猪木アリ状態
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猪木アリ状態(いのきアリじょうたい)とは、総合格闘技において見られる現象・戦法を言う。
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[編集] 形態
一人が立った状態で、相手が寝ている、または脚を相手につきだして座ったまま膠着している状態をさして、「猪木アリ状態」という。一般的に打撃に長けた選手が立った側、寝技に長けた選手が寝ている側の場合発生することが多く、お互いがお互いの得意な立ち技、寝技での勝負に持ち込もうとしたままの状態である。
このポジションの時、寝ている方は相手に足を向け牽制を図る。立っている方の選手の膝の皿をキックで破壊したり、立っている選手の顎を蹴ってノックアウトしたケースも過去にはあるが、基本的には防御の体勢である。主にブラジリアン柔術を得意とする選手がこの戦法を使うことが多い。伝統派空手の試合においても倒れた空手家はすぐにこの体勢をとる。そうしなければ、下段突きなどで一本をとられる危険が高い。
一方立っている方は相手の脚にローキックを繰り出す事が可能である。飛び掛ってグラウンドで上のポジションを取ることは可能であるが、マウントポジション(相手に馬乗りになる)や横四方の体勢を取る事は寝技のポジショニングが不得意なら、容易ではない。大抵はガードポジションと言われる体勢となり、そこから有利なポジションへ移行しなければならない。また、寝技を得意とする下の選手から三角絞めや腕ひしぎ十字固めを仕掛けられるリスクがある。
猪木アリ状態では、寝ている側が比較的安全であり、立っている側がうかつに攻めに向かうと関節を取られかねないため、この状態になると膠着に陥る事が多い。特に両者負けることが許されない大試合においては積極的に相手の間合いに入って勝ちにいくことで逆に致命的なダメージを負うよりも、勝負に時間がかかってもじっくり待って相手が手を出してきたその隙を突くような消極的な試合展開になりがちである。そのため、現在の総合格闘技の興行においては、試合を展開させるため、しばらく待って両者に動きが見られないと、レフェリーがブレイクを取り、両者を立たせた状態に戻して試合を再開させることが多い。この際、レフェリーが寝ている側を消極的と判断して、警告を与えて減点の対象になる事もある。
グラウンドでの頭部への膝攻撃が許されている総合格闘技PRIDEではタックルに失敗してがぶられると頭部への膝攻撃を受ける危険性がある。そのため、タックルに失敗するとすぐに仰向けになって、猪木アリ状態となるケースもある。
[編集] 由来
1976年6月26日に行われたアントニオ猪木対モハメド・アリの試合(詳しくは記事「アントニオ猪木対モハメド・アリ」を参照)は、猪木の得意とするほとんどのプロレス技が禁止されていた(記事「アントニオ猪木対モハメド・アリ」に異説あり)。ほとんどの技を禁じられた猪木はそのルールの隙間を狙い、まともにパンチで勝負するのでなく、終始リングに寝た状態でアリのすねを蹴り続けると言う戦法を取らざるを得なくなった。この一件から形態に書かれてるような状態を「猪木アリ状態」と呼ぶようになった。
[編集] 猪木アリ状態の打開
上側の選手のもっとも基本的で簡単な打開法は寝技で密着し、パスガードすることである。
問題は上側の選手が寝技が不得意などの理由で密着しない場合である。しかし、寝技が不得意なわけではないが、ブラジルのブラジリアン柔術のルイス・ペデネイラス、シュートボクセ・アカデミーに所属するヴァンダレイ・シウバやマウリシオ・ショーグンといった選手が得意とするジャンプして寝ている相手を踏みつけたり、相手の顔面をキックする戦法で密着せずに打開した(ただしこの戦法は、寝ている選手の頭部にキックが許されるルールでのみ可能である)。
桜庭和志はホイス・グレイシー戦などで強烈なローキックで相手の足にダメージを蓄積させる戦法を取ったことがあったが、浮かしてる脚にダメージを与える蹴りをおこなうのはなかなか難かしく、現在の一般的なルールでは猪木アリ状態ではすぐにブレイクがかかるため、この戦法は牽制くらいにしかならなくなった。
このように上側の選手が寝技ができない場合、打開が困難である、とはいっても決して打開策が無いわけではなく、2007年にはマウリシオ・ショーグンが腰を瞬時にスイッチさせグラウンドパンチを放つ、という戦法でアリスター・オーフレイムを一撃で失神させるなど打開されている。
密着してのパスガード等、古くから打開法はあり、たまにその他の方法でも打開されるのは昔も今もそう変わらない。
下側の選手の打開法としてはヘンゾ・グレイシーがオレッグ・タクタロフをノックアウトしたハイキックなどがある。