危険物
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危険物(きけんぶつ)とは、対象に危険を及ぼす可能性を秘めた本質を持つ物である。文脈により危険を及ぼす対象、及び、危険を及ぼす主体の物の範囲が異なる。対象としては、人、動植物、環境(生態)、物(物質、物品)、財産等が該当する場合がある。一方、主体の物としては、物質(化学物質等)、物品(品物、製品、成形物; 機器、器具等)等が該当する場合がある。また、文脈が想定している危険が実際に対象に悪い影響を与える機会・状況により危険物とされる範囲が異なる。
日本で単に「危険物」と言う場合は、消防法に定める「危険物」を指すことが多い。消防法では「危険物」とは、「別表第一の品名欄に掲げる物品で、同表に定める区分に応じ同表の性質欄に掲げる性状を有するもの」と定義されており、貯蔵、道路輸送中の輸送火災や漏洩事故の状況を想定している。航空輸送、海上輸送の場合は国際的に国際連合による国連危険物輸送勧告に基づいた「危険物」の概念が日本でも適用されている。国連危険物輸送勧告は、ほぼすべての輸送形式(輸送モード:道路輸送、海上輸送、航空輸送)における輸送中の危険な状況を想定している。国連危険物輸送勧告を大元とする日本法規には船舶による危険物の運送基準等を定める告示、航空機による爆発物等の輸送基準等を定める告示等がある。将来的には、法令規則等における危険物の分類は、貯蔵、輸送を含むあらゆる取扱状況を想定したGHSと呼ばれる国際的に協調(ハーモナイズ)された体系を基礎としたものに移行していくと考えられている。
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[編集] 国連危険物輸送勧告に定める危険物
危険物輸送に関する国連勧告別冊「試験方法及び判定基準」(Recommendations on the Transport of Dangerous Goods, Manual of Tests and Criteria)に記載された分類基準に基づき荷送人が、輸送品の分類の実施するものとされている。分類は以下の9分類(class)にわかれ、さらに、等級、容器等級、国連番号に細分される。荷送人は、分類の結果に応じ、規則にしたがって、梱包と表示を行い、輸送者に申告しなければならない。輸送者は荷送人が申告した分類に対応して定められた輸送上の規則にしたがって輸送を実施する。輸送者は開梱して荷送人の申告・表示の正しさを確認することはしない(してはならない)ので、荷送人の分類に係わる安全上の責任は重大である。
- 分類1 爆発物
- 分類2 高圧ガス
- 分類3 引火性液体
- 分類4 可燃性固体, 自然発火性物質, 水と接して可燃性ガスを発生する物質
- 分類5 酸化性物質, 有機過酸化物
- 分類6 毒物, 病毒をうつしやすい物質
- 分類7 放射性物質
- 分類8 腐食性物質
- 分類9 その他の危険性物質および物品
[編集] クラス1 爆発物
これを規定する日本の法令の一つである「危険物船舶運送及び貯蔵規則」では「火薬類」としている。
- 等級1.1 大量爆発(mass explosion)の危険性(hazard)がある物質及び物品(article)。大量爆発とは、ほぼ瞬間的にほとんどすべての貨物に影響が及ぶ爆発と定義される。
- 等級1.2 大量爆発の危険性がないが、飛散の危険性がある物質及び物品。
- 等級1.3 大量爆発の危険性がないが、火災の危険性があり、かつ、弱い爆風の危険性若しくは弱い飛散の危険性又はその両方の危険性のある物質及び物品。
- 等級1.4 重大な危険性がない物質及び物品。点火又は起爆が起きた場合にその影響が容器内に限られ、かつ、大きな破片が飛散しないものを含む。
- 等級1.5 大量爆発の危険性はあるが、非常に鈍感な物質。
- 等級1.6 大量爆発の危険性がなく、かつ、極めて鈍感な物品。
[編集] 日本の消防法に定める危険物
