燃料棒
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
燃料棒(ねんりょうぼう、英:fuel rod)は、原子炉で使用される核燃料の最低単位であり、燃料集合体を構成する主用部品である。
目次 |
[編集] 概要
燃料棒は原子力発電所及び原子炉で使用するために、円柱形の棒状に成型した核燃料の呼称である。ウラン燃料をおよそ350個もの燃料ペレットにしたものを、ジルコニウムの合金であるジルカロイで覆われた燃料被覆管の中に詰め込んだ物である。これを正方形に数十本束にした物を燃料集合体と呼び、原子炉の中に保管される。
初期の原子炉では核燃料物質は剥き出しで装荷されていた。また放射能に関する知見が少なかった時代であったこともあり、発生する核分裂生成物(Fission Product、FP)の管理はルーズで、特に気体の放射性核分裂生成物は、ほぼそのまま大気中に放出されていた。
のちに原子爆弾投下後の広島・長崎の詳細な疫学調査の結果、放射線が人体に与える影響に理解が深まり、放射能管理が要求されるようになる一方、いくつかの臨界事故、反応度事故の経験から、原子炉内の核燃料が破壊されると放射性物質の広範囲な流出が起こることが理解され、核燃料物質自体の防護もまた要求されるようになった。現在の原子炉は核燃料物質の取り扱いに当たって、燃料棒、またはそれに準ずる核燃料の封入体を用いてFPの封じ込めており、いわゆる「5重の壁」の一つとなっている。
被覆管は運転中に発生するFPを外部に漏らさないために運転中のあらゆる条件下、及び想定される事故の環境下で健全性を保つ必要がある。また内部の核分裂物質は原子核分裂に伴なう崩壊熱を放出しているため、高温に耐え、かつ冷却材に熱がよく伝わるように熱伝導率の高い物質で無ければならない。冷却材と反応して健全性を損なうことの無いように、安定した物質であることも重要である。さらに燃料ペレットは運転中の温度変化や、生成したFPによる膨張(スエリング)、縮小(焼きしまり)といった体積変化を起こすため、燃料被覆管に局所的な応力を発生させる。これらの応力に耐え、かつ燃料装荷・取りだしや、原子炉運転中の震動等に耐える機械的な強度を持つ必要がある。
[編集] 構造
燃料集合体、または燃料要素を構成する燃料棒は炉型により形態が異なる。ここでは発電用原子炉で用いられる燃料集合体を構成する燃料棒を解説する。
燃料棒は燃料ペレットを燃料被覆管に封入して、端栓で気密にしたものである。最上部の燃料ペレットの上端から上部端栓までには、プレナムと呼ばれる空間があり、プレナムスプリングによって燃料ペレットを抑えつけ、動揺を抑えている。プレナムは発生した気体状FPを閉じ込めると同時に、ガス発生に伴なう内部の圧力上昇を最小限に抑えている。また内部はヘリウムガスによって加圧されているが、これは燃料棒が沸騰水型原子炉(BWR)で73気圧、加圧水型原子炉(PWR)では158気圧に達する運転条件下で使用されるため、あらかじめ内部をヘリウムで加圧して運転時の外圧と平衡を保つようにするためである。
[編集] 形状
被覆管は厚さ2mm、直径2cmの金属管で、長さが4mのきわめて細長い形状をしている。
このような細長い形状のパイプを品質を保ったまま大量生産すること自体の難しさから、初期の原子炉で使用された被覆管では、ピンホールの発生などによるFPの漏出事故が発生している。このうち原因の多くが原子炉運転中の出力変化に伴ない、燃料棒の温度変化によって生じる熱応力によるものと判明してからは、燃料棒の健全性を保つため、原子炉出力の急変化は避けられる傾向にある。すなわち緊急の場合を除き、原子炉の起動・停止は、一日以上の時間をかけてゆっくりと行われ、燃料棒に対して余計なヒートショックを与えないような配慮がなされる。
また原子炉の定期検査中には燃料棒の外観検査を行って健全性を検査する。
二酸化ウランからなる燃料ペレットは、一端を溶接して封じた燃料被覆管に、濃縮度に応じて封入される。