役員 (会社)
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役員(やくいん)とは、会社の業務執行や監督を行う幹部職員のことをいう。いわゆる経営者・上位管理職。
日本の会社法における役員は、取締役、会計参与、監査役を指す(329条参照)。しかし、一般的な意味では、それよりも広く執行役員までを含む意味であることが多い。
役員は、会社の実質的所有者である社員(株主)とは必ずしも一致しない。特に株式が自由に譲渡できる公開会社である株式会社においては、取締役の資格を定款で株主に限定することができない(会社法331条2項)。これは、広く資本を集めるために、株主には経営能力を求めず、株主以外の経営能力のある人に経営を委任できるようにするためである。
会社との契約関係は、従業員が会社とは雇用契約を締結するのに対して、役員は会社とは委任・準委任契約としての性質を持つ任用契約を締結する。
[編集] 会社法に規定のある役員
[編集] 取締役
会社の組織をどのようにするかで権限が異なるため、会社法における取締役の一義的な定義は困難である。
会社法の原則形態である取締役会非設置会社においては、取締役とは会社において内部的な業務執行を行うとともに、対外的に会社を代表する必要的常設機関である(会社法348条・349条)。この場合、取締役は1名以上でよい。
これに対して、取締役会設置会社においては、取締役は取締役会の構成員である。この場合、取締役は3名以上でなければならない(会社法331条4項)。
会社法の規定によるものではないが、社長や専務などの内部的職制を有する取締役を役付取締役、そうではない取締役を平取締役と呼ぶことがある。
[編集] 代表取締役
代表取締役は、取締役会設置会社と任意に代表取締役設置を決めた取締役会非設置会社において、内部的な業務執行を行うとともに、対外的に会社を代表する機関である(会社法349条・363条)。
取締役会設置会社においては、設置が義務づけられている必要的常設機関である。一方、取締役会非設置会社においては、原則として各取締役が会社の代表権を有している(会社法349条1項・2項)ため、代表取締役は定款に定めることで任意に設置できる(会社法349条3項)。また、委員会設置会社においては、取締役には業務執行権がなく(会社法415条)、代表権は代表執行役が有するため、代表取締役は設置できない。
代表取締役の人数については、1人と誤解されていることがあるが、法律上は人数に制限が無く、複数選出された場合は各代表取締役が会社を代表する。
[編集] 社外取締役
社外取締役とは、株式会社の取締役であって、当該株式会社又は子会社の業務執行取締役・執行役・支配人その他の使用人ではなく、かつ、過去に当該株式会社又は子会社の業務執行取締役・執行役・支配人その他の使用人となったことがない者のことである(会社法2条15号)。
社外の者が取締役会のメンバーになることで、会社の業務執行の適正さを保持させる趣旨である。しかし、この定義に当たれば社外取締役なので、業務執行をしていなければ就任から何年経っても社外取締役であるし、親会社の役員も子会社の社外取締役になりうる。
委員会設置会社においては、社外取締役が必ずいなければならず、各委員会の過半数が社外取締役でなければならない(会社法400条3項)。
[編集] 執行役
執行役は、委員会設置会社の業務執行をおこなう機関である(会社法418条)。執行役員とは異なる。
委員会設置会社においては、業務の決定と執行機関が分離され、前者は取締役会が、後者は執行役が担当する。この場合、取締役には業務の執行権限はないが、取締役と執行役を兼任することは可能である。
[編集] 代表執行役
代表執行役は、委員会設置会社において執行役から選任され、会社を代表する権限を有する機関である(会社法420条)。取締役会の構成員ではない点を除いて、委員会設置会社以外の取締役会設置会社における代表取締役に相当する。1人の場合もあるが、1人とは限らない。
[編集] 監査役
監査役は、取締役の業務執行を監査する会社の機関である(会社法381条)。委員会設置会社を除く取締役会設置会社と、取締役会非設置会社のうち会計監査人設置会社には設置が義務づけられる(会社法327条)。監査役を設置している会社のうち、監査役に業務監査権を認めている会社を監査役設置会社という(会計監査しかできない監査役が設置されていても、会社法上は監査役設置会社ではない)。また、監査役で構成される監査役会を設置することもできる。監査役会設置会社では、監査役は3名以上で、その半数は社外監査役でなければならない(会社法335条3項)。
[編集] 社外監査役
