マグニチュード
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
マグニチュード(magnitude)とは、地震が発するエネルギーの大きさを表した指標値である。1935年に、アメリカの地震学者チャールズ・F・リクターによって初めて定義された。マグニチュードはエネルギーの対数をとったもので、マグニチュードが1増えるとエネルギーはおよそ32倍になる。なお、英語圏ではリクター・スケール(Richter scale)との表記が一般的である。
一般に使われるマグニチュードでは、概ね8(表面波マグニチュードで8.5、実体波マグニチュードでは7程度)を超えると数値が頭打ち傾向になるため、より正確に地震の規模を表す指標として、モーメント・マグニチュードが考案され,地震学では広く使われている。
ある地点における地震の揺れ(地震動)の程度を表した震度とは異なる。
なお、magnitudeは「大きさ・重要度」という英語(名詞)であり、とりわけ対数スケールを用いた数量の比較の術語として用いられる。天体の等級のことも英語でマグニチュードと言う。
目次 |
[編集] マグニチュードと地震のエネルギー
地震が発するエネルギーの大きさをE(単位:J(ジュール))、マグニチュードをMとすると
- log10E = 4.8 + 1.5M
という関係がある。(マグニチュードの計算に用いる対数は常用対数である。)このことと一般的な波動の性質から、マグニチュードが1増えるとエネルギーは101.5倍(およそ32倍)になる。
[編集] 一般的なマグニチュードの種類
以下、振幅という場合は片振幅(中心値からの振幅)を意味する。
[編集] リヒターのマグニチュード ML
- リヒター(1935)は、ウッド・アンダーソン型地震計(2800倍)の最大振幅(単位:μm)を震央からの距離100kmのところに値に換算したものの常用対数をマグニチュードとした。従って、地震波の振幅が10倍大きくなるごとに、マグニチュードが1ずつあがる。
[編集] 表面波マグニチュード Ms
- グーテンベルク(1945)は、表面波マグニチュードを
-
- Ms = log Ah + 1.656 log Δ + 1.818 + C
- で定義した。ここで、Ahは表面波水平成分の最大振幅、Δは震央距離(角度)、Cは観測点ごとの補正値である。
- これとほぼ同じであるが、国際地震学地球内部物理学協会の勧告(1967)では、
-
- Ms = log (A/T) + 1.66 log Δ + 3.30 (20° ≦ Δ ≦ 60°)
- としている。Aは表面は水平成分の最大振幅(μm)、Tは周期(秒)である。
[編集] 実体波マグニチュード mB
- グーテンベルクおよびリヒター(1956)は、実体波マグニチュードを
-
- mB = log (A / T) + Q(h,Δ)
- で定義した。Aは最大振幅、Tはその周期、Qは震源の深さhと震央距離Δの関数である。経験的に、
-
- mb = 0.63 Ms + 2.5
- が成り立つ。
[編集] モーメント・マグニチュード Mw
- 金森博雄(1977)は、地震を起こす断層運動のモーメント(Mo)を、従来のマグニチュードに関連づけ、これをモーメント・マグニチュードとした。
-
- Mw = (log Mo - 9.1 ) / 1.5
- ただし Mo = μ×D×S
- Sは震源断層面積、Dは平均変位量、μは剛性率である。
- モーメント・マグニチュードの最大値は、1960年のチリ地震で、Mw=9.5 であった。
- 断層面の面積(長さ*幅)と、変位の平均量、断層付近の地殻の剛性から算出する、まさに断層運動の規模そのものである。
- M8を超える巨大な地震では、地震の大きさの割りにマグニチュードが大きくならない「頭打ち」と呼ばれる現象が起こる。モーメント・マグニチュードは、これが起こりにくく、巨大地震の規模を物理的に評価するのに適しているとされる。
[編集] 気象庁マグニチュード(2003年9月24日以前)
- 2003年9月24日までは、下記のように、変位マグニチュードと速度マグニチュードを組み合わせる方法により計算していた。
- 変位計、h≦60kmの場合
-
- Mj = log A + 1.73 log Δ - 0.83
- Aは周期5秒以下の最大振幅。
- 変位計、h≧60kmの場合
-
- Mj = log A + K(Δ,h)
- K(Δ,h)は表による。
- 速度計の場合
-
- Mj = log AZ + 1.64 log Δ + α
- ここで、AZは最大振幅、αは地震計特性補正項である。
[編集] 気象庁マグニチュード(2003年9月25日以降)
- 変位マグニチュードは、系統的にモーメントマグニチュードとずれることがわかってきたため、2003年9月25日からは計算方法を改訂し、合わせて過去の地震についてもマグニチュードの見直しを行った。ただ、モーメントマグニチュードと気象庁マグニチュードにはバラつきがあるため注意が必要である。
- 変位によるマグニチュード
-
