司法修習
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司法修習(しほうしゅうしゅう)は、司法試験合格後に法曹資格を得るために必要な裁判所法に定められた研修。司法修習を行っている者を司法修習生と呼ぶ。
司法試験合格者は、最高裁判所に司法修習生として採用され、公務員に準じた身分で司法修習を行う。司法修習は裁判官・検察官・弁護士のいずれを志望する場合であっても同一のカリキュラムに沿って行い、終了後、裁判官であれば判事補として任官、検察官であれば検事として任官、弁護士であれば弁護士会へ登録を行い、法曹として活躍することとなる。
司法修習は戦後に第1期がスタートし、平成18年修習開始が60期となる。法曹界では、修習の期はかなり重視されており、自己紹介で修習の期が何期かという話から入ることも少なくない。長期間の修習を一緒に行ったことや共通の会話ができることから同期の連帯感は強い。
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[編集] 修習期間
近年の司法制度改革で司法試験合格者が増加したのに伴い、修習期間は短縮されている。また、法科大学院において従来の前期修習程度までの教育を施すとされているため、法科大学院修了者を対象にした新司法試験合格者は修習期間がさらに短縮されている。
- 旧司法試験合格者対象の司法修習
- 新司法試験合格者対象の司法修習
- 新60期(2006年10月修習開始)から - 1年
[編集] カリキュラム
新司法試験と旧司法試験が並存しているため、2006年から司法修習もそれぞれ別に行われている。
[編集] 旧司法試験合格者の司法修習
旧司法試験合格者の場合、司法研修所において1年4か月の修習を受ける。カリキュラムは前期修習、実務修習、後期修習に区分される。
最初の2ヶ月の前期修習と最後の2ヶ月の後期修習は、埼玉県和光市の司法研修所における集合修習で、民事裁判・刑事裁判・検察・民事弁護・刑事弁護の5科目からなる座学・起案作成からなる。司法修習生を担当する第二部教官は、担当科目について実務経験の深い裁判官・検察官・弁護士が充てられる。各クラス、各教科につきそれぞれ1人の教官がいるため、教官総数はクラス数×5となる。その他、各教科につき、クラスを担当しない「所付」と呼ばれる教官(教材作成やクラス教官補助を担当する教官で、比較的若く実務家が登用されることが多い)が1名ずつ任命される。司法修習生の修習指導に関する必要事項は司法研修所長が定め、修習の企画その他の重要事項を定めるには、所長を議長とする第二部教官会議を経る。実施の具体的細目は、各科目教官が協議の上定める。
中間の1年間の実務修習は、民事裁判修習・刑事裁判修習・検察修習・弁護修習を3ヶ月ずつ行う。司法修習生は全国50か所の地裁本庁所在地(都道府県庁所在地+函館・旭川・釧路)に配属され(61期は13箇所のみ)、仕事に立ち会ったり、裁判手続や書面作成のレクチャーを受け、実際の事件を題材として、実務家の指導の下、実務家法曹としての基礎を学ぶ。
[編集] 新司法試験合格者の司法修習
新司法試験合格者の場合、「法科大学院において実務教育がなされている」と見なされ、修習期間は1年とされている。カリキュラムは、10か月の実務修習と、司法研修所における2か月の集合修習に分かれる。なお、当分は実務修習前に1か月の導入修習が司法研修所にて行われる。
実務修習は、全国の地方裁判所本庁所在地に配属され、刑事裁判・民事裁判・弁護・検察・選択修習を2か月ずつ研修する。選択修習は、各人の関心に従い、専門性を深める。
[編集] 司法修習生考試と修習終了
いずれの修習の場合も、最後に国家試験である司法修習生考試が行われる。司法試験以来二回目の試験ということから「二回試験」と呼ばれ、難易度は司法試験より高い。司法修習生考試は研修所から独立した司法修習生考試委員会によって行われ、筆記考試及び口述考試からなる。二回試験は1日1教科で、筆記考試は実際の記録を元に作成された研修用教材を元に、設問に沿って判決文を作成したり、法律上の問題や事実認定上の問題を検討する。筆記考試は、民事裁判、刑事裁判、検察、民事弁護、刑事弁護、一般教養の6教科で、合格率は高いが、精神的・肉体的負担は決して小さくない。口述考試は、試験委員による口頭試験で、民事系と刑事系の2教科であるが、新司法修習では廃止予定である。 この試験に合格したときは修習修了となり、判事補・2級検事任用資格及び弁護士登録資格を得る。合格できなかった場合、合格留保ないし不合格とされる。修習期間が2年のころ、合格留保ないし不合格となるのは0ないし数人であったが、修習期間が1年半になってから二桁に増加し、以後増加傾向にある。平成18年10月に司法修習を終えた59期は100人以上、修了者の7パーセントもの合格留保者・不合格者を出し、司法修習短期化と司法試験合格者増加により、司法修習生の質が落ちたと批判されている。
[編集] 特徴
日本の司法修習カリキュラムは、内容が裁判実務に特化されている。民・刑事裁判における事実認定が基本とされ、検察・刑事弁護・民事弁護に関するカリキュラムも裁判における事実認定を前提としている。また、民事裁判における立証責任の所在(要件事実論)が重視されている。裁判外の法律問題や近時の弁護士の職域拡大に対応した高度な予防法務や企業法務には対応できていない。司法修習が2年であった時、前・後期に選択科目のセミナーを多数設けて法廷業務以外の弁護士業務の講義をして補ったが、期間短縮が行われてから必須カリキュラムをこなすだけで限界になり、法科大学院教育や実務に携わりながらのトレーニングに委ねざるを得ない面がある。期間短縮と人数増加の結果、実務修習における個別指導は困難になるものと予想され、法曹の質の低下が懸念される。
[編集] 司法修習生
司法修習生(しほうしゅうしゅうせい)は、司法試験合格後に、最高裁判所に任用されて、司法研修所などで法律実務を修習中の者をいう。
[編集] 身分
司法修習生は、司法試験合格者から最高裁判所がこれを命ずる(裁判所法66条1項)。身分は公務員ではないが国家公務員に準じた地位を有するため、守秘義務・修習専念義務を負い、副業・アルバイトは許されない。
行状が品位を辱めるものと認めるとき、その他最高裁の定める事由があると認めるときは、罷免される(裁判所法68条)。過去の例として、副業・アルバイトをしたケース、疾病を理由として修習を休んだが、実際は海外旅行に行ったケース、修習終了式中に司法に対する批判的演説を行って式典妨害したケースがある。
身分証明徽章(バッジ)は、筆記体大文字の「J」を図案化したもの(“jurist ”から)で、ラインが全て繋がるように描かれ、それぞれの囲みが検察官・裁判官・弁護士を表す赤・青・白の3色で塗り潰されている。
[編集] 給与制度
司法修習生は、国家公務員と同じく国家から給与を支給される(裁判所法67条2項)。国家公務員一種採用者と同等額が支払われる。
しかし、司法制度改革で修習生増加が予定されているが、国家財政が厳しいことや税金を支給することに批判があったことから、法改正により2010年から給与支給は廃止され、最高裁が無利息で資金を貸与し、修習後に返済する制度に変更される。修習専念義務は変わらず、アルバイト等は一切許されない。
- 司法修習生は国家公務員一種試験合格採用者と同額給与が支払われているものの、1年半の期間中に二度の転居を強いられ(前期修習終了後、和光市の司法研修所から実務修習地へ、実務修習終了後、実務修習地から後期修習が行われる司法研修所へ)、公務員と異なり官舎を利用することもできない。したがって、生活できるのがやっとというのが実態である。将来的に高収入を得られる法律家の卵に金をくれてやる必要などない、という思考が給与廃止論の論拠であるとすれば、長期的視点に立った人材育成の見地に反する。給与による生活保障が無くなるため、今後は経済力のある人しか法曹になれないのではという懸念の声もある。なお、司法修習生の給与を廃止する一方、非人間的生活が強調された研修医については給与を与えるように制度が変わる。
[編集] 裁判の傍聴
司法修習生は、身分証明徽章を着用している場合は全国どこの裁判所にも立入り、あらゆる公判を傍聴できる。さらに、合議体裁判の合議を許可されたとき傍聴出来る。司法修習生に対する指導は、配属された部に委ねられる側面があるため、部によっては合議の傍聴をさせないという場合もある。また、裁判の合議はもちろん、裁判官と書記官の会話や裁判官相互の会話も聞くことができる。