競争 (生物)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
生物学において競争というのは、同種個体間に見られる種内競争と、違う種間に見られる種間競争の二つがある。
目次 |
[編集] 生態学における種間競争
生態学において、競争関係は種間関係の型のひとつである。二つの種類の生物が、互いに相手の存在によって不利益を被る場合に、これらの種は競争関係にあると言う。
普通、競争関係にある種とは、共通の資源を求めるもののことである。例えば、同じ地域に生息し、同じ餌を求める二種の動物があるとする。その一方が多く餌を食えば、他方は食うものが少なくなるから、個体数を減らさねばならない。このような場合に、この二種の動物は餌に関して競争関係にあると言い、上記のような結果が出れば、数を減らした方が競争に負けたことになる。
競争の対象となる資源は、その生物によって様々であり、食物は当然ながら、隠れ家や縄張りの場所などもその対象になる場合がある。類縁関係の近い生物は、互いにその生活上の要求も似ていることが多いから、重要な競争者であり得る。
実際の競争が、どのような形で行われるかは一概には言えない問題である。同じ餌を求める物同士であるからといって、実際にある獲物を取り合って戦うという形を取るとは限らない。そのような例もないではないが、実際には正面衝突でない形は様々である。たとえばメダカとカダヤシは非常によく似た魚で、都会地ではたいていはメダカがカダヤシに置き換えられている。しかし、カダヤシがメダカをどんどん食べているとか、カダヤシがメダカを攻撃しているかと言えば、必ずしもそうではないのである。
片方が他方を攻撃して追い出す例もあるが、攻撃的であれば勝てるというわけでもない。攻撃的行動を取る種は、攻撃にそれなりの時間とエネルギーを費やすために、かえって不利を招く例がある。アメリカのリスに見られる例で、地上生で攻撃的なリスと樹上性で弱いリスの組み合わせで、草原は地上生のものが占有するのは当然だが、森林の地上部も占有するかというと、それができないという。森林内では、樹上性のリスがちょいちょい地上におり、そのたびに攻撃をしていては身が持たないかららしい。
両者が共通の資源を求めないのに、互いに競争関係にある例もある。たとえば寒い海域のウニとコンブが競争関係にあるという例がある。ウニはコンブを食うので、捕食-被食関係である。ウニが岩盤上を占拠すると、コンブの新芽はすぐに食べられるため、成長できない。ウニが立ち入れないようにした岩盤上には、コンブが侵入する。ところが、コンブがよく繁茂すると、今度はウニがいなくなるという。これは、海藻が波に揺れて岩の上をはくために、幼いウニの定着を阻害するのである。このように、この両者は一方が繁栄すると他方が生存を妨げられるので、競争関係と言えるのである。
動物の場合は、それぞれの種で要求は異なるので、競争関係は一対一の種間に起こるものであるから、群集生態学だけでなく、個体群間の関係として個体群生態学で取り扱う場合もある。
[編集] 植物の競争
植物の場合、ほとんどが光合成で生活しているから、その求めるものは共通である。すなわち、その地域の植物すべては互いに競争関係にあるとも言える。したがって、この問題は群集生態学の課題となる。光合成に必要な水、二酸化炭素は競争の対象にはなりにくいので、普通は光に対する競争が見られる。光は太陽からくるから、太陽に顔を向ける面積が確保できるかどうかが勝負になる。
陸上生態系では、より高いところへ枝を伸ばして、相手より高い位置に出たものが優勢になる。ただし、樹木のように大きくなるには、幹に投資をせねばならず、時間がかかる。したがって、初期には草本が優占し、次第に木本に置き換わるという、いわゆる遷移が見られることになる。
コケ植物や地衣類のように、背が低く、基質上に密着するものでは、光に対する競争は、覆いかぶさりよりも、むしろ平面上での陣取り合戦の形を取る。
競争相手に勝つための手段として、積極的に相手を攻撃する植物もある。その一つが他感作用で、化学物質を分泌して、例えば自分の周囲で他の植物の生長を妨げるなどの例がある。
植物ではないが、共生藻類に光合成産物をもらって生活する造礁サンゴにも、同様な種間競争が見られる。
[編集] 競争の理論的研究
[編集] 数学モデル
