核抑止
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核抑止（かくよくし）巨大な破壊力を持つ核兵器を保有することが、対立する二国間関係において互いに核の使用がためらわれる状況を作り出し、結果として重大な核戦争が回避される、という考え方である。
1960年代、早期警戒衛星の配備で、アメリカ合衆国とソビエト連邦は相手の核ミサイル発射をより早く的確に察知できるようになった。これにより敵の核ミサイルが着弾する前に報復核攻撃を決断することが可能になった。
核抑止はその頃に生まれた理論で、核抑止が実現していれば、どちらかが核を先制使用しても、報復攻撃により双方が甚大な被害を受けるため（相互確証破壊）、核兵器は使えない兵器となり、最終的に核戦争が回避される、というのがその主張である。これは、核保有国が核の正当性を訴える一つの根拠になっている。
ただし、この核抑止を実現するためには、攻撃を受けた側も確実に相手に反撃できることを実証しなければならない。また、常に核兵器を発射できる態勢にする必要があるうえ、相手の第一撃で核ミサイル発射基地（核サイロ）を破壊されることも想定する必要がある。
さらに、技術的に片方が優位に立つと、核抑止は崩れてしまうため、双方は常に軍備を増強して、バランスを取る必要が生じる。このため冷戦中、米ソは核実験や核兵器の増産、配備を繰り返し、お互いの国土を何度も破壊できるだけの核兵器を配備した。このような軍拡競争は恐怖の均衡と呼ばれ、冷戦時代を象徴するキーワードの一つになっている。 冷戦終結後、米ソは双方の核弾頭数を段階的に削減する方向に動いているが、核抑止の考え方自体は否定されていない。
一方冷戦終結後、NPT体制がゆらぎ、核拡散が進んだ結果、新たなる問題として「テロリストの核」「貧しい分断国家の核」など核抑止が効かない不成立ケースの存在がクローズアップされ、抑止信仰に疑念が提起されるようになった。
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[編集] 核抑止不成立ケース
- 核の傘消滅は古くからある問題であるがこちらは核拡散とともに問題がクローズアップされている。北朝鮮情勢における日米韓の国益の微妙な不一致や、中露の核と北朝鮮の核の安定性の違いを理解するには欠かせない理論である。
- まず大方の思い込みに反して核を持てば必ず核抑止が働くとは限らず、核抑止というブレーキの壊れた、不安定な特殊ケースも存在し「核抑止不成立ケース」と呼ばれている。
[編集] 代表的な3つの核抑止不成立ケースとMD
[編集] テロリストの核
- 現在、米国で非常に重要視されている問題。国家と違ってテロリストには報復核攻撃されて困る都市がないので、世界最強の米国の核戦力を持ってしても、弱小国家以下の存在であるテロリストが米国や同盟国の都市で核兵器を爆発させる事を抑止できないというパラドックスである。 9.11事件を経験した米国は反米国家が反米テロリストに核兵器を譲渡するのを大変に恐れており、核兵器の製造国特定技術の研究を行っている。北朝鮮の核保有に関して「核保有は北朝鮮の主権の問題」というほど容認的な米民主党員でさえも、ブッシュ政権が北朝鮮に発した「テロリストに核を譲渡したら地球上から消滅すると考えよ」という警告は支持している場合が多い。
[編集] 敗亡寸前の国家の核
- 失うもののない、手負いの敗亡国家が、戦勝目前の敵国を破滅の道連れにするケース。すでに都市は瓦礫となっており、住民は疎開して地方に分散しているので、そうした敗亡国家にとって報復攻撃恫喝は有効ではなく、敗亡国家からの核攻撃は核武装でも核の傘でも抑止できないとされている。また、この問題のために、敗戦核保有国を徹底して追詰めるのは得策ではないという判断が戦勝国側に働くため、核保有国は敗戦しても講和交渉を比較的有利に進める事ができ、滅亡を免れる可能性が高いという見解がある。イスラエルなど孤立国家が核保有に走る動機として指摘され、北朝鮮の核保有の動機解釈についての二大見解の一つは此れである。防衛省防衛研究所、研究部長の小川は米国による北朝鮮武力制裁で北朝鮮が敗亡寸前となったとき北朝鮮の核攻撃を警戒すべきだと指摘している。MDが気休めの程度の効果しか期待できないと批判されているにもかかわらず、最低限度は必要とされる理由の一つは核抑止は必ず成立するとは限らないからである。
[編集] 分断国家の貧しいほうの核
