがって従来の線形加速器の加速エネルギーは数百MeV程度までであって、それ以上のエネルギーを必要とするときはサイクロトロンやシンクロトロンが用いられてきた。この場合シンクロトロンの入射器として線形加速器が用いられることが多い。
しかしながら21世紀に入って高エネルギー実験の最前線に挑戦する新しい線形加速器の建造が期待されるようになった。これは電子を加速する際にシンクロトロンを用いるとシンクロトロン輻射の影響でせいぜい十数GeVのエネルギーを達成するのがやっとであるという壁に突き当たったからである。いっぽう線形加速器は文字どおりまっすぐで、加速粒子を曲げる必要が無いためシンクロトロン輻射の影響を考える必要が無く、加速器自体の物理的な長ささえ確保できればより高エネルギーまで加速することが可能である。
[編集] 円形加速器
荷電粒子は磁場中をとおるとローレンツ力を受けて曲げられる。これを利用して荷電粒子に円形の軌道を描かせながら加速する加速器を作ることができる。
[編集] サイクロトロン
磁場を用いて荷電粒子に円形の軌道を描かせて加速する加速器のうち、磁場が時間的に変化しないものをサイクロトロン(cyclotron)と呼ぶ。
[編集] 古典的なサイクロトロン
サイクロトロンの基本的な構成は一様磁場中に設置された二つの半円形の電極である。電極は直線になっている側が開放された中空の構造で、開放された端が向かい合うように設置されている。
加速を開始するためにはサイクロトロンの中心付近に荷電粒子を入射し、電極に交流電圧を印加する。電極間の電場によって加速された荷電粒子は電極の中の一様電場中で磁場から受けるローレンツ力のみをうけて円形軌道を描き、再びギャップに到達する。このときにちょうど反対の電場が電極間に生じるような磁場、電極間電圧の周波数を選んでやると粒子は再び加速されもうひとつの電極の中を先ほどより半径の大きな円形軌道を描き飛行する。軌道の拡大と粒子の飛行速度の増加がつりあうため次に粒子がギャップに到達するまでにかかる時間は先ほどと同じである(等時性)。したがって、一旦加速をはじめた粒子はギャップに到達するごとに加速され大きなエネルギーを比較的容易に達成することができる。
以上は理想的なサイクロトロンに関する記述であるが、実際にはいくつかの制限がある。まず粒子の散逸を防ぎ安定した加速を実現するために粒子を収束(フォーカシング)する必要があり、そのためには磁場を一様な状態からずらさなければならないということである。もうひとつは、粒子が相対論的速度(光速に近い速度)まで加速されるともはや上記の等時性は成り立たず加速を継続することが出来なくなるという点である。
これらの問題点を解消するために歴史的には様々な工夫がなされてきたが、エネルギーフロンティアの開拓はシンクロトロンに道を譲ることとなった。現代のサイクロトロンはセクター型にすることにより上記の問題を部分的に解決し、大強度重イオン加速器として原子核物理学の発展に寄与している。
[編集] AVFサイクロトロン
強収束の原理を用いたサイクロトロン。
[編集] シンクロトロン
[編集] 加速粒子から見た加速器の種類
現代の高エネルギー加速器は一部の例外を除きシンクロトロンである。しかし同じシンクロトロンであっても加速対象の粒子によって設計は異なる。
[編集] レプトンコライダー
レプトン(主に電子・陽電子)は電荷に比べて質量が軽いため軌道を曲げるのは簡単であるが、速度が速いため円形加速器を用いた場合シンクロトロン輻射の影響でエネルギーロスが大きい。したがってベンディングマグネットは小さいものでもかまわないが、加速装置が巨大になり、設計にも困難をきたす。そのため2004年現在において次世代高エネルギー電子コライダーとして線形加速器を用いたリニアコライダーを建設することが計画されている。
[編集] ハドロンコライダー
ハドロン(主に陽子・反陽子)は電荷に比べて質量が重いため高エネルギーで軌道を曲げ てもシンクロトロン放射をおこしにくい。そのため強力な磁石で、半径の小さな 高エネルギー加速器ができる。
[編集] 重イオンコライダー
高エネルギー重イオン同士の衝突のような高温高密度状態ではクォークグルーオンプラズマのような新しい物質相が生成されると考えられているので、このような状態を作り出すための重イオン加速器が存在する。重イオンは陽子よりもさらに曲げにくいためにその設計はより困難である。現在もっともエネルギーの高い重イオンコライダーは、アメリカブルックヘブン国立研究所にある相対論的重イオンコライダー(Relativistic Heavy Ion Collider, RHIC)である。CERN(セルン)の次世代ハドロンコライダーであるLHC(ラージハドロンコライダー,Large Hadron Collider)は重イオンコライダー実験を行うこともできるように計画されている。
[編集] 加速器開発の歴史
初期の加速器は粒子の加速に高電圧を利用するものだったが、1930年代に、高周波の電場を利用した線形加速器や磁場を使った円型の加速器サイクロトロンが誕生。
1944年に位相安定性原理を加速に用いるシンクロトロンが誕生。1952年に強収束の原理が発見、粒子を加速するエネルギーはそれまでの1~10万倍になった。
初期の加速器では、粒子を固定標的にあてて出てくる粒子を調べていたが、エネルギー効率が悪かったため、2つの粒子をそれぞれ正面から衝突させるようになる。この方法で、エネルギーがより反応へ向けられることとなった。
日本では理化学研究所の仁科芳雄博士らが1937年から陽子サイクロトロンを建設、しかし第二次世界大戦の敗戦で、GHQの指示によりサイクロトロンが破壊。1951年5月に来日したローレンスの助言により、12月に科研(理研)で小型サイクロトロンの建設が始まり、52年12月に運転を始めた。61年に完成したのが東京大学原子核研究所の7億電子ボルト電子シンクロトロン。 電子シンクロトロンは1966年には13億電子ボルトに到達。1971年に高エネルギー物理学研究所(KEK、現高エネルギー加速器研究機構)発足、陽子シンクロトロン建設開始。そして1976年、120億電子ボルトの陽子シンクロトロンが完成。
1986年に完成したKEKのトリスタン電子・陽電子コライダーはそれぞれの粒子を 250億電子ボルトまで加速して衝突させ、重心系衝突エネルギー500億電子ボルトに到達。1988年から世界で初めて超伝導加速空洞を大規模に導入し、1989年にはビームエネルギー 320億電子ボルトを達成した [1] (なお、超伝導加速空洞は、トリスタン実験以来、様々な大型粒子加速実験装置で採用されることになった)。
1994年にKEKの後続であるKEKB加速器の建設が開始、1999年に完成。現在に至る。
[編集] 世界のおもな加速器研究施設
- 日本
- 高エネルギー加速器研究機構[1]
- 理化学研究所[2]
- 大型放射光施設 (SPring-8) [3]
- 放射線医学総合研究所[4]
- 大阪大学核物理研究センター[5]
- 東北大学原子核理学研究施設[6]
- アメリカ
- ドイツ
- スイス/フランス
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
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