注音符号
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注音符号(ちゅういんふごう / ちゅうおんふごう、注音: ㄓㄨˋ ㄧㄣ ㄈㄨˊ ㄏㄠˋ、ピン音: zhùyīn fúhào)は中国語の発音を記述するための方法の一つ。先頭の四文字ㄅㄆㄇㄈからボポモフォ (Bopomofo) ともいう。
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[編集] 概要
1913年に中国読音統一会によって制定され、1918年に北京政府により公布された。当初の正式名称は「注音字母」であり、漢字に代わる表記法と位置づけられていた。南京国民政府でも引き続き公認されたが、1930年に「注音符号」と改称され、位置づけが漢字の発音記号に縮小された。今は主に台湾(中華民国)で使用・奨励されている。中国大陸(中華人民共和国)では廃止され、漢語拼音を使用している。
日本語の片仮名と同じく、ある音に合う漢字の一部を取り出して使用しているため、片仮名と似た字体の文字もあるが、読みが共通している文字はない。
また、日本の片仮名・平仮名と同様、台湾でのみ初等教育の初期にこれを習う。
台湾では電報にも使えるようにコード化されている(電碼参照)。
台湾で定められた文字コードセットであるBig5にも、中国大陸のGB 2312とその後継規格にも収録されており、UnicodeではU+3105からU+312Cに割り当てられているので、コンピュータやインターネットでも使用できる。
もともと「国語」(現在の普通話とほぼ同じ)の音を表記するために考案されたが、制定当初は「国語とは何か」についてまだコンセンサスがなかったため、呉方言の声母に存在する「ㄪ」(ほとんど形が同一の漢字: 万、[v])「ㄫ」(兀、[ŋ])「ㄬ」(广、[ɲ])も字母として正式に制定されている(Unicode登録済み)。この3字母は「京音京調」(北京音と北京の声調)が「国語」の正式の発音に認定された1923年以降使われなくなり、学校教育での表からもはずされている。一方で近年台湾では新たに台湾語や客家語の音を表記するために注音符号を変型した方言字を作ったり、補助記号を付けた表記法も考案されている。一部の文字は"Bopomofo Extended"の名でUnicodeのU+31A0からU+31B7に割り当てられている。(中国語版の記事台灣方言音符號を参照)
[編集] 注音符号の文字
[編集] 子音字
子音字は、漢語拼音の子音表記をそのまま置き換えるだけである。
注音符号 | ㄅ | ㄆ | ㄇ | ㄈ | ㄉ | ㄊ | ㄋ | ㄌ | ㄍ | ㄎ | ㄏ | ㄐ | ㄑ | ㄒ | ㄓ | ㄔ | ㄕ | ㄖ | ㄗ | ㄘ | ㄙ |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
漢語拼音 | b | p | m | f | d | t | n | l | g | k | h | j | q | x | zh | ch | sh | r | z | c | s |
IPA | b̥ | pʰ | m | f | d̥ | tʰ | n | l | ɡ̊ | kʰ | x | d̥ʑ̥ | tɕʰ | ɕ | d̥ʐ̥ | tʂʰ | ʂ | ʐ | ʣ̥ | tsʰ | s |
[編集] 母音字
注音符号 | ㄚ | ㄜ | ㄧ | ㄨ | ㄛ | ㄩ | ㄝ | ㄞ | ㄟ | ㄠ | ㄡ | ㄢ | ㄣ | ㄤ | ㄥ | ㄦ |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
漢語拼音 | a | e | i | u | o | ü | ê | ai | ei | ao | ou | an | en | ang | eng,-ng | er,r |
IPA | a | ɤ | i | u | o | y | e | aɪ | eɪ | aʊ | oʊ | an, ɛn | ən | ɑŋ | ɤŋ,ŋ | ɚ,r |
- 「思」や「知」などの母音は表記せず、文字も用意されていない。
- ㄧは縦書きの時は「─」、横書きの時は「│」と表記される。
- ㄢはㄧの後では[ɛn]と発音する。
- ㄥは他の母音字の後では[ŋ]と発音する。
- ㄦはr化にも使用される。r化の際、母音が鼻母音に変わるなどの変音は記述分けしない。
[編集] 声調記号
第一声 | 第二声 | 第三声 | 第四声 | 軽声 | |
---|---|---|---|---|---|
注音符号 | なし | ˊ | ˇ | ˋ | ˙ |
漢語拼音とは違い、省略した場合は第一声になる。声調記号は、最後の母音字の直前に書く。ただし、軽声の記号のみ音節の先頭に書く。
[編集] 漢語拼音との相違点
基本的には上の表による置き換えで良いが、以下の母音の表記が異なる。
漢語拼音 | 注音符号 | 説明 |
---|---|---|
iong | ㄩㄥ | ü + eng |
ong | ㄨㄥ | u + eng |
ing | ㄧㄥ | i + eng |
in | ㄧㄣ | i + en |
ie | ㄧㄝ | i + ê |
üe | ㄩㄝ | ü + ê |
また、zhi, chi, shi, ri や zi, ci, siのiはㄧ [i] とは音質が異なるので、母音字を表記せず対応する子音字と声調記号のみを書く(専用の字母を用いて書くこともある)。
[編集] 特徴(漢語拼音との相違点)
- 子音字と母音字が分れているので、漢語拼音の「'」(隔音符号)のような記号を必要としない。母音字の書かれない歯茎音・そり舌音に母音のみの音節が続くような場合でも、声調記号が隔音符号をも兼ねる。
- 普通話のすべての音節が、必ず3文字+声調記号に収まるようになっている。例えば印刷のルビのレイアウトに適合している。文字入力の手段としても入力キー数がある程度抑制できる。
- 漢字や仮名と同様に、無理なく縦書も横書も自由自在にできる。
- 漢語ピン音の「diu」「dui」のような短縮型が使われず、英語などの発音に影響されることなく正確な発音をしやすい。
- 漢語ピン音の場合、ローマ字の母音の数に制限され、一つの文字で違う音質として使うことがある。例えば「zhi」「xi」の「i」、「bian」「ba」の「a」など、発音がややこしくなる場合がある。一方、注音符号ではそれぞれ違う記号が作られたため、こういう発音のあいまい性は低い。
[編集] 用例
台 | 灣 | |
---|---|---|
ㄊㄞ | ˊ | ㄨㄢ |
Tái | wān |
このように一般的には漢字音を注記する時に使われるが、台湾ではスラングなどで漢字のない音を表すときにもこの符号を文字として発音を書き表す。また、漢字が有る場合でもアルファベットと同様に代用表記として使われている。一般的によく使われるのはㄟ(漢字は欸。よう!、おい!、などの呼びかけの意)。
台湾鉄路管理局の貨車の形式表記では、独立した文字として使用されている。