ITER
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ITER(いーたー)は、国際協力によって核融合エネルギーの実現性を研究するための実験施設である。名称は、過去にはInternational Thermonuclear Experimental Reactorの略称と説明された時期もあったが、現在は公式にはラテン語で「道」を意味するiterに由来する、とされている。日本では「国際熱核融合実験炉(こくさいねつかくゆうごうじっけんろ)」と称する。参加国は、日本、欧州連合、ロシア、米国、中国、韓国、インドの7ヶ国。建設候補地として青森県六ヶ所村(日本)とカダラッシュ(フランス)が挙げられていたが、2005年6月、カダラッシュに建設することが決定された。2006年11月にはプロジェクトの実施主体となる国際機関を設立する国際協定に対する署名が行われており、協定の発効は2007年以降と予定されている。
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[編集] 目的
現在、核融合に関する研究は世界各国で活発に行われており、装置の方式についても様々な種類のものが検討されている。しかし、これまでの研究装置では、実用化するに足る規模のエネルギー(数十万kW程度)を継続的に発生させた例はなく、瞬間値としても欧州連合のJETが1997年に記録した1万6千kWが最大である。実用規模の核融合エネルギーが生じる条件下でのプラズマの物理は未知の領域であり、その解明は、核融合エネルギーの実用化に不可欠な課題の一つである。ITERでは、最大で50〜70万kWの出力(熱出力)が見込まれており、実用規模のエネルギーを発生させる初の核融合装置となる。プラズマ物理における課題の解明が大きく期待されている。さらに、ITERではエネルギー発生プラントとしてのエネルギー収支も大きく向上され、運転維持に必要となるエネルギー(入力エネルギー)と核融合により生成されるエネルギー(出力エネルギー)との比(エネルギー増倍率)が従来装置では1程度であったところ、5〜10を目標値としている。
また、核融合による発電を行う場合、長時間連続して核融合反応を生じさせる必要があるが、実用可能な程度に高い圧力のプラズマを保持することは現状では困難で、日本のJT-60が24秒を達成したのが最長である(低い圧力のプラズマについては、九州大学のTRIAMが5時間16分の記録を保持)。ITERではこれを超えて、エネルギー増倍率が10以上の場合でも300〜500秒の長時間運転を達成できることに加え、エネルギー増倍率が5の場合には定常運転(連続運転)が可能となることを目標としている。
さらに、核融合装置はプラズマ閉じ込め用の超伝導コイル、プラズマ加熱用の加速器、保守のための遠隔ロボット等、高度な技術の集大成でもあり、ITERにおいてこれらの機器を統合的に運用して、核融合装置という特殊な環境においてもお互いに悪影響を及ぼさず、正常に運転するという経験を積むことは、核融合の実用化にあたって貴重な機会であり、これもITERの大きな目的の一つである。
一方で、核融合の実用化には、高い中性子照射に耐えるとともに、放射性物質に変化しにくい材料の開発が必要不可欠であるが、ITERは材料開発に用いるためには中性子の発生量が不十分であり、これを主な目的とはしていない。したがって、ITERと並行して核融合材料の開発を行う必要があり、現在、同じく国際協力で材料開発のための照射設備の建設計画が進行中である(IFMIF計画)。
このように、ITERのみで核融合の実用化が達成される訳ではないが、ITERが実用化に向けての重要な一歩であることは間違いない。
[編集] 経緯
1985年にジュネーブにおいて行われた米ソ首脳会談において、レーガン大統領とゴルバチョフ書記長は平和利用のための核融合研究の重要性を認め、核融合エネルギー実用化のための国際協力について合意した(共同声明の末尾に言及あり)。これを契機として、核融合研究において先行していた米国、ソ連、日本および欧州原子力共同体の代表者が協力の形態について1987年から協議を開始した。その後、IAEAの後援の下、これら4ヶ国によってITERの概念設計活動(Conceptual Design Activity, CDA)が1988年から1990年まで行われた。
概念設計活動の終了後、より詳細な設計と、建設に必要な研究開発を行うことを目的として、上記4ヶ国(ソ連は1991年に崩壊したため、ロシアが継承)は工学設計活動(Engineering Design Activity, EDA)を開始することに合意し、「国際熱核融合実験炉のための工学設計活動における協力に関する欧州原子力共同体、日本国政府、ロシア連邦及びアメリカ合衆国の間の協定(EDA協定)」を1992年に締結した。当初の有効期間は6年間で、1998年に最終設計報告書が提出されたが、各国の財政事情から建設費用を軽減する必要が生じ、再設計のために工学設計活動の期間は3年間延長された。その後、財政上の問題や建設地選定の遅延等を理由として1999年に米国が離脱したが、他の3参加国により活動は継続され、延長後の最終設計報告書は2001年7月に完成した。
