貧血
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貧血(ひんけつ)anemia(英)とは、血液が赤血球に乏しくなること、およびそれにより起こる諸症状である。
目次 |
[編集] 病態
赤血球は血流に乗って酸素を全身に運ぶ働きをしており、これが足りなくなると十分な酸素を運ぶには血流量自体を増やしたり、呼吸量を増やすことで代償しなくてはならない。すなわち、動悸・息切れがみられる。特に、代償の限界を超える運動時にこれらの症状が強くなる。
[編集] 分類
[編集] 形態
形態による貧血の分類。 赤血球の減少は、赤血球のサイズ・ヘモグロビン濃度という観点から分類される。
- 赤血球のサイズ
- 大球性 - 赤血球が通常よりも大きい。赤血球の分化に異常があることを示唆する
- 正球性 - 通常のサイズ
- 小球性 - 通常よりも小さい。赤血球を作るための材料が不足していることを示唆する
- ヘモグロビン濃度
- 正色素性 - 通常の濃度で含まれている
- 低色素性 - ヘモグロビン量が少ない。ヘモグロビンの産生に障害のあることを示唆する
これらを組み合わせて、例えば「小球性低色素性貧血」などと表現する。これは、状態を表現しただけのもので原因まで含めた診断名ではない。
- 小球性貧血低色素性貧血
- 正球性正色素性貧血
- 再生不良性貧血
- 溶血性貧血
- 遺伝性球状赤血球症
- 発作性夜間血色素尿症(PNH)
- 自己免疫性溶血性貧血
- 大球性貧血(大球性正色素性貧血)
- 巨赤芽球性貧血
- 悪性貧血
- ビタミンB12欠乏性貧血
- 葉酸欠乏性貧血
- 巨赤芽球性貧血
[編集] 原因
原因による貧血の分類。貧血の原因は大別して赤血球産生の低下と、破壊・喪失の亢進のどちらかとなる(両方であってもよい)。
[編集] 赤血球の喪失
赤血球を慢性的に失い続けていると、材料の鉄を使い切るためもあり小球性低色素性の貧血、いわゆる鉄欠乏性貧血に陥る。なお、短時間の大量出血では貧血とならずショックに陥る。
[編集] ビタミン摂取の不足
細胞分裂に必要なビタミンであるビタミンB12や葉酸が不足した場合も、赤血球の分化が障害されて貧血となる。この場合、大球性正色素性をとることが多い。
ビタミンB12欠乏によるものは、原因として偏食よりも胃摘出や内因子分泌障害によるものが問題となる。内因子は胃で分泌される物質でB12の吸収に欠かせない物質だが、胃を摘出した場合や自己免疫によって内因子が攻撃されて分泌されなくなった場合、深刻な不足状態となる。
[編集] 自己免疫
- 悪性貧血
- 悪性貧血(あくせいひんけつ)は、自己免疫障害によって起こる貧血。巨赤芽球性貧血の一種。
- 病態
- 自己免疫障害によって胃粘膜が障害される。すると胃粘膜から分泌されるから内因子が不足して、ビタミンB12の吸収障害を起こし、ビタミンB12欠乏性貧血となる。胃酸分泌も低下するので鉄を酸化することが出来ず、鉄吸収もしにくくなる。
- 治療
- ビタミンB12が経口で吸収できないため注射で投与する。
- 予後
- 良い
- 歴史
- 長らく原因・治療法が不明のため悪性貧血との病名がついた。
[編集] 二次性貧血
- 感染症等で全身的な炎症の状態が長く続くと、全身が低栄養状態となって鉄を利用できなくなり、鉄欠乏性貧血と同様の状態になる。
- 検査
- 鉄動態検査
- 貯蔵鉄が利用できなくなってフェリチンが上昇する。
- 鉄動態検査
- 検査
- 悪性腫瘍は出血によって貧血の原因になるほか、全身を低栄養にすることで慢性炎症と同様に貧血を来しうる。
- 鑑別
- 出血によるものとの鑑別は、血中のフェリチン濃度が低下しないという点による。
- 鑑別
- 腎性貧血:造血を促すホルモンのエリスロポイエチンの産生が不十分になり、尿毒症もあって、腎不全では貧血が進行する。
[編集] 溶血
何らかの原因で赤血球が破壊されることを溶血といい、 赤血球が何らかの原因で破壊される疾患は症状として貧血を来す。赤血球が不足して起こる貧血を溶血性貧血という。
- 自己免疫性溶血性貧血 : 自己抗体によって溶血する
- 発作性夜間血色素尿症 : 造血幹細胞の異状によって溶血する
- バンチ症候群 : 脾機能の亢進によって溶血する
- 鎌状赤血球症 : 血色素異常によって溶血する
- 遺伝性球状赤血球症 : 膜蛋白の異常によって溶血する
- サラセミア : 血色素異常によって溶血する
[編集] 造血異常
