盗聴
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盗聴(とうちょう)とは、本人や関係する団体等の了承を得ず、それらが発する音や声をひそかに聴取・録音する行為である。聴取した音声から様々な情報を収集し、関係者等の動向を探る目的で用いられる。
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[編集] 概要
旧来は家屋に侵入、屋内の様子を直接盗み聞く方法が取られていたが、無線機器の小型化・高性能化に伴って、それらを用いて盗聴する様式(無線盗聴)が一般的となっている。また物音に反応して録音開始するテープレコーダー等の記録機器を用いる事もあるが、この記録機器に関しても、小型化・高性能化が進んでいる。技術レベルの話としては、とてもコスト面で釣り合いが取れないかもしれないが、窓ガラスなど物体表面の振動をレーザー光線で計測して、その振幅を変調・音声として出力させるという可能性も示されており、様々な技術の開発や応用が見られる。
盗聴器は、通信販売や専門店等の店頭で販売されており、私的な趣味や個人的な愛憎関係や怨恨で、これら機器を購入した個人が、他人の家屋やホテルなどに設置して回っているケースも多数報じられている。また、世の中には盗聴マニアと呼ばれる趣味で盗聴を行う者もいるとされ、それらマニアが賃貸住宅やホテルに盗聴器を設置するケースもある(多くの者は無線盗聴器から垂れ流される電波を傍受するのみである)。
盗聴器を捜索、除去を行う専門業者も存在する。
[編集] 盗聴の用途
家庭内の不義調査から企業内の動向調査・国家間の諜報合戦に到るまで多岐に及ぶ(旧ソ連時代、モスクワの駐在外国公館全てに盗聴器が仕掛けられていると考えられていた)が、往々にしてプライバシー侵害に基づく人権蹂躙、または国家規模の諜報合戦においては国家の威信に関わる重大事に発展する事もある。反面、事件究明におけるこれら盗聴では、組織・団体に対する内偵手法として用いられ、疑獄の真相にたどり着く事もある。
ストーカーによる盗聴の場合、単なる自己満足から相手への脅迫行為まで様々で、また当人の性格によっては、帰宅した相手にわざわざ「今帰ったの?」などと声をかける電話を入れ、一種の自己顕示行為に及ぶケースもあるとされている。そのような不審電話があった場合は、盗聴を疑うべきだろう。
[編集] 盗聴器の種類
電話の盗聴の場合、電話用のコネクタ内に仕込まれることが多いが、戸外の電話架線より盗聴するケースも見られ、架線保護用に設けられる電話線のヒューズボックス内に、純正の部品に偽装した盗聴器が仕掛けられていた事件も起こっている。
また、部屋の物音や声を集音する場合は、電源コンセントやACアダプター・三又プラグなどに仕込まれ、またはそれに見せ掛けた製品が出回っている。これらは無線の電波を用いて発信される。いずれも電気を設置場所から得ることができるために、盗聴器の回収が不要であり、半永久的に発信を続けることが可能である。また賃貸住宅などでは、前の住人が受けていた盗聴被害を、そのまま引き継いでしまう可能性もある。
録音式の物や電池で駆動する種類の盗聴器は、一定期間ごとに回収や電池交換を必要とするが、それらは身近な物品に仕掛けられている事も多々ある。小型の物では目に付きにくく、発見されにくい。例えば、電卓や筆記用具、小型家電製品や置物といった調度品などである。
この他、音がしないと電波を発信しないタイプもあり、これは常時発信タイプよりも電池寿命が長く、また発信元の探知も難しい。
隣の部屋から発せられる声や物音を盗聴する場合はコンクリートマイクが用いられ、これはテープレコーダーやICレコーダーに接続して録音することができる。
高度な物では、それ専用の技術者が設計・開発から製作までを行っており、電子技術の発達にも伴い、小型軽量・低消費電力化が進んでいる。
[編集] 発見・除去
自意識過剰なストーカーは、積極的に「自分が盗聴していること」を相手にほのめかす場合がある。その場合、盗聴器が仕掛けられていることが予測できる。しかし、ひたすら聞き耳を立てるタイプの盗聴の場合は、盗聴器の存在に気付かないケースも多い。
電話線に仕掛けられたタイプの物ではノイズが入るなど、電話の通話品質に影響が出る場合もあり、不審に思って修理屋を呼んだ際に発覚したケースがあるほか、FMラジオ放送などの帯域を利用する市販盗聴器も多く、ラジオへの混信で気付いたケースもみられる。
無線式盗聴器の場合は、ワイドバンドレシーバー(広帯域受信機)で盗聴電波を確認し、電波の発信源をフォックスハンティングと呼ばれる手法で、おおよその位置や方向を特定して発見する方法が取られている。
また、市販の盗聴器は概ね使用されている周波数が決まっているため、その周波数にのみ反応する比較的安価な電波受信機も市販されており、その機器の反応の強弱で位置を特定、発見する事も可能である。ラジオの放送帯域を利用するタイプでは、屋内で音を出したまま、家の外でラジオ放送の選曲をしてみるなどの方法で発見も可能である。
なお、コンセントボックス内や電話モジュラージャック内、電話線関連設備(ジャンクションボックス等)に仕掛けられた盗聴器の中には、電気工事士等の資格がないと除去できない場所に組み込まれた物もあり、感電の危険もあるため、取り外しには専門の電気工事業者に依頼した方が良い。
こうして発見された盗聴器は、盗聴を行っている者の重要な物証であるため、捨てたり破壊せず、警察に相談すべきである。
