第1族元素
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← 1族 → | |
周期 | |
1 | 1 H |
2 | 3 Li |
3 | 11 Na |
4 | 19 K |
5 | 37 Rb |
6 | 55 Cs |
7 | 87 Fr |
第1族元素(だいいちぞくげんそ)とは、周期表において第1族に属する元素。水素・リチウム・ナトリウム・カリウム・ルビジウム・セシウム・フランシウムがこれに該当する。このうち、水素を除いた元素についてはアルカリ金属 (alkali metals) といい、単体では最外殻s軌道電子が自由電子として振舞うため金属的な性質を示す。
周期表の一番左側に位置する元素群で、価電子は最外殻のs軌道にある電子である。s軌道は1電子のみが占有する。
目次 |
[編集] 性質
第1族元素がアルカリ金属と呼ばれるようにリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムは性質が非常に似通っている。一方水素はアルカリ金属元素とは性質が著しく異なる。
両者の違いは電子配置の閉殻構造の有無に起因する。アルカリ金属元素の場合、一価の陽イオンが生成すると閉殻構造の寄与により非常に安定化する。一方、水素の陽イオンであるプロトンはむき出しの正電荷である為、電子を核から引き放なす為のイオン化エネルギーが非常に大きく、閉殻構造が無いため安定化の寄与が存在しない。このs電子の振る舞いの違いが水素では共有化合物としての性質を与え、アルカリ金属元素には金属としての性質を与えている。
水素 1H |
リチウム 3Li |
ナトリウム 11Na |
カリウム 19K |
ルビジウム 37Rb |
セシウム 55Cs |
|
---|---|---|---|---|---|---|
電子配置 | 1s1 | [He]2s1 | [Ne]3s1 | [Ar]4s1 | [Kr]5s1 | [Xe]6s1 |
第1イオン化エネルギー (kJ·mol−1) |
1312 | 513.3 | 495.8 | 418.8 | 403.0 | 375.7 |
電子付加エンタルピー (kJ·mol−1) |
− | − | − | − | 46.88 | 45.51 |
電子親和力 (kJ·mol−1) |
72.77 | 59.63 | 52.87 | − | − | − |
電気陰性度 (Allred−Rochow) |
2.20 | 0.97 | 1.01 | 0.91 | 0.89 | 0.86 |
イオン半径 (pm, M+) |
−4 (2配位) | 73 (4配位) 90 (6配位) |
113 (4配位) 116 (6配位) |
152 (6配位) 165 (8配位) |
166 (6配位) 175 (8配位) |
181 (6配位) 202 (12配位) |
共有結合半径 (pm) |
37 | 134 | 154 | 196 | 211 | 225 |
van der Waals半径 (pm) |
120 | 182 | 227 | 275 | 244 | − |
融点 (K) |
14.025 | 453.69 | 370.87 | 336.53 | 312.46 | 301.59 |
沸点 (K) |
20.268 | 1615 | 1156 | 1032 | 961 | 944 |
還元電位 E0 (V, M+/M) | 0 | −3.040 | −2.713 | −2.929 | −2.924 | −2.923 |
以下では、主にアルカリ金属の性質について述べる。水素の性質については、記事 水素 に詳しい。
[編集] 単体金属
アルカリ金属は、比較的融点も低く、比較的柔らく軽い金属である。Li、Na、Kは比重が1以下で水に浮く。いずれも反応性は高く、周期表の周期が大きくなるほど、解離エネルギー(解離エンタルピー)が低減するため、激しく反応する傾向が見られる。また、いずれも酸化還元電位が非常に小さいため、塩を還元して単体金属とするには溶融塩を電気分解することで生産される。
いずれのアルカリ金属元素単体も水、あるいは空気中の酸素と反応する為に、それらを避けるためにミネラルオイルの中に保存される。オイルを拭って放置すると出火するので取り扱いは考慮する必要がある(危険物3類)。
アルカリ金属元素は、いずれも炎色反応を示す。
リチウム | ナトリウム | カリウム | ルビジウム | セシウム | フランシウム |
---|---|---|---|---|---|
深紅色 | 黄色 | 紫色 | 深赤色 | 青紫色 | 未確認 |
セシウムのみは励起に必要な高温を得るために、酸水素炎で観察する必要がある。
アルカリ金属の中でもリチウムは特徴的である。リチウムのみが熱時に単体窒素 N2 と直接反応して、リチウム窒化物を生成する。
また、フランシウムは放射性元素で天然からは産出されないが、核反応により少量合成されアルカリ金属としての物性を持つことは確認されている。
水やアルコールなどプロトン溶媒とは水素ガスを発して反応し、生成する水酸化物や金属アルコキシドなどは塩基として利用される。
そして、アルカリ金属イオンはハロゲンイオンなど種々のアニオンと水溶性の塩を作る。これは、アルカリ金属イオンが強く水和することの寄与が大きい。これらのアルカリ金属塩の溶解性はアルカリ金属イオンの挙動に強く影響される。例えば、クラウンエーテルやクリプタンドなどはアルカリ金属イオンと包摂化合物を形成しすると、塩は有機溶媒に可溶となることが知られている。
また、アルカリ金属元素の単体はいずれも酸化還元電位が非常に小さく、強い還元性を有する。このアルカリ金属元素の性質は、他の金属の塩化物から単体へと還元するときに利用されたり、有機化学の分野ではバーチ還元 (Bürch reduction) に利用される。
[編集] 水素化物
アルカリ金属は一般式 MH で表されるような1価の水素化物を形成する。これらの水素化物はイオン型水素化物であり、ヒドリド供与体として、塩基や還元剤として利用される。
[編集] 酸化物
アルカリ金属は一般式 M2O で表される酸化物を形成する。空気中の酸素と直接反応するので、アルカリ金属単体の切断面は、直後には金属光沢を示すものの、速やかに酸化物(一部は水酸化物)に覆われて光沢を失う。
また、一般式 M2O2 であらわされる金属過酸化物も形成し、カリウム以上の周期の元素の場合は一般式 MO2 で表される金属超酸化物を形成することも知られている。
[編集] ハロゲン化物
一般に、アルカリ金属のハロゲン化物は常温で固体であり、フッ化リチウム (LiF) を例外としていずれも水溶性が高い塩である。上記で述べられているように、塩の水溶性に大きく関与する要因として、アルカリ金属イオンの水和で得られるエネルギーとイオン結晶格子の切断にともない失われるエネルギーとの収支の損得が挙げられる(記事 溶液・溶解 に詳しい)。フッ化リチウムの水溶性が低い(25 ℃ にて、0.13 g/100 mL)ことについては、フッ化物イオン (F−) もリチウムイオン (Li+) も同程度に小さいためにフッ化リチウムの結晶格子は小さく強い結合から成る一方、フッ化リチウムの結晶が溶解して水和を受ける際にリチウムイオンの第一水和圏に存在できる水分子が少なく、水和エネルギーが小さいことが大きな要因となっている。
アルカリ金属のハロゲン化物の水溶液の pH は中性に近く、中性塩と見なされることが多いが、フッ化物やヨウ化物の中には微弱な塩基性を示すものがある(例:飽和 NaF 水溶液で、pH 7.4)。
一連のハロゲン化物の中で、地球上に最も広く存在するものが塩化ナトリウム (NaCl) である。