消防法において火災の原因となりかねないため、貯蔵設備の設置および貯蔵数量上限が規制対象となっている物質の総称である。具体的には、消防法第2条第7項に「別表の品名欄に掲げる物品で、同表に定める区分に応じ同表の性質欄に掲げる性状を有するもの」と定義されているもので、これら危険物の貯蔵設備は消防署長に届出が必要である。
また、引火点が危険物よりも高い可燃性物質は、消防法では指定可燃物と呼ばれ、貯蔵量の多い場合に消防署長に届出が必要となる。具体的には、紙くず、わら、可燃性液体類がこれにあたる。
危険物あるいは指定可燃物の品目は政令等で指定され、危険物品目が指定可燃物品目へと変更になる場合もある。
危険物は品種ごとに一般的に取り扱える数量を規定しており、それ以上の量を貯蔵または扱う場合は消防法に定められた規則にのっとった設備・施設が必要であり、危険物取扱者による作業または監督を必要とする。
- 例:ガソリン(危険物第4類第1石油類)は指定数量の200リットルまでは資格が無くても扱える。したがって、一般乗用車のガソリンタンクは200リットルを超えることはない。以前この指定数量が100リットルであった時代は、乗用車のガソリンタンクも100リットル以下であった。
なお、危険物を積載した車両は、関越トンネル・恵那山トンネル・肥後トンネル・加久藤トンネルなどの長大トンネルや関門国道トンネルなどの水底トンネルの走行が禁止されている。これは道路法の規定に基づき、道路管理者が指定する。[1]。
[編集] 分類
以下の6種類に分けられ、第1類から第6類に分類される。
[編集] 第1類
酸化性固体:可燃物を酸化して、激しい燃焼や爆発を起こす固体。
- 亜塩素酸塩類
- 塩素酸塩類
- 過塩素酸塩類
- 過塩素酸カリウム (KClO4)
- 過塩素酸ナトリウム (NaClO4)
- 過塩素酸アンモニウム (NH4ClO4)
- 臭素酸塩類
- 臭素酸カリウム (KBrO3)
- 臭素酸ナトリウム (NaBrO3)
- 臭素酸マグネシウム (MgBrO3)
- ヨウ素酸塩類
- 無機過酸化物
- 硝酸塩類
- 過マンガン酸塩類
- 過マンガン酸カリウム (KMnO4)
- 過マンガン酸アンモニウム (NH4MnO4)
- 過マンガン酸ナトリウム(NaMnO4・3H2O)
- 重クロム酸塩類
- 重クロム酸アンモニウム (N2H8Cr2O7)
- 重クロム酸カリウム (K2Cr2O7)
- その他のもので政令で定めるもの
- 過よう素酸塩類
- 過よう素酸
- クロム
- 鉛又はよう素の酸化物
- 亜硝酸塩類
- 次亜塩素酸塩類
- 塩素化イソシアヌル酸
- ペルオキソニ硫酸塩類
- ペルオキソほう酸塩類
- 前各号に掲げるもののいずれかを含有するもの
[編集] 第2類
可燃性固体:着火しやすい固体や低温で引火しやすい固体。
[編集] 第3類
自然発火物質及び禁水性物質:空気や水と接触して、発火したり可燃性ガスを出したりする物質。
- カリウム
- ナトリウム
- アルキルアルミニウム
- アルキルリチウム
- 黄リン
- アルカリ金属(カリウム及びナトリウムを除く)及びアルカリ土類金属
- 有機金属化合物(アルキルアルミニウム及びアルキルリチウムを除く)
- 金属の水素化物
- 金属のりん化物
- カルシウム又はアルミニウムの炭化物
- その他のもので政令で定めるもの
- 塩素化けい素化合物
- 前各号に掲げるもののいずれかを含有するもの
[編集] 第4類
引火性液体:引火しやすい液体。ごく普通のガソリンなどがこの類になる。その中で、危険な順に以下の順序で分類される。たとえば、第2石油類よりも第1石油類の方が危険なので、保管できる指定数量は小さくなり、容器に求められる安全性も高くなってくる。
- 特殊引火物
- 1気圧で、発火点が 100 ℃ 以下、又は引火点が −20 ℃ 以下で沸点が 40 ℃ 以下のもの。ジエチルエーテル、二硫化炭素、アセトアルデヒド、酸化プロピレン。
- 第1石油類
- 1気圧で、引火点が 21 ℃ 未満のもの。ガソリン、ベンゼン、トルエン、アセトン、ピリジン、臭化エチル、ギ酸エチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、トリエチルアミン、アクロレイン、アクリロニトリル、エチレンイミン、アセトニトリル。