- Md = 1/2×log(An2+Ae2) +βd(Δ,H) + Cd (An,Aeの単位は10-6m)
- ここでβdは,震央距離と震源深度の関数(距離減衰項)であり,Hが小さい場合には坪井の式に整合する。Cdは補正係数。
- 速度振幅によるマグニチュード
-
- Mv = α×log(Az)+ βv(Δ,H)+ Cv (Azの単位は10-5m/s)
- ここでβvは,Mdと連続しながら、深さ700km,震央距離2,000kmまでを定義した距離減衰項である。Cvは補正係数。
[編集] 特殊なマグニチュードの種類
[編集] 地震動継続時間から求めるマグニチュード
- 地震記象上で振動が継続する時間Tdはマグニチュードとともに長くなる傾向がある。そこで一般に、
-
- M = c0 + c1 log Td + c2 Δ
- の式が成り立つ。c0、c1、c2は定数、Δは震央距離である。c2は小さいため、第3項を省略することもある。
- ただし各定数は地震計の特性に大きく依存するため、この式はほとんど用いられない。過去には河角(1956)のWiechert式地震計に対しての式
-
- M = 4.71 + 1.67 log Td
- などが提案されている。
[編集] 有感半径から求めるマグニチュードML
- グーテンベルグとリヒター(1956)は、南カリフォルニアの地震について、有感半径Rを用いて、
-
- ML = -3.0 + 3.8 log R
- の式を得ている。
- 日本でも市川(1960)が日本の浅発地震に対して
-
- M = -1.0 + 2.7 log R
- を与えている。なお、Rは飛び離れた有感地点を除く最大有感半径(km)である。
[編集] 震度4,5,6の範囲から求めるマグニチュード
- 気象庁の震度で、4以上、5以上、6以上の区域の面積(km2)をそれぞれS4、S5、S6とするとき、勝又と徳永(1971)は
-
- log S4 = 0.82 M - 1.0
- また、村松(1969)は
-
- log S5 = M - 3.2
- log S6 = 1.36 M - 6.66
- という実験式を得ている。
[編集] 微小地震のマグニチュード
- 微小地震については上記のMs、mB、気象庁マグニチュードなどでは正確な規模の評価ができない。そこで、たとえば渡辺(1971)は上下方向の最大速度振幅Av(cm/s)と震源距離r(km)を用いて、
-
- 0.85M - 2.50 = log Av + 1.73 log r
- の式を示している。なおこの式はrが200km未満のときに限られる。
[編集] 津波マグニチュードMt
- 低周波地震ではMs、mB、気象庁マグニチュードを用いると地震の規模が実際よりも小さく評価される。そこで阿部(1981)によって、津波を用いたマグニチュードMtが考案された。
-
- Mt = log H + log Δ + 5.80
- ここでHは津波の高さ(m)、Δは伝播距離(km)(Δ≧100km)である。
[編集] マグニチュードの目安
マグニチュードが1増えるとエネルギーは約32倍(2増えると1000倍)となる。また、発生頻度はおよそ10分の1になる(頻度については地域により若干異なる。これを表す指数を「b値」と言う)。
[編集] 規模の目安
一般にM6以上では災害となることがある。M7クラスの直下型地震では、条件にもよるが大災害になる。阪神淡路大震災はM7.3(Mw6.9)である。また、東海地震や南海地震といったプレート型地震はM8前後である。
M5未満では被害が生じることはまれで、M2~3程度の地震はほとんどの場合、人に感じられることはない。M1未満になると、日本の地震計観測網でも捉えられない場合がある。M0未満の地震はほとんど捉えられない。
マグニチュードにはマイナスも存在する。成人男性が大きなハンマーを振り下ろして地面を叩いた場合、M-2~-3程度の地震に相当する。
防災科学技術研究所では以下のように解説している。
- M7~:大地震
- M5~7:中地震
- M3~5:小地震
- M1~3:微小地震
- M1未満:極微小地震
また、アメリカ地質調査所は以下のような目安を作っている。
- M8~:Great(巨大)
- M7~7.9:Major(大きい)
- M6~6.9:Strong(強い)
- M5~5.9:Moderate(並)
- M4~4.9:Light(軽い)
- M3~3.9:Minor(小さい)
- M0~2.9:Micro(微小)
[編集] 頻度の目安
日本での頻度の目安は以下の通り。規模の小さなものは、1小さくなる毎に10倍になると考えればよい。
- M8.8以上:日本で発生したことはない
- M8.0~8.7:10年に1回程度
- M7.0~7.9:1年に1~2回程度
- M6.0~6.9:1年に10数回程度
また、M5程度の地震は世界のどこかでほとんど毎日発生しており、M3~4程度の地震は日本でもほとんど毎日発生している。
[編集] 参考文献
- 宇津徳治『地震学(第3版)』、2001年、共立出版 ISBN 4-320-00216-4
- 防災科学技術研究所 地震の基礎知識
- アメリカ地質調査所 地震の用語解説