P-3 (航空機)
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P-3はアメリカ合衆国の航空機メーカー・ロッキード社(現・ロッキード・マーチン社)が開発したターボプロップ対潜哨戒機。愛称はオライオン(ORION)。西側を代表する哨戒機であり、現在、アメリカ海軍や日本の海上自衛隊など多くの国で使用されている。
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[編集] 開発経緯
1957年8月にアメリカ海軍は、ロッキードP2V(改名でP-2)ネプチューン対潜哨戒機の後継機の提案を各航空機メーカーに求めた。この対潜哨戒機は、SOSUSにより探知された敵核ミサイル搭載原子力潜水艦らしい音響信号へ急行し、ソノブイ、磁気探知機による識別を行い、核魚雷、核爆雷を使用して、潜在海域ごと完全に消滅することを目的としていた。
海軍の要求を受けてロッキード社は、開発中であり1957年4月に初飛行したばかりであったターボプロップエンジン4発搭載の旅客機、L-188 エレクトラの改造型を提案し、1958年4月に採用が決定された。原型機のYP3V-1(後にYP-3Aと改名)は、1958年8月19日に初飛行に成功、1962年8月よりP-3Aとしてアメリカ海軍への配備が開始された。対潜水艦戦用の機材は、P-2対潜哨戒機とほぼ同様であったものの、機内容積が拡大し、速度・航続距離の向上が著しかったために、実質的な対潜水艦能力は向上している。また、エンジンを強化したP-3Bの配備が1965年より開始された。
続く性能向上型のP-3Cは、1968年に原型機YP-3Cが初飛行し、1969年より部隊配備が行われている。向上点は主に、潜水艦探知用のソノブイ・システム、センサー、レーダー、データ処理用のコンピューターである。P-3Cは、この潜水艦探知用システムが順次近代化されており、その近代化により、アップデートI~IVまである。最新のアップデートでは、対水上艦艇監視能力の向上が掲げられ、洋上監視機器の向上のほか、マーベリックミサイルの運用が可能となっている。
なお、海上自衛隊の機体は、P-3CアップデートII.5~III相当であり、およそ100機が配備されているが、そのほとんどは川崎重工業によってライセンス生産された物である。
本家のアメリカ海軍では約200機を世界の主要地域に展開しているが、四方を海に囲まれた海運国とはいえ、海上自衛隊が日本周辺だけに約100機も配備している事は、冷戦時の対ソ戦略の最前線に海上自衛隊が機能していた事を示している。
また、1980年代後半には、P-3の更なる改良型として、アメリカでP-7が計画されたが、これはキャンセルされた。後継機にはボーイングP-8Aが開発中であり、2000年代後半にも配備予定である。
[編集] 特徴
L-188「エレクトラ」は、低翼の4発ターボプロップ旅客機であった。その改造に当たっては、尾部に磁気探知装置(MADブーム)が付けられ、機首が少し切り詰められている。また、主翼端に武装用のパイロン、胴体にもウエポンベイが付けられた。ソノブイ投下装置も胴体後部に設けられた。
[編集] 海上自衛隊P-3C
[編集] 採用までの経過
日本でも1968年(昭和43)から、海上自衛隊のP2V-7対潜哨戒機の後継として次期対潜哨戒機(PX-L)の選定が行われ、国産でとの声もあったが、P-3を推す声が高まっていた。1975年(昭和50)に外国からの選定を始めたが、実際には田中角栄が首相時に推したP-3に決定していたという。
ところが、旅客機L-1011トライスターの大量受注を目論んだロッキード社が、日本の航空会社役員や有力政治家に賄賂を贈り、その国の航空会社に受注させようとするロッキード事件が1976年(昭和51)2月に発覚し、ロッキードは日本の旅客機産業から永久追放された(トライスターは販売不振で1980年代に製造中止となった)。
日本は事件を受けて候補に上がっていたP-3を白紙に戻し、一から選考しなおす方針をとった。そのため海自はつなぎとしてP2V-7を改良した川崎P-2Jを増産することとなった。1977年(昭和52)には再度P-3Cの採用に決定したが、実際に配備されたのは1982年(昭和57)に入ってからとなった。ほとんどが川崎重工業によってライセンス生産され、1997年(平成9)までに101機が生産された。このうち、アップデートII.5相当が前半の69機、後半の32機がアップデートIII相当である。後に衛星通信機器、ミサイル警報、ミサイル妨害装置が追加された。
哨戒機では機体性能よりも、搭載電子機器の性能が重要な比較対象である。海上自衛隊採用の初期型は、捜索用機器はすべてブラックボックスの輸入にたよっていたが、国内技術の成長により、順次国産機器に換装されつつある。ブラックボックスの輸入のほうがコスト的には有利であるが、故障時の代替機器の手配に難があり、またオペレーターと開発者との接点がないため、ユーザーの意図を反映した改善がなされることがなくなる。国産電子機器は世界的にも最高水準を維持しており、また民間技術の導入による低廉化が促進されることも期待できる。