造血異常には、赤血球を十分産生できなくなったものと、異常な赤血球しか産生できなくなったため血中に供給できずすぐ破壊してしまうものとに分類される。後者は無効造血と呼ぶ。
[編集] 検査
- 赤血球数
- ヘモグロビン濃度
- 鉄濃度
- フェリチン濃度
- 小球性低色素性貧血で上昇していれば二次性貧血を疑い、低下していれば鉄欠乏性貧血を疑う。
- 網赤血球
- 絶対値で計算するのが重要である。およそ5~10万になるようなら正常であり、貧血があるにも関わらずこれ以下なら造血能の障害を疑う。
- 総鉄結合能(TIBC)
- 不飽和鉄結合能(UIBC)
- 平均赤血球容積 : ヘマトクリット/赤血球数。
- 平均赤血球血色素量(MCH、Mean Corpuscular Hemoglobin)
- 平均赤血球血色素量(へいきんせっけっきゅうけっしきそりょう)は、赤血球一個辺りのヘモグロビンの量。
- 意義
- 低色素性貧血と正色素性貧血、を見分ける際に用いる。
- 公式
- ヘモグロビンを赤血球数で割って求める。今、平均赤血球血色素量をMCH、ヘモグロビンをHb(g/dl)、赤血球数をRBC(×106/μl)、とすると、平均赤血球血色素量は
- となる。
- ヘモグロビンを赤血球数で割って求める。今、平均赤血球血色素量をMCH、ヘモグロビンをHb(g/dl)、赤血球数をRBC(×106/μl)、とすると、平均赤血球血色素量は
- 正常値 : 28~32
- 判定
平均赤血球血色素量 | 判定 |
---|---|
28~ | 正色素性貧血 |
~28 | 低色素性貧血 |
- 平均赤血球血色素濃度(MCHC、Mean Corpuscular Hemoglobin Concentration)
- 平均赤血球血色素濃度(へいきんせっけっきゅうけっしきそのうど)は、赤血球一単位体積辺りのヘモグロビンの濃度。
- 意義
- 低色素性貧血と正色素性貧血、を見分ける際に用いる。
- 公式
- ヘモグロビンをヘマトクリットで割って求める。今、平均赤血球血色素濃度をMCHC(%)、ヘモグロビンをHb(g/dl)、ヘマトクリットをHt(%)、とすると、平均赤血球血色素濃度は
- となる。
- ヘモグロビンをヘマトクリットで割って求める。今、平均赤血球血色素濃度をMCHC(%)、ヘモグロビンをHb(g/dl)、ヘマトクリットをHt(%)、とすると、平均赤血球血色素濃度は
- 正常値 : 31~36
- 判定
平均赤血球血色素濃度(%) | 判定 |
---|---|
31~ | 正色素性貧血 |
~31 | 低色素性貧血 |
[編集] 治療
- 心不全など生命に関わる重症の場合は、輸血で外部から赤血球を補給する必要がある。
- 鉄欠乏が原因であると判明した場合には鉄の投与が有効。注射投与では鉄の全身への沈着が問題となるため、経口投与が基本となる。副作用として嘔気がある。
- 炎症や腫瘍、造血異常などの場合には原因疾患の診断・治療を進める。ただし治療が非常に困難なMDSのように、対症療法として輸血を続けるしかない場合もある。
[編集] 逆利用
通常、貧血は健康ではない状態であるが、これを他の症状の治療に利用する事がある。ウイルス性肝炎を含む肝炎では、肝臓の細胞に鉄分が蓄積される。これはアポトーシスを引き起こす事で、傷付いた肝細胞を排除しようとする免疫機能の働きで、この肝臓細胞内の鉄分が活性酸素を細胞内に呼び込んでアポトーシスが起こされる訳だが、肝炎ではこれらアポトーシスが過剰に機能し、放って置けば肝硬変を引き起こす。これを食い止めるために、食事制限などによって人為的に鉄分欠乏状態を起こさせる。
しかし既に鉄分が肝臓細胞に過剰に蓄積されている場合には、早急に鉄分を消費させる必要が出てくる。この際、瀉血によって人為的に貧血状態を引き起こさせ、ヘモグロビン合成に鉄分を消費させるという除鉄療法と呼ばれる治療法が広まっており、特にインターフェロンの効き難いC型肝炎では、同治療法の効果が期待されている。なお単に瀉血すればいいというものではなく、血液中のGTP値を監視するなどといった、他の療法との併用が必要とされる。
[編集] 関連項目
[編集] その他
- ウマ類にのみ発症する疾病として、高熱と貧血症状を起こして衰弱死する馬伝染性貧血という病気がある。なお、これは伝染性のあるウイルスの吸血昆虫による感染により起きる疾病であり、症状は本項の貧血と類似するものがあるが、発病の成立については大きく異なる。