EDAの終了後、ITERの建設・運転等、計画の実施に必要となる国際協定について議論するために「ITER政府間協議(ITER Negotiations Meeting)」が開始された。カナダは2001年6月にオンタリオ州クラリントンを建設候補地として提案していたため、EDAに参加した日本、欧州連合、ロシアの3ヶ国と並んで政府間協議に当初から参加した。第1回政府間協議は2001年11月にトロントにおいて行われた。2003年2月に開催された第8回政府間協議において、米国が計画に復帰し、また、中国が新規に参加した。さらに2003年6月には韓国が、2005年12月にはインドが新規に参加したが、一方でカナダが2003年12月に離脱し、現在の参加国は日本、欧州連合、ロシア、米国、中国、韓国、インドの7ヶ国である。
建設候補地については、カナダが2001年6月にオンタリオ州クラリントンを提案した他、2002年6月に日本が青森県六ヶ所村を、欧州連合がカダラッシュ(フランス)とバンデヨス(スペイン)をそれぞれ提案し、4候補地が誘致を競っていた。これらの候補地を参加国が共同で調査することを目的として、「サイト共同評価(Joint Assessment for Specific Site, JASS)」が2002年9月から12月にかけて実施され、報告書が2003年2月の第8回政府間協議において承認された。報告書は、差異はあるものの技術的にはどの候補地に建設することも可能としており、候補地間の総合的な優劣については言及しなかったため、候補地の決定は政治的な判断に委ねられた。その後、欧州連合は11月に候補地をカダラッシュに一本化し、また、カナダが連邦政府から財政的な支援を受けられなかったために12月に提案を取り下げたため、六ヶ所村とカダラッシュのみが候補地として残った。候補地の最終的な選定のために、参加国の閣僚級の代表による会合が12月に行われたが、日欧共に誘致を主張し、また参加国のうち米韓が日本支持、露中が欧州支持と拮抗したため、決定には至らなかった。その後、2005年5月にジュネーブにて日本とEUとの間で次官級協議が行われ、建設地決定に際して誘致国と非誘致国が合意すべき条件が話し合われた。後に発表された共同文書によれば、協議における合意内容は以下の通り。
- 誘致国は誘致できなかった国に対してITER建設費の10%分の調達枠を譲る
- 誘致国は誘致できなかった国にITER職員枠の10%を譲る
- 誘致国は誘致できなかった国が推薦するITER機構長候補を支持する
- 誘致できなかった国にITER関連施設を建設し、誘致国が建設費の50%を負担する
これを受けて6月に再度閣僚級会合が開催され、建設地はカダラッシュに決定された。また、この合意に従い、11月に開催された次官級会合において池田駐クロアチア大使が機構長候補として承認された。
プロジェクトの実施主体となる国際機関として「イーター国際核融合エネルギー機構(仮称)」の設立が予定されており、その設立根拠となる国際協定である「イーター事業の共同による実施のためのイーター国際核融合エネルギー機構の設立に関する協定」に対する署名が2006年11月21日にパリのエリゼ宮において行われた。協定の発効と国際機関の正式設立は2007年以降と予定されている。
[編集] 反対意見
現行のITER実験炉建設計画に対し、安全性・環境汚染性の観点から反対する意見がある。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
[編集] 公式サイト
- Welcome to the ITER WWW site(ITER国際チームによる公式サイト、英語)
- ITER計画について(文部科学省)
- ITER(国際熱核融合炉実験炉)計画について(外務省)
- Rokkasho,Aomori: The Way R&D Life Should Be.(青森県、英語)
- ITERサイト(日本原子力研究開発機構)
- EFDA - EUROPEAN FUSION DEVELOPEMENT AGREEMENT(欧州核融合開発協定)
- Cadarache - The European site for ITER(フランス・カダラッシュ、英語)
[編集] 反対派
[編集] 最新情報
- 情報ステーション(プラズマ・核融合学会)
- 国際熱核融合実験炉(ITER)(Yahoo!ニュース)
- 特集/ITER誘致(東奥日報)
- The FIRE Place(米国・プリンストンプラズマ物理研究所、英語)
- Fusion Program Notes(米国・核融合協会、英語)