- 平壌を失ってもソウルを得れば損失を上回る果実が得られるというケース。核抑止は撃ち合えば「相互に」損をする「均衡」に立脚しており、一方が核による損失に見合う利得が期待できると判断した場合、もはや核抑止は効かない。そしてこの場合の利得とは主観的なもので客観的経済利得とは限らない。北朝鮮の政府関係者・軍人には「統一の為なら核戦争も厭わない」という発言をするものが少なからず存在し、「分断国家の統一への渇望」はしばしば国民の人命より重視される。（さすがに中国は北京/上海を失えば台北を得ても戦果より損害が大きくなるために、そうした発言は軍人に限られるが）
- 「経済的実利」・「統一への渇望」に加え、軍国主義国家であるほどこの傾向は強まる。軍隊と言う組織は目的達成のために人命損失を許容する組織であるために（かつての日本がそうであったように）軍国主義国は人命損失不感症に陥っている場合が多いからである。日本から見て中国・ロシアの核が安定しているように感じられ、北朝鮮の核が極めて不安定な挙動に見える原因は、北朝鮮が独裁軍国主義国家だからというばかりではなく、北朝鮮の核が「核抑止不成立ケース」に該当するきわめて不安定な核だからに他ならない。北朝鮮の核はそういう意味で中国・ロシアの核と本質的に異なる。「中露の核で騒がないのに何故北朝鮮の核で騒ぐのか？」といえば、ブレーキの壊れた核抑止不成立ケースだからである。現在、日本に核がないのに薄氷の抑止（当然核抑止ではない）が成立しているのは、日本が潜在的に北朝鮮を滅ぼしうる国力を持っているから（つまり現在所有している可能性があるとされる三発の核ノドンを日本に撃ち込んでも日本は戦闘不能にならず北朝鮮を滅ぼすから）であるが、北朝鮮が建設中の大型原子炉（核220発/4年のペースで量産可能）が完成して北朝鮮が現在保有するノドン200基が全部核付きになれば、国民保護上はもはや「手遅れ」で、日本が核200発もとうが、戦闘機でノドン狩りをやろうが、MDを増やそうが気休めにしかならない。北朝鮮が韓国軍を核破砕して南侵した場合、米国は北を核攻撃する。そして北朝鮮は報復に米軍基地周辺を中心に日本を核攻撃する。（米国は恐ろしいからである）結果、北朝鮮が韓国を占領してロシア等の仲介で米国と講和した場合、北朝鮮は38度線以北が瓦礫になる代わりに韓国の富を得るが、日本は壊滅的打撃を受けた挙句、緩衝地帯（韓国）を失う。この場合、日本の核武装は抑止の役に立たないばかりか、北朝鮮に米軍基地周辺以外の日本の都市も核攻撃する口実をあたえ日本の被害を拡大するだけである。中国の核を抑止するためには核武装は役に立つが北朝鮮の核に対しては有効な抑止方法は核武装ではなく「大型原子炉が完成する前に空爆し核を10発以上持たせない」「これ以上核を持たせて半島武力統一への誤った希望を抱かせない」という二点に尽きる。
[編集] （遠い将来的に）MDが非常に進歩した場合
- 実現可能性は低いと目されているが、ロシアは米国のMDは核抑止の均衡を崩すものだと反対している。ABM禁止条約も基本的にその懸念に基づく。米ロ核抑止は恐怖の均衡ではあったが、曲がりなりにも60年間機能し続け核戦争は起こらなかったので、均衡が破れ、「核抑止不成立ケース」になる事をロシアは恐れている。
- 上記で明らかなように、核兵器の本質は「持たざる者の真剣」であって「持てる者の盾」ではない。にもかかわらず、米ソの核相互抑止という余りにも有名な核抑止成功例があるために「核抑止は常に成立するものではない」事が忘れ去られて、「核さえ持てば核攻撃されない」という誤った「核抑止信仰」が広まってしまっている。しかし核は真剣であって盾ではない。相手が斬り合うつもりなら自分の刀を示しても斬られてしまうと考えるべきである。
- また、失業者でも狙撃銃を持てば大統領を狙撃できるように、核は持たざる者の味方であり、世界最強の米国が、国家でさえないテロリストの核攻撃を抑止できなかったり,GDP1兆円の「分断国家の貧しいほう」でも移動式核ミサイルを200基持てば、GDP500兆円の日本を核の奴隷にできたり、核は持たざるものの逆転を可能にする「革命」兵器であることに注意が必要である。「抑止成立ケースか不成立ケースかが問題」で、テロリスト、分断国家の貧しい方は、普通の国家とは異質の「核戦争をやっても自らは損をしない」危険な相手であり、絶対核を持たせてはいけない。しかし外見のみすぼらしさに幻惑されて侮ってしまう向きが多いのは、核の革命的本質、持たざるものの味方である性格への無理解の故であろう。
[編集] 相互確証破壊と核の傘消滅
- 攻撃国と傘主国が相互確証破壊状態になったとき核の傘は消滅すると言われている。
- すなわちロシアが東京を核攻撃しても、米国は日本のためにモスクワに報復核攻撃などはしてくれず、PAC3やSM3搭載艦の派遣などミサイル防衛手段の派遣で同盟国としての協力義務を取り繕う可能性が高い。なぜなら米国がモスクワ核攻撃をすればロシアはニューヨーク核攻撃で報復するからである。
