人工衛星
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人工衛星(じんこうえいせい、Artificial Satellite)は、地球などの惑星の周りを回る人工天体のこと。おもに通信、観測などをさせるのが目的である。
有人宇宙船や宇宙ステーション、スペースシャトルも含まれ、アメリカ航空宇宙局等の人工衛星軌道データに掲載もされるが、これらについて触れる際には人工衛星とは呼ばないのが普通である。
人工衛星は通常地球を周回する軌道にあるものが大部分であるが、惑星探査目的で火星や土星などの他の惑星を回る軌道上に観測機が到達しており、各惑星の人工衛星となっている。これらは惑星の観測を行ったり、火星探査機などのように他惑星の表面に着陸した探査機からの各種観測データを地球まで中継送信している。
人工物体に地球を周回させるには、ロケットを用いて打ち上げ、予定した軌道上で適切な軌道速度を実現する必要がある(→人工衛星の軌道および人工衛星の軌道要素を参照のこと)。
目次 |
[編集] 分類
様々な切り口から人工衛星を分類できる。
[編集] 利用目的による分類
- 観測分野
- 気象衛星
- リモートセンシング衛星、資源探査衛星
- 科学衛星
- 惑星探査機(運用機関が同じことや、設計製造手法が同一であるので、惑星探査機も含めた。)
- 航法支援
[編集] 衛星軌道による分類
[編集] 大きさ・重量による分類
- 大型衛星
- 中小型衛星
- マイクロサット、ピコサット
[編集] 姿勢制御方式による分類
- スピン方式
- 単スピン
- 二重スピン
- 三軸制御方式:現在の多くの実用的な静止衛星は三軸制御方式である。
- ゼロ・モーメンタム
- バイアス・モーメンタム
- 受動制御方式の衛星
- 重力傾斜トルク方式
- 地磁気トルク方式
- 太陽輻射圧トルク方式
- 空気力トルク方式
[編集] 利用・運用機関による分類
- 政府機関系衛星
- 民間衛星
- その他
[編集] 衛星の性能
大雑把に、質量や太陽電池の発生電力で表されることが多い。
[編集] 衛星を構成するサブシステム
衛星は次のサブシステムを統合して製造される。
[編集] 搭載系(ペイロード、ミッション系)
[編集] 観測機器
- ミッションを実現するための観測機器。
[編集] トランスポンダ
- 通信・放送衛星の場合搭載される機器。地上から発射された電波を受信し、周波数変換し、大電力増幅して再び地上に送出するための送受信機。
[編集] アンテナ系
- 電波の出入り口で、放送・通信ミッションやレーダー観測衛星で重要な役割を果たす。
- ミッションを実現するためのサブ・サブシステムであるが、比較的大型であることと、設計製造に特殊な技術を要することから独立に扱われることが多い。
[編集] 衛星バス系
[編集] 姿勢制御系
- 地球センサ、太陽センサ、恒星センサと、慣性誘導装置、制御用計算機より構成される。これらを組合せ制御系を構築し、衛星を必要な姿勢に変更したり、姿勢を保つことを司る。
[編集] 電源系
- 太陽電池、蓄電池、制御・分配装置より構成される、衛星に搭載された機器に上手に電力を分配するためのサブシステムである。
- 惑星探査機では太陽電池が使えないことがあるが、その場合は代替の電源を用意する。
[編集] 熱制御系
- 衛星は宇宙空間にて高温から低温の過酷な環境に晒される。また、真空である宇宙空間では輻射による廃熱しかない。そのため、搭載した機器が良好に動作するためには、動作温度に収まるよう上手に設計する必要がある。実際のハードウェアとしては、次のような手段を駆使して実現する。
- サーマル・ブランケット:断熱材のこと。熱の出入りを抑える。
- ヒート・パイプ:熱源からの過剰な放熱をラジエータまで伝達する。
- ラジエータ:熱放射器のこと。
- ヒーター:過剰に冷却されないよう機器を暖める。
- 静止衛星では、夏至、冬至、春秋分の条件下で、太陽光の当たり具合や、地球からの輻射を考慮しながら、有限要素化した衛星の構造モデルを用いて設計解析する。
[編集] テレメトリ・コマンド・レンジング系
テレメトリ:地上の管制局に衛星の状態を送信する機能。
コマンド:地上からの命令を受信し、衛星に搭載された機器の制御をするための機能。通信速度は遅くてよい。
レンジング:地上局と衛星の測距を行うための機能。衛星は日々、軌道がずれていくため、そのずれを把握するために行う。
[編集] 構造
- 衛星は、打上げ時、分離時に大きな衝撃を受ける。その際に、衛星自体や、搭載した機器が破損しないよう設計されている必要がある。
[編集] 推進系
- 計画軌道に衛星を投入しても、放置しておくと、地球の重力異常や、太陽風による擾乱のために、徐々に軌道が変わっていく。そのため、スラスターを稼働させ、軌道制御を行う。