社外監査役とは、株式会社の監査役であって、当該株式会社又は子会社の取締役・会計参与・支配人その他の使用人となったことがない者のことである(会社法2条16号)。監査役会設置会社で義務付けられている。
[編集] 会計参与
会計参与は、取締役と共同して、計算書類等を作成する会社の任意的機関である(会社法374条)。公認会計士、監査法人、税理士、税理士法人でなければ会計参与にはなれない(会社法333条1項)。
[編集] 会社法に規定のない内部的職制
法律に規定のない名称は会社が自由に付けられるので、必ずしも一義的な定義があるわけではない。会社によって使われ方がまちまちである。以下では、比較的多い使われ方の説明をする。
[編集] 社長
文字通り、会社のトップである。銀行では、頭取と呼ぶところが多い。社長は、通常は取締役(代表取締役)であるが、あくまで会社内部の名称であるから、取締役(代表取締役)である必要は法律上はない。ライブドアの平松庚三執行役員社長(2006年6月14日の取締役選任まで)が、取締役でない社長の典型例である。
[編集] 会長
取締役会長の略で、取締役会のトップを指す。しかし従来の日本の会社では、前社長が第一線を退いた後に就く名誉職的な扱われ方がされていたことが少なくなかったことから、取締役会長であるからといって取締役会を仕切るというわけではなく、取締役会長のほかに取締役会議長が存在することもある。
ただし最近では、会長が会社全体の戦略を指揮し、社長が日常の業務執行を指揮するといった分担をすることもあり、その場合は会長が事実上のトップといえる。
[編集] 副社長
社長に準じる地位。1人とは限らず、複数いる場合もあるし、存在しない場合もある。なお、アメリカ流のバイス・プレジデントは、直訳すると副社長であるが、日本語の副社長よりも低い地位の場合が多い。
[編集] 専務
会社の業務全般の管理を担当し、社長を補佐する役員。取締役か執行役であることが多いが、そうではない単なる執行役員の場合もある。また、取締役か執行役であっても代表権がある(代表取締役、代表執行役)とは限らない。もっとも、代表権がなくても表見代表取締役(会社法354条)として、取引相手から会社の責任が問われる場合もある。常務との関係は、本来は担当職務の違いに過ぎないはずであるが、実際は常務よりも上の役職とされることが多い。
[編集] 常務
会社の日常的業務を担当し、社長を補佐する役員。取締役か執行役であることが多いが、そうではない単なる執行役員の場合もある。また、取締役か執行役であっても代表権がある(代表取締役、代表執行役)とは限らない。もっとも、旧商法では代表権がないにもかかわらず常務取締役などの名称を付していた場合、表見代表取締役(旧商法262条)として取引相手から会社の責任が問われる場合もあるとされていたが、会社法では明文から「常務」の文言は外されたため(会社法354条)、単に常務取締役としたとしても表見責任は問われなくなったといえる。専務との関係は、本来は担当職務の違いに過ぎないはずであるが、実際は専務に次ぐ役職とされることが多い。
[編集] 執行役員
会社の業務執行を行う役員のこと。会社法の執行役とは異なるので注意。取締役である者にも付けること(例・代表取締役兼執行役員社長)もあるが、取締役ではない役員に付けることの方が多い。近年は、取締役会の意思決定を迅速化するためと取締役の過大な責任を避けるため、取締役の数を絞る傾向がある。そのため、取締役ではない役員待遇の従業員を執行役員と呼ぶ。日本ではソニーが初めて執行役員制度を導入した。
[編集] 相談役・顧問
会社経営について助言を行う役員。社長や会長の経験者など経営の第一線を退いた者がなる名誉職的な役職であることが多い。顧問については、外部から招へいされて取締役に選任される予定の者が、株主総会までの間一時的に就任する役職として使用されることもある。創業者や元社長などで会社の発展に影響の大きかった者を、最高顧問という役職にすることもある。取締役ではない場合が多いが、相談役は取締役の場合もある。
[編集] 会社法に規定のない責任範囲を明確にした職制
コーポレートガバナンス(企業統治)が普及し始めたことにより、従来の社長・会長といった職制のほかに、アメリカを代表とする欧米の企業で導入されている最高経営責任者(CEO)といったより責任範囲を明確にした職制が増えてきている。以下で紹介する職制のうち、CEO、COO、CFOなどは一般的であるが、それ以外についてはCEOを設置している企業でも、稀に見られる程度である。
日本においては委員会設置会社がアメリカ型の企業統治とされるが、委員会設置会社でもCEOやCOOなどの名称を使用しない場合もあるし、委員会設置会社ではないがCEOやCOOなどの名称を使用する場合もある。
