旧司法試験
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旧司法試験(きゅうしほうしけん)は、司法試験法に基づいて行われる資格試験(国家試験)。司法試験法の改正により、2011年の新司法試験への移行期間終了とともに廃止される予定。
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[編集] 概説
司法試験と国家公務員一種試験、公認会計士試験、医師国家試験、不動産鑑定士試験の中の2つの試験を組み合わせて、三大難関国家試験、三大国家資格(この場合は、厳密にいうと、弁護士試験という意味で言われる)などと言われることもあったほか、その合格率の低さと合格までに要する年数の長さから、“国家試験の最難関” “現代の科挙”などと言われたこともある。
実際、司法試験に合格し、司法修習を修了して弁護士となれる地位を取得すると、税理士、弁理士、行政書士、社会保険労務士として当然に登録できる地位を有するほか、弁護士として登録すると、司法書士としての登録は出来ないが、当然に司法書士業務ができると解されており、また、公認会計士試験と不動産鑑定試験の受験に際しては、司法試験で受験した科目は免除となる(逆に、公認会計士試験や不動産鑑定士試験に合格しても、司法試験の該当科目は免除されない)など、隣接職種相互の間ではもっとも難易度が高いことを前提とした規定がある。ただし、近年は合格者数が増加したことや若年の受験者が合格しやすい制度が取り入れられたこと、新司法試験の導入などもあり、こういう言われ方はされなくなりつつある。
2005年(平成17年)以前においては、法曹(裁判官、検察官、弁護士)になろうとするものは、原則としてこの方式の試験を受けなければならなかった。現在は司法試験制度の移行期であり、法改正によりロースクール(法科大学院)の卒業を前提とする司法試験(新司法試験)を経由することが法上の原則となっているが、経過措置として旧来の制度も存置されている(司法試験附則を参照)。
[編集] 制度の概要
試験は2次・4段階よりなる。
[編集] 第一次試験
第一次試験は、幅広い科目からなる教養試験であり、短答式試験および論文式試験からなる。年齢や資格等による受験の制限は特にない(高校生が一次試験を通過し話題になった事がある)が、短大以外の大学を卒業又は2年以上在学し、一定の単位(具体的には一般教育科目及び外国語科目の所要単位数―32単位以上)を取得していれば生涯免除される。このため、多くの受験者は二次試験からの受験となる。また、一次試験に一度合格してしまえば、その後は生涯免除となる。
合格者には社会保険労務士試験の受験資格が与えられる。
[編集] 第二次試験
第二次試験は法律的知識を問うための試験であり、短答式試験、論文式試験、口述試験の3段階(後述)からなる。 第二次試験考査委員については下記外部リンク参照。
[編集] 短答式試験
短答式試験は例年5月の第2日曜日(母の日)に、憲法、民法、刑法の3科目について、60問(各科目20問ずつ)、3時間30分通して行われる。5肢からの択一式試験でマークシートを用いて行われる試験である。そのため通称択一式試験とも呼ばれる。
一定の点数を獲得したものを合格させるタイプの試験ではなく、論文式試験の受験者を限定する趣旨(それゆえ、昭和30年までは短答式試験はなく論文式試験からのスタートであった)での競争試験であることから、年によって難易度も大きく異なり、求められる正答率は7割弱から8割程度まで変動する。
短答式試験は、前年度合格したとしても翌年の受験免除等の制度がないため、論文式試験に合格するまでは前年度の短答式試験合格者、合格経験者であっても再度受験の必要があり、前年の短答合格者が落ちることも珍しくない。
なお、後に述べる論文式試験・口述式試験とは異なり、六法等の試験中の参照物は認められない。
[編集] 論文式試験
論文式試験は、7月第3月曜日(海の日)と、その前日の二日間にわたり、初日:憲法、民法、商法、二日目:刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法の各科目につき、それぞれ2題ずつ、制限時間は2時間で、文章にて解答する形式で行われる(選択科目が存在した時代は三日間かけて行われていたが制度変更に伴い廃止された)。
