公認会計士
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
公認会計士(こうにんかいけいし)は、国家資格などにより監査及び会計処理を認められた専門職種。監査、会計対象の企業から独立していることに特徴がある。日本国においては、公認会計士や弁護士が税務を行う場合は税理士の名をもって税務を行うこととされるが、公認会計士のその職務には税務が本質的に内包されている。アメリカ合衆国においてはCertified Public Accountant (CPA)、イギリスおよびカナダにおいては、英国勅許公認会計士 (ACCA)、Chartered Accountant (CA)、カナダではCertified Management AccountantもしくはCertified General Accountant、日本では公認会計士と呼ばれる。
公認会計士制度を完成させたのはイギリスである。産業革命に伴い減価償却などそれまで会計に含まれていなかった概念が登場し、会計処理の需要が急増したためである。当初は専門職として成立していなかったが、19世紀後半に至ると会計士が専門の組合「会計士協会」を形成する。1853年にエディンバラで成立したエディンバラ会計士協会は1854年10月23日に国王より勅許を給い、ここに公認会計士(勅許会計士)が誕生した。
目次 |
[編集] 日本における公認会計士
監査及び会計の専門家として、独立した立場において、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする(公認会計士法1条)。
[編集] 成立過程
日本においては、1948年に計理士法を廃止する変わりに公布された公認会計士法によって公認会計士制度が確立した。当時、企業会計や税務を担当していた計理士のうち、特別試験に合格したものについて計理士業務に加えて監査業務をさらに行うことができる資格として公認会計士資格が計理士資格に替えて与えられた。公認会計士法公布以前は、企業内部の会計監査人が公認会計士と類似した業務を執り行っていたが、独立外部性をより必要としたことから、会計監査人を企業から独立した公認会計士へと限定された。
[編集] 業務内容
公認会計士の業務は、独占業務として財務書類の監査・証明業務(同法2条1項;通称1項業務)を行えるほか、財務書類の調整、財務に関する調査・立案、財務に関する相談等の業務(コンサルティング業務)(同法2条2項;通称2項業務)を行うことができる。また、公認会計士は無試験で税理士、行政書士資格を取得することができ(税理士法3条4項、行政書士法2条4項)、それぞれの名をもって各業務を行える。また、公認会計士の名をもって社会保険労務士業務、司法書士業務の一部をなすことができる(社会保険労務士法27条・同施行令2条、法務省民事局長通達)。 但し、税務を行う資質を図る税理士試験自体が難関試験であり、公認会計士に無試験で税理士の資格を与えることを批判する意見もある。 しかし、公認会計士が監査を行う対象の財務諸表には税務会計が含まれており、監査を行うためには税務会計についての知識も相当程度に持ち合わせていることが前提となる以上、税務を行う能力を当然もちあわせているとの理由で無試験で税理士資格が付与されている。 又、歴史的にもかつて税務を行っていたのは、公認会計士の前身である計理士と弁護士であり、彼らが税務を行う際に使用した名称が後の税理士となる税務代理士であり、さらに、国際的には、税務を行うのは公認会計士と弁護士であり、税理士という制度が存在する国は日本、韓国、ドイツのみであることも、公認会計士に対して無試験で税理士資格を与える根拠とされている。
2006年5月会社法施行にともない、公認会計士・税理士は会計参与という株式会社の機関のひとつとして、その会社が会計参与を設置する場合は、会社に参加しうることになった。
[編集] 公認会計士試験
公認会計士は国家資格であり、資格を得るには金融庁・公認会計士・監査審査会の実施する国家試験に合格しなければならない。公認会計士試験は、企業会計、税務、そして監査まで行うことができるかという資質を図るのみならず、国民経済の根幹を担うものとしての高い倫理性、能力、質を図るという適正性までを図るものである。このため、試験の難易度は司法試験に次ぐ非常に難易度の高いものとなっており、公認会計士の質が確保されている。