- アルコール類
- 炭素数3以下の飽和1価アルコール。メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール。
- 第2石油類
- 1気圧で、引火点が 21 ℃ 以上 70 ℃ 未満のもの。灯油、軽油、酢酸、キシレン、クロロベンゼン、ニトロメタン、テレビン油、スチレンモノマー、アクリル酸、N,N-ジメチルホルムアミド。
- 第3石油類
- 1気圧で、温度 20 ℃ で液体であって、引火点が 70 ℃ 以上 200 ℃ 未満のもの。クレゾール、アニリン、重油、ニトロベンゼン、グリセリン、エチレングリコール、トリレンジイソシアネート、2サイクルエンジンオイル。
- 第4石油類
- 1気圧で、温度 20 ℃ で液体であって、引火点が 200 ℃ 以上 250 ℃ 未満のもの。潤滑油(ギヤー油、シリンダー油、タービン油)、リン酸トリクレジル、フタル酸ジオクチル。
- 動植物油類
- 動植物油類とは、動物の脂肉等又は植物の種子若しくは果肉から抽出したものであつて、1気圧において引火点が 250 ℃ 未満のものをいい、総務省令で定めるところにより貯蔵保管されているものを除く。椰子油、アマニ油。
[編集] 第5類
自己反応性物質:加熱や衝撃で、激しく燃えたり爆発したりする物質。
- 有機過酸化物
- 硝酸エステル類
- ニトロ化合物
- ニトロソ化合物
- アゾ化合物
- ジアゾ化合物
- ヒドラジンの誘導体
- ヒドロキシルアミン
- ヒドロキシルアミン塩類
- その他のもので政令で定めるもの
- 金属のアジ化物
- 硝酸グアニジン
- 前各号に掲げるもののいずれかを含有するもの
[編集] 第6類
酸化性液体:他の可燃物と反応して、その燃焼を促進する液体。
[編集] 指定数量
一定の数量を指定して、その数量以上を取り扱ったり保管したりする場合に、届出が必要になる基準数量である。より危険な危険物はより少ない量が指定数量となっている。その何倍、あるいは、何分の一で規制の内容が変わる。各指定数量は次のとおり。
- 第1類:酸化性固体
- 第1種酸化性固体:50 kg
- 第2種酸化性固体:300 kg
- 第3種酸化性固体:1,000 kg
- 第2類:可燃性固体
- 第3類:自然発火性物質及び禁水性物質
- 第4類:引火性液体
- 第5類:自己反応性物質
- 第1種自己反応性物質:10 kg
- 第2種自己反応性物質:100 kg
- 第6類:酸化性液体
- 酸化性液体:300 kg
[編集] 計算
以下のような方法で倍数計算を行う。
- 同一の危険物を同一の場所で貯蔵し、又は取り扱う場合(倍数が1以上なら危険物施設となり許可が必要)
-
貯蔵・取扱う危険物の数量 = 倍数 指定数量
- 品名の違う危険物を同一場所で貯蔵し、又は取り扱う場合(倍数≧1の場合、当該場所は指定数量以上の危険物を貯蔵し、又は取り扱っているものとみなされる)
-
Aの貯蔵量 + Bの貯蔵量 + Cの貯蔵量 = 倍数 Aの指定数量 Bの指定数量 Cの指定数量
[編集] 国連危険物輸送勧告の定義との違い
国連危険物輸送勧告における危険物と、日本の消防法における危険物の定義が異なることに注意が必要である。例を挙げると、消防法では引火点250℃以下の液体を危険物第4類の引火性液体としているが、国連危険物輸送勧告では引火点が60℃以下(かつ初留点が35℃以上)の液体を危険物クラス3の引火性液体としている。[2]
この違いの理解は単に国際実務を行う時に重要なのではなく、日本国内での危険物についての法令を遵守した実務を行う際にも重要である。国連危険物輸送勧告や国際条約等に従っている船舶安全法に基づく「船舶による危険物の運送基準等を定める告示」(危告示)により、海上輸送での危険物が規制されている。同様に航空法施行規則(昭和二十七年運輸省令第五十六号)第百九十四条第一項第九号並びに同条第二項第一号、第三号及び第四号の規定に基づく「航空機による爆発物等の輸送基準等を定める告示」により、航空輸送における危険物が定義されている。