瀉血
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瀉血(しゃけつ)とは、人体の血液を外部に排出させる事で症状の改善を求める治療法の一つである。古く中世ヨーロッパで広く行われたが、現在は限定的な症状に対してのみ他の療法と併用して用いられる。刺絡(しらく)とも呼ばれる。
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[編集] 概要
体内に溜まった不要物や有害物を、血液と共に外部に排出させる事で、健康を回復できるとかつては考えられていた。初期の頃には創傷などによって皮下に溜まった膿を排出させるため、一度癒着した創傷部を切開した事に由来するといわれている。また鬱血によって皮下に溜まった血液を排出させる事で、治癒を促すともいい、中国医療の鍼では、患部に小さな傷を付け、陰圧にしたガラス製の小さな壷を付け、血を吸い出す療法もあるが、血液を体外に出す是非に関しては、現在の所では効果の程は不明であるとされる。
なお現在の日本では、患者の体に傷を付けることになるのは医療行為にあたり、同療法を行うためには医師であることが必要とされる。無資格で行えば医師法違反(無資格医業)により処罰の対象となる。
[編集] 瀉血の汎用時代
初期の頃には創傷によって皮下に溜まった膿などを排出させる治療行為であったが、時代を下ると打撲や骨折によって生じた炎症部分を切開し、炎症の軽減を求めるためにも利用され、他方頭痛ではこめかみの血管を切開して、頭痛の軽減を図ろうとしたりする方向へ発展した。この時代においては瀉血は一般的な療法として民間でも行われ、現代の床屋の看板の元である「赤・青・白の縞模様」の由来にもなっている(→サインポール)。なお頭痛治療に於ける瀉血に関しては、頭部穿孔(トレパネーション)の類型であると見なす見解もある。
更に時代を下ると伝染病や敗血症・循環器系障害等にまで積極的に汎用(乱用)されたという。この時代においては衛生の維持が不十分であるため、切開部が感染症を引き起こす事も多く、また体力が落ちている患者にまで瀉血療法を行った結果、徒に体力を損耗させ、死に至るケースも珍しくなかった。(→エイダ・ラブレス、モーツァルト))
- 一部では神秘主義と結合し、体内に巣食った霊的な禍が、血液と共に排出されると考えられた所もあり、このような瀉血の汎用は長く続き、またヨーロッパ一帯に広まって近代医療の発展する時代まで続いたという。(呪術医の項を参照)
後に徒に体力を消耗させる瀉血療法の治療効果が疑わしいとして、18世紀以降には次第に汎用される事は減っていった。
[編集] 現代医療における瀉血療法
現代医療では、幾つかの症例において治療法の一つとして、この瀉血療法が行われる場合がある。以下に例をあげる。
- 多血症
- 多血症の中でも一時的な症状ではない絶対的多血症では、赤血球が異常に生産され、頭痛・めまいを始めとする様々な症状を起こし、また脳血栓や心筋梗塞といった他の症状に発展しやすい。この場合、合併症の予防と自覚症状の軽減に瀉血が一定の効果を挙げている。ただしこれは対症療法であり、治癒には至らない。他の治療と平行して行われる。
- C型肝炎
- ウイルス性肝炎の一種であるC型肝炎では、体内に異常蓄積された鉄分を減らすため、食事療法と平行して瀉血療法が行われる事がある。C型肝炎では、肝臓に蓄積された鉄分により活性酸素が発生し、肝炎症状の悪化を招く。このため肝臓に蓄積された鉄分を減らすために通常は鉄分を含む食品を取らないようにして症状の悪化を食い止めるが、既に鉄分が過剰に蓄積されている状態では、通常の新陳代謝ではなかなか状態が改善しない事がある。このため、瀉血によりヘモグロビンの形で多量の鉄を内部にもつ赤血球を体外に排出させ、体内の鉄の総量を減少させる治療が行われる。これは、あくまで肝炎の進行を抑え肝硬変及び肝がんへの移行を防ぐための治療法であり、肝炎自体の治癒を目的とするものではない。
- ヘモクロマトーシス
- 体内に鉄が沈着するヘモクロマトーシスでは、体内に沈着した鉄を除去するために瀉血を行う。遺伝性ヘモクロマトーシスでは瀉血が第一選択であり、定期的に行う必要がある。二次性ヘモクロマトーシスでも輸血が原因であったり貧血を伴ったりするものを除いて瀉血を行う。
[編集] 関連項目
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