試験の内容は、適正性までを問うものであるため、倫理や法律、学術上議論の対象となっている事象、国民経済に対する理解等に関しての論文を試験場でかかせるようなものとなっている。このため暗記のみで資質を証明するだけでは合格することは困難な内容となっている
その難易度は司法試験、医師試験などと並んで非常に高いといわれる。これらの国家試験を総称して三大国家試験とよばれることがある。 又、司法試験、国家公務員一種試験と合わせて、又は、司法試験、不動産鑑定士試験とあわせて(文系)三大国家試験とよばれることもある。
[編集] 2006年度以前
1次試験から3次試験まであり、1次試験は大学卒業又は大学で一定の単位を取得した者、司法試験もしくは不動産鑑定士試験の1次試験に合格した者は免除される。2次試験は短答式試験と論文式試験からなり、論文式試験は短答式試験に合格しなければ受験することができない。短答式試験は例年5月最終日曜日に3時間の試験時間で実施され、簿記、財務諸表論、原価計算、監査論、商法の5科目から50問(1科目10問)出題される。一方、論文式試験は短答式試験の5科目に加えて選択科目2科目(経済学、民法、経営学から2科目選択)の7科目について、例年8月最終週の火曜日から木曜日の3日間にわたり実施される。試験時間は各科目2時間で計14時間。1次から3次まである公認会計士試験の中で最も難しいのは2次試験であり、2次試験に合格すると会計士補になれる。そして、2次試験合格後、1年以上の実務補習、2年以上の実務経験を経て3次試験を受験し、これに合格すれば公認会計士になれる。
[編集] 2006年度以降
公認会計士法の改正により、2006年度から新しい試験制度に変わる。新試験は、現行試験と同じく短答式試験と論文式試験からなるが、以下の点で異なる。
- 現行試験で1次から3次まで3段階に分かれていた試験が、1回に簡素化。受験資格も原則撤廃される。
- 短答式試験は5月最終週の日曜日と6月第一週の日曜日の2日行われ、財務会計論180分40問、管理会計論・監査論・企業法各90分・20問出題される。
- 論文式試験は8月の3日間行われ、試験科目は会計学、監査論、企業法、租税法、選択科目(経済学、民法、経営学、統計学から1科目選択)。会計学は300分、大問5問、それ以外の科目は各120分、大問2問ずつ出題される。
- 短答式試験に合格したものの、論文式試験に不合格となった場合、2年間短答式試験が免除される。
- 論文式試験の合否は従来通り全科目の総合得点で判定されるが、総合得点で不合格となった場合であっても、特定の科目で60%以上の得点を得ていた場合には当該科目につき2年間試験が免除される。科目合格制の導入といえるが、税理士試験とは、あくまで一括合格が原則とされている点、合格有効期間が2年と限定されている点で異なっている。
- 会計専門職大学院修了者は短答式試験のうち財務会計論、管理会計論、監査論、また、税理士試験の簿記論・財務諸表論の2科目合格者は短答式試験のうち財務会計論、不動産鑑定士資格保有者は論文式試験のうち選択科目(経済学と民法のどちらか)の受験が免除されるなど、新たな免除規定が設けられている。
- 試験制度の変更に伴い、旧2次試験に当たる試験の合格者は「会計士補」とは呼ばれず、「公認会計士試験合格者」と呼ばれるようになる。また3次試験は無くなったが、公認会計士となるには1年以上の実務補習、2年以上の実務経験を積み、3次試験の代わりとなる試験に合格しなければならないので、試験合格後は旧来と大差はない。
[編集] 公認会計士試験合格者の進路
合格者の多くが、あずさ監査法人、新日本監査法人、監査法人トーマツ、みすず監査法人、あらた監査法人の「大手監査法人」に就職する。配属先は国内の一般事業会社や学校法人等の監査を担当する国内監査部門が中心で、金融機関の監査を担当する金融部、外資系企業等の監査を担当する国際部が次いで多い。「大手監査法人」以外の進路としては、中堅監査法人、一般事業会社、コンサルティングファーム等が挙げられるが、数は少ない。監査法人入社後に一般企業に転職してキャリアアップする人も多い。又、公認会計士試験に合格するのみでは公認会計士にはなれず、実務補習と実務経験が必要とされる。このため試験合格者は実務補習所に通い監査、会計、税務等の各種能力をより高めると共に、より深い理解を得ることになる。
[編集] 関連項目
- 監査法人
- 公認会計士・監査審査会
- 日本公認会計士協会
- 米国公認会計士 (CPA)
- 英国勅許公認会計士(ACCA)