- 偵察衛星の場合、偵察のために必要な軌道変更を行うためにも使われる。
- 静止衛星の場合、静止トランスファー軌道から静止軌道に軌道変更するためのアポジ・モーターを搭載するが、それも推進系を構成する。
- 静止衛星が寿命を全うし、残骸が貴重な静止軌道を占有することがないよう、最後に軌道高度を上昇させるためにも使用する。周回衛星が、地球に落下するとき、安全な突入軌道にするためにも使用できる。
[編集] 地上管制系
[編集] 設計工程
[編集] 設計モデル
- 設計確認用
- ブレッドボード・モデル
- エンジニアリング・モデル
- 熱・構造モデル
- プロトタイプ・モデル(PM)
- 実際に打ち上げるもの
- プロト・フライトモデル(PFM)
- フライト・モデル(FM)
[編集] 設計段階
- 概念設計
- 基本設計
- 詳細設計
[編集] 設計上考慮する点
- 環境条件
- 衛星の寿命
[編集] 製造工程
[編集] 熱真空試験
[編集] 振動試験
[編集] 衝撃試験
[編集] 音響試験
[編集] 射場試験
[編集] 組織
衛星プロジェクトを完遂するためには、以下の要員が必要である。
- ライン
- プロジェクト責任者
- 主任技術者
- 搭載機器担当技術者
- バス担当技術者
- 試験監督
- ミッション解析担当技術者
- プロジェクト管理担当
- 主任技術者
- プロジェクト責任者
- スタッフ
- 契約担当
- 品質管理担当
- 法務担当
[編集] 宇宙関係機関
[編集] 衛星製造業者
- 日本
- 三菱電機
- NEC東芝スペースシステム
- 米国
- Boeing
- Lockheed Martin
- SS/L
- TRW
- 欧州
- Alcatel/Astorium
- 英国
[編集] 打上業者
- 日本(打ち上げ作業そのものは宇宙航空研究開発機構(JAXA)に委託する)
- 米国
- 米国を中心とした国際企業体
- 欧州
[編集] 保険会社
[編集] 教育機関
[編集] 衛星運用業者
[編集] 国家機関
宇宙開発の各国の宇宙開発機関の項を参照。
[編集] 主な打ち上げ実績
人工衛星の自国による打ち上げ実績を持つ国は多くない。旧ソ連、米国、フランス、日本などの順に打上げた。世界の累計衛星打上げ個数は、2005年末時点で5736個で、米CIS(旧ソ連時代含む)だけで約88%を占める。日本は111個で世界3位に付ける。打ち上げ場を保有する国は12カ国(ロシア・米国・日本・フランス・イタリア・豪州・ノルウェー・スウェーデン・イスラエル・インド・中国)。以下に主な打ち上げについて示す。
順位 | 打ち上げ年月日 | 打ち上げ国 | 衛星名称 | 打ち上げロケット | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 1957年10月4日 | ソビエト連邦 | スプートニク1号 | R-7 | 84kg |
2 | 1958年1月31日 | アメリカ合衆国 | エクスプローラー1号 | ジュピターC | 13.7kg |
3 | 1965年11月26日 | フランス | Aesterix 1号 | ディアマン | |
4 | 1970年2月11日 | 日本 | おおすみ | L-4S 5号機 | 23.8kg |
5 | 1970年4月24日 | 中国 | 東方紅 | 長征1型 | |
6 | 1971年10月28日 | イギリス | プロスペロ | ブラックアロー | オーストラリアで打上 |
7 | 1979年12月24日 | ESA | CAT | アリアン1型(L01) | 現・欧州連合の意味で掲載 |
8 | 1980年7月18日 | インド | ロヒニ1号 | SLV | |
9 | 1988年9月19日 | イスラエル | オフェク1号 | シャビット | 西向きに打上げ |
国・地域・国際機関・多国籍企業別累計衛星打上げ個数(2005年末。共同保有は含めず)
順位 | 打上げ国 | 個数 |
---|---|---|
1 | 旧ソ連(CIS) | 3212 |
2 | 米国 | 1781 |
3 | 日本 | 111 |
4 | 中国 | 92 |
〇 | インテルサット | 69 |
〇 | ESRO/ESA | 63 |
5 | フランス | 52 |
6 | インド | 38 |
7 | ドイツ | 37 |
8 | 英国 | 35 |
9 | カナダ | 26 |
10 | イタリア | 19 |
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- CelesTrak WWW(人工衛星の軌道要素の配布)
- Gunter's Space Page
- Satellite Provider