川崎製P-3Cの内、20機程度が画像情報収集機OP-3Cに独自改造された。1991年(平成3)から1998年(平成10)にかけて、P-3Cをベースにした電子戦機EP-3が5機、1994年(平成6)に装備試験機UP-3Cが1機、1998年から2000年(平成12)にかけて電子戦訓練支援機UP-3Dが3機、それぞれ製造され、川崎でのP-3生産が終了した。これら派生型を含め、海上自衛隊のP-3保有数は110機である。
[編集] 導入時と現在
P-3Cは昭和50年代から従来のP-2Jを更新して部隊配備となった。導入時の海上自衛隊演習では、ローファーブイ/ダイファーブイ(受信専用のソノブイ)による広域哨戒で、次々と潜水艦の探知に成功し、海上自衛隊潜水艦部隊からP-3Cショックと呼ばれるほどの脅威とみなされた。しかしその後は海自潜水艦の静粛性が格段に向上し、ローファーブイでの対応が困難になってきたため、ダイキャスブイ(探信音付きソノブイ)を使用したアクティブ戦を交える戦術をとるようになった。現在では赤外線暗視装置と逆合成開口レーダーによってシュノーケル航走中の潜水艦探知で成果をあげているが、潜水艦のAIP推進化が進んでおり、技術的優勢の継続は難しいものと思われる。 平成10年頃から対潜哨戒機から哨戒機へと機種呼称を変更しており、対潜水艦一辺倒だった体制を改善し、不審船対策や東シナ海ガス田に対する監視の強化も任務として取り上げられている。
[編集] 主な装備品
- UHF/VHF無線機(国際マリンバンドも含む)
- HF無線機 伝搬距離約1200海里
- 暗号通信装置
- データーリンク LINK11
- 衛星通信装置
- 捜索用レーダー AN/APS-115 最大捜索距離約200km
- ESM逆探知装置
- IRDS赤外線暗視装置
- ISAR逆合成開口レーダー AN/APS-137
- ソノブイ投射機 ソノブイ探知距離CZ捜索時約30nm 直接伝搬域探知時約3000m
- ソノブイ解析システム AN/UYS-1
- MAD磁気探知機 AQS-81 探知範囲約500~1000m
- ミサイル防御装置
- ハープーン対艦ミサイル AGM-84
- ASM-1C対艦ミサイル
- 魚雷MK-46、97式短魚雷
- 150kg対潜爆弾
- 水中発音弾(音響警告用)
[編集] 能力向上
海上自衛隊のP-3Cは数種類のバージョンがあり、衛星通信装置、合成開口レーダー、画像伝送装置、ミサイル警報装置などの追加装備によって、年々能力向上を図っている。 次期哨戒機の開発も進行しているが、さらに追加装備として、GPS対応電子海図表示装置、AIS:自動船舶識別装置、次世代データーリンクの追加も検討されている。
[編集] 搭乗員の編成
- パイロット 2名
- FE(機上整備員)
- TACCO(戦術航空士)
- NAV/COMM(航法通信士)
- SS-1、SS-2(ソーナー員)
- SS-3(レーダー員)
- IFT(機上電子整備員)
- ORD(機上武器整備員)
場合によりパイロット1人となる場合がある。
[編集] 配備基地
- 八戸航空基地
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- 第2航空群 - 第2航空隊、第4航空隊
- 下総航空基地
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- 下総教育航空群 - 第203教育航空隊
- 厚木航空基地
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- 第4航空群 - 第3航空隊、第6航空隊
- 第51航空隊(UP-3C/OP-3C)
- 岩国航空基地
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- 第31航空群 - 第81航空隊(EP-3/OP-3C)、第91航空隊(UP-3D)
- 鹿屋航空基地
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- 第1航空群 - 第1航空隊、第7航空隊
- 那覇航空基地
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- 第5航空群 - 第5航空隊、第9航空隊
[編集] 後継機
P-3も初飛行から40年以上が経過し、装備のグレードアップを繰り返しているものの、基本性能の陳腐化は免れず、海自のP-3Cも2010年(平成22)度より退役が始まる予定である。このため、後継機の導入計画が各国で進められている。アメリカはボーイング737改造のP-8を採用するが、日本は独自開発のP-Xとなる。初飛行は2007年(平成19)を予定している。
[編集] スペック
- 乗員: 11名
- 全長: 35.6 m
- 全幅: 30.4 m
- 全高: 10.3 m
- 翼面積: 120.8 m2
- 離陸重量: 56,000kg (P-3C)