- ここで重要なのは「攻撃国の核戦力の生残性が問題」という事で、「攻撃国は傘主国に届く核ミサイルを保有しているが、その生残性は低い」場合は核の傘は不確実ながら機能する可能性がある。1980年代の中国戦略核戦力は生残性が低く対米相互確証破壊に至っていなかった。つまり、中国が東京を核攻撃した場合、米国は中国がICBMを垂直に立てて燃料を注入している間に自国のICBMで中国ICBMを攻撃して発射前に全滅させる事ができた。そして中国のICBMと夏型原子力潜水艦を破壊した後なら、自国への核報復を心配することなく日本のために北京に核ミサイルを撃ち込む事ができたのである。
- 第二次大戦の戦勝国である英仏が独自核戦力の保持に拘った一義的理由は、当時既にソ連の核はほぼ対米相互確証破壊の状態にあったというのが大きい。
- しかし米国から見ればこの理屈を5大国以外に認めれば、折角成立しているNPT体制の崩壊につながる考え方である。米国人にとって古くから浴びせられてきた疑問であるとともに、公式には「米国は断固、貴国を守るから心配するな」としか返事できない質問である。公式に同意してしまえばNPT崩壊を招きかねないからである。
[編集] 中国の核戦力近代化と対米相互確証破壊突入
- しかし、2007年から固体燃料移動式（三弾頭?）のDF31Aが就役する。ICBM/SLBMは発射してから着弾するまで12－30分かかり、着弾点が変更不能なため、移動式弾道弾は核弾頭の威力圏外に逃避可能であるほか、そもそも擬装されていると発見自体が困難であるため固定式とは比較にならない生残性があるとされている。また2007年から2010年に掛けて新型晋型原子力潜水艦が5隻配備される予定だが、自国空軍のSu-27に防護され日米のP3C対潜哨戒機が立入れないオホーツク海の東側原潜聖域よりアメリカ本土を攻撃できる16基以上の巨浪二型（JL-2）（射程8,000km以上）を、運用可能で生残性と即応性が大幅に向上したとされている。上記事情より2007-2010年中国は対米相互確証破壊を迎える結果、ロシアに続いて中国についても米国の核の傘は消滅すると言われている。つまり、米国にとって中国が東京を核攻撃してもニューヨークが報復核攻撃される危険を冒してまで北京に報復核攻撃をする筈は無くPAC3やSM3（ミサイル防衛参照）を派遣するだけで済ますであろうと予測されており、台湾滅亡阻止のための米国の核使用に対する、中国の佐世保・横須賀・岩国・嘉手納への報復核攻撃を未然に回避し、「実効性ある国民保護を確保する」ために困難を乗越えNPTを破壊しない形での核抑止構築が必要である・・というのが核武装推進論（共同核を含む）に散見される立場である。
[編集] 米ソ（ロシア）間の核抑止交渉
両国はそれぞれが保有する核戦力を減らすことでも互いの均衡をとることに腐心した。互いの内情や世論・周辺国の政治動向を探りつつ、核抑止力が保てる限度を要求した。交渉のいくつかは名目的に協定されただけで、配備削減の実績につながらなかった。
冷戦の時代は終結したとされるが、2006年現在でも核抑止交渉に伴う削減作業が続いており、双方にとって負担となっている。ロシアは財政的に苦しいため、核兵器の削減にかかる巨額の費用が自国の経済力から捻出できず、アメリカや日本・イギリス・フランスの支援に頼るという皮肉な事態も発生している。
さらに、解体後の放射性物質は原子力発電等の平和目的に転用するのが難しいだけでなく、廃棄するのも難しい。兵器級の核物質は何者かに盗まれて流出すれば全地球的な大問題に直結する。そのための警戒にも万全の体制が必要である。核抑止という考えのもたらした後遺症は今後長く続く。それでもなお両国は核戦力を維持する。
個々の詳細な日付・内容は当該記事を参照のこと。
- 第一次戦略兵器制限交渉 略称:SALT I 1969年より交渉開始、1972年5月妥結。
- 弾道弾迎撃ミサイル制限条約 1972年締結。2002年米の脱退で無効化。
- 第二次戦略兵器制限交渉 略称:SALT II 1979年に調印したが米議会の批准拒否により1985年に期限切れ失効。
- 中距離核戦力全廃条約 1987年調印。1998年発効。1991年廃棄完了。
- 第一次戦略兵器削減条約 略称:START I 1991年調印、1994年批准、2001年削減完了。
- 第二次戦略兵器削減条約 略称:START II 1993年に調印したが双方は実行せず。
- 第三次戦略兵器削減条約 1999年交渉開始するも進展せず。
- モスクワ条約 略称:SORT 2002年締結。現在作業中で、2012年を削減期限とする。
