緊急地震速報
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緊急地震速報(きんきゅうじしんそくほう)とは、震源に近い観測点(地震計)で捉えられた地震波を解析・処理して瞬時に震源の位置及び地震の規模(マグニチュード)を特定し、これらをもとに各地への主要動の到達時刻及びその震度を推定して、被害をもたらす主要動が到達する前に、これらを知らせる情報である。
緊急地震速報を適切に活用することで、地震災害の軽減に役立つものと期待されている。
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[編集] 仕組み
地震では、初期微動(P波)と呼ばれる小さな揺れ(縦波)と主要動(S波)と呼ばれる大きな揺れ横波が同時に発生する。P波とS波とは伝搬速度が異なり、P波は毎秒約7km、S波は毎秒約4kmの速さで伝わる。この伝搬速度差を利用して、震源に近い地点におけるP波の観測に基づいて、あとから来るS波の伝播を時系列的に予測し、震源からある程度以上(P波とS波の時間差が充分に開くほど)離れた地点に対しては、その到達前に予測を発表することができる。
緊急地震速報は、秒単位を争う情報であるため、その処理や伝達における遅延を極力少なくして主揺動が到達するまでの時間を少しでも長くとる必要があり、配信システムやネットワークなどに高速化のための工夫がされている。
初期微動・主要動の情報は、全国約1,000箇所(気象庁200、防災科学研究所800)に設置されている地震計から地震波形データを常時リアルタイムで気象庁に集められている。これを解析・処理して同庁から発表される緊急地震速報は、(財)気象業務支援センターを経由して利用者へ配信される。また、これら直接の利用者から末端のユーザーへの二次配信が行われることもある。
[編集] 問題点
速報発表から大きな揺れが到着するまでの時間は震源から各地点までの距離に左右される(殊に直下型地震の場合、震源付近ではP波とS波がほぼ同時に地表に到達する)ため、速報発表が主揺動の到着に間に合わないこともある。
また、速報がS波到達以前に発表されても、主要動までの時間は数秒~数十秒しかない。このため、発表時の対応が周知徹底されていないと、群衆が非常口に殺到するとか、速報を受けた自動車が急ブレーキをかけて玉突き衝突を誘発するといったパニックを引き起こす可能性があるとして、早期の一般向け提供に対する慎重論もあった。
一部行政機関向けのものを除き、配信が気象業務支援センター経由となっており、気象警報などのような通信・放送機関への直接送信とはなっていないことから、末端ユーザーへの配信が遅延する可能性がある。殊に「気象庁→気象業務支援センター→民間気象事業者→通信事業者(携帯電話など)→ユーザー」の経路をとる場合、致命的な遅れ(S波到達後)が生じうるとの指摘もある。
現状では、予想震度に±1程度の誤差が避けられない等の限界があるため、最大震度5弱以上が予想された際に震度4以上が予想された地域に対してのみ発表する等の対応が予定されている。
[編集] 運用状況
2004年2月25日から気象庁の試験運用が開始され、新潟県中越地震の際には茨城県守谷市で地震波の到達より早く緊急地震速報が発表される様子がビデオ映像で記録されている。
緊急地震速報の特性をよく理解し、情報を混乱なく利用しうるとされた特定の分野に対しては、2006年8月1日から先行的に緊急地震速報の配信が始められた。ガス・電力・鉄道といったライフライン(例えばガスなら、主要動が来る前にガス供給をストップし火災を防ぐ。また鉄道では列車無線を通じて緊急停止させる。)や、病院(手術中に地震に見舞われる際に患者を守る)などでの活用が想定されている。
この先行的な提供を受けるのに必要な気象業務支援センターとの手続が完了している機関数は、2007年3月現在で地方公共団体や鉄道事業者、電力、ガス、製造、放送業など400を超えている。
テレビ、ラジオ、集客施設での館内放送などによる一般公衆への提供は、安易に実施すると混乱を招く恐れがあるため、情報利活用のあり方、情報の特性の周知などを十分に重ねたうえで、2007年9月から本格的に運用を始める予定とされている。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 緊急地震速報について(気象庁)
- 緊急地震速報とは(明星電気株式会社)
- 緊急地震速報システムとは/導入のご案内(白山工業株式会社)
- 月1250円の緊急地震速報サービス(株式会社ウェザーニューズ)
- 緊急地震速報に関する研究調査や普及活動(特定非営利活動法人リアルタイム地震情報利用協議会)