佐伯啓思
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佐伯啓思 (さえき けいし、1949年12月31日 - ) は、奈良県出身の経済学者、京都大学大学院人間・環境学研究科教授。専攻は社会経済学、社会思想史、政治思想。
雑誌『表現者』の顧問、季刊誌『京の発言』の主幹を務めるほかに、新聞、講演などで、精力的に幅広く活動しており、現代日本を代表する保守主義(反米保守)、現実主義の思想家、言論人という評価が確立している。
その思想、発言は、戦後民主主義の名の下に繁栄を遂げた戦後日本に懐疑の目を向け、そこには欺瞞がある、とする。右派、左派を問わず、理屈抜きに親米を貫く人に対しては、かなり手厳しい。特に、アメリカ同時多発テロ事件以降、米国は帝国主義化しているとして反米の姿勢を更に強調。日米の軍事同盟の再考を呼びかける。憲法改正論議についても、日米同盟が今以上に強固な物になるのでは、と危惧している。
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[編集] 経歴
奈良県奈良市出身。東京大学経済学部を卒業。同大学院経済学研究科理論経済学専攻博士課程単位取得。村上泰亮と、西部邁に師事した。
のち、広島修道大学商学部講師、滋賀大学経済学部助教授を経て、1993年から京都大学大学院人間・環境学研究科教授。
2006年には、文部科学省中央教育審議会の委員に迎えられる。
この間、1985年には処女作『隠された思考――市場経済のメタフィジックス』で、第7回サントリー学芸賞思想・歴史部門を受賞した。名誉ある同賞を受賞した事により、若手の最前衛に位置する研究者として認識されるようになる。
その後、1994年に、東西冷戦以降の現代文明が、米国一国主義に傾いている事に強い忌避感を示した『「アメリカニズム」の終焉―シヴィック・リベラリズム精神の再発見へ─』で、東畑記念賞を受賞。1997年には、民主主義と自由主義は絶対の価値を持つのかと問いかけ、人権、憲法、戦争責任という問題から戦後日本を論じた『現代日本のリベラリズム』で、第7回読売論壇賞を受賞した。
1998年の『現代日本のイデオロギー―グローバリズムと国家意識─』では加藤典洋の話題作『敗戦後論』へ異議を申し立て、太平洋戦争、そして戦後を巡る加藤の理論は、右翼、左翼の双方から理解は得られず、寧ろ要らぬ混乱を招くだけではないのか、と主張した。この異論に対して加藤は、2000年の『戦後的思考』で厳しく反論した。
このほか、学術書を数多く世に出したが、過去の本は新書を除くとかなり絶版で、新刊書店で手にすることは難しい。
[編集] 社会的活動
[編集] 著書
[編集] 単著
- 『隠された思考 - 市場経済のメタフィジックス』(筑摩書房, 1985年)
- 『時間の身振り学 - 市場社会の表層へ』(筑摩書房, 1987年)
- 『擬装された文明 - 大衆社会のパラドックス』(TBSブリタニカ, 1988年)
- 『「シミュレーション社会」の神話 - 意味喪失の社会を斬る』(日本経済新聞社, 1988年)ISBN 4532094534
- 『産業文明とポスト・モダン』(筑摩書房, 1989年/改題『現代社会論 - 市場社会のイデオロギー』講談社[講談社学術文庫], 1995年))
- 『市場社会の経済学』(新世社, 1991年)
- 『「アメリカニズム」の終焉 - シヴィック・リベラリズム精神の再発見へ』(TBSブリタニカ, 1993年)
- 『「欲望」と資本主義 - 終わりなき拡張の論理』(講談社[講談社現代新書], 1993年)
- 『イデオロギー/脱イデオロギー』(岩波書店, 1995年)
- 『現代日本のリベラリズム』(講談社[Kodansha Philosophia], 1996年)
- 『現代民主主義の病理 - 戦後日本をどう見るか』(日本放送出版協会[NHKブックス], 1997年)
- 『市民とは誰か - 戦後民主主義を問い直す』(PHP研究所[PHP新書], 1997年)
- 『現代日本のイデオロギー - グローバリズムと国家意識』(講談社[Kodansha Philosophia], 1998年)
- 『幻想のグローバル資本主義 (上)アダム・スミスの誤算』(PHP研究所[PHP新書], 1999年)
- 『幻想のグローバル資本主義 (下)ケインズの予言』(PHP研究所[PHP新書], 1999年)
- 『貨幣・欲望・資本主義』(新書館, 2000年)
- 『国家についての考察』(飛鳥新社, 2001年)
- 『総理の資質とは何か - 崩壊する小泉改革』(小学館[小学館文庫], 2002年)
- 『新「帝国」アメリカを解剖する』(筑摩書房[ちくま新書], 2003年)
- 『成長経済の終焉 - 資本主義の限界と「豊かさ」の再定義』(ダイヤモンド社, 2003年)
- 『砂上の帝国アメリカ』(飛鳥新社, 2003年)
- 『現代文明論 (上)「西欧近代」再考 - 人間は進歩してきたのか』(PHP研究所[PHP新書], 2003年)
- 『現代文明論 (下)「西欧近代」の帰結 - 20世紀とは何だったのか』(PHP研究所[PHP新書], 2004年)
- 『自由とは何か - 「自己責任論」から「理由なき殺人」まで』(講談社[講談社現代新書], 2004年)
- 『倫理としてのナショナリズム - グローバリズムの虚無を超えて』(NTT出版, 2005年)
- 『学問の力』(NTT出版, 2006年)
[編集] 共著
- 『命題コレクション・経済学』(間宮陽介・宮本光晴) 筑摩書房 1990年
- 『お金ってなんだろう』(ひろさちや) 鈴木出版 1992年
- 『静かなる革命 - ポスト近代の志』(川勝平太)リブロポート 1993年
- 『国家と戦争 - 徹底討議』(小林よしのり・西部邁・福田和也)飛鳥新社 1999年
- 『優雅なる衰退の世紀』(筒井清忠・吉田和男・中西輝政)文芸春秋 2000年
- 『この思想家のどこを読むのか - 福沢諭吉から丸山真男まで』(加地伸行・小浜逸郎・西部邁)洋泉社新書y 2001年
- 『テロルと国家』(福田和也・絓秀実・西部邁)飛鳥新社 2002年
- 『テロの社会学』(大澤真幸)新書館 2005年