中島義道
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中島 義道(なかじま よしみち、1946年7月9日 - )は、福岡県門司市(現:北九州市門司区)出身の哲学者である。自称、「戦う哲学者」。専攻は、時間論、自我論、コミュニケーション論。イマヌエル・カントを中心的に研究。東大教養学部にて大森荘蔵の薫陶を強く受けつつ、哲学者としての修行を積んだ。
「哲学研究者」など「学者」であることを嫌悪し、さかんに「半隠遁」ということばをつかう。それは完全に俗世から離れて生きることではなく、適度に世界と関わりながらも内心においてけして「死」という絶対不幸を忘れず、常に自分の「生」について考えながら生き続けることである。
人間の生きにくさ、そして人生に於ける不幸を論じたエッセーを数多く執筆する。「幸福な人生など絶対に存在しない」と強く主張する。『生きにくい……』、『どうせ死んでしまう……』と言う著書のタイトルを見れば分かる通り、かなり虚無的である。ただ、厭世的ではない。
また、著書『人生を<半分>降りる』のタイトル通りの思考を、自ら実践している。具体例としては、勤める大学の入学式や卒業式に出席しない。自分の父や母の死を知人、周辺の近しい人に報告しない(つまり、その葬儀には自分の知人や近しい人は一切出席しない事になる)。姪の結婚式に呼ばれても出席しない。パーティーにも出ない。つまり、一切の儀式を拒むという行為が挙げられる。但しこの様に述べる一方で2006年度入学式には出席した事が大勢の学生により確認された。
様々な騒音が鳴らされる騒々しい現代日本に異議を申し立てた、エッセー『うるさい日本の私』に拠って、「戦う哲学者」として広く認知された(タイトルは、川端康成の『美しい日本の私――その序説』と、大江健三郎の『あいまいな日本の私』の、2人のノーベル文学賞受賞記念講演のパロディである。この「うるさい」ということばは、「日本」だけでなく「私」をも形容しているのだ、と本人自身が述べている)。「騒音問題」に関する偏執狂的な行動には賛否が分かれる。だが、中島自身が世間の善良な市民(マジョリティ)と闘争する生活を送っているために、読者の中には肯定的に評価している者も少なくない(ここで挙げた「マジョリティ」(大多数)という表現は著書にも散見される)。古典落語『小言幸兵衛』の雰囲気、つまり、頑固爺さんという既に喪失されたイメージが、そこに見えるという向きもある。 しかし「騒音問題」などに対するアプローチを見た限り、偏執狂的なまでに抗議することを、単なるパフォーマンスとして行っているようにも思われる。
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[編集] 学歴
- 1965年 - 神奈川県立川崎高等学校卒業。東京大学文科I類入学。
- 1971年 - 同教養学部教養学科科学史・科学哲学専攻卒業。
- 1973年 - 同大学院人文科学研究科哲学科修士課程退学。
- 1976年 - 同法学部卒業。
- 1977年 - 同大学院哲学科修士課程修了。
- 1983年 - ウィーン大学基礎総合学部哲学科修了。哲学博士号取得。
[編集] 職歴
- 1977年 - 東海大学海洋学部非常勤講師。
- 1978年 - 同解雇。
- 1983年 - 東大助手。
- 帝京技術科学大学(帝京平成大学)助教授。
- 1995年 - 電気通信大学電気通信学部人間コミュニケーション学科教授。
[編集] 著書
[編集] 単著
- 『<対話>のない社会――思いやりと優しさが圧殺するもの』PHP研究所(PHP新書)。
- 『カントの時間構成の理論』理想社。
- 『ウィーン愛憎――ヨーロッパ精神との格闘』中央公論新社(中公新書)。角川書店(角川文庫)、『戦う哲学者のウィーン愛憎』に改題。
- 『モラリストとしてのカント1』北樹出版。
- 『時間と自由――カント解釈の冒険』晃洋書房。講談社(講談社学術文庫)。
- 『哲学の教科書――思索のダンディズムを磨く』講談社。講談社学術文庫。
- 『「時間」を哲学する――過去はどこへ行ったのか』講談社(講談社現代新書)。
- 『うるさい日本の私――「音漬け社会」との果てしなき戦い』洋泉社。新潮社(新潮文庫)。
- 『人生を<半分>降りる――哲学的生き方のすすめ』ナカニシヤ出版。新潮社(新潮OH!文庫)。
- 『哲学者のいない国』洋泉社。筑摩書房(ちくま文庫)、『哲学者とは何か』に改題。
- 『カントの人間学』講談社現代新書。
- 『哲学の道場』筑摩書房(ちくま新書)。
- 『孤独について――生きるのが困難な人々へ』株式会社文藝春秋(文春新書)。
- 『うるさい日本の私、それから』洋泉社。
- 『ひとを<嫌う>ということ』角川書店。角川文庫。
- 『私の嫌いな10の言葉』新潮社。新潮文庫。
- 『「哲学実技」のすすめ――そして誰もいなくなった……』角川書店(角川oneテーマ21)。
- 『働くことがイヤな人のための本――仕事とは何だろうか』日本経済新聞社。新潮文庫。
- 『騒音文化論――なぜ日本の街はこんなにうるさいのか』講談社(講談社+α文庫)。
- 『生きにくい……――私は哲学病。』角川書店。角川文庫
- 『ぼくは偏食人間』新潮社(ラッコブックス)。
- 『カイン――「自分」の弱さに悩むきみへ』講談社。
- 『時間論』筑摩書房(ちくま学芸文庫)。
- 『たまたま地上にぼくは生まれた』講談社。
- 『不幸論』PHP新書。
- 『「私」の秘密――哲学的自我論への誘い』講談社(講談社選書メチエ)。
- 『怒る技術』PHP研究所。
- 『ぐれる!』新潮社(新潮新書)。
- 『愛という試練――マイナスのナルシスの告白』紀伊國屋書店。
- 『カントの自我論』日本評論社。
- 『どうせ死んでしまう……――私は哲学病。』角川書店。
- 『英語コンプレックス脱出』NTT出版。
- 『続・ウィーン愛憎――ヨーロッパ、家族、そして私』中公新書。
- 『カントの時間論』岩波書店(岩波現代文庫)。
- 『偏食的生き方のすすめ』新潮文庫
- 『悪について』岩波新書
- 『生きることも死ぬこともイヤな人のための本』日本経済新聞社。
- 『日本人を〈半分〉降りる』ちくま文庫
- 『カイン:自分の「弱さ」に悩むきみへ』新潮文庫
- 『私の嫌いな10の人びと』新潮社
- 『狂人三歩手前』新潮社
[編集] 訳書
- ゲロルト・プラウス著『カント認識論の再構築』晃洋書房。