[編集] 最高経営責任者(CEO)
チーフ・エクゼクティブ・オフィサー(Chief Executive Officer)。直訳は筆頭執行役員。アメリカ型企業における会社経営のトップの責任者である役員。業務に関する決定と執行を分けて考え、決定に関する責任者といえる。業務執行の意思決定は取締役会が行うのであるから、取締役会長がCEOを兼任することが多いが、社長が兼任する場合もある。また、会社によってはCEOやCOOを置く場合、社長や会長という役職が存在しない場合もある。
[編集] 最高執行責任者(COO)
チーフ・オペレーティング・オフィサー(Chief Operating Officer)。アメリカ型企業における会社の業務執行の責任者である役員。CEOの決定に従って業務執行を行うので、第2位の役職といえる。COOは社長が兼務することが多いが、社長という役職が存在しない場合もある。CEOとは別の役員が就くことが多いが、CEOとCOOを兼任する場合もある。
[編集] 最高財務責任者(CFO)
チーフ・ファイナンシャル・オフィサー(Chief Financial Officer)。アメリカ型企業における会社の財務・金融の戦略や執行の責任者である。単なる財務の管理者ではなく、経営戦略上に会社の財産をどのように利用すべきか判断する。ただ、単なる財務部門のトップに付けられていることもある。
[編集] 最高技術責任者(CTO)
チーフ・テクニカル・オフィサー(Chief Technical Officer)。会社の技術開発について戦略的に資源の投資や開発活動を行う技術部門の責任者。ただ、単なる技術部門や研究開発部門のトップに付けられていることもある。
[編集] 最高営業責任者(CMO)
チーフ・マーケティング・オフィサー(Chief Marketing Officer)。最高マーケティング責任者とも。Return on Investment(ROI)をしっかり出さないと、その成果を厳しく問われる。その任期は、近年のアメリカでは平均して2年弱。
[編集] 最高情報責任者(CIO)
チーフ・インフォメーション・オフィサー(Chief Information Officer)。会社の情報戦略の責任者。単に情報の管理やITシステムの管理を行うだけではなく、情報を経営戦略上どのように利用するか、さらには情報戦略上の観点から会社のシステムや組織の構築について立案・実行する。ただ、単なる情報システム部門の担当役員を指す場合も少なくない。
[編集] 最高知識責任者(CKO)
チーフ・ナレッジ・オフィサー(Chief Knowledge Officer)。CIOよりも広く、情報のほかに会社に蓄積された資産としての知識を経営に生かす知識戦略の責任者。
[編集] 最高セキュリティ責任者(CSO)
チーフ・セキュリティ・オフィサー(Chief Security Officer)。企業のセキュリティの責任者。
[編集] 最高リスク管理責任者(CRO)
チーフ・リスク・オフィサー(Chief Risk Officer)またはチーフ・リスク・マネジメント・オフィサー(Chief Risk Management Officer)。企業のリスク管理の責任者。
[編集] 最高情報セキュリティ責任者(CISO)
チーフ・インフォメーション・セキュリティ・オフィサー(Chief Information Security Officer) 。企業の情報セキュリティを総合的に管理する責任者。コンピューターシステムのセキュリティ対策を行うほか、会社の機密情報や保有する個人情報が漏洩することのないよう管理する。情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の運用をする際の責任者に用いられることが多い。
[編集] 最高社会的責任担当者(CSRO)
チーフ・ソーシャル・レスポンスビリティ・オフィサー(Chief Social Responsibility Officer)。企業の積極的な社会貢献などを求める考え方である「企業の社会的責任」(CSR、corporate social responsibility)を実行するための責任者。
[編集] 最高法務責任者(CJO/CLO)
チーフ・ジュディカル・オフィサー(Chief Judicial Officer)、チーフ・リーガル・オフィサー(Chief Legal Officer)。
[編集] そのほかの最高責任者(CXO)
- 最高会計責任者(CAO,Chief Accounting Officer)
- 最高総務責任者・最高管理責任者(CAO,Chief Administrative Officer)
- 最高ブランド責任者(CBO,Chief Branding Officer)