- エンジン: アリソン T56A-14 ターボプロップ ×4
- 出力: 4,910馬力
- 最大速度: 395ノット (P-3C)
- 巡航速度: 最大:745km/h
- 航続距離: 9,000km
- 実用上昇限度: 8,600m
- 武装: 短魚雷・対潜爆雷・ハープーン対艦ミサイルなど
[編集] 派生型
機体構造の優秀さ、搭載量の多さから派生型は数多い。
- P-3A:初期生産型。157機製造。
- P-3A (CS):アメリカ税関向け。麻薬密輸機取締り用に一時使用。4機改造。
- EP-3A: 電子偵察機の試作機。7機が改造。
- NP-3A:海軍研究所(US Naval Research Laboratory)向け。3機改造。
- RP-3A:海洋科学開発飛行隊(Oceanographic Development Squadron パタクセント・リバー海軍航空隊所属)向けに2機改造。
- TP-3A: 対潜装備を除去した練習機型。12機改造。
- UP-3A: 対潜装備を除去した汎用輸送機型。38機が改造された。
- VP-3A: VIP輸送機型。WP-3Aより3機、P-3Aより2機が改造された。
- WP-3A:気象観測機。4機が改造された。
- P-3B:エンジンを強化した型。144機製造。後にP-3C相当に改造された。
- EP-3B:電子戦訓練機。後にEP-3Eに改造。
- NP-3B:各種試験機。
- TAP-3B:オーストラリア空軍向けの訓練・輸送型。
- P-3C:対潜水艦戦機材を向上させた型。1975年開発。118機製造。
- EP-3C:
- EP-3E Aries:電子戦訓練機。12機が改造。
- EP-3E Aries II:SIGINT(電子信号偵察)機(2001年に海南島近海で中国軍機と衝突したのはこのタイプ)。12機が改造。
- EP-3J:アメリカ海軍向けの電子戦訓練支援機。2機が改造された。
- NP-3C:
- NP-3E:各種テスト機(RP-3A、RP-3D、UP-3Aを改称)
- RP-3C:大気観測用。1機改造。
- RP-3D:
- WP-3D:アメリカ海洋大気局 (NOAA) 向けの気象観測機。ハリケーン観測などを行う。2機が改造。
- P-3F:帝政期のイラン空軍向け機体。1975年に6機製造。
- P-3G:
- P-3H:
- P-3K:ニュージーランド空軍向け。
- P-3N:ノルウェー空軍向け。2機製造。
- P-3P:旧オーストラリア空軍向けP-3Bをポルトガル向けにUpdate II相当に向上させたもの。6機改造。
- P-3T:タイ向け。
- P-3W:オーストラリア空軍向け。
- P-3AEW&C:早期警戒機型。アメリカ税関において、麻薬密輸機取締り用に使用中。大型レーダーを搭載。
- CP-140 オーロラ(Aurora):カナダ向け。18機製造。
- CP-140A アークツゥルス(Arcturus):カナダ向け。漁業監視機。
- 川崎重工業ライセンス生産
- P-3C:海上自衛隊向け対潜哨戒機。
- Update II.5:69機
- Update III:32機(Update II.5からIIIへバージョンアップされた機体もある)
- EP-3:海上自衛隊向けの電子情報偵察機。5機生産。MADブームを降ろし、胴体前部下面にバルジが増設されている。センサーとして、SLAR・側方画像監視レーダーまたはLOROP・長距離監視センサーを装備。乗員10名。第31航空群第81航空隊に配備。
- OP-3C:海上自衛隊向けの画像情報偵察機。4機改造。MADブームを降ろし、胴体前部下面にバルジが増設されている。センサーとして、SLAR・側方画像監視レーダーまたはLOROP・長距離監視センサーを装備。乗員10名。第31航空群第81航空隊に配備。その内1機は厚木基地第51飛行隊に配備。
- UP-3C:海上自衛隊向けの装備試験機。1機生産。乗員5名。厚木基地第51航空隊に配備。
- UP-3D:海上自衛隊向けの電子戦訓練支援機。MADブームを降ろし、胴体上面に2ヶ所、胴体下面に2ヶ所のバルジを増設。乗員8名。第31航空群第91航空隊に配備。艦艇に対する電子戦訓練と、必要に応じ標的の曳航やチャフの散布も行う。3機製造。
[編集] 採用国
- アメリカ合衆国
- イラン(イラン革命前に配備、対米国交断絶のため、運用できているかは不明。対潜機材を取り外し、海洋監視機として使用されているともいわれる)
- オーストラリア
- オランダ
- カナダ
- スペイン
- 大韓民国
- ギリシャ
- タイ王国
- チリ
- 日本
- ニュージーランド
- パキスタン
- ポルトガル
[編集] 登場作品
- ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS :前作ゴジラ×メカゴジラにも登場。
- ゴジラvsデストロイア :米海軍のP3Cが登場。
- ゴジラ (1984)
- 亡国のイージス
- 首都消失 :米軍のEP-3Eが登場。
- WXIII 機動警察パトレイバー(アニメ映画)
- 沈黙の艦隊
- 宣戦布告 (小説)