山体崩壊
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山体崩壊(さんたいほうかい)とは、火山の一部が地震動や噴火などが引き金となって大規模な崩壊を起こす現象である。
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[編集] 山体崩壊のメカニズム
火山活動によって火山が成長をするに従って、急峻で不安定な地形が生み出されることになる。また火山の成立から時間が経過する中で、風化作用や火山体内部での熱水作用などの結果、火山そのものがもろく崩れやすくなっていく。そのような中、強い地震動や噴火が引き金となって火山体の一部が大規模に崩壊する山体崩壊が発生する。
山体崩壊時には崩壊した火山体がふもとに向かって一気になだれ落ちる岩屑なだれという現象が発生し、その結果、火山そのものは大きく崩壊し、岩屑なだれが堆積した場所には、崩落した火山体の中でばらばらになりきらなかった部分が多数の小さな丘を作る。これを流れ山と呼ぶ。
山体崩壊は噴火と比べると発生回数が少なく、比較的稀な現象ではあるが、これまで多くの火山で発生しており、一つの火山で複数回発生することも稀ではない。またこれまで火山の一生の末期に発生すると考えられていたが、2500~2800年前に発生したと見られる富士山の御殿場岩なだれなどのように、必ずしもそうとは限らない。
[編集] 山体崩壊の例
山体崩壊はこれまで多くの火山で発生している。一番有名な例としては1888年に発生した磐梯山の山体崩壊が挙げられる。これは磐梯山で発生した水蒸気爆発が引き金となって磐梯火山が大崩壊を起こし、岩屑なだれによって桧原湖、小野川湖、秋元湖、五色沼などの湖沼が出来た。
また、1792年に発生した「島原大変肥後迷惑」と呼ばれる雲仙岳の眉山の山体崩壊では、雲仙岳のある島原半島では大規模な岩屑なだれが発生し、有明海に流れ込んで大きな津波を引き起こした。眉山の崩壊の原因はまだはっきりしていない点が多いが、地震動によるものとの説が有力である。
最近の例としては1980年に発生したセント・ヘレンズ山の山体崩壊と、1984年の長野県西部地震で崩壊をした御嶽山がある。セント・ヘレンズ山の山体崩壊によって、山体崩壊という現象が注目を集めるようになった。
その他、1640年に発生した北海道駒ケ岳、1741年に発生した渡島大島の例が挙げられる。北海道駒ケ岳と渡島大島ともに山体崩壊の原因は噴火によるものである。
最近の研究によれば、ハワイ諸島の巨大盾状火山で、桁違いに巨大な山体崩壊が発生してきたことが明らかになった。この崩壊の結果、北太平洋一帯に波高数十メートルの津波が押し寄せたと見られている。
[編集] 山体崩壊の危険性
山体崩壊は火砕流や火山泥流などと並んで、最も危険な火山現象の一つである。1792年の「島原大変肥後迷惑」による死者は15000人を越え、有史以来日本で最大の人的被害をもたらした火山災害となった。また1888年の磐梯山の山体崩壊では桧原村という村が桧原湖の湖底に沈んだ。1640年の北海道駒ケ岳、1741年の渡島大島の山体崩壊ではともに津波が発生し、多くの死者を出した。
このように山体崩壊の危険性は極めて高いのにも関わらず、その認知度は必ずしも高くなく、研究も進んでいない面がある。
[編集] 山体崩壊の恵み
火山活動が大きな惨事を引き起こすと同時に、温泉などの恵みをもたらす面があるように、山体崩壊も我々の生活に恵みをもたらすことがある。例えば磐梯山の山体崩壊によって誕生した五色沼は現在、福島県の観光名所となっている。同じように1640年の北海道駒ケ岳の山体崩壊の結果、大沼、小沼などの湖沼群が出来た。これらの湖沼もやはり北海道の観光名所の一つとなっている。約3000年前の箱根火山の神山で発生した山体崩壊では芦ノ湖が誕生し、また約2500~2600年前に発生した鳥海山の山体崩壊は、かつて松尾芭蕉もその美しさを称えた松島と並び称される名勝、象潟を生み出した。