核融合エネルギー
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核融合エネルギー(かくゆうごう-)は、水素原子の融合によって生まれる次世代エネルギーである。現在ある原子力発電とは違い、放射性廃棄物が少なくて済む特徴を持つ。特に、核融合炉は「地上の太陽」とも呼ばれる。
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[編集] 概要
原子番号28ぐらいまでの軽い元素では、核子一個あたりの結合エネルギーが比較的小さいので、原子核融合によって余分なエネルギーが放出される可能性がある。しかし、原子核の電荷が互いに反発して反応を阻害するため、実際にエネルギーを取り出して利用できるような形で反応を起こすことが可能なのは、電荷がごく小さい水素やリチウムなどに限られると見られている。実際に核融合反応で発電するためには、原子核が毎秒1000km以上の速度でぶつかりあう必要がある。これを臨界プラズマ条件と呼びこの速度の実現には、D-T反応では「発電炉内でプラズマ温度1億度C以上、密度1立方センチメートルあたり100兆個とし、さらに1秒間以上閉じ込めることが条件」と、いうことになる。現在(2006年9月)この条件自体はJT-60U及びJETで到達したとされているが、発電炉として使用出来るまでの持続時間等には壁は高く、炉として実用可能な条件を目指し挑戦がつづいている。
[編集] 利点
- 原子力発電で問題となる高レベル放射性廃棄物が生じないこと
- 原子力発電と同様、温室効果の原因となる二酸化炭素の放出が少ないこと
- 水素など、普遍的に存在し、かつ安価な資源を利用できること
- 海水中の無尽蔵の重水素やリチウムを活用していく構想があること
- 核分裂反応のような連鎖反応がなく、暴走が原理的に生じないこと
などが挙げられる。
[編集] 欠点
技術的困難としては、1億度程度の高温でなければ十分な反応が起こらず、そのような高温状態では物質はプラズマ状態となり、通常の容器に安定して収納することができず、そもそもこのような高温に耐えられる融合炉の材料が無い点等にある。そのため磁力線を利用してプラズマを保持する磁気閉じ込め方式などが開発された。
[編集] 核反応
核融合炉において,使用が検討されている反応は主に以下の3つである。なお、以下 Dは重水素、Tは三重水素(トリチウム)、pは水素原子核、nは中性子、Heはヘリウムである。
[編集] D-D反応
D + D → T + p D + D → 3He +n
自然界でも原始星で起きている反応の一つである。核融合炉として使用する場合資源の入手性が非常に良いが、反応条件が厳しく、D-T反応の10倍条件厳しい反応条件を達成する必要がある。なお、JT-60を含む多くの核融合開発を目的とした実験装置において、重水素を使う実験が行われている結果、この反応が起きている。(もちろん、投入エネルギーを回収出来る程ではない。)
[編集] D-T反応
D + T → 4He + n (14MeV)
反応条件が緩やかで、最も早く実用化が見込まれている反応である。核融合炉として使用する場合トリチウムの入手性に課題がある。トリチウムは、自然界においては、大気の上層でわずかに生成されるのみであり、半減期の短い放射性物質であるため事実上採取は不可能である。また、高速中性子が生成するため、炉の材質も検討が必要となる。現在検討されているトリチウム入手法は、核融合炉の周囲をリチウムブランケットで囲み炉から放出される高速中性子を減速させつつ核反応を起こし、
6Li + n → T + 4He + 4MeV 7Li + n → T + 4He + n - 2.5MeV
トリチウムを得ることである。このときブランケットは高速中性子を減速して遮蔽し、燃料を生産し、反応熱を取り出すと言う3つの役割をすることになる。JETおよびTFTRにおいてはこの反応を主反応とするような実験が行われた。
[編集] D-3He反応
D + 3He → 4He +p
反応がD-T反応の5〜6倍程度の条件とD-T反応程ではないが比較的起こりやすく、発生するエネルギーも荷電粒子である陽子が担い放射性物質も出ないので炉が扱いやすいこと(但し副反応のD-D反応で中性子が発生する)と、直接電力にエネルギーを変換することが可能なことで注目されている反応である。しかしながら、地球上にはヘリウム3がほとんど存在しないことが大きな問題である。アポロ計画の探査の結果太陽風により月には大量のヘリウム3が存在することが明らかになったが、実用化は非常に遠いと見られる。中華人民共和国の月探査計画はヘリウム3採取を最終目的にしている。また、太陽系内宇宙を舞台とした近未来サイエンス・フィクションにおいて木星や、月表面から採取したヘリウム3を燃料とした核融合がエネルギー源という設定になっていることがある。(ガンダムシリーズ・プラネテス等)
[編集] 現状
現在最も研究が進んでいるのは、磁気閉じ込め方式の一種であるトカマク型であり、現在計画中のITER(国際熱核融合実験炉)もこの方式を用いている。しかし、このトカマク型にも弱点がある。核融合のさい電気的に中性の性質を持つ中性子が飛散し、炉を傷つけるために、炉の耐久力が問題となる。とりわけITERでは前述のD-D反応よりも反応断面積が約10倍大きいD-T反応を用いる計画であるが、D−T反応では高速中性子が発生する。この高速中性子により炉の構成材内部では多数の原子が弾き飛ばされ(カスケード)、材料内部に欠陥が生じ原子レベルで空洞が生じる。これが結果として材料の膨張(スウェリング)につながり、この状態ではもはや十分な耐久性を維持出来ない。また、脆化以外にも高速中性子により炉を構成する原子が核変換してしまい、材料が放射化することから、高レベル放射性廃棄物が生成する問題も挙げられている。
その他、各種の閉じ込め方式があり、それぞれ各国で研究が進められている。日本では、核融合研究の中心は日本原子力研究所のJT-60(トカマク型)、核融合科学研究所などで進めているヘリカル型と、大阪大学で研究が進んでいるレーザー核融合である。
圧力の低いプラズマを保持することは比較的容易であるが、エネルギーとして利用可能な程度の圧力のプラズマを保持するのは難しく、前述のJT-60で、高圧力プラズマの保持時間は30秒程度である。(この30秒という時間は加熱装置である高周波装置と中性粒子ビーム装置の稼働時間の上限で決まっているようである。現在ITERのために1000秒以上稼働できる装置を開発中である。)また、保持のために投入するエネルギーに比較して反応により得られるエネルギーはまだ小さく(エネルギー倍増率(Q値)~1.25)、世界の各種装置で核融合利得1を若干超える程度である。これらの課題については、ITERで研究が進められる予定である。(ITERの目標値はQ値~10)
近年、常温核融合の発見が世間を賑わせたが、その後の追試験で測定に問題があるとの認識が高まり、現在では研究も下火になっている。