競争関係に関しては、古典的な数学モデルがある。オーストリア出身のアメリカ人数理生物学者アルフレッド・ジェームズ・ロトカが1925年に、イタリアの数学者ヴィト・ヴォルテラが1926年に互いに独立に導いたロトカ-ヴォルテラ式と呼ばれるもので、ロジスティック方程式を元にしている。
2つの種があって、それぞれの個体数をN1、N2、内的増加率をr1、r2、環境収容力をK1、K2とするとき、それぞれの個体群成長は、微分方程式
または
および
または
で表される。ここでα1、α2は、競争係数というもので、たとえばα1は種2の個体が増加することで種1の個体数増加がどれだけの悪影響を受けるかを表すものである。
及び
とは、種1及び種2の個体数の次の瞬間にかけての増加率であり、競争者の悪影響がなく、環境収容力が無限であれば、それぞれ
および
となる。
つまり、次の瞬間にかけての個体数の増加率は、内的増加率が高ければ、それに比例して高くなるし、現在の個体数が多ければ、やはりそれに比例して高くなる。
これに種内競争によるブレーキを組み込んだのがロジスティック方程式の微分方程式で、
および
となる。
ロトカ-ヴォルテラ式は、これにさらに種間競争によるブレーキ、 − α1N2および − α2N1を組み込んだものである。
それぞれの種の増加にブレーキをかけるのは、1を上限とする と
である。これらの値が小さければ小さいほど、つまり
と
の値が大きくなって1に近づけば近づくほど、それぞれの種の増加率は鈍り、0に近づくし、1を超えて大きくなると増加率は負となり、個体数は減少に転じる。
や
の値を左右するのは、まずそれぞれの種の現在の個体数、相手の個体数、相手の自分に対する競争係数、そして環境収容力である。
現在の自分のほうの個体数が大きくなれば、この式の分子N1 − α1N2及びN1 − α1N2の左の項が大きくなるので、この式の値は大きくなる。また、相手のほうの個体数が大きくなれば、右の項が大きくなるので式の値が小さくなるし、競争係数の大きさはその程度を高くしたり低くしたりする。また、自分のほうの種の環境収容力が大きければ、これは分母にあるため式の値が小さくなるし、環境収容力が小さければ、逆に式の値は大きくなる。
すなわち、ロジスティック方程式は、もともと種内の個体を互いに競争関係にあるものと見なしており、個体数が増えれば増えるだけ、暮らしが苦しくなって繁殖率が下がるというものである。そこで、競争相手の個体が増えた場合も、ある率で暮しが苦しくなる、という風にしたのがこの式である。つまり、一般社会でイメージするように、個体どうし、種どうしが互いにじかに闘争しあうというのではなく、直接的間接的にかかわらず、相手の暮らし向きにどれだけ圧力をかけてしまっているかで互いの個体数に影響を与えるという実態をモデル化することができるわけである。
この式を元に考えれば、二種の生物が競争した場合、当初はrが大きいものが優位に立つが、時間が経つとKが大きい方が有利になる。また、初期条件で互いの個体数がどうであるのか、互いがどれだけ相手の存在に対して敏感に悪影響を受けてしまうのか、さらにそもそものそれぞれの種の環境収容力のレベルも重要な要素となる。
ガウゼが二種のゾウリムシを混合培養した実験では、ほぼこの結論を認める結果となっている。すなわち、二種のうちのどちらかだけが生き残り、二種混合で生存させることはできなかった。それが可能だったのは、片方が水槽の底におり、もう一種が上の方に生息するという、言わば住み分けが成立した時だけであった。
[編集] 競争排除則
特定の二種が、様々な面で要求する資源が共通する場合、それらを同じ生態的地位(ニッチ)をもつと言う。一般に、同じニッチをもつ二つの種が共存することはないと言われ、これを競争排除則という。また、よく似た二種が共存する場合、活動の場を分けていたり、異なる餌を食べているなどの形で、全く同じニッチでない状態であることがあり、これを棲み分けまたは食い分けという。
[編集] 進化論における競争
進化における競争とは、いわゆる生存競争のことである。自然選択説では、生物は常に競争にさらされ、その中で勝ち残ったものが子孫を残すのが、進化の原動力となるという。ここで言う競争は、種内競争であるのか、種間競争であるのかは議論があるが、種内の各個体が生き延びるかどうかが問われる以上、重要なのは種内競争であると見なすのが普通である。