スペースデブリ
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スペースデブリ、宇宙ゴミ(space debris、うちゅうごみ)とは、その厳密な定義は明確でない部分もあるが、耐用年数を過ぎ機能を停止した(された)人工衛星、事故により制御不能となった人工衛星、衛星とロケット本体や、多段ロケットの切り離しなどによって生じた破片など、宇宙空間に漂っている(より正確には地球の周りを回っている)人工物体のことである。なお、天然起源の宇宙塵(微小な隕石)はメテオロイドと呼ばれる。
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[編集] 問題
近年、これらスペースデブリが増加しており、使用中の人工衛星や有人衛星などに衝突する危険性が問題となっている。 これらは軌道上を回っているため、低軌道で7~8km/s、静止軌道で3km/sと非常に高速で回っている。さらに軌道の角度によっては相対的に10km/s以上で衝突する場合もありえる。運動エネルギーは速度の2乗に比例するため、スペースデブリの破壊力はすさまじく、直径が10cmほどあれば宇宙船は完全に破壊されてしまい、数cmでも致命的な損傷は免れず、さらに数mmのものであっても場合によっては宇宙船の任務遂行能力を奪う(5~10mmのものと衝突するのは大砲で撃たれるに等しい)。
このような衝突を防ぐために北アメリカ航空宇宙防衛司令部 (NORAD) の宇宙監視ネットワーク (Space Surveillance Network; SSN) などでは約10cm以上の比較的大きなごみをカタログに登録して常時監視しており、その数は7000個に及ぶ。1mm程度のごみとなると、アメリカの人工衛星が大量の針をバラ撒く派手な実験をしていたこともあり、数百万個に及ぶと推定されている。
しかし、実際デブリによる事故が起こる可能性は、宇宙塵の衝突による事故よりも低いと考えられており、アメリカ航空宇宙局 (NASA) のデブリ監視局 (Orbital Debris Program Office; ODPO) は予算の無駄とし、縮小されている[要出典]。
[編集] ブレークアップ
人工衛星や多段ロケットの最終段などが軌道上で爆発することを「ブレークアップ(破砕、爆散)」という。1961年から2000年までに163回のブレークアップが起きており、多い時は1回で数百個から千個以上(観測可能なものだけで)のスペースデブリが発生する。これらは爆発前の軌道に沿って雲のような塊(デブリ・クラウド)を形成するが、時間が経つにつれて徐々に拡散していく。
ブレークアップの原因としては次のようなものが挙げられる。
- 意図的な破壊
- 衛星攻撃兵器の実験や、軍事衛星が他国の領内に落下することを防ぐための指令爆破など。冷戦中には米ソとも人工衛星の破壊実験を何度か行ったが、デブリの危険性が明らかになるにつれて自粛されるようになった。
- 2007年1月、中国が弾道ミサイルを使った老朽化した人工衛星の迎撃実験を行った。この結果、一時的に700個前後のデブリが発生したと見られており、NASAは脅威ではないとしながらも、その一部が軌道上に残る可能性があると懸念を表明した。これを受け、国連では宇宙空間で人工衛星を破壊することを禁じる法案を採択することになった。
- 推進剤の爆発
- 役目を終えた液体燃料ロケットの推進剤が残っていると、タンクの隔壁に亀裂が入って燃料と酸化剤が接触・反応したり、太陽熱によってタンクの内圧が上がったりして爆発することがある。これはタンク内の推進剤をすべて放出してしまえば防ぐことが出来るが、そうした措置が取られるようになる前に打ち上げられたロケットが10年以上経ってから爆発した事例もある。
- 2007年2月19日に発生したロシアのプロトンロケット上段ブースターの爆発では、1100個以上のデブリの発生が確認されている[1]。
- 電気回路のショート
- 人工衛星に搭載されている二次電池が回路のショートによって加熱、爆発する。
- 衝突
- デブリと人工衛星、あるいはデブリ同士の衝突。衝突事例を参照。
- 特定の軌道をとるデブリの密度が臨界値を越えると、衝突によるブレークアップが連鎖的に発生してデブリが自己増殖する可能性があると言われており、ケスラーシンドロームとも呼ばれる。
[編集] 対策
カタログ化された大きいデブリとのニアミスを事前に予測して回避するのは可能であり、またmm単位のデブリなら宇宙船の方にバンパーを設けることで衝突した時のダメージを軽減できるが、その中間の大きさのデブリへの有効な対処は難しい。
デブリを減らすためには、使用済みのロケットや人工衛星を他の人工衛星と衝突しない軌道(墓場軌道)に乗せるか大気圏突入させる、デブリを何らかの手段で回収するなどの対策が必要である。これらの対策は少しずつ開始されているが、小さなデブリを回収する手段については(レーザーで溶かしてしまうというものまで含めて)様々な方法が提案されているものの、まだ実用化されていない。
[編集] 衝突事例
1981年にはコスモス1275がブレークアップして300個以上のデブリとなったが、この衛星には圧力容器のような爆発の原因となりうる内部構造が無いため、デブリとの衝突が疑われている。
1996年にはフランスの人工衛星セリース (Cerise) がデブリと衝突し、衛星の一部が本体からもぎ取られて新たなデブリになっている。衝突の相手は1986年にアリアン・ロケットがブレークアップした際のデブリのうちの一つであり、カタログ物体同士の初の衝突であった。
2006年にはロシアの静止衛星エクスプレスAM11 (Express-AM11) がデブリとの衝突によって機能不全に陥り、静止軌道から墓場軌道へ移動させられた。
[編集] 微小デブリ
宇宙空間に長期間暴露されていた物体の表面には多数の微小なクレーターが出来る。衝突したのがメテオロイドかデブリかは、クレーターの底に付着した残留物を分析したり、クレーターの形状から衝突速度を推定することで判断できる。
1983年に打ち上げられたスペースシャトル・チャレンジャー (STS-7) では、軌道上で窓ガラスに何か(おそらく人工衛星から剥がれた塗料の粉だろうと考えられている)が衝突し、深さ約0.5mmの微小クレーターが出来た。 また、1984年にチャレンジャー (STS-41-C) はソーラーマックスの外壁2.5平方メートルを回収したが、その表面には約3年の暴露により千個ものクレーターが作られていた。このうちの約7割が人工的なデブリによるものとされている。
その後、ハッブル宇宙望遠鏡の太陽電池パネル(1990年~1993年)、SFU(1995年~1996年)などの同様の調査により、時代が下るにつれて衝突頻度が加速度的に上昇していることも判明している。 つまり、現在、微小デブリとの衝突はきわめて日常的な出来事になっている。
[編集] スペースデブリを主題とする作品
- 漫画『プラネテス』 - スペースデブリ回収業者を主人公として、本問題を大きく扱った作品。テレビアニメも制作されている。
[編集] 脚注
- ^ 「ロシアのロケット爆発、さらなるデブリ発生:中国より多量」、宇宙開発情報、2007年2月27日。
[編集] 参考書籍
- 『宇宙のゴミ問題-スペースデブリ』(八坂哲雄 裳華房 1997年)