問題の傾向としては、基本的な知識をダイレクトに問われたり、それをベースとして具体的な事案に則しての応用力が問われたりする。
参照物として、「旧司法試験用法文(2005年以前では司法試験用法文)」とよばれる最小限の条文のみが記載された小型六法が貸与される。不正受験防止のため、この法文の冊子は各科目試験終了ごとに回収されるが、論文式試験の全日程終了後は持ち帰ることが出来る。
過去には、法律選択科目(行政法、破産法、刑事政策、国際法など)や教養選択科目(経済学、心理学など)も試験科目として存在していた。
[編集] 口述試験
口述試験は、論文式試験の合否発表の二週間ほど後である10月下旬の連続した3日間に、千葉県浦安市にある「法務省浦安総合センター」にて、憲法、民事系(民法・民事訴訟法)、刑事系(刑法・刑事訴訟法)の計3科目について面接方式(「主査」・「副査」とよばれる試験官2人に対し回答者1人)で行われる。試験時間は、憲法は15分~20分、民事系・刑事系は30分~40分が標準的と言われるが、憲法で30分近く、民事系・刑事系で50分近くかかることも珍しくない。
質問の内容は一般に、まず条文・定義・その他の基本的知識を問うことから始まり、具体的事例を想定してその場面での解釈を問われることが通常である。場合によっては、文献等でこれまでに余り論じられていない内容を問い、その場での柔軟な法的思考を問うような質問に到ることがある。
その場に用意された「司法試験用法文」の参照を求めることができるが、質問内容によってはこれを参照しないように命ぜられる場合もある。
[編集] 受験人数および受験特例制度
旧来の司法試験における各試験の受験者は、時代の変化や制度の変更とともに増加し、2005年(平成17年)までは概ね、短答式:4~5万人、論文式:7~8千人(1/7)、口述:1500人(1/5)であった(旧司法試験開始の初年の2006年(平成18年)においては、短答式:約3万5千人、論文式:約4千人弱)。なお、論文式試験に合格した者は、その年の口述試験に合格できなくても、その翌年に限り、筆記試験(短答式・論文式)の免除を受ける事ができる。
[編集] 合格発表以降
最終合格発表は、例年11月上旬から中旬までの間になされる。合格者は、その翌年以降の4月から、司法修習生として、最高裁判所付属の司法研修所(埼玉県和光市)で3ヶ月間の研修を受けた後、全国に散らばり1年間の実務研修を受ける。実務研修は、民事裁判・刑事裁判・検察・弁護の4ヶ所を約3ヶ月のタームで回る。その後、司法研修所に戻り再度研修を受け、試験(通称「二回試験」)を受けこれに合格すれば法曹となる資格を得る。司法研修制度も改革の中で短縮の方向にあり、以前は1年6ヶ月であった研修期間が平成18年度から1年4ヶ月に短縮された(新司法試験合格者向けの司法修習は1年)。
[編集] その他の特筆事項
現在(2005年)のところ、最終合格率は3%程度、合格時の平均年齢は28歳程度である。多くの受験生が大学卒業後5年程度を受験勉強のために費やすこととなっている。合格者の若年化をはかるため受験回数による特別合格枠(通称「丙案」、受験開始から3年までの受験生を優先的に合格させる)などを試みたがあまり効果は得られてないとされる。なお、合格者数全体を増加する措置が取られたことに伴い、優勢合格枠を定める丙案は2004年以降廃止されている。
前述した通り、法曹養成を目的とした法科大学院の創設とあわせて新司法試験が開始されるため、平成23年まで(平成23年の旧司法試験は、前年の口述試験に不合格であった者のみが対象の口述試験のみ実施。)は新司法試験と旧司法試験とが併行して行われることになる。なお,法科大学院生が旧司法試験を受験した場合,修了前2年間の旧司法試験の受験や修了後の旧司法試験の受験も受験回数の制限対象となる。新司法試験と旧司法試験を同じ年度に受験することもできない。新司法試験の受験経験者で新司法試験の受験資格を喪失した者は旧司法試験の受験資格も喪失する。これらの措置は,あくまで旧司法試験は法科大学院に諸般の事情により進学できない者に対する経過措置であることに由来するものである。
平成18年の第2次試験からは、オンライン申請システムを利用することにより、インターネット経由で出願ができる。この場合においては、受験手数料が400円割安となる(通常11,500円→11,100円)。
新司法試験制度、その他の改革については法務省のウェブサイトにおいて随時報告される。