- 最高業務責任者(CBO,Chief Business Officer)
- 最高コミュニケーション責任者(CCO Chief Communication Officer)
- 最高遵法責任者(CCO,Chief Compliance Officer)
- 最高開発責任者(CDO,Chief Development Officer)
- 最高人事責任者(CHO,Chief Human resource Officer)
- 最高ロジスティクス責任者(CLO,Chief Logistics Officer)
- 最高学習責任者(CLO,Chief Learning Officer)
- 最高ネットワーク責任者(CNO,Chief Network Officer)
- 最高人材活用責任者(CPO,Chief People Officer)
- 最高生産管理責任者・最高製品責任者(CPO,Chief Production Officer)
- 最高個人情報管理責任者・最高プライバシー管理責任者(CPO,Chief Privacy Officer)
- 最高計画責任者(CPO,Chief Project Officer)
- 最高品質責任者(CQO,Chief Quality Officer)
- 最高レベニュー責任者(CRO,Chief Revenue Officer)
- 最高戦略責任者(CSO,Chief Strategy Officer)
- 最高安全責任者(CSO,Chief Safety Officer)
- 最高ヴィジョン策定責任者(CVO,Chief Visionary Officer)
[編集] プレジデント
President。和訳は社長。カンパニー制など独立性のある組織の長を指す場合も。米国の会社で使用されるが、英連邦諸国をはじめとするヨーロッパ、西アジアから東南アジアの国々の会社ではあまり使われない。
[編集] チェアマン
Chairman。取締役会(ボード)の会長または議長の意味。
[編集] エグゼクティブ
Executive。直訳は執行者。取締役会メンバーを指す場合が多い。なお、米国の会社においてTop Executiveと言う場合は通常President, Chairman, CEO, COOといった企業トップを指す。
[編集] エグゼクティブ・バイス・プレジデント(EVP)
Executive Vice President(EVP)。直訳は執行副社長。上級副社長と訳されることが多いが、SVPの訳語として用いられることの多い上席副社長と訳される場合もあるので、SVPと混同しないように注意。SVPよりも上の役職である。日本企業においては、副社長の英訳として使用される場合が多い。
[編集] シニア・バイス・プレジデント(SVP)
Senior Vice President(SVP)。直訳は上席副社長。EVPよりも下の役職であり、役員のうち比較的若手がなることが多いようである。日本企業においては、専務の英訳として使用される場合が多い。
[編集] バイス・プレジデント
Vice President(VP)。直訳は副社長だが、社長に次ぐナンバー2というわけではない。米国企業でのVPは、通常は日本企業でいう部長~本部長クラスである。また、代理権をもつ支店長や課長などもVPである場合があり支配人に近い用法である。日本でいう副社長クラスにはSeniorあるいはExecutiveが前についたSVP・EVPなどの肩書きが使われる。日本企業においては、直訳のイメージとの混同を避けるためにあまり使われない。
[編集] マネージング・ディレクター
Managing Director。直訳は業務執行取締役。英連邦諸国の会社では社長を意味する。米国企業においてはあまり使われない。日本企業においては、常務の英訳として使用される場合が多い。なお、世界銀行や国際通貨基金などの国際機関では専務理事と訳される。
[編集] ディレクター
Director。和訳は取締役。英連邦諸国の会社とは違って、米国企業でのDirectorはVP同様に和訳のイメージよりも下の役職で、部長クラスであることが多い。日本企業においては取締役の英訳としてそのまま使用される場合が多い。日本銀行では課長級の役職の英訳として使用され米国企業の用法に近い。
[編集] オフィサー
Officer。直訳は役員。単にオフィサーとだけいう場合は、バイス・プレジデントよりも下の執行役員としての意味で使われることが多いようである。
[編集] ファウンダー
Founder。創業者の意味。創業者に付ける名誉的な肩書き。かつて、ソニーの井深大と盛田昭夫、ダイエーの中内功がその職名を用いていた。現在はホリプロの堀威夫らがその職名を用いている。