昇華 (化学)
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昇華(しょうか、sublimation)は元素や化合物が液体を経ずに固体から気体、または気体から固体へと相転移する現象。温度と圧力の交点が三重点より下へ来た場合に起こる(水の相転移図を右に示す)。
標準圧では、ほとんどの化合物と元素が温度変化により固体、液体、気体の三態間を相転移する性質を持つ。この状態においては、固体から気体へと相転移する場合、中間の状態である液体を経る必要がある。 しかし、一部の化合物と元素は一定の圧力下において、固体と気体間を直接に相転移する。相転移に影響する圧力は系全体の圧力ではなく、物質各々の蒸気圧である。
日本語においては、昇華という用語は主に固体から気体への変化を指すが、気体から固体への変化を指すこともある。また気体から固体への変化を特に凝固と呼ぶこともあるが、これは液体から固体への変化を指す用語として使われることが多い。英語ではsublimationが使われるが、気体から固体への変化を特にdepositonと呼ぶこともある。中国語では固体から気体への変化を升华(昇華)、気体から固体への変化を凝华(凝華)と呼んで区別している。
[編集] 昇華と元素
亜鉛やカドミウムなどの元素は低圧条件下で昇華するため、高真空条件下ではこれらの化合物は昇華が起こる恐れがある。
二酸化炭素は常気圧で昇華する化合物のひとつである。室内のテーブルの上に固体 CO2 (ドライアイス)を放置すれば、液体を経ずに気体へと変化するのが観測できるだろう。また、ヨウ素も常気圧、室温条件下で昇華する物質のひとつである(ただし、CO2 とは異なり常気圧下で加熱することで液体ヨウ素を得ることが可能である。)
より低速ではあるが、雪や水氷も氷点以下では昇華する。フリーズドライに利用されるこの現象は、例えば凍りつくような寒い日に濡れた布を野外に吊るして放置しておくと乾燥状態になることで確かめられる。また、ナフタレン(防虫剤の一般成分)は徐々に昇華する。このため、防虫効果を長期間維持することができる。
昇華は吸熱反応であり、反応にはエネルギーを必要とする。
[編集] 用途
霜の付かない冷凍庫は冷却ファンと冷凍庫内部の空気循環の賜である。この冷蔵庫は、氷点下温度と乾燥状態を保った空気循環を組み合わせることで昇華の過程を著しく加速する。その結果として、冷凍庫の壁と棚が凍りつくのを防ぐことが可能であるが、一方でこれは冷蔵庫内にある角氷の昇華をも促進してしまうことをも意味する。
染料の昇華は、紙を含む種々の素地へカラー印刷する際にしばしば使用される。これを昇華型プリンタという。昇華型プリンタは、プリンタ内の小型ヒーターにより固体染料が蒸発することで色素が素地上に残る仕組みである。この種のプリンタが優れた原色比コントロールを示す場合、比較的低解像度のプリンタであっても同様の分解能を持つ他のタイプのプリンタよりも良質の印刷物を得ることが可能である。一般的な白黒レーザープリンタは、普通紙に昇華染料を含む特別な「転送トナー」を用いて印刷している。このため、熱を与えることで印刷内容を紙からTシャツや帽子、マグカップ、金属、パズル、およびその他素地の表面等へと永久的に写すことが可能である。
錬金術では、昇華は一般的に蒸留過程(物質を加熱し蒸発させ、その後に蒸留器の上部や首の部分で再凝縮させることで分取する過程)で用いられる。これは練金術における12の主要な過程のうちのひとつである。
ディープエッチング法を用いた急速凍結では、試料(例えば細胞組織など)を液体窒素で急速凍結させた後、真空ポンプに接続し、表面の氷を昇華させる。この方法は、含水物質表面の立体構造を維持したまま保存する際に効果的である。得られた乾燥試料をロータリーシャドウイング電子顕微鏡法で処理することで、試料表面のレプリカを得ることが可能である。
また、昇華はフリーズドライのコーヒーや紅茶、医薬品などを作る際に凍結乾燥法として利用される。凍結乾燥法は、試料の溶液か懸濁液(または、その両方の混合物)凍結し、真空条件下に於いて凍結試料を非常にゆっくりと加熱することで氷を昇華させ、乾燥試料を得る方法である。この方法により得られる固体は、非常に可溶性の高い粉末もしくは粒状となる。
不燃加工品、防火仕切り、壁板、およびコンクリートなどの防火製品は、火にさらされた際に素材中の水和物が分解して水蒸気として放出されることで耐火性を示す。