[編集] 通信システムと盗聴
一般に「盗聴」というと、特定個所に設置された「盗聴器」ばかりが話題となるが、通信というサービスを提供しているシステム全体が、その様々な通話経路での傍聴も可能である。例えば電話局の交換機には「回線モニタ」という経路が付加されており、本来は通話品質をチェックするためのこの経路を傍聴することは、技術的には可能である。これにより「盗聴器と言う証拠を残さず」に盗聴は可能だとも考えられる。
ただ電話交換機は電話回線局の構内にあって警備されているため、こういった操作を行える者は逆に限られてしまうことから、こういった盗聴事件の報告はない。しかし現在では携帯電話のローミングサービスなど電話回線の一部がインターネットと同じ通信インフラに依存していることなどを加味すると、この通信経路のハードウェアに細工するなどして、通信に分岐を設けることは不可能ではない。サイエンス・フィクションの分野ではあるが、そういった通信経路に於ける傍聴といったアイデアもしばしば登場している。
近年、アメリカ・イギリスが全世界的な電子盗聴網「エシュロン」をひそかに構築して大規模な盗聴行為を行っていることが欧州議会により告発されているほか、AP通信が2005年2月18日に報じたところでは、アメリカ軍が保有するシーウルフ級原子力潜水艦「ジミー・カーター」が海底ケーブル傍聴用の設備を搭載しているという。こういった活動は諜報機関などがテロの動向を探るために行われているとも報じられているが、日本でも同様な電子盗聴網は運用可能である。
ただこういった通信経路そのものを傍聴する場合には、通信内容による情報の取捨選択が必要で、現実レベルとしては膨大なコストが掛かる。何故ならテロリストが爆弾を仕掛けるための指示も蕎麦屋への出前の注文も、どちらも電話を使えば同じ通信経路を流れうるためである。こういったノイズの取捨選択には高い技術的なハードルが存在し、ストーカーが意中の誰かの通話を盗み聞くためには余りに無駄が多いといえよう。
[編集] 雑情報による防衛
盗聴は、盗聴されている側が気付かずに重要な話を盗み聞かれた場合には、非常な痛手となるが、逆に盗聴を被っている側が盗聴されていることに気づいている場合には、「意図して偽情報を盗聴させる」ことで欺くことも可能である。この「偽情報」は第二次世界大戦の頃より通信が戦術や戦略の上で重要な役割を果たすようになると、意図してダミー情報を流布させる場合もあった。
こういった実際とはちがうダミー情報の流布は、盗聴側に対する牽制や無駄な動きを強いることにも繋がり、盗聴を逆に利用した「攻撃」だということもできる。また通信自体を雑情報に紛れ込ませることで、情報価値を損なわせることも出来る。例えば子供のなぞなぞ遊びにある「たぬき」はその好例である。「たぬき:あたす、じゅたうよたじにえたきまえ」と言う文では、そのまま聞いたら意味不明だが、「た」を抜く(た抜き)することで「明日、14時に駅前」となるのである。諜報合戦では、しばしばこれに似た騙しあいのケースが存在した。
この他、可逆圧縮など符号化による暗号を用いた通信も有効である。平壌放送の乱数放送も、読解用の乱数表が無ければ文字の組み合わせが膨大でもあるため、傍聴は短波ラジオさえあれば誰にでも可能だが、その内容解読が困難に成るなど「例え傍聴されても第三者には内容を悟られにくくなる」といえよう。(→暗号史)
[編集] 関連事象
刑事訴訟法上の「盗聴」は「公開をのぞまない人の会話をひそかに聴取または録音すること(田宮裕『刑事訴訟法[新版]』,1996)」と定義される。この定義は対象を会話に限定しており、会話そのままの盗聴と有線通信の盗聴に区分される。
盗聴が捜査方法として許容されるか、許容されるとしてもいかなる要件の下でか、ということについては争いがあるが、捜査機関による有線通信の盗聴(傍受)については、日本国内では2000年8月15日に通称通信傍受法(正式名称「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」)が施行され、電話等の盗聴を含めた通信傍受による捜査が一定の要件の下に可能となった。この法律でいう「傍受」とは、「現に行われている他人間の通信について、その内容を知るため、当該通信の当事者のいずれの同意も得ないで、これを受けることをいう(通信傍受法2条2項)」という意義である。この法律に対しては日本国憲法第21条によって保障された通信の秘密が阻害されるとして反対意見がある。
なお、会話当事者の一方が相手方の同意を得ずに会話を録音することは秘密録音として盗聴と区別される。私人による秘密録音については、事案の具体的経過に照らして合法とした判例がある(最決昭和56年11月20日(刑集35巻8号797頁))。
[編集] 犯罪
盗聴に関連して以下の事例になった場合は犯罪となる。
- 断りなく他者の住居施設への侵入 住居侵入罪
- 有線通信の盗聴 電気通信事業法違反、有線電気通信法違反
- 無線通信を傍受し、知りえた事実を他者に漏らす 電波法違反
- 付きまとい ストーカー規制法違反
- 他者からの電気供給による盗聴器機能の持続 窃盗罪
- 無許可での無線送信をする盗聴器 電波法違反
無線通信自体を聴く傍受は違法ではない(無線自体が部外者にも聴かれる事を前提としている為不可罰)。また、贈答品に盗聴器を仕掛ける手口(トロイの木馬の盗聴版)の違法性は無許可での無線送信をしていない場合は不明である。ホテルやアパートで壁にコップを当てて隣室の話し声を聞く行為自体は